自己紹介 芸歴長めのわがまま娘、“鶴舞絵美里”
金髪ツインテールは王道にして最高ですよね。
加えて強気な性格だとなお良し。
鳴海の穏やかでフワフワした自己紹介も終わり、次のメンバーの自己紹介に移る。
「次はえっと鶴舞」
「鶴舞絵美里よ。よろしくね」
「おうよろしく」
手元の社長特製プロフィールの鶴舞絵美里のページに目線を向ける。このページも注意書が大きく書かれてある。
『鶴舞絵美里。14歳。
金髪ツインテールで身長やその他諸々が平均より小さいことを気にしている。まだまだ伸び盛りなんだから大丈夫、心配無用!
Antoinetteでは最年少だけど、2歳から芸能界にいるので芸歴は一番上。ややこしいよー。
チャームポイントはチラッと見える八重歯。笑ってる時に見えるのが最高! ニカッてするんだよ。
趣味はキーホルダー集め。カバンとかにいっぱい付けてて、メンバーにもあげたりしてる。私ももらったー、いえーい羨ましいだろう。
最近の悩みはお気に入りの飲み物が中々売っていないこと。あるある。私も飲みたい時に家にビールがない時があるもん、一緒一緒。
取っつきにくいかもだけども最初が肝心。思い切って下の名前で呼んじゃえよ、You!』
『注意! わがままっ! でも許しちゃう可愛いから!』
鳴海から注意書の部分が甘崎社長の欲望が漏れてる気がするが気のせいだろう。
「鶴舞は趣味がキーホルダー集め? キーホルダー集めって何のキーホルダーを集め――」
「ストップ!」
鶴舞は手の平をビシッと俺の前に突き出し、話を遮った。
なんだなんだ。神領の時みたいにまた俺が何か気の障ることを言ってしまったか。
「楢崎さんってこの業界入って何年目?」
「え? まだ二年目だけど」
なんでいきなりそんなことを聞いてきたんだ。
鶴舞は俺の年数を聞くと、腕を組み俺の体をじっくりと観察し始めた。
「ふーん…………なら絵美里の方が先輩だから呼び方は楢崎でいいわね」
「えっ別に構わんが」
「楢崎は絵美里よりこの世界の後輩だからそこんとこ理解してね」
「お、おうわかっ…………りました」
確かに鶴舞は俺よりも一回りは年下だが、芸歴みたいなものは俺よりも先輩だから呼び捨てでも全然おかしくはないな。
神領なんか俺のこと変態って呼んでるし、それに比べたら数段いいけど。
鶴舞は俺の返答に満足したのか腕を組みながら嬉しそうに頷く。
「うんうん、理解が早い後輩は絵美里好きだよ。それで質問何だっけ?」
「ああえーと鶴舞先輩はキーホルダーって何のキーホルダーを集め――」
「ストップ!」
再び鶴舞が手の平をビシッと俺の前に突き出し、話を遮る。今度はなんだ?
