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新たな杖と魔導剣・5

「はーっはっは! ご機嫌だぜコラ死にさらせやぁ!」


 ウルズの拳が魔物の脇腹を捉え、そのまま吹き飛ばす。


 魔物は臓物を弾き飛ばされながら地面に叩き付けられて絶命した。


「おいおい……Bランクのアースジェネラルモンキーが土石の鎧ごと一撃かあ? 呆れた馬鹿力だな」


「そうだね、ライン。聖光領域があるとはいえ、素の腕力が相当無いとこうはいかないだろうさ」


「あの籠手はどうだ? トゲ付きのメリケンサック付きだが」


「あれは耐久強化しか施されていないからね。土石を砕くのには寄与しているけど、内臓を吹き飛ばしたのはウルズ自身の力さ」


「なるほどな。しかし難しく考えるのはできないからってシンプル過ぎるよな、あいつの装備は」


 ラインの呟きにツーヴァや他の観戦者たちも頷いた。


 ウルズの装備は至ってシンプル。関節の可動域が広いウルズの動きを阻害しないように関節周りは大胆に装甲を削り、両腕には籠手とそれに連動したトゲ付きメリケンサック。


 見た目は防弾チョッキのような形状の鎧は聖光領域が魔力許容量に大きく割り振って内蔵され、防御力はほとんど無い。


 その代わりに籠手とメリケンサックには耐久強化がこれまた魔力許容量メインで仕込まれていて、防御手段はこの籠手に一本化されていた。


 要するに相手の攻撃は全部避けて、無理そうなら籠手で守れ。あとはとりあえず鎧にも籠手にも魔力を込めて殴りまくれ。……という頭を使わない構築だった。


「ふひっ。このくらい簡単な方がウルズには向いてるなの」


「そうじゃのう。『とにかく強みを伸ばして欠点があったら適宜修正する』とのことじゃが、今のままで十分なのかもしれんのう」


 全員の装備が揃ったことで強制依頼を再開した“赤撃”並びに“猛き土竜”混成パーティーはレグナム北部の山間エリアでアースジェネラルモンキーの小規模な群れと遭遇した。


 新装備を得た皆が試運転の機会に奮い立ったが、誰よりも気炎を上げた“狼藉者”ウルズに出番を譲ることになる。


 全部で十二体いたため念のためにセレスティーナも参戦しているが、攻撃はせずもっぱらウルズが囲まれないように支援するのみだった。


「それにしてもセレスティーナは不思議な動きをするようになったね。あの足首を捻る小さな動きで身体全体を大きく動かしているのかな? 体勢がすごく安定しているし、常に攻撃できるチャンスを生み出している」


