楢崎孝太郎、甘崎社長に無茶ぶりされる
なんにも難しいものは出てこないです。作者が難しいの嫌いなので。
楢崎の思い出話もこれで終わりです。早く可愛い女の子を出したいので。
ミラクルliveを経験してからの俺はアイドルにどっぷりとハマってしまった。
山田からForteを中心に色々なアイドルのライブDVDを借りたり、二人でライブを見に行ったりとアイドル尽くしの幸せな大学生活を送っていた。
今までのアイドルのことを知らなかった生活は灰色だったと思えてくるくらい、生活が薔薇色になった。
そんな最中、あるニュースが日本中を騒がせた。
それはミラクルliveでForteのパフォーマンスを見て身体中に電流が走るほどの衝撃を受けて一年が経った時である。
『Forte 芸能活動休止っっっっっっ!!』
人気絶頂期のいきなりの活動休止報道には日本中に驚きと戸惑いが襲った。テレビはこのニュースを連日取り上げ、ショックで会社や学校を休む人が全国で数多く発生した。
このことは『Forteショック』と言われ社会現象にもなった。
その報道を家で聞いた俺はショックのあまり、部屋の中で叫んでしまい姉にうるさいと殴られショックが増した。
もちろん大学にも『Forteショック』の余波は及び、多くの教授がショックで寝込み、休講になる講義が後を絶たなかった。多くの教授がForteのファンだったことにも驚きだが、そこは触れないでおこう。
Forteの活動休止報道がされた次の日、俺と山田も大学を自主休講してカラオケの個室で泣きじゃくった。
泣き止んだ後はお互いにForteの曲を歌いまくった。歌っている途中何度も泣いてつっかえてしまう場面もあったが熱唱した。熱唱したことで少し落ち着いた時、山田が話しかけてきた。
「なあ楢崎……。まだお前、アイドル事務所で働きたいのか? Forteはもういないんだぞ」
「…………ああ変わんないよ。そりゃあわよくばForteを支えたい、握手したい、ハグしたい、結婚したいっていう私利私欲があったことは認めるけどな」
「そうか…………欲だらけだな。よしっ! 今日は思いっきりはしゃごう。そんでこの悲しみを忘れよう!」
「ああ、はしゃごう!」
俺も山田も画面の歌詞が涙で見えないので、何度も手の甲で目を擦りながらその日は朝まで歌い明かした。
◆
サボっていたため卒論に苦しみながらも大学を無事卒業した俺は夢であったアイドル事務所の“AKプロダクション”で働くことに決まった。
小さな事務所だがアイドル部門に力を入れているところに惹かれ、面接を受けに行ったのだが何故か面接で社長に気に入られたためここに決めた。
山田はというと実家の農家を継ぐことにしたらしい。
卒業式も何事もなく終わり、俺は卒業証書を片手に山田と駅まで歩いている。
山田は自転車通学なのだが最後だからと駅まで付いてきてくれ、大学で過ごした4年間の思い出で話し合って盛大に笑った。
駅までの道のりには桜が少しだけ咲いていて、俺たちの卒業を祝ってくれているように見えた。いつもは長く感じる通学路も話しているとあっという間に駅へ到着してしまった。
「本当にあの時言ったことを実現させたんだな楢崎。すごいよ」
「ありがとう。……こうして気軽に会えるのも今日で最後か、寂しいな」
「まあ寂しいけど、今の時代すぐ連絡取れるしさ、大丈夫でしょ」
「それもそうだな」
「それじゃまたね楢崎。今度またライブ一緒に行こう。今度は俺が運転するよ」
「おお楽しみにしてる」
お互い笑顔で固く握手を交わし、山田は自転車に乗り来た道へ戻っていった。山田が見えなくなるのを確認した後、電車に乗って帰宅した。
◆
「これが親友と俺がアイドルを好きになった理由の話ですね」
「…………長い。 何をどや顔で自分の過去に浸ってるんだ。めちゃくちゃ気持ち悪いよ」
「えっ! だって社長がアイドルたち来るまで暇だからなんか面白い話をしろって言ったんですよ」
「言ったよ。でも今君がした話、全然面白くないよ。面白かったのは話している時の君の顔くらいだよ」
な、なんて失礼な人なんだ。
今俺はAKプロダクションの社長室にいる。なんでも我が社のアイドルユニットを担当していた人が大手事務所に引き抜かれたとかなんとかで、その後任として俺が選ばれたのだ。そして担当するアイドルと顔合わせのため社長室呼ばれ今に至る。
「ほらまだアイドル来ないから、今度こそ面白い話して。それができないなら、一発ギャグをお願い」
「絶対に嫌です」
「ぶーぶーぶー。やってくれよー」
目の前で俺にブーイングをしているこの女性こそが我がAKプロダクション社長の甘崎薫さんだ。
赤色がかった長い髪が特長的でアイドルみたいにとても可愛らしい人だ。見た目と話した感じが若々しいので、俺と年齢がほぼ一緒だと思うのだが社長の年齢は社内の誰も知らないので推測でしかない。
「じゃあわかったこうしよう。今ここで一発ギャグをやってくれたら、私の力で今月の楢崎くんの給料上げてあげるよ」
「…………マジですか」
「うん大マジ」
どうするべきだ楢崎孝太郎。
仮に一発ギャグを今やったとしても絶対にスベる、間違いない。そして社長が満足するまでスベり倒すという地獄を味わうことになる。
でもそれを我慢したらお金が貰える。今月ピンチで非常にありがたいお話だ。
「…………お金のために男楢崎孝太郎、一発ギャグやります!」
「おおーパチパチパチパチ」
考えに考えた結果、このスベり倒す道を選んだ。お金のためだ。心が折れるまでスベり倒してやる。
俺は給料のためなら何も怖くないっ!!
「ふ、布団が――」
コンコンコン。渾身のギャグを言おうとした瞬間、ドアをノックする音が社長室に響く。
「はーいどうぞー。アイドルが来たみたいだね。あっもうギャグはいいよ楢崎君」
「……………………はい」
あれ? なんか目から汗が出てくるな。この部屋、もう冬は過ぎたというのに暖房が効き過ぎてる。
そんなくだらないことを思っていると失礼しますという複数の声が聞こえ、ドアから5人の女の子がぞろぞろと入室すると俺の目の前に並んだ。
5人が並んでいる隣に甘崎社長が立ち、笑顔で紹介をし始めた。
「それでは紹介しよう。この五人が今日から楢崎君が担当するアイドルユニットの“Antoinette”だよ」
読んでいただき本当にありがとうございます。
誤字・脱字があったら申し訳ありません。
これからも日々努力していきます。
次回から自己紹介が始まります。