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新たなランクと取り組み・2

「親方。街では随分な騒ぎのようですぜ」


「……ふん。俺が武器を打ったんだ。当然だな」


 ロックラック工房ではロックラック親方と一番弟子ガジウィルの二人が白湯を飲みながら会話していた。


 新たな冒険者ランクの発表、そしてロックラックの打ったカタナを手にしたセレスティーナが唯一にして最高のSSSランクになったことはあっという間に知ることとなった。


 だがガジウィルは知っている。マンティコアの討伐を知った時、カタナがマンティコアにトドメを刺したと知った時。ロックラックが茫然自失とし、そして抑えきれない笑みを浮かべたことを。


 そしてその数日後、軍から要請があった。


 カタナの納品だ。


 都合十振り、性能は委任。マンティコアの討伐により軍がカタナの価値を認識したことは明白だった。


 ……否。カタナを、そしてロックラックの技量を、だ。


 ロックラックの技量がSランクモンスターに通用すると認められたのだ。


 その時の親方の表情をガジウィルは生涯忘れないだろう。


「それで親方、小僧のいない時に鍛治ギルドの長が何の用なんですかね?」


「さあな。大方魔法銀の鍛造法を売れ、と言ったところか」


「なるほど、カタナを嗅ぎつけましたか。しかし小僧が全く関わっていないわけでも無いんですがね」


 ロックラックは目線だけでチラリとガジウィルを見て、またテーブルに目線を戻す。


 モッチーが関わっている以上、許可を取らずに売ることは出来ない。それどころか軍まで関わってくる。つまりここでは鍛造技術について交渉することはできないのだ。


 しかし鍛治ギルドの長であるマインフォール・バルトロがそのことに思い至らないとも思えない。そうなると更に来訪の理由が分からなくなる。


 マインフォールが訪れたのはそれからおかわりした白湯を飲み干した後だった。


「遅くなってすまない」


 開口一番謝罪したマインフォールは続けて入ってきた男を隣に座らせる。


 初めて見る顔だ。しかも軍服を身につけていた。


 ロックラックとガジウィルは顔を見合わせる。


「こちらはネアンストール防衛軍所属のゴツィーナ・オサーン男爵だ。主に民間団体との折衝を担当しておられる」


「ゴツィーナ・オサーンだ。此度はよろしく頼む」


 頭を下げたのは軍人にしてはひょろひょろと痩せぎすで覇気のない顔をした男だった。


「時間が無いのでさっそくだが本題に入りたい。今回、冒険者ギルドで新たなランクの創設が行われたのは聞いているか?」


「もちろんだ」


「うむ。今回のSランクモンスター・マンティコアの討伐。偉業だな。そしてその偉業を達成するに当たって大いに貢献した者がいる」


「……随分と回りくどい言い方だな、ギルド長。まさか褒美をやろうとでも?」


「それは俺の仕事では無かろう。……本題というのはSランクモンスター討伐に当たりお前たちの作り出した装備の力が多大なる影響を及ぼしたことで、鍛治ギルド内においても同様の装備の製作、ないしは同等の技術の習得が急務となったのだ」


「そこからは私が説明しよう」


 ゴツィーナが語る。


 モッチーの生み出した数々の発明に軍ないしは国の技術機関は総じて大混乱に陥り、大々的な変革と増産計画が発令されることになった。


 その中で生産能力の不足や技術力の低さが露呈し、装備の配備が間に合わない事態となっている。


 そのため次善の策として民間への技術提供をすることで民間から装備を吸い上げる方法を取ろうというのだ。


「だが民間への技術提供は他国への技術流出のリスクともなる」


「……道理だが、どのみち流出は避けられんのでは? 物が流れれば中身も知られる」


「その通りだ。だがそれは現状での技術の話だろう。あの技術顧問殿ならば調べても内容がさっぱりわからない代物を作り出してもおかしくは無かろう。それは身近にいるお前たち二人が最も理解していると思うが?」


