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新たな杖と魔導剣・4

「それだぁぁぁぁ!!!!」


 そうだそうだそうだ、何で思い付かなかったんだろう。魔力回路でできるなら魔法陣でも試してみるのは普通じゃないか。杖作りに夢中になりすぎてたわ!


「物理的な方法で、例えばスイッチとかで魔法陣のオンオフができれば魔導剣が作れるはず! 威力向上とか魔力許容量上昇なんかは魔法の発動に影響しないからエンチャントの刻印だけをオンオフすれば良い。いや待てよ、なんなら刻印は杖と同等にしてエンチャントだけを外付けにするとかもいいんじゃないか? ってそうか、取り回しの問題もあるのか。なら柄の部分にエンチャントの魔法陣とスイッチをつけて刀身の刻印は杖準拠でいくべきかもしれないな」


 魔法剣が杖の代わりにならないのはエンチャントの魔法陣が魔力の流れを奪うことで魔法の発動を阻害するからだ。なら魔法を使いたい時だけスイッチを切り替えて()()()()()()()()()()()しまえばいい。魔法陣は正確に刻まれていないと効果を発揮しないのだから。


 ちょっと待てよ。魔法陣のオンオフが切り替えできるなら……


「そうか! 接続の仕方次第でいくつかの魔法陣を切り替えることもできるはず。相手に合わせて属性を切り替えるとか防御魔法を使うとか」


 ちらっとツーヴァさんを見た。


 ゲームなんかだと双剣で火力を出すのは手数を増やすか属性を付与するのが一般的だ。


 この世界だと手数を増やしても魔物の防御を突破できないとダメージが増えないから、属性を付与する方が効率が良い。しかし剣に付与できる属性は一つだけ。偶然相性が良い相手に出会えるとは限らない。


 しかしその場その場で簡単に属性が切り替えられたらその限りでは無いはずだ。


 例えば銃のマガジンみたいにエンチャントや攻撃魔法の魔法陣を付け替えることで剣の特性を入れ替えられたら相手に合わせて弱点を攻めることができる。


 明確な弱点が無い場合でも以前にやったみたいに剣を突き刺してエンチャント、いや、直接体内に魔法をぶち込んでやることも可能だろう。


「じゃあツーヴァさんの剣はその方向で行くとして、ああいや、耐久性も考えないといけないのか。全部に対応させるとどうしても疎かになる部分が出てくるし……」


 いや、そもそも全部に対応する必要があるのか?


 だってメリオンさんみたいに幾つも剣を持って、それぞれ役割を持たせればいいんだから。


「なら双剣として戦う剣、突き刺すための剣。四本か? あと魔法陣のカートリッジを作って……これは剣の柄頭に挿し込む形にして、属性ごとに色分け。突き刺すタイプの剣は使い捨て前提でも良いからシャープネスを重視であとは攻撃魔法を仕込むと。元の双剣も微調整がいるな。身体強化があるから多少大きくしても振れるだろうしエンチャントの配分も最適化しないと」


 その辺りは試してみたいと分からないだろうけど、ツーヴァさんならあっという間に使い熟すだろう。


 そしてスルツカさんの魔導剣の方は……魔法剣モードと杖モードをスイッチで切り替える方針でいくか。基本は杖準拠でスイッチ部分に専用の魔法陣を詰め込んでしまう。となると基本部分は威力向上と魔力許容量上昇の刻印で構成するわけだけど。


「スルツカさーん。魔法の運用ってどんな感じですか?」


 黒ずくめのスルツカに声をかけると、目線だけで振り向いた。


「……運用?」


「はい。ティアーネみたいに威力重視なのか、ノルンさんみたいに手数重視なのかですね。新しい魔法剣の参考にしたくて」


「……手数だ。どちらかと言えば剣をメインに使う。魔法は牽制が多い」


「なるほど。なら威力向上で燃費を下げて継戦能力を上げる方針でいこうか。剣がそっちなら鞘の方で『シャープネス』を強めにした方が良いな。そっちも再設計するか」


 あとスルツカさんにも刺突用の攻撃魔法内蔵魔法剣を持たせよう。こっちは耐久性を上げて使い捨てにしない運用にしておこうかな。ヒットアンドアウェイのタイプだから無理攻めもしないだろうし。


