楽しい再会と危険な再会
「わぁ〜、ゆいな久しぶり!
めっちゃ美人さんやん!」
会場に入ると、すぐに声をかけられた。
そちらに顔を向けてみれば、懐かしい子だ。
吹部でフルートをやってた女の子。
「あはは〜、そんなことないよ。
そっちは...手先美人??」
手先美人っていうのは事実で、なんだか、指がとてもすらっと長く見えた。
ピアノやってる人みたい。
「なにそれ〜!(笑)
確かに、バンドでキーボードやってるけどさ?
ちなみに、バンドでは豊って名前!」
「吹部メンバーでやってるよ!
わたしは凪珊!」
おぉ、そういえば、高校の時から、やってたかも?
確か同じ学年の女子ばっかりだったかな。
それで隣にいる子は...同じ吹部で、ふたりともよく一緒にいたような。
楽器は...クラリネットだったかな。
「へぇ〜、ナギちゃんは何やってるの?」
「わたしはベースやよ〜。
後はわかながギターで、あのハーフの子!
あの子がポムって名前になってドラム。」
サックスからギター...ベースの方がかっこよさそうなのに、なんか意外だ。
パーカスでドラムやってるのを、文化祭とかで見たけど、すごく力強かったなぁ。
「ドラムすごかったもんね、地震?!ってくらい(笑)
でも、ボーカルは?」
「なんと...ふたつ上の副生徒会長!
ボーカル、りん様となったのだ!」
わたしの時間は、一瞬止まったんじゃないかって思った。
だって、あの超美人の、あの先輩?! ってなったもん。
でも確かに、吹部でフルートだったなぁ。
「あんな美人で大人っぽい人がボーカルだったら、それだけで人気でちゃいそうだね(笑)」
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今日は同窓会、中学の友だちが集まっている。
小学校も一緒だった人が多いし、中学なんて卒業してまだ5年くらいだから、案外誰が誰かもわかった。
大学生になったみんなの姿を見ると、懐かしくもあるけど、新鮮だ。
さっきの吹部メンバーがバンドになった話のように、みんなの驚く話は、たくさんあった。
例えば恋バナ。
2度も振られたのに、結局、よりを戻したとか。
さらには、それまで付き合ってた彼氏とも、一緒に仲良くやってるんだって。
それから、高校の寮で、クリスマスの日に告白された子もいるんだって!
羨ましいなぁ。
あ、わたしの恋愛話は後でね。
それから...そうそう、立派な仕事に就いてる人も!
いつも仲良しだった双子の姉妹が、ぴったりのお仕事に就いてたんだよ!
なんと、姉がファッションデザイナーで、妹がモデルさん!
ぴったりだよね〜。
わたしの仕事?
まぁ、大学生だから就職はしてないね。
バイトは、わたしの恋愛話とまとめて話すよ。
そういえば、見かけない子もいたかな。
2人ほど。
1人は、みんなの話によると、ずっと投稿していなかった子みたい。
なんでも、病気? 怪我?
とにかく、もう一生治らないと思っていたのが、奇跡的に回復したんだって。
でも、勉強が追いつかなくて、家庭教師を呼んで勉強してたみたい。
高校からはなんとか行けたけど、中学の人たちにも会ってみたかったらしい。
今は、あんまり触れることができなかった絵本を書いてるんだって!
もう1人は、別の学校の子。
昔、無差別殺人事件が大量に起きてね?
うちの学校でも、夜中に肝試ししようとして、犯人を見かけた子もいたとか。
怖くなって帰ったから、他校生みたいに殺されはしなかったけど。
無差別殺人事件が最初に起こった中学校の生徒で、行方不明だったんだけど、実は、ずっと逃げてただけなんだって。
最初は容疑者にもされてたらしいけど、結局、それはないだろうってなった事件。
で、なんでその子がいるかっていうと、その子は、うちの中学にいた可愛くて男子の人気者の妹、そして、クールビューティで女子の人気者の姉、2人の姉だったんだって!
つまり、長女にあたる女の子!
金髪に赤い瞳で、すごく綺麗だったよ。
美人三姉妹って、すごいなぁ。
中学の人たちはほとんど殺されちゃったみたいだし、三姉妹なのに1人だけ留守番するのもいやだったみたい。
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そんなわけで、とにかく5年ぶりの再会は、驚きばっかり!
話してるうちに、だんだん興奮してきちゃった(笑)
...で、自分の話かぁ。
一気に気分が下がっちゃう。
まず、巫 ゆいなです。
巫女の巫って書いて、かんなぎって読む、ちょっと変わった名字。
好きな人は...この同窓会に来てる、と思う。
東京の大学に行くために、高校に上がる時に東京行っちゃって、それっきり。
バイト...いや、バイトっていうのかな?
とあるアプリを入れててね、それでお金を稼いでる。
『夢の恋人』、略してユメコイ。
簡単に言うと、恋人レンタルサービス。
デートしたい相手の希望する金額を払って、好きな日、好きな時間に予約ができる。
わたしはレンタルされる側。
キスやメイクラブ、個室など、○と×をつけたり、自分の得意なことや苦手なこと、趣味、性格などのプロフィールを書いて、登録するの。
もちろん、後からでも変えられる。
わたしの家は、正直あまりお金がない。
ユメコイなら、バイトをするよりも手軽にお金を稼ぐことができるから、仕方がなくって感じ。
ほんとは、ちゃんとしたバイトをしたらいいんだろうけど...
そして、実は今日、わたしはレンタルされる予約が入ってる。
時間はあまりにも短く、たったの『10分』。
相手は『リュウ』って方なんだけど、どうやら、中学の同級生みたい。
この同窓会にも来てるんだって。
「あれ、巫さんじゃ〜ん♪」
振り返ると、あまり懐かしいとは思えないほどにチャラい男の子がいた。
耳には2つか3つはピアスをつけていて、手首にもじゃらじゃらとブレスレットがついている。
髪も茶色に染めていて、わたしがどんなに記憶をたどっても、誰かわかりそうにない。
「す、すごい変わったね、龍我くん...」
りゅうが...?
もしてかして、『リュウ』?
......さすがにそんなことないよね(笑)
こんな人が相手でも、いやだし。
第一、名前を聞いても、あまり思い出せない。
「まぁな〜(笑)
それより巫さん、ちょっとだけいいか?」
すごく優しそうに言っているようで、なんとなく嫌な気配がするけど、断りづらい...
「ごめんねー、ゆいなはまだわたしたちとおしゃべりするの!」
わたしの気持ちを察してくれたのか、一緒にいる女子たちが、即座にわたしの前にでてくれた。
こういう時、女子がいてくれるとすごく助かる。
「10分だけだからさ、いいだろ?」
10分だけ...それは『リュウ』と決めた合言葉だった。
すごくさりげなく言ってるけど、でも、合言葉は合言葉だし...仕方がない、これが現実だ。
幸い、たったの10分で済むなら、レンタルされてもいいだろう。
「ごめん、わたしちょっと行ってくる。
すぐに戻るから、大丈夫だよ?」
みんな、すごく不安そうだけど、なんとか説得して、龍我さんと会場を抜けた。