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新たな杖と魔導剣・6

 ツーヴァが装備するのは真新しい軽鎧。これは性能の上では前回と同じ。


 そして変化した点は両腰に下げた四本の剣だ。


 左右に二本ずつ、上下に下げた内、上側にある剣の柄頭を捻る。すると簡単に柄頭が外れた。


 そして両足の太ももに縛り付けたホルスターから同じ形状のパーツを取り換え、柄に差し込んで捻った。


「さて、キングファングには『エンチャント・ボルテクス』だね。……ふふっ、こんなに簡単に属性を切り替えられるなんて笑うしか無い」


 ホルスターに付けられたパーツにはそれぞれ別の属性エンチャントの魔法陣が内蔵されている。


 そして柄頭に嵌め込んで固定することで剣と一体化し、属性魔法剣として機能させるギミックが仕込まれていた。


『ツーヴァさんは手数重視だから属性の影響が大きいですよね。だからいつでも相手の弱点属性を攻められるように簡単に交換できるようにしました』


 あたかも何でもないことのように言ってのけるモッチーに絶句しつつも、その有用性をはっきりと理解しているツーヴァは寝る間も惜しんで習熟に励んだ。


 とは言ってもホルスターの取り替え自体は子供でも簡単にできる作業。どちらかと言えばエンチャントの余波で自滅しないよう動きや剣の振り方を身体に叩き込む作業だ。


 ツーヴァは駆け出すと剣に魔力を注ぐ。


 エンチャントが起動し、剣の表面からバチバチと電撃が迸った。


 真正面から突っ込む。ぶつかる寸前に右に回り込み左の剣をキングファングの横腹をなぞるように振り抜いた。


「ははっ! あの硬い毛皮が嘘みたいだね」


 中の肉まで断ち切れたわけではない。だが表皮を切り裂き、肉が露出している。双剣士であるツーヴァにとっては十分な結果だ。


 なぜなら。


 二撃。三撃。四撃。五撃。


 息付く間も無いほどの連撃がキングファングを襲う。


 一度では表皮だけで済む。


 だが同じ場所に二度、三度と叩き込まれればどんどんと深く肉を切り裂かれていく。


 同時にエンチャントによって体に流し込まれた電撃がキングファングに追加のダメージを与えていった。


 そして気付いた時にはキングファングは骨が露出するほど肉をズタズタに切り裂かれ、夥しい血を流して絶叫する。


「これも試させてもらう。悪く思わないでくれよ」


 剣を鞘に戻し、今度は下側にある剣を抜いた。


 こちらは細身でエストックに近い形状。だが柄頭が異様に太く、まるで石突のようになっている。


 ツーヴァが突っ込んだ。


 暴れ回るキングファングの動きを躱し、死角に潜り込む。


 そして右の剣を首に突き込んだ。


 二十センチ程度で抵抗に負けて剣が止まる。だがツーヴァの顔には不敵な笑みがあった。


 剣に全力で魔力を送る。


 そして。


 剣の先から。キングファングの首の中から爆炎が迸った。


 瞬時にして肉を焼き、血液を沸騰させ骨を砕く。


 キングファングは爆炎によって首を焼き切られ、悲鳴すらあげる間も無く絶命した。


「……ふう。キングファングも中からの攻撃には無力だね。魔力消費は多いけどリターンは大きい。剣を増やすと言われた時はどうなるかとも思ったけど」


 剣を振り下ろして血糊を散らすとゆっくり鞘に戻す。


 剣に攻撃魔法を仕込む。初めは何を言っているのか分からなかったが、内から魔法を叩き込むと説明された時はあまりの驚きに開いた口が塞がらなかったくらいだ。


 だがこれほど有用性があるとは。いや、考えてみれば有用性があるなんてことは簡単に分かったはず。浮ついていたのかもしれない。


 それに内からでなくとも簡単に魔法を放てる媒体としても有用だ。モッチーの話では特定の攻撃魔法を放つ専用の杖も開発したそうだ。それを使えば魔力を持つ者なら誰でも攻撃魔法を放つことができる。軍が狂喜乱舞したことは想像に難く無い。


「キングファングはもうすっかりお得意様だなあ。パワーは高いがそれだけ。装備があればこれほど楽に倒せるとは」


「ふふっ、そうだねライン。Aランクの壁、なんて言ってた頃が懐かしいよ」


「おい、次あいつが現れたら俺が殺る。いいな!?」


「おう、それは構わんが負けるなよウルズ。格好悪いからな」


「あ? 負けるかよ! 負けてる場合じゃねえんだ!」


 ガヤガヤと話しながら解体を行う。キングファングはこれまで討伐数が非常に少なかったので市場価値は高い。毛皮や肉、牙、魔法石など有用な部位も多く、美味しい獲物だ。楽に勝てるのならこれほど労力に対して金になる魔物もいないほど。