 ラインさんの剣は……どうしようかな。現状で特に何も無さそうだし、一旦保留にしておくかな。


 セレスティーナさんの装備は……今のところ問題なさそうには思える。なんたってSランクモンスターをぶっ倒してるんだし。しかも受けたダメージはティアーネからのフレンドリーファイアだったらしいし。しょんぼりしているティアーネはめっちゃ可愛かった……じゃなくて、Sランクの魔物相手でも十分渡り合えていたようだからね。


 とはいえせっかく刀を持たせてるんだし、もう一つコスプレ要素を足したいんだよね。


 となると……脇差しか。


 刀との差別化はエンチャントにするか。刀のエンチャントを切断特化にして、脇差しを『エンチャント・ボルテクス』で役割分担する。


 よくよく考えたら刀で斬ったらわざわざ痺れさせなくても大ダメージだろう。ならボルテクスは入れるだけ無駄かもしれない。それ専用に脇差しを用意すれば良いだけの話だからな。


「よし、そうと決まれば早速作るか! それじゃあ俺、今からまた工房行ってきます!」


「ちょっと! 待ちなさいよ!」


 手をシュタッと上げて駆け出そうとした俺は呼び止める声に気付いてタタラを踏んだ。


「えっと、何ですかレナリィさん?」


「何ですか、じゃないわよ! 行く前に設計図を書いておきなさい!」


「……ああ、なるほど! それじゃちょっと上で書いてきます」


 確かに納品用で作り直すより設計図を渡した方が手っ取り早い。


 俺はさっさと自室に引っ込むとぱぱぱぱっとペンを走らせた。










「ただいま帰りましたあ!!」


 バァン、と玄関を開いて居間へと突撃するとパーティーメンバーたちが集まり始めた。


「おう、モッチー。随分と遅かったじゃねえか。あれから五日くらい経ったか?」


「厳密には五日と半日だね、ライン。モッチー君、まさかずっと徹夜なんかしてないよね?」


「いやあ、途中でガジウィルさんに無理矢理寝させられたんで半日くらいは寝ましたよ。親方も手伝ってくれたんでこれでも結構早く終わった方なんですよね」


 そう言って俺は運んできた装備群をテーブルにデンと置いた。


 ちなみに今回は量が多いので乗せきれなくて床にも置いている。


「おう、とりあえず“猛き土竜“の面子も呼んでくるわ。それにモッチーがいない間に決まったことがあってな、それも伝えておきたい」


「なんかあったんですか。それじゃ先に汗を流してきます」


 工房内にある簡素なシャワールームを毎日使っていたが、それでもやっぱり工房の臭いが染み付いてしまうのでこっちで身体を洗いたい。


「あ、先に見るのは良いんですけど魔力を込めるのは無しでお願いしますね!」


 言い残してシャワーを浴びてくると、居間には“猛き土竜“の面子が集まっていた。


 ここのところ全員集合するパターンが多いな。


「ハイヒール」


「へ?」


「目に隈ができてるわよ。若いからって無理しちゃ駄目よ」


「ありがとうございます、レイアーネさん。あ〜、やっぱり徹夜明けのハイヒールは気持ち良いな」


 不意打ち気味にレイアーネさんにハイヒールをかけられる。眠気も疲れも一気に解消されて頭がクリアになった。


 マジで徹夜明けのハイヒールは癖になりそうだ。


「さて、モッチー。装備の紹介の前に伝えておくことがある」


「あ、はい。さっき言ってたやつですね」


「ああ。ミーナ、セレスティーナ、スルツカの三人は正式に“赤撃”に加入することになった。まあパーティー登録はレグナム奪還戦の後になるがな」


「おおっ!」


 マジか。


 いや、もうずっと協力してたしほとんど同じパーティーみたいなもんだし今更ではあるのかも。


 これで“赤撃”は一気に大所帯になったな。


「あれ? ウルズさんは?」


 そういえば、と問い返すとラインさんは鋭い目つきでウルズさんを睨みつけた。


