プロローグ
周りを見渡せば、頂点がいた。
それらは人型でもあり、獣でもあり、エネルギーでもあり、呪いでもあった。
それらは〝なにか〟の頂点であり、原点。すなわち、それは『神』であった。
神達は座り込んでいる者もいれば浮遊している者もいて、気さくに話しかけている者もいれば、薄ら笑いを浮かべている者もいた。
ーーーただ、ある行動は共通していたが。
それは、私、セイシール・ディア・カミを親の仇のように、睨みつけている、その行動だけが共通していた。
理由はなんとなくわかる。
例えば、なんでもいいが、ある種の大会が開催されて、それに参加する一同が同じ場所に集められたとき、前回の優勝者を、少なからず意識する、そんな現象に類似していた。
私は前回のカミガミ戦争の優勝者だ。
それは神の神だ、ということと等しい。
そもそもカミガミ戦争は神々の順列を決める闘いだ。人間を使い殺しあう、バトルロイヤル。
それで私は、勝ち抜いた。
私は覚えていないけれど、自分を殺した存在、それを近くで目の当たりにして、意識しないような神はいない気がする。
ーーーああ、例外がいたっけな。まあでもあいつのことだ、この場にいることすら怪しいけど。
第二次カミガミ戦争の開催に至っての神々の招集。それが行われたのは三日前くらいだ。
カミガミ戦争は千年周期と、前回に決まっていた。
だから前回の雪辱を晴らすため、今か今かと待ちわびた神もいるだろう。
だが、あわよくば、と、なんとなく参加している神もいるはずだ。
前回、か。
私には前回の戦争の記憶が、ない。
つまり神の神になる前の記憶がないのだ。
私が神の神になる前、私はどんな神だったか、それすら覚えていない。
「みっなさーん!集まってますかー!」
透き通ったような甲高い声で、私の辛気臭い思考が止まった。
「私はカミガミ戦争管理会の使い天使ぃ!、わたくし、ミカエルがこの場の司会を務めたいと思いまっす!」
いつのまにか上空に大天使ミカエルが存在している。時空転移を使ったのだろうか。
…神に近い天使を駆り出すなんて、戦争管理会も本気だな。
「それでは軽くルール確認を!
①ランダムな人間と契約し、殺しあって、最後の一人になったら勝ち。
②神力には《制約》がかかる。あ、自分の制約は事前にお伝えされていますよね。
③才能値数によって神力は抑えられる。
大まかなルールはこれくらいです!
質問などはございませんかぁ?」
誰も声を上げない。
「ではでは皆様!地上へ、いってらっしゃーい」
全ての神の体が紅色のように発光し、粒子状にばらけていく。そしてついに、紅色の粒子の集合体になった。
私以外は。
大地が鳴動するような轟音と共に、彼らの姿は地上に向かって降りて行く。
先程神々が集結していたこの場所にはついにもぬけの殻、というか私しか存在していなかった。
「おーいミカエル、なにかの手違いじゃないか?私を忘れているぞ?」
「ああ、神様、お久しぶりでっす!元気にしてましたでしょうか」
大天使に神様と呼ばれるのは少しくすぐったい。だが間違ったことは言っていないので訂正させることもできない。
「元気ではあるがな、なぜ私は地上に行けんのだ?間違いであろうが」
「いやー間違いじゃあないですよ、ハンデですよハンデ。神様は一番なんですから、皆と一緒だったら一種の不公平ですよ」
「不公平か。随分私は買いかぶられてるな」
「…まあーそーですよ。なんせ神様は前回優勝してるんですからねえ。これくらいしないと皆さんに怒られちゃいますよお。まーまーそこら辺でお喋りをしましょう。こうしてお話しするのはーー千年ぶりくらいですっけ?」
大天使は空中をひらひら舞いながらニヤニヤ笑う。
ーーー神々が住まう場所、天界には神の神と大天使と影に隠れそのやり取りを嗤う神が一人。