006 金剛
丘の向こうには港があり、そして、その向こうに海が広がっていた。
そして、その港には写真やテレビのドキュメンタリー番組、教科書や資料集で見たことがあるような船。もとい、軍艦が並んでいた。
そして、その軍艦は見なことのない形の砲や設備がついているものの、日章旗をたなびかせている。
「軍港?」
この景色を見て、悠人の脳裏に浮かんだ言葉はこれだけだった。
「はい。
その表現はある意味正解です。
ビッスラーン大魔導学園、いえ、日本にある全ての魔導学園は国立の学校であり、有事の際には軍として戦うことになりますから。」
「要するに、俺達軍人になったの?」
「いえ、正確には魔法師ですが、考え方としてはそうとも言えます。
もちろん、軍人と似たような扱いなのでお給料も出ますよ。
飛行魔法で行くと流石にまずいので、その時は自衛隊の護衛艦に似せて造られている船に乗って買い物に行けますよ。」
「へぇ〜。」
反応薄!
と思う人がいるかもしれないので一応言っておくが、悠人の脳は絶賛処理落ち中です。
「で、俺達どこに行くんだ?」
「私の船は、アレですね。」
リーゼが指した先には、大きな戦艦の横にある1回り小さな、それでも充分な大きさの船だった。
「あれも、戦艦なのか?」
「はい。
金剛型戦艦のネームシップ、金剛です。」
「あれは、昔の軍艦?」
「そうです。
機関や砲塔などは電子化と自動化、魔導化改造がされていますが、基本的な形は当時と同じです。
私達の戦闘には、イージス艦などのミサイルを正確に撃てる能力も、飛んできたミサイルを撃ち落とす能力もあまり必要ありませんから。
どちらかと言うと、大きな砲の方が魔法戦闘には適しているんです。」
「はぁ、なんか、もういいわ。
俺の脳のキャパシティが足りないわ。」
「まあ、今はいいです。
でも、後々覚えてもらわないと困りますよ。
テストもあるんですからね。」
「テスト!?」
「はい。
歴史や船の操作、戦術までいろいろありますよ。」
「マジか〜。」
これは、テストや勉強の日々から抜け出せると思っていた悠人にはかなり大きな誤算だった。
「で、結局あの船はどんな船なんだ?」
悠人のこの質問に、リーゼの顔が少し明るくなった。
「それはですね!」
声も、少し高くなったように悠人は感じた。
「私の船は、戦艦である上に巡洋艦並の速力が出るんですよ!
戦後、2回超大規模改装が行われていて、今では中は艦内が綺麗だって有名なんですよ!
それに、こっちに運ばれてきた時は老朽化でボロボロだったらしいですけど、5年前の改装もあって今じゃ昔とは比べ物にならないほどの性能になっているんです!」
「でも、それって造られてから100年くらい経っているんじゃないのか?」
「はい。
ですが、さっきも言った2回の超大規模改装と何回かの改装で装甲とかは新品同様ですから。」
「・・・」
「まあ、簡単に言うと、あの船は安全だって事です。
装甲もミスリル製ですから、ちょっとやそっとじゃ沈みませんよ!」
「ミスリルって実際にあるの!?」
「はい。ありますよ。
でも、厳密にはミスリル鉱石という形で産出される事はありません。
ミスリルとは、鉄に魔力を通して強度を増加させているものです。」
「じゃあ、ただの鉄ってこと?」
「そうです。
尋常じゃなく硬いだけの鉄です。」
リーゼの説明を聞きながら歩いていると、港についていた。
すると、金剛に向かって歩いていた女子3人組がいた。
3人はリーゼに気がつくと小走りに近づいてきた。
「リーゼちゃん!
この人が連絡のあった副長候補の人?」
「そうです。
困っていたら教えてあげて下さい。」
「わかりました!」
「よろしくね、悠人君。」
「じゃあ、私達機関の点検しなきゃいけないんで、先行きます!」
「よろしくお願いしますね。」
3人とわかれたあと、悠人はリーゼに気になっていたことを尋ねた。
「副長ってなんだ?」
「悠人役職ですよ。」
「で?」
「副艦長です。
ちょうど今副長が不在だったのでちょうどいいかなと。」
「いやいや、副艦長って何も知らない人がなっていい職じゃないよね!?」
「それはですね、明日からの演習で理解してもらえへば大丈夫です。」
「今から変わる事は?」
「無いですね。」
「ですよねぇー。」
「大丈夫です。
演習ですので、特に何も起こらないと思いますし、何もなければほとんど私も艦橋にいますし。」
「まあ、やれる所までやってみるか。」
「その息です!」
こうして、何も知らない副艦長悠人が誕生した。
そして、悠人にはもう一つ気がかりなことがあった。
「それと、明日からってのは?」
「あぁ、明日から外洋演習があるんですよ。」
「で?」
「もちろん、悠人も行きますよ。
副長として。」
「はぁ!?」
「まあ、そういう事ですから。」
「もう、わかったよ。
なんか、想像してた魔法学園と全然違ったなぁ。」
悠人は、渋々船に乗り込むのであった。
「綺麗だな。」
悠人の金剛に対する第一印象だった。
悠人は、綺麗になっていると言っても、所詮は船で何十年も経っているものだから、実際はマシな程度だろうと思っていた。
しかし、実際は外観もかなりきれいで眺めていられるくらいだったが、中はリーゼ達が生活空間にしているだけあってかなりい心地が良かった。
学園に来てから、初めて安心した悠人だった。
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