「ふひっ。マンティコアとの戦いで一皮剥けたなの」


「『首狩り姫』だったか? 随分大仰な名前を付けられたからな」


 Sランクモンスターであるマンティコアを討伐したことは瞬く間に街中に広まった。


 そして最も善戦し、トドメを刺したセレスティーナの功績がどこからか広まって二つ名を付けられることになったのだ。今では街を歩くと畏怖の目で見られることもあるらしい。


「らああっ! テメェで終わりだボケェエ!!」


 ステップ移動でアースジェネラルモンキーの後ろに回り込んだウルズが首に正拳突きを入れる。


 ボギィ、と骨が砕ける音を引きながら頭と胴体が泣き別れになった。


「しゃあ! 準備運動くらいにはなったぜ」


 腕をぐるぐる回し上機嫌で宣うが、ラインと目が合ってバツが悪そうに目線を逸らせた。


「おいおい、装備に頼るのは嫌だったんじゃないのか?」


「……黙れよ」


 これは傑作だと笑い出したラインから顔を背け、ウルズは不機嫌そうに解体を始める。


「おお、ウルズが率先して解体を……。成長したのう」


「ふひっ。ノルン爺、心にも無いと顔に出てるなの」


「趣味が悪いですよ、師匠」


「ほっほっほ。どうやら師としての肩の荷が下りて気が抜けてしまったようじゃのう。こりゃ失敗じゃわい」


「ふひっ。ただの好々爺になったら“先導者”も形無しなの」


「ミーナ。それは言い過ぎ」


「ほっほ。元々分不相応な名じゃ。形無しで結構結構」


 アースジェネラルモンキーの素材は魔法石くらいしか値打ちのあるものは無いので回収は手分けすればすぐに終わった。


 ほとんど損耗の無い一行はそのまま探索に戻る。


 ただその性質は調査よりも狩りの比重が大きい。なにより新装備を試したいという欲求が大きいのだ。


 その後も魔物と遭遇しては希望者が順番に戦闘を行う形で試運転を続ける。


「ふひっ。杖の連結はなかなか面白いなの。四つ連結は癖になりそうなの」


「ん。制御補助があるから使い易い」


「……はあ。いくら制御補助があるからってよく使いこなせるわね二人とも。魔法も洒落にならない威力だし」


 ミーナとティアーネの二人は杖四つのフル連結モードでも十全に杖の性能を発揮し、Sランクモンスターすら圧倒し得るほどの爆発的な威力を叩き出していた。


 レイアーネは二人に呆れながらも、内心では自分の持つ杖ならなんとか扱えたことにホッと胸を撫で下ろす。


「新しいカタナも使えば使うほど身体に馴染みますね。刀身が十センチほど長くなったことで重量も増えて切断力が増しましたし、『エンチャント・ボルテクス』を不採用にした分『耐久強化』が一段階強くなりました。それにこの脇差し。突き刺すことに特化した『エンチャント・ボルテクス』付きの小さなカタナも使い易いですね。魔物の体内に直接電撃を流し込むのは面白い発想です」


「随分と気に入ったようじゃねえか、セレスティーナ。それにカタナも理想的な太刀筋とやらが結構出るようになったんじゃないか?」


「そうですね。あのマンティコアとの戦いでカタナの扱い方をかなり掴めた実感があります。モッチーさんに色々と助言していただいたおかげですよ」


「はっはっは。モッチーも羨ましがってたぞ。『首狩り姫』。二つ名が付いたんだからな」


「もう、ラインさん。その名前はあまり嬉しくありませんよ」


 セレスティーナは体幹を使った振り方が安定してきたことで、理想的な太刀筋の発揮確率が上がっただけでなく、通常の振りでも魔物を紙切れのように斬り裂くようになった。鞘に付いた『エンチャント・シャープネス』とカタナの切断力の組み合わせは凶悪と言っても生ぬるいほどの威力を発揮しており、単身での戦闘力は混合パーティー内でも突出し始めている。


「スルツカ。魔導剣とやらの使い勝手はどうかの?」


「悪くない。スイッチ一つで魔法剣と杖を切り替えるのは楽だ」


「そうじゃのう。鞘は剣を納めた状態で連結する設計に変えたようじゃの。合わせればかの“重量杖”と同程度の性能の杖に早変わり。しかし剣単体では杖三つ分くらいじゃったかの?」


「抜剣した状態で溜めの長い魔法は使わない。十分だと思う」


 スルツカは杖の性質を持った剣、新たな名称“魔導剣”を手にし、実戦的な魔法剣士として完成の域に到達した。


 剣戟の最中に高威力の中級魔法を織り交ぜる立ち回りは遠近のみならず対集団戦でも圧倒的に幅広い対応力を見せている。スルツカのあらゆるポジションをこなせる才能が見事にフィットした。そして魔法剣と杖のスイッチも難なく扱っている。


 以前から己の戦闘スタイルに悩みモッチーに相談したスルツカであるが、結果齎された装備一式は彼にとって己の力を思うように発揮できるまさに最適の装備となっている。そのことに師でありながら相談に乗ってやれなかったノルンは肩の荷を下ろすと同時に弟子が己の手を離れていく一抹の寂しさを抱く。


 各々が新たな装備を試し、満足を得ていく中で、長い間探していた魔物をついに発見する。


 無尽蔵の体力を持ち、無限に思えるスタミナで標的を死ぬまで追い続けるAランクの“死神”キングファング。


 そして。


「悪いけどここは僕に譲ってもらうよ。みんなに遅れは取りたくないからね」


 不敵に仁王立ちするツーヴァがその行手に立ち塞がった。

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