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パーティーの形・8

 ツーヴァら四人の戦いは激しさを増していた。


 セレスティーナの立ち回りが良くなったことで少ないながらも攻撃機会が増え、理想的な太刀筋は出せないながらも鞘に仕込まれた『エンチャント・シャープネス』によって多少のダメージを入れることに成功しており、魔物の注意を引き付ける結果となっている。


 それによってツーヴァとセレスティーナの二人で魔物を翻弄し、ティアーネとミーナの魔法で削る理想的な展開を維持できていた。


 また前衛二人が交互に相手をすることで魔力回復薬を飲む余裕もあり、またモッチーの在庫から遠慮なく持ち出したことで所持数も潤沢。


 行ける、この調子なら……!


 そう確信できてしまうほど順調に戦闘を続けていた。


 しかし相手はSランクモンスター。パワーも、魔力も、そして知能も。Aランクモンスターとは隔絶している。容易に勝てる相手ではない。


 その予兆はすでに見え始めていた。


 身体中に傷を負いながらも動きが鈍るそぶりは無く、出血は瞬く間に止まる。傷が塞がっているわけでは無いが、出血による影響は皆無に等しいだろう。


 また前衛陣の動きを学習し始めており、じわじわとではあるが攻撃の機会が減少し始めている。


 そして魔物はわずか動きを止めたタイミングで人間たちをジッと観察しているような素ぶりを見せていた。


 まるで全てを見透かすかのような視線に悍ましい不気味さと激しい警戒感に襲われる。


「ツーヴァさん! 何か様子がおかしくありませんか!?」


 セレスティーナが思わず声を張り上げると、それに呼応して攻撃魔法主体で戦っていたミーナが妨害系魔法へ切り替えて全体の支援へと回った。


 視界の妨害や動きの阻害、閃光魔法による網膜へのダメージ。


 ツーヴァが大立ち回りの中で次なる一手を考える間に、ティアーネは強烈な一撃を繰り出さんと魔力回復薬を飲んで魔法の溜めに入った。


 それを見てセレスティーナは咄嗟に攻撃主体へと意識を切り替える。


 ティアーネの魔法を援護するためにもなんらかの一撃を加えておかなければならない。


 狙いは付けなくて良い。


 ただ目の前にある敵を斬る。それだけ!


 重心を低くして細かい足運びで距離を詰め、エンチャントからの抜刀で最上段に構えて振り下ろす。


「はっ!!」


 左手の薬指と小指を離し、手元に引き寄せるようにカタナを振るう。


 腕の力では無く、右半身に重心を乗せて自然と動きの中で引き寄せられるように。


 その軌道はまるでカタナが弧を描くように美しく。




 魔物の右後脚の脹脛を断ち切った。




 人の腕より太い骨まで切り込みの入った後脚からドパッと鮮血が吹き出し、魔物の絶叫が響く。


「今の……」


 練習の時にできた太刀筋よりもより美しく、無抵抗で、何よりも全身を使えた一振り。


『しっかりと刃筋を立て、斬る技術を身に付ければどんな魔物も斬り伏せられる』


 このカタナを渡された時にモッチーの言っていた台詞を思い出す。そして斬る技術を身に付けるというその意味。


 今の、左手はほとんど添えるだけだった。腕の力じゃ無くて全身で、ううん、体幹で斬るような感覚……! 引きながら斬るというのは物理的に引くんじゃなくて、弧を描いて自然と引き斬りになるように振るってことなんだ! だから刀身が反っている……!


 セレスティーナの中で強い確信が芽生えた。


 きっとカタナは両腕すらも添えるだけで斬ってしまえる武器なんだ。文字通りの技量で斬る武器!


 魔物がセレスティーナを嫌って黒翼を振るって弾き飛ばしに来る。


「見える……!」


 軽く後ろに跳躍し、右足を後ろに下げて半身へ。


 右足首を捻って指先を魔物へ向け、その動きで動く腰をそのまま回転する動きへと繋げて右から左へ、真一文字に振り抜く!


 黒翼とカタナが交差する。


 ズパッ


 綺麗な切断面を残し、黒翼の先が地面へと転がった。


 今のは違う……! もっと、音も抵抗も無いくらい綺麗に振らないと!


 得られた結果は十二分なもの。しかし思い描いていたものとは違う太刀筋にグッと歯を食いしばった。


「行ける! 皆、セレスティーナを援護するぞ! ティアーネはそのまま圧力をかけ続けろ!」


 好機と見たツーヴァが全体に指示を出し、ティアーネの放つ上級魔法アイス・コフィンが魔物へと襲いかかる。


 右後脚を負傷した魔物は格子から脱出することができず、氷の柩へ囚われた。


 だが眼は死んでいない。瞬く間に氷にヒビが入り、脆くも崩れ去る。


 魔物がその場で大きく腕を振るった。


「退避!!」


 氷の砲弾が撒き散らされ、慌てて木々の影に飛び込む。


 氷の礫をやり過ごした後、すぐさま飛び出した前衛二人は絶句した。


 魔物が飛び上がっている。その向かう先はーー




「「ミーナ!!」」




 魔物の右前腕が木に叩き付けられる。


 その先で。


 咄嗟に杖を盾にして後ろに跳躍したミーナの姿と。


 吹き飛ばされた幹にぶつかり杖の魔法石が砕け散り、全身を強打して地面を転がる彼女の姿があった。

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