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パーティーの形・9

 レグナム近郊では山間部を疾走する集団があった。


「おい、糞馬鹿野郎! チンタラ走ってんじゃねぇよ気合い入れやがれ!」


 先頭を走るスキンヘッドの男が後ろを振り向いて怒鳴り声を上げる。


「ちょっと、貴方は逆に飛ばし過ぎよ! さっきまで半死半生だったの忘れた!?」


「馬鹿野郎、レイアーネ! 治った怪我なんてどうでも良い話だ!」


「あなたねえ、回復魔法じゃ失った血液も体力も戻らないでしょうが!」


「だからなんだってんだ! これから死にに行くんだ、そんなもん関係ねえ!!」


 “赤撃”と“猛き土竜”の混成パーティー。その内、強大な魔物にやられた負傷者二人を連れて避難していたメンバーは踵を返して残したメンバーの元へと向かっていた。


『馬鹿野郎! なんで若え奴らを見殺しにして逃げなきゃならねえんだ!? それは俺の役割だろうが!』


『俺は戻る。怪我が治った以上、殿役は交代だ。異論は許さねえ』


 ライン、そしてウルズの二人が奇跡的に生還した後、ラインはすぐさま救援を決めた。


 魔法剣を失い、盾を失い、重鎧はひしゃげて聖光領域は機能を失い、ただ質が良いだけの大剣一本しか残っていない。ラインの戦闘力はせいぜいBランク冒険者程度だろう。


 レイアーネやノルンは反対したが、ラインの頑固さに折れた。最後の方は妹を心配したレイアーネも味方についたほどだった。


 そして一行はスルツカに後方警戒させながら来た道を戻っている。


 ラインがまた苛立たしげに後ろを振り返った。


「おい、ウルズこの野郎! やる気ねえんなら尻尾巻いて逃げ帰りやがれや!」


「……っ……てめえ…………」


 ラインが大怪我する原因を作ったウルズは憎々しげな目で見返すが、二の句を継げずに押し黙る。


 それにまたラインの苛立ちが強くなった。


 そもそもがステゴロに拘るだけで碌に知恵を回すことも無く、手を伸ばせば届く場所にあるはずの新たな装備にも足を踏み出すことすらしない。


 武器の扱いが不得手、記憶力に乏しい、連携が苦手。


 それだけならまだ時間をかけてでも覚えていけば、工夫をすればどうにかしていけるのだ。


 ラインの苛立ちの原因はただ自らの身勝手で仲間達を危機に追い込んでおきながら、何一つ行動しようとしないところだった。


 これならあそこで死んでいた方がまだマシだ!


 いっそ殴りつけてやろうかと何度も頭を過ぎる。だがそれは自分が鬱憤を晴らすだけで意味が無い。もしそれでウルズに何か良い影響があるのならとうに殴っていただろう。


 今は敵も味方もどんどんレベルが上がってんだ。お前の成長を悠長に待ってる暇なんかねえ! ここで変われなければ一生半端者だぞ!


「いいか、ウルズ! もし誰か一人でも欠けていたら俺はてめえを一生許さねえからな!」









 ツーヴァらの戦況は一転して危機的状況に陥っていた。


 ミーナが戦闘不能になったことで支援が無くなり、前衛陣の攻撃頻度がほぼゼロに近くなった。


 さらにティアーネの攻撃は全てレジストで処理されて魔物の動きを妨害することすらできないでいる。


 頼りの綱はカタナを持つセレスティーナだが、魔物の動きは彼女を集中的に狙うことで反撃の機会を奪うものだった。そのため一番の有効打を持つ彼女が攻めあぐねてしまっていた。


 幸いにもセレスティーナは魔物の猛攻を凌ぐことが出来ている。しかし隙を突いて攻撃するツーヴァは有効なダメージを出せず、また魔物は明らかにツーヴァを脅威には見ていない。


 そのことにツーヴァは歯噛みし、自身の攻撃能力の低さを恨んだ。


 少しでも魔物の注意を引ければセレスティーナに攻撃のチャンスが生まれる。今の彼女ならばカタナの一振りで間違いなく致命打を叩き込むだろう。


 それなのに現状ではツーヴァこそが足を引っ張っている状態だ。あと少しでも攻撃力が高ければ十分な援護になっていたはずなのに。


 ただミーナの存在が、重すぎた。


 攻撃・支援・妨害・回復。どれをも非常に高いレベルで実現し、パーティーメンバーが実力を発揮できるよう調整し、それぞれを調和させる。彼女の存在が四人の動きを円滑たらしめていたのだ。


 この魔物はおそらく四人を観察する中でそれに気付き、真っ先にミーナの排除を行ったに違いない。


 彼女はまだ死んでいない。気を失っているだけだ。だが杖が破損したことで復帰しても戦力にはなり得ない。


「くそっ、僕だって……!」


「! ツーヴァさん、駄目です!」


 焦りからツーヴァが強引な接近を行なった。


 羽虫を払うかのように振るわれた前脚を回避し、叩き付けられる黒翼を掻い潜り、一直線に眼球を狙って距離を詰める。


 魔物が、上半身を引いた。


「っ!? しまった!」


 眼球目掛けて突き出した剣。


 魔物はそれを躱しつつ噛み付きで剣を砕いた。


 ギロリとその眼光がツーヴァを捉える。


「ツーヴァさん!」


 セレスティーナが援護のためにカタナを振るった。


 しかし魔物はバックステップで距離を取り、左後脚で地を蹴った。


 右前脚を振り上げツーヴァに迫る。


「ぐっ、速……」


 振り下ろされた前脚は、防御のために掲げた剣を砕き。




 ツーヴァの身体を切り裂いた。




 肩口から入った爪が軽鎧ごと三条の切断痕を残す。


「が、はっ」


 鮮血が噴き出した。


 魔物が尾を振るう。ツーヴァの身体は錐揉みしながら木々の向こうへ弾き飛ばされていった。


「っ、この!」


 セレスティーナがエンチャントを起動して切り掛かるが、魔物は素早い動きで回避し、また鋭く攻撃を重ねてくる。


 次第に彼女は焦りから動きが大きくなり始めてきた。


 魔物の眼光が鋭く光る。


 頭の中を警戒音が鳴り響く。


 瞬間、魔物の姿が消えた。


「え……」


 呼吸が止まる。


 目の前には激しい吹雪が迫っていた。


 ブリザード・ブラスト。


 ティアーネの放った魔法。魔物を狙った上級魔法が、魔物との直線上にいたセレスティーナへと襲いかかっていた。


「っ!?」


 油断した。


 今まで魔物はティアーネの魔法を回避せず、ひたすらにレジストして防御していた。だから今回も同様だと思い込んでいた。


 狙っていたのだ。直線上になるこの一瞬を。


 あとほんのコンマ一秒でも早く気付いていたら……!




 セレスティーナは吹雪に巻き込まれ、激しく木に叩き付けられた。

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