罪と罰と恨み
会場を抜けてそのままついていくと、少し離れた路地裏に連れてこられた。
さすがに、周りに人がいなくなるのは怖くて、路地裏に入るのをためらっていると、腕を掴まれて、ぐいっと引っ張られた。
「俺のこと、覚えてるよなぁ〜?」
一気に表情や声のトーンが変わり、それは...とても威圧的だった。
「俺に恥をかかせた時のこと、忘れたとは言わせねーぞ?」
......そうだ、龍我、この人は...
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「教室を最後に出たのも、最初に入ったのも、桜庭なんだろ?
じゃぁ桜庭が犯人なんじゃねーのかよ!」
みんなが、一気にざわついた。
ひそひそ、ひそひそと話し合う。
あの真面目で優しくて、勉強も運動もできる学級委員長が、みんなの鞄から財布を抜き取ったなんて、ほんとうなのかって。
「おい、桜庭の財布は取られてなかったんだろ?
桜庭のロッカー見てみようぜ!」
攻撃的な言葉に、威圧的な態度、そして、指示しているのは...龍我くん。
ロッカーからは、みんなの財布がすぐにでてきた。
みんなはさらにざわつき、泣きそうになってる人も、怒っている人もいるのがわかる。
「お前、さいってーだな。
クラス全員の財布盗むなんてよぉ?」
相変わらず龍我くんは、攻撃的な言葉を投げかける。
でも、わたしの一言で、状況は一変した。
「待って! わたし、犯人見た!」
教室のみんなが、一気に振り返る。
普段、大人しくて、いつも1人でいるわたしは、こんなに注目されるだけで、足が震えそうだった。
でもわたしは、ぐっとこらえた。
「お手洗いに行って、髪ゴムを忘れたのに気づいて、1度戻ってきたの。
そしたら....龍我くんが、みんなの財布抜き取って、桜庭くんのロッカーに入れてるの、見た!」
みんなが、今度は龍我くんの方へ振り返る。
桜庭くんは、ぽかーんとしたままこちらを見つめていて、龍我くんは、わなわなと口を震わせていた。
「おい、証拠はあんのかよ?!
見間違いだったかもしれねーだろ!」
証拠、と言われ、一瞬怯んでしまう。
でも、証拠なら...そう、確かに、証拠となるものを見た。
「鍵! 学校にあるのと違う鍵で教室閉めてた!
それを、ポケットに入れてるのも見た!」
みんなが、龍我くんのポケットを見る。
まだ着替えていない体育着。
龍我くんは舌打ちして、ポケットの中のものをだした。
案の定、その手のひらには、見慣れたものとは違う鍵があった。
こうして、桜庭くんへの疑いはなくなり、龍我くんは生徒指導室でしっかり怒られた...のだが。
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体育館裏、誰かをいじめるには、絶好の場所。
目の前には、龍我くん。
「お前さえ黙ってれば、うまくいったのに。
なに俺に恥かかせてんだよぉー?!」
そう言った龍我くんは、拳を握りしめ...
「おい、何やってんだ。」
殴られる...そう思って、目をつぶっていたのに、パンチは来ず、代わりに、手のひらで受け入れるような音が聞こえた。
少しトーンの低い声が聞こえて、恐る恐る目を開ける。
「......ちぇっ。」
すこし背の低い、茶髪の男の子の肩越しに、背の高い龍我くんの後ろ姿が見えた。
「巫さん、大丈夫?
怪我とかしてないよね?」
目の前の男の子は、こちらに振り返り、優しい声でわたしを心配してくれた。
「あ、ありがとう...」
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つまり、この人は未だにあの時のことで、わたしを恨んでる。
聞いた話によれば、親が激怒して、塾にも通わされるようになったり、受験する高校も決められたとか。
でも、そんなことをずっと根に持たれても...
「おい、聞いてんのか?!」
何も言えず黙っていると、いきなり大きな声で怒鳴られて、思わず体がびくっとする。
「ま、いい。
会ってみりゃー、かなりの美人さんになってるじゃねーか。
ほんとは殴るつもりだったんだけど、俺とやってくれるなら、許してやってもいいぜ?」
ずっと掴まれていた腕を、さらにぐいっと引き寄せられ、もう片方の手が、少し長めのスカートをたくしあげようとする。
怖いのに、声が出ない。
どうしよう、こんなとこ、誰も通らないし...
怒りで震えるわたしの太ももを、龍我くんが、すりすりとなでていって...