「…………それは確かに否定はできない」


「うむ。であるので将来のことを考え、技術を伝える相手を選別するためにライセンス制を導入することとした」


 ゴツィーナの説明にロックラック、ガジウィルの二人はマインフォールへと視線を向けた。


 それに対してギルド長が口を開く。


「冒険者のように鍛治師にもランクを付けようというのだ。より高いランクを持つ鍛治師には相応の技術を伝達する。もしくは相応の技術を持つ者を高ランクに分類する」


「なるほど。だが相応の対価あるいは義務が生じるのだろう?」


「そうだ。年を通して一定の数を国に上納してもらうことになる」


「……それ以上の生産分に関しては?」


 マインフォールの目がゴツィーナに向いた。ロックラック、ガジウィルの視線も続く。


「購入許可を得た冒険者への販売が許可される」


 ロックラック、ガジウィル、二人の目が見開いた。


 冒険者への販売が正式に認められたのだ。つまり“赤撃”や“猛き土竜”のように最新の装備を使って活躍する冒険者がこれから生まれることになる。


「その購入許可とは?」


「うむ。魔王軍との戦争への参加、滞在している町の報告等の義務を果たすことを条件に購入ライセンスが発行される。これはギルドカードに記載され、違反した場合は厳罰に処することとなる。また、この購入ライセンスにはCからSまであり、該当ランクと同ランクまでの鍛治師からの購入が許可されることとなる」


「例えばAランクの購入ライセンスを持つ場合はAランク鍛治師までなら購入可能で、Sランクの鍛治師からは購入できないと」


「その通りだ。そして鍛治師側にも該当ライセンスを持たない者に対しての販売・譲渡を行った場合に罰則が与えられるゆえ気を付けるが良い」


 つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()が通用しないということだ。


 また転売等にも重罰が科される。購入した者は装備を他人に融通してはならない。


 そして装備者に不慮の事態が発生し、他者が偶発的にその装備を獲得した場合、ギルドを通じて鍛治師または国へ返還しなければならない。ただし多少の報酬は支払われる。


「話は分かった。それでライセンスを上げるためにはどうすれば良い?」


 ロックラックの問いにマインフォールが軽快な笑い声を上げた。そして説明を始める。


 まず鍛治師は鍛治ギルドに弟子を登録することができる。これはランクが上がるにつれて登録できる人数が増えていく。


 そして弟子は師事する鍛治師の元でのみ技術習得を許され、鍛治ギルドにおける認定試験に合格することでライセンスのランクを上げることができるのだ。


 ただし特例として国が直接ライセンスを認める場合があり、これには認定試験が免除される。


「まあお前たちがランクを上げることは考えなくても良い。ほれ、これを受け取れ」


「これは……Sランクのライセンス証?」


「うむ。現時点で鍛治師ロックラック、そして鍛治師ガジウィルの二名がSランク鍛治師として登録されている」


 ロックラックがガジウィルを見た。


 ガジウィルはマインフォールからライセンス証を怖々と受け取り、そこに刻まれたSの文字に深い息を吐いた。


「……モッチーはSランクでは無いのか?」


 当然の問いにガジウィルもハッとしてマインフォールを見る。


 その視線にギルド長は苦笑した。


「そもそも彼は鍛治ギルドに所属しておらんだろう。正式に所属申請が出されればSランクのライセンス証が発行されることになる」


「そういえば……そうだったか。すっかり忘れていたな」


「うむ。彼がノーフミルから帰ってきたら鍛治ギルドに所属するよう話をしてくれんか。会費の支払い含めあらゆる義務を免除するゆえな」


「分かった。伝えておこう」


 ギルド長、ゴツィーナ男爵を見送った後、ロックラックはライセンス証を感慨深げに眺めているガジウィルの頭を小突いた。


「お、親方!?」


「いつまで腑抜けてるんだ。これから忙しくなる。モッチーに客を盗られんよう技術を磨く。遅れは許さんぞ」


「へいっ! 親方!!」


 もう一度右胸に拳を突き出し、ロックラックは足取り確かに作業場へと歩き出した。

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