009 横須賀へ
「こ、広域魔導通信です!」
「繋いで!」
「はい!」
艦橋に緊張がはしる。
広域通信だけならテロや侵攻軍かも知れない。
しかし、広域魔導通信が意味すること。
それは、カオルト、つまり魔物の襲撃を意味している。
そして、今まででは無人島や島からは離れた場所に出現し、誰も知らないうちに決着がついていた。
しかし、今回はすでに民間に被害が出ている。
これが意味することをリーゼ達は悟っていた。
『こちら、エンペラス魔導学園所属02大隊、現在カオストと交戦中!
ハワイ沖2キロに突如出現、状況確認不能のため数は不明、推定で連隊規模。
我々だけでの戦線維持は困難、民間の避難が完了し次第交代する!
至急増援を回してくれ!』
この通信を聞き、悠人以外は驚愕した。
「2キロ?
そんな馬鹿な!」
「そうだよ!有り得ないよ!」
慌てるリューヤとルリに悠人は状況が分からない。
「なんで有り得ないんだ?」
「人がいる島の多くには沿岸部に結界がはられている。
沿岸から12kmのいわゆる領海って範囲にな。
それが、そのはるか内側に出現して抑えきれない規模だなんて有り得ないんだよ。
リーゼ、どうする?」
「私達は・・・、状況確認に向かい、必要なら援護しま・・・」
リーゼがすべて言い終わらないうちに、それは遮られた。
『その必要はない。』
「何故ですか!
学園長、我々が増援に行くには最短の部隊のはずです!」
『いいから、ハワイへは行くな。
これは命令だ。
そして、もう一つ命令がある。
今すぐ演習を終了して横須賀に向かえ。
いいか?
ギガフロートではないぞ?
横須賀の海上自衛隊の基地へ向かえ。』
「っ!?
が、学園長!
それでは情報が!」
『それは問題ない。
横須賀につく頃には落ち着いているだろう。』
「それは・・・」
『政府が全てではないが我々の存在を公開した。
今は本土沿岸部にも防衛用の基地が建設されている。
もちろん、我々のな。』
「何故、何故今まででこれだけ巧妙に隠してきたのにいきなり公表したのですか!?」
『それなんだが、落ち着いて聞いてくれ。
我々でも情報を確認中だが、推定での被害状況は君たちの予想を遥かに上回っているだろう。
ハワイの状況は大体予想がついているな?』
「はい。
おそらく、今から向かっても1割が助かるかどうかです。」
『そうだ。』
「しかし!
その1割を救える立場にあるんです!
その私たちが行かなくてどうするんですか!?
何のために戦う力を持っているんですか!?」
『私としても、見捨てたい訳では無い。
しかし、君たちには苦しい決断なのはわかっている。
ただ、わかってくれ。
いや、今納得しろとは言わない。
しかし、君たちにはもっと多くの人を救ってもらわなければならない。』
「だからと言って、可能性を潰すために今確実に危機に瀕している人を見捨てるんですか!?」
『仕方ない。
アメリカ、いや、アメリカ大陸に起きた事を教えよう。
これが全ての理由だ。
実は、6時間前からアメリカ大陸では各地で大規模なカオルトの襲撃が始まっていた。
それも、ハワイと同じように突然と始まった。
そして、アメリカを初めとする政府は情報統制を解除して各国が自衛行動に入った。
しかし、今回はあまりにも発生場所、それぞれの数が多すぎた。
軍事大国であるアメリカも所詮は現代戦を想定した上での表の軍事大国だ。
誘導式ミサイルの当たらないカオルトと戦うのは通常軍には無理があった。
ただ、彼らにもプライドがあったのだろう。
一応は効かないこともない兵器で戦ったそうだ。
しかし、イージス艦の砲など数も大きさも足りてない。
小型のヤツを何体かやれるかも知れないがそれが、限界だ。
要するに、アメリカは世界を動かす力、つまり表上の軍事力しか無かった。
あまり力が入れられていない魔法師は今回の襲撃には足りなすぎたのだ。
今では各魔法師部隊がいる地域がかろうじて抵抗を続けているそうだ。
米軍も被害状況の確認すら出来ていないそうだ。』
「そんな・・・」
『そして、便利で早く正確な情報を伝える現代のニュース、インターネットでカオルト、そして、奮戦むなしく散っていく米軍、そして、カオルトと互角に戦う魔法師の映像が全世界に流された。
だから、日本でも公表せざるおえなくなった。
ということだ。
もう一度いう。
我々の祖国、日本防衛のために演習、救助行動を全て停止、横須賀への入校を最優先事項とする。』
「・・・・わかり・・・ました。」
通信が終わり、しばらく俯いていたリーゼが決心したように顔を上げる。
「横須賀を目指します。速力25ノット、全艦180度一斉回頭、対空、対水上警戒を厳とします。」
「「了解!」」
「各艦に通達します。」
「こちら旗艦金剛、各艦、速力25ノット、180度一斉回頭。
横須賀を目指す。」
数分後、艦隊は大きく白波で円を描くように反転し、横須賀を目指した。
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