 とはいえ重量が嵩む。輸送の手間を考えるとここで探索を打ち切るのもやむなしだった。


 血抜きをし、内臓を抜き取り出来るだけ不要な部位を取り除くことで重量を減らして運ぶ。


 その途中、血の匂いに惹かれて集まってきた魔物を鎧袖一触で蹴散らし、臨時ボーナスとばかりに魔法石を回収しながら一行は意気揚々とネアンストールへと引き上げて行った。









「筆頭殿! 杖の機能を持った剣が完成したんだって!?」


 ネアンストール防衛軍の指揮官、魔法使い筆頭ゲイルノート・アスフォルテは勢い込んで入室してきた男に苦笑し、ソファに座るよう指で示した。


「来ると思っていたぞ、レイン。モッチーの設計図を元に技術部で試作させた。名称を“魔導剣”というらしい」


「“魔導剣”か……」


 壁に立て掛けていた試作品を取り、レインの前に置く。


 目が爛々と輝いた。


「それは鞘とセットで運用するらしい。魔導剣だけでも機能するが、鞘が揃って初めて真価を発揮する」


「セットで運用? 詳細を説明願えるかい」


「ああ、これだ」


 設計図を渡すと目を皿のようにして読み始める。


「魔導剣には『耐久強化』と『エンチャント・シャープネス』が施されている。そして柄のスイッチを切り替えることで二つの魔法陣が崩れて効力を失い、残った『威力向上』と『魔力許容量増加』が杖の性質として機能する」


「魔導剣自体には“重量杖”の三割程度の性能しか無いが、鞘と接続することで“重量杖”と同レベルの性能が発揮される」


「この接続状態は魔導剣としては“重量杖”級のエンチャント発生装置として機能し、スイッチを切り替えれば当然“重量杖”レベルの杖としても機能する」


 説明に耳を傾けながら設計図を読み終えたレインは顔を上げ、魔導剣に手を伸ばした。


 重量がある。魔法銀で作られているのだから当然だ。


 剣を抜き、目線の高さに持ち上げて角度を変えながら眺める。


「今回モッチーから齎された設計図の数々はパーティーメンバーの装備を一新するための物のようだ。だが中身は尋常では無い。少なくとも新たな技術が四つ含まれている」


 杖同士の接続、スイッチによる剣と杖の切り替え、剣と鞘の接続、そしてカートリッジによる魔法陣の切り替え。


「レイン。技術部が追いつけると思うか?」


「……いや、無理だ。すでに現場はてんてこ舞いになっている。少年の歩みは姪御殿と組み合わさるとさらに強烈だ。先日もこの目で見たが、あの二人はあまりにも突出し過ぎている」


「やはりか。技術を後追いするだけでは無く製造も担うからな。それでも頭数がいればどうにかなると考えていたが甘かったか」


 そもそも製造自体も追い付いていない状況なのだ。そのためランクの低い技術に関しては民間にも流すことで完成品を吸い上げるスキームを考えていた。


 だがもはやネアンストールだけでは回らなくなってきている。さらに大きく言えば魔法使い派閥だけでは消化しきれない状態。


 ならばどうするべきか。


 簡単だ。騎士陣営を、国を巻き込んでしまうしか無い。


「王都へ人を派遣せねばならんな」


「ああ。ついでに王立魔法研究所にも喝を入れねばなるまいね」


「しかし時が無い。王都は父に動いてもらうが、問題は騎士団派。ノーフミルだ」


 対立派閥の騎士団派を動かすにはそれなりのモノが要る。これをどうするか。


 出来うるならばそれなりの立場の者が動くべきなのだが……


「俺は部隊の編成とカタナの検証で動けない。まさか筆頭殿を動かすわけにもいかん」


「層の薄さが響くな」


「まあ家柄では無く才能のあるヤツを重用してるからな。実力も家柄もあって俺らの代わりが務まるとなると該当者は無しだ」


 協力体制一つ築くのにも一苦労だ。それも反抗作戦を間近に控えたこの時期。よほどの大事でも無ければ動かないだろう。


「なあ、筆頭殿。いっそのこと度肝を抜いてやるのはどうかな」


「……どういう意味だ?」


「なに、俺らの指揮下に入れたいわけじゃ無いんだ。さらに言えば厳密には俺ら魔法使い陣営に協力するのでは無く、()()に協力してもらえればそれで良い」


「なるほど、モッチーをぶつけて度肝を抜かせると。……面白い。ならば何人かオーダーメイドで装備を作らせるか」


 報告ではノーフミル内ではモッチー謹製の軽鎧を手にしたメリオン・フェイクァンが手が付けられないほど大暴れしているらしい。


 ノーフミル防衛軍で作成している鎧はそれなりに優秀ではあるが、モッチーの謹製品と比べればどうしても見劣りする。そして性能の劣る装備では十、二十と数を集めてもメリオンに簡単に蹴散らされてしまい、騎士筆頭グラスト・アームストロングは相当頭に来ているようだ。


 また、特注で作らせた騎士筆頭専用装備は見た目は立派なものの特別性能に優位があるわけでは無く、現状で最高の装備はメリオンの一式と言っても過言では無い。


 ここでモッチーが上手く騎士団派から好意を勝ち取れれば、モッチーを通して魔法使い陣営と騎士団派の疎通が円滑になる助けになるかもしれない。


 ゲイルノートはレインと視線を交わし、大きく頷いた。

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