「絵美里に先輩は付けなくていいから」
「俺より先輩だから付けた方がいいんじゃないですか」
「先輩もさんもいらない。あと敬語もいらない。楢崎って敬語苦手でしょ?」
「まあ苦手だけど」
「なら敬語いらない。絵美里のこと敬ってくれればそれでいいから」
「りょ、了解した」
鶴舞の考えが俺にはわからない。まあだが俺を思ってのことなんだろうと納得する。
鶴舞は再び満足したのか腕を組み嬉しそうに大きく頷く。
「じゃあ絵美里の後輩の楢崎に問題ね。今、絵美里はとても喉が渇いてます。楢崎ならどうする?」
「あ? それはまあ飲み物を渡すかな」
「何の飲み物?」
「な、何の飲み物?」
今時の中学生の女子が好む飲み物なんて俺にわかるわけがない。今は何が流行ってるんだ。というか飲み物に流行りってあるのか。
…………そう言えば高校の時の文化祭で売ってたやつに女子たちが群がってたな。あれ何だったけかな……。黒いやつが入ってた気がする。あれはー確かーあのー。
「……タテオカ?」
「誰それ。もしかしてだけど、タピオカって言いたかったの?」
「おおそれだっ!」
「ぶっぶー! そもそもタピオカは飲み物じゃないし」
鶴舞は口を尖らせ、人差し指を交差させてバツを作る。
タテオカは中学の時の同級生だった。元気に過ごしているだろうか…………。
いかんいかん脱線してしまった。タテオカのことは今は置いとくとしよう。
どうやらタピオカは違うみたいだ。それじゃ無難な飲み物を選ぶことにしよう。喉が渇いたらまずこれだろ。
「じゃあ水か?」
「ぶっぶー」
「お茶?」
「ぶっぶー」
「コーヒー?」
「ぶっぶー。絵美里コーヒー飲めないし」
「わかった、コーラっ!」
「ぶっぶー! 楢崎全っ然、絵美里のことわかってない」
胸の前で腕をクロスさせてバツ印を作った後、こんなこともわからないのかと少し呆れた様子の鶴舞。クイズが難し過ぎないか。
「絵美里が飲み物を要求したら絵美里のその時の気分に合った飲み物を渡すの、わかった? そうしないと怒るからね」
「それ難しくないか」
鶴舞の気分に合わせて飲みたいものを渡すなんて、そんなのエスパーとかの超能力者でないと当てるの無理だろ。
「ちなみに今はリンゴジュースの気分だよ」
リンゴジュースって…………こいつ可愛いな。
「わ、わかった。なるべく気をつけるわ」
「うんよろしくね、楢崎」
八重歯を覗かした鶴舞の笑顔を見たら、多少のわがままなら許しちゃうな。可愛いから。
まあ担当になったんだし、できるだけ頑張ってみるか。
「で、何の質問だったけ?」
そうだ忘れてた。
鶴舞に流されてそのまま進んでしまっていたが、今は鶴舞への質問をしていたんだった。本題に戻るとしよう。
「えーと……そうそうキーホルダーだよ。キーホルダーは何のキーホルダーを集めてるんだ?」
「色々集めてるけど、一番集めてるのは動物系のやつかな」
動物のキーホルダーならどこでも売ってそうだし、集めやすそうではあるな。
「今は何を集めるのにハマってるんだ」
「今はペンギンだよ。その前は鉛筆」
「鉛筆? 鉛筆のキーホルダーなんてあるのか」
「うん。キーホルダーだけど字も書けるの」
今のキーホルダーは飾りだけじゃなくて、文字も書けるんだな。
「へえ色々あるんだな。どうだ中学校は? 楽しいか?」
「まあまあかしら。クラスのみんなは絵美里がいてハッピーだと思うけど」
「まあ鶴舞は可愛いからな。クラスの男子からモテるだろ」
「クラスだけじゃないわ、学校中が絵美里のファンよ。絵美里のファンクラブだってあるし」
そういうのって本当にあるんだな。ずっとフィクションだと思ってたぞ。
「おースゲーな。そんなにモテたら嬉しいだろ」
「全っ然。だって学校の男子ってお子ちゃまだもん」
「いやいや。俺から見たら鶴舞もお子ちゃまだぞ」
「はい先輩を馬鹿にしたから正座ね」
この後もダメ出しなどがちょいちょい挟まれたが、鶴舞への質問は順調に続いていった。
正座も解かれてちょうど良い時間になったので、最後に鶴舞にもあの質問を聞いてみる。
「鶴舞は何でアイドルを目指そうと思ったんだ?」
「アイドルになって誰よりもきらきら輝くためよ」
「誰よりも……きらきら」
「そうよ。絵美里はステージの上で一番可愛くて、一番ファンからチヤホヤされて、一番きらきらなアイドルになるの」
胸に手を当てながら、まっすぐに俺の顔を見ながら語りかける鶴舞。鶴舞の目を見たら本気で一番を目指してるわかった。
「だからしっかりと絵美里を支えなさいよね、楢崎」
「おう任せとけっ! これで質問は以上だ。ありがとな」
「うんお疲れ様」
鶴舞の好みの飲み物はこれから覚えていかないといけないな。
読んでいただき本当にありがとうございます。
誤字・脱字があったら申し訳ありません。
これからも日々努力していきます。
次回はアイドルが大好きなアイドルの大江唯花編です。