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気がついたら異世界に

「鍛冶師ぃ?」



 俺こと須藤スドウ元晴モトハルは浮び出た文字を見て素っ頓狂な声を上げてしまった。戦闘職欄にあるのは何度見ても鍛冶師の文字。


「マジかよ…そもそも戦闘職ですらねぇじゃんか」


 横から覗き込んだ友人、奈良坂ナラザカ健斗ケントが同じく目を丸くして呟く。


 他人並み以上の容姿を持ち、人好きのする笑顔とサラサラヘアー。スラリとしたモデル体型のこの友人は俺の幼馴染であるが、お世辞でも平均程度の容姿しか持たない年齢=彼女いない歴の俺とは違って正真正銘のリア充だ。


 しかも。



 健斗の戦闘職欄には勇者のふた文字が誇らしく刻まれていた。



「ケントが勇者なのに俺は鍛冶師って……せめて騎士とか賢者とか格好いいヤツは無かったのかよ神様……」


「おいおい、転生させてもらっただけでもありがたいだろうが。俺ら、本来ならあの通り魔に刺されて人生終了だったんだから」


「そりゃそうだけどさ。ケントは勇者補正だかなんだかでレベル50あるのに、俺はレベル1だぜ?

 文句の一つも言いたくなるってもんだろ」


 転生。


 俺たち二人は前世で通り魔に刺されて死んだ。


 襲われてるOLっぽい女性を助けようと飛び出して、俺は通り魔のナイフで胸を刺されたんだ。無我夢中だった俺は、意識が飛びそうになる痛みを堪えて通り魔の腕を掴み、ナイフを抜かせるまいとホールドした。


 今になって思えばどうしてそんな行動を取れたのか不思議でならない。俺は至って普通の人間だと思うし、見ず知らずの他人のために命をかけれるような精神性も持っていなかったと思う。


 それでも俺が通り魔を抑えたことでケントが飛び出した。周りの野次馬たちもそれを見て弾かれたように動き出した。


 その後どうなったのかは知らない。どうやらその時に俺の意識は途切れて、そのまま死んでしまったらしい。


 ケントによると、俺の拘束から解放された通り魔に今度はケントが刺された。それでもケントは俺のように通り魔を必死になって抑えつけて、なんとか無力化して捕まえることに成功したらしい。けど、その時に致命傷を負ったらしく、死んでしまったようだ。


 そして気がついた時には二人揃って森の中。


 木々が生い茂る中に開けた空間に白亜の建物の残骸があり、その奥まったところで目が覚めた二人は近くに見えたこの街へとやってきたのだった。


 そしてここはその街、公都シルヴェストにある冒険者ギルドだ。俺たちはこれからの生活を考え、冒険者になるため登録にやってきた。


 まずは身元を確認するためだと緑の板みたいな道具に触れるように言われたのだが、そこで二人は己のステータスを知ったのだ。


「これ、戦闘職と職業って違うんだな。それに筋力とかスキルとかのステータス表記も無いし。罪過ってのは犯罪歴かな。まんま身元確認用って感じ」


「ゲームっぽいのはレベルくらいだな。俺の名前がケントだけでカタカナ表記なのはあれか、苗字は無くなった感じか?」


「現実味は無いがな。俺も苗字は無い……ってなんじゃこりゃぁ!?」


 俺はステータスを何度も見直して確認する。だが、名前欄には明らかにおかしな表記がされていた。


「なんだよ変な声だして。……モッチー?」


「だあああ、なんだよモッチーって!

 あれか、俺はゆるキャラかなんかか!?

 嫌がらせにもほどがあんだろうが!」


 誰だ命名しやがったヤツは。俺の名前はモトハルだ。どう転んだらモッチーなんて名前になるんだよ。


 この鑑定板?だかなんだかのシステム作ったヤツ欠陥だぞこれ。責任者呼んでこいコラ。


「落ち着けってモッチー」


「その名前で呼ぶな!

 俺はまだこの状況を受け止めきれてねぇ!」


「受け止めれたら構わないんだな、モト」


 含み笑いする友人を横目に深呼吸すると、改めて自分のステータスを確認する。


 モッチー。レベル1。人族。戦闘職:鍛冶師。職業:なし。ギフト:なし。


 平凡だ。紛れもなく平凡だ。紛うことなく平凡だ。


 それに比べてケントは勇者。輝かしき勇者。しかも初期レベル50。なんだこれ。リア充は神にも愛されてるのかよ。


「そういや受付の人どこに行ったんだ?

 ケントの称号聞いたら血相変えて飛んでったけど」


「さあ?

 やっぱテンプレ通りに偉い人が出てきて魔王を倒してくれ、とか言われるんじゃないか?」


「歓迎パターンか。けど魔王と戦えったって平凡な高校生にできるかよ。レベル50のケントなら可能性あるかもしれんけど」


「いやいや、俺だって平凡な高校生だぞ。武術とかやったことねぇし」


 取り留めのない会話を交わしているうちに、件の受付が戻ってくる。青で統一された制服をきた妙齢のお姉さんだ。

 息を切らしているのがちょっと色っぽくて、ドキッとしたのは内緒だ。


「すみません、ケント様。これからギルドマスターにお会いしていただけませんでしょうか。冒険者登録はそれからということで」


「お、指名じゃんケント」


「あー、モトも一緒に来てくれないか。一人だと流石に心細いっていうかさ。友達だろ?」


 まあケントも不安だよな。俺だって同じ立場なら不安になるし。


「しょうがねぇな〜。一緒に行ってやるよ」


「すまん、頼む」


「そちらはモッチーさん、でしたか。ご友人の方ですね。では、お二人とも付いて来てください」


 うわぁ、そう呼ばれるのすっげぇ変な感じする。これからずっとモッチー呼ばわりされるのかと思うと先が重いわ。


 受付嬢の後を追い、奥の階段から3階にある応接室へと入る。


 中は見るからに高そうな調度品が使われていて、どう見てもVIP用の特別な部屋だ。中央には膝上くらいの高さのテーブルを挟んでソファーが二つ並べられていた。


 右手にはすでに壮年の男性が腰掛けており、俺たちを見るなり喜色を浮かべて立ち上がる。



「待っておりましたぞ勇者様。世界を救ってくださる救世主様よ」



 彼のこの言葉がケントの、そして俺の運命をも決定付けるものになるとは俺たちはまだ知りもしなかったのである。

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