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鍛冶師を始めよう・3

 ギルドから中級鑑定板を借りてステータスをチェックした俺は浮かび上がった文字に目を走らせる。


「おおっ、レベル上がってる。魔物と戦ってないのに」


 モッチー。レベル2。人族。戦闘職:鍛冶師。職業:冒険者。ギフト:なし。


 ここまでは初級でも表示されていた内容だ。中級ではさらに次の情報も記されていた。


 スキル:魔力操作、鍛冶、錬成、工芸、裁縫

 固有スキル:来訪者、鍛冶師


 うん、なんだこれ。固有スキルとスキルは違うのか。それに来訪者は多分異世界から来たからだと思うけど、鍛冶師ってスキルなのか?


 ってか魔法とか武器とか制約ががっつりあるのはこの鍛冶師スキルが原因だろ絶対。スキルに生産系が揃ってるのもこれが理由だな。


 全属性使えるのは来訪者スキルなのか鍛冶師スキルなのか判断に迷うな。スキルに属性系が無いから固有スキルの方で確定なんだけど。


 とはいえ今の時点で最低限のスキルが揃っているのはありがたい。


「確認終わったし戻ろう。そろそろ出発の時間だ」


「ん」


 これでやることは終わった。公都を出たらエルネア王国を出てクルストファン王国へ行くことになる。


 そこを拠点として魔物を倒してレベルを上げ、鍛冶場に弟子入りして本格的に鍛冶師の道を進むことになるだろう。


 雑用ばかりさせられないように、その時までに出来るだけスキルを上げて知識を身につけないとな。






 公都からクルストファン王国への国境まではおおよそ二週間ほどかかる。


 その間、俺は刻印の練習をメインに行なっている。


 木板をノミで削る作業を繰り返し、細かい刻印をこなせるよう習熟させるためだ。


 とはいえ、魔法陣を小さく刻めたとしてもその分効力が落ちてしまう。そこがどうしてもネックになっていた。


 教本の中には小型化についての考察は無く、逆に巨大化によって効果を上げることに腐心しているようだ。


「なんだこれ。魔法陣の中に魔法陣が入ってる。なになに、ブースト魔法を組み込んで機能の一部を強化?」


 ああ、重ねがけできるのか。それなら規模を大きくすればその分重ねがけできるから、威力も跳ね上がっていくだろう。


 調べてみるとその発想で巨大な破壊魔法が提起されているが、その分消費する魔力も上がるから実用には遠いとあった。


 とはいえ消費魔力の増加より威力の増加の方が明らかに比率が高い。これ、使えるな。


 これを小型化できれば今までより性能の高い装備が作れるはずだ。


「ふむ。とするとどうやって細かい魔法陣を刻むかが問題になるのか。日本みたいに精密な機械なんてないだろうし、ノミでミリ以下の刻印するのは無理だろうな」


 その手の職人でもさすがに無理だろう。ということは機械のようなアプローチが必要だと思うが、そもそも機械ってどうやって精密操作してるのか分からん。


 せめて縮小コピーみたいな魔法とかあったら使えるんだけどな。


「ノミを改造して細かい作業ができるようにすればなんとか……いや、手元が見にくいし、細かい部分の確認も難しいから顕微鏡がいるな。……ん、顕微鏡?」


 そういや顕微鏡みたいな道具は見たことないな。眼鏡とかも普及してないみたいだし。もしかしてそっちの分野はあまり発達してないのかも。


「顕微鏡の仕組みって確か鏡で反射させるんだっけか。あれ、反射だけじゃ拡大しないんじゃないか?

 ……そういえば図で見たときに両面が反ってる形のレンズが描いてあったような。たぶんあれが拡大の肝だな」


 それによくよく考えれば眼鏡のレンズにしてもパラボラアンテナにしても、曲面が重要な要素だ。


 曲面レンズが作れたら一歩前進できるだろう。


 材料に使えそうなものがないかと見回して見れば、魔法石を入れた袋が目に入った。


「魔法石、か。利用できないかな」


 こっちの世界に存在する謎の石。魔力に反応する性質を持っていて、加工次第で様々な能力を発揮するという。


 資料の中から魔法石に関する本を開く。


 魔法石は魔力の結晶であり、自然界の魔素の濃い場所や魔物の体内から見つかることがある。特に魔物から得られる魔法石はその魔物の持つ属性を帯びていることが多い。


 魔法石は刻印等を施すことで性質の付与が可能である。また、細かく砕き水に溶かすことで、増強材としてポーションの素材等に利用される。


「魔法石の利用法って意外と少ないんだな。あれ、魔法石って魔力の塊みたいなものだよな。杖なんかにはめ込んで使ってるけど、消費されて無くなったりしないのか?」


 調べてみると、魔法石を安定させて魔力を漏出させないための刻印魔法が施されているようだ。どうやら魔法に使用する魔力の極一部を刻印魔法に流用することで状態を維持しているらしい。


 その刻印は遥かに簡易で、俺でも簡単に作れそうだ。


 ちょっと待て、この刻印の形……スカスカだ。かなり重ねがけできそうだぞ。


「ここの隙間に威力向上の刻印を組み込んで、こっちには範囲拡張系……いや、せっかくだから魔力許容量増加を組み込んで発動可能域を増すべきか……それならいっそそこに特化して上級魔法まで発動できるように魔力許容量増加を入れまくるのも手か?」


 そうすると隙間が足りなくなる、か。魔力許容量増加の刻印が効率良いとはいえ数には限界がある。せめて立体的に組み込めればいいのだが。


 立体的に……できないのか?


 スキルの補助だろうか。なぜか俺には可能だという確信があった。


 とはいえノミでどうやって立体的に掘れと。レーザーでも撃ち込めってか?


「モッチー、何してるの?」


「どわっ!」


 魔法石と睨めっこしていた俺の手元をティアーネが覗き込んだ。


 オッドアイを讃えた可愛い顔がドアップで迫る。


「どうしたの?」


「いや、その、刻印で悩んでてさ、ははは。魔法石の内部を直接削る方法は無いもんかと」


「内部?」


「ああ。表面に手を加えず内部を直接くり抜けないものかと。出来る、ような気がするんだよね」


「出来るの?」


 魔法石とノミを見比べてコテン、と首を傾げる。揺れたローブの隙間から薄桃色の髪留めが覗いて嬉しくなった。


「出来るはず、ではあるかな。まあ失敗しても砕いて調合に使えばいいんだけど、とりあえずで削っても成功はしない気がする」


「調合?」


「ああ、錬成スキルがあるからね。材料は買ってあるし、下級回復薬と下級魔力回復薬なら作れるはず。品質は作ってみなきゃ分からないけど」


「ポーション高いから嬉しい。いいの出来たらみんな喜ぶ」


 なんでもポーション系は前線に向けて優先的に回されるらしい。またか。


 大概の物資は前線送りになっているので、自前で用意できる錬成スキルは重宝されるようだ。なかなか習得できる人間がいないので、冒険者の間では勧誘合戦になるそうだ。


「だったら錬成スキルも上げないとな。戦闘じゃエンチャントしか出来ることないんだから、せめて裏方で役に立たないと」


「ん。レベル上げ、頑張ろ」


 ティアーネがちっちゃい握り拳を出してくる。俺も握り拳を打ち合わせ、俺たちはどちらからともなく笑顔になった。

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