甘いいちごと愛しい本と懐かしい君と
残り時間、5分。
祖父母の命令で、住んでいた場所からはとても遠い場所にある国公立の大学に行くことになった主人公。
今、そんな主人公と、その彼氏のお別れのシーンだった。
この後は、祖父母に決められていた許婚の家で生活をさせられたり、彼氏を好きな後輩が会いに来たり...そして、強くなって帰ってくる。
そうやって再会する。
わたしたちに、とても似ている気がした。
「そのページ、お気に入りのシーンなんだ。」
突然声をかけられた。
思わず顔を上げると、金髪の長身にはあまり似合わない、コーヒーカップを片手に、本を覗き込んでいる。
桜庭くんの好きなページ...とても愛おしくなったが、元々これは、彼に借りていた本だ。
それにどうやらわたしは、解けそうにない。
愛しいページを目に焼き付けて、ゆっくりと本を閉じようとした。
これで、5年ぶりの、たった30分の初恋は、終わりなんだ......
はっとした。
わたしはいつも、読む時は1日全部を使って読んでいたし、本を閉じる時だって、栞を挟んで片側だけを動かして閉じていたから。
ページを開くことによって、文字が見事に2つに分かれて、下の方は、メッセージとなっていた。
それは...
ILOVeyOU
思わず桜庭くんの顔を見つめる。
優しい笑顔で、彼はゆっくりと口を開いた。
「答え合わせだよ、ゆいなちゃんの返事は?」
5年ぶりの再会。
背も高くなったし、髪も染めてるし、声変わりもしてる。
でもその背中も、相変わらずさらさらの髪も、優しい声も、笑顔も...
そのすべてが懐かしくて、愛しい。
わたしが大学で習った、韓国語。
ハングル文字を使った。
쑤틍 。
持ち歩いている手帳につけているペンを取り出して、そう書いた。
そして、本を彼に手渡し、彼は自分の好きなページを開けた。
そうしたら、わたしのメッセージが現れる。
ME
TOO
「龍くん、レンタルはもう終わりです。」
わたしは立ち上がり、鞄を手にした。
龍くんも立ち上がり、わたしの手をがしっ!と強く、でも優しく握る。
「じゃぁ、これからは俺のものだな。」
*+:。.。:+*'*+:。.。:+*'*+:。.。:+*'*+:。.。:+*'*+:。.。:+*
『ごめんね、ちょっと急用できちゃった!』
同窓会にまだいるであろう女子に、謝罪のメールを送った。
いいよ! と快く了承してくれた。
感謝の気持ちでいっぱいになり、スマホの画面は真っ黒に...おっと、先にしとかなきゃいけないこと、あるんだった。
アプリを開いて、アカウント設定に行く。
そして、赤く書かれた字を押した。
『アカウントを削除しますか?』
はい、というボタンを押して、アプリは懐かしい登録画面を見せた。
それからアプリを削除して、やっと画面は真っ黒になった。
目の前には2杯目のいちごミルクと、いちごパフェ。
そして、反対側には5年ぶりに触れる本のページをめくり続ける、変わったような変わっていないような君の笑顔。
そういえば、いちごの旬はこれから。
わたしは、恋という旬を早くも迎えてしまった。