 ウルズさんも険しい顔で睨み返す。


「ウルズよ。これがわしの師匠としての最後の助言じゃ」


「……なんだよノルン爺」


「選択というのはの、何度でもできるとは限らんのじゃ。後になってから悔やんでも時は戻らぬ」


「…………」


「もし心に決めておるのなら先送りにしてはならん。千載一遇の好機であれば特にじゃ。だからの、己の邪魔をするプライドなら一度捨ててしまえ」


 ノルンさんの言葉に全員の視線がウルズさんに集まった。


 なんだ? ウルズさんもパーティー加入するって流れ?


 俺はよく分からないままウルズさんに視線を向ける。


「……くそっ!」


 しばらく歯を食いしばって目を硬く瞑っていたウルズさんは、徐に目をかっ開いてドスドスとこっちに歩いてきた。


 え、何? なになに何の流れ!? 明らかに俺をガン見してるんだが!?


 赤髪の巨漢が至近距離で見下ろしてくる。


 そしてドスンと音を立て、胡座をかいて座った。


 今度は下から見上げられる。


「おい、教えろ。俺はどうやったら強くなれる?」


「……へ?」


「俺は! この拳一つで成り上がってやると決めたんだ! だが! どんだけ殴ってもAランクの魔物にゃあ届かねえんだ!」


 ……まあそりゃあそうだろう。人間の能力にも限界があるしさ。


 だから武器を使うし魔法を使うわけで。


「お前の作った装備を使ったらコイツらはあっという間にAランクモンスターを潰すようになった! 何でだ! 装備の力か!? なんで生身で勝てねえんだ!」


 ああ、そうか。ウルズさんは自分の強さを証明したいからステゴロにこだわってたのか。


 それにしても装備の力か……。難しい話だよな。


 確かに装備の性能で強くなったのは間違いないと思う。今までの装備だと勝てなかっただろうし、今まで生き残れなかったんじゃないかなって思う。


 でもいくら装備が良くたってそれも扱う人次第ではあるわけで。良い装備を十全に使いこなしてこその戦果ではあるだろう。


 ただこれを装備の力なのか、当人の力なのか、判断するのは難しいところだと思う。


 俺は当人の力だと思うし、装備はあくまでも道具だと思ってる。昔見たアニメで『性能の差が戦力の絶対的違いじゃない』的なこと言ってたしその通りだとも思う。


 それでも性能の差って部分で勝負が着くこともあるだろうし、その時その時で判断は変わってくるんじゃないかな。


 とはいえ俺としては道具に頼ることは否定しないし、むしろ良い装備をしっかり使いこなすこともその人の力だと思ってる。だから俺は装備の力じゃなくて当人の力だと考えている。


「気に入らねえんだよ、道具に頼って勝とうってのが! 道具に頼らないと勝てねえってのが!」


 バン、と床を殴りつける。


 そして頭を下げた。


 あのウルズさんが……!?


「けどな! 負けるのはもっと気に入らねえ! だからお前が俺を強くしろ! 俺の拳で! 魔物どもを殴り殺せるように!」


 思わずみんなの顔を見回した。


 ラインさんやツーヴァさん、ノルンさんやレイアーネさんら大人組が「言えたじゃねえか」みたいな満足げな顔をしている。


 そしてミーナと目が合った。にまりと不敵な笑みで見返してくる。


 これは断れる空気じゃないなぁ。まあ断る理由も無いんだけどさ。


「そういうわけだ、モッチー。いっちょコイツの装備も作ってくれ。あとな、コイツも“赤撃”に加入する。いいか?」


「あ、はい。分かりました。それじゃあ明日にでも作っておきますよ」


「おう、済まねえな。おいウルズ、お前もなんか言っとけ」


「……けっ。…………ありがとよ。……これでいいだろ!?」


 苦虫を噛み潰したような台詞に方々から笑い声が上がった。

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