親バカと天然娘
「はぁああああああ」
ガキィイイイイイイン
「足元がお留守ですよ若様!」
「うわっ!?」
足払いをかけられた俺は盛大にこけた。
「ひどいよーガイル!」
「ハッハッハッ、若様は筋がいいからかつい厳しくしてしまいますな!」
高笑いしている男はガイル。
我が国が誇るアルベニア軍の将軍であり俺の乳母であり今はメイドのマリアの夫だ。
彼は大柄で筋骨隆々の体をしており、この国で一番の剣の使い手と呼ばれ強いらしい。
そんなガイルだが頭まで筋肉ではなく優れた軍略家としても有名で彼が指揮した時の軍は今だに敗れた事がないと豪語していた。
しかし、唯一ガイルが勝てなかったのは俺の親父のルドルフだった。
学院時代からライバルのように育ってきたがルドルフはあらゆる武術において秀でたものを持っていた。
剣の腕はガイルの方が秀でているもののあらゆる武術に秀でたルドルフとの勝負では勝てなかった。
その後ガイルは研鑽を重ね自身を鍛え続け今の地位に立つが、その努力する姿を知っているルドルフは彼を身辺に置き絶大な信頼を置いているらしい。
「若様は王にそっくりですな!そっくりというより王よりも素質がありそうです!」
ガイルはそう言いながら俺の横なぎを軽々と受け流す。
「くっそおおおおお!ガイル強すぎだろう!」
「三歳に負けたらアルベニア王国の将軍の名がポッキリと折れてしまいますよ!ハッハッハッ!」
「あーもうダメだ。」
俺は大の字で倒れこんだ。
「そうですなちょっと休憩に致しましょう。それにしても王から若様を鍛えて欲しいと言われた時は驚きましたよ。若様はまだ私の娘と同い年、そんな子を鍛えるなど無理があるんではないかと。ですがお会いしてみて動きを見ると大人顔負け、更に魔法まで卓越していると聞きます。これでは王の期待もわかりましたよ。」
リリスから初歩的な魔法知識や実技を教わり習得することが出来た。
しかも初歩的な魔法と言っても習得まで3年ほど必要でリリスでさえ1年かかったのに俺は半年程で習得することが出来た。
異世界でまで大人になってブラック企業に勤めたり無理難題な仕事をしたくないと言うか働きたくない!
そんな俺はチートの力を更に伸ばしたいと思い親父に相談し武術の稽古を頼んだ。
親父は大喜びしたが政務があるためガイルに俺の先生を頼んだわけだ。
「若様そろそろ始めますよ。」
「もうちょっと休ませてよー」
先程まで荒い呼吸を繰り返していたが収まってはいるが、剣を持っていた手は皮が剥けはじめ体は痛む。
元の世界では剣道はおろか武術の類いはやったことがないのに体が自然と動くのはやはりチートのお陰だろうが、やっぱり痛いものは痛い。
「クーくーん!」
俺を呼ぶ声が聞こえ立ち上がり振り向くと可愛らしい女の子が走ってやってくる。
とっとっとっとっとっと
こてん
「あ」
「うえええええええええええん」
走ってきた女の子は目の前でこけ泣き始めた。
「大丈・・・」
「フレデリカああああああああああああああああああああああ」
俺が声をかける前にガイルはフレデリカのそばに駆けつけた。
先程までガイルが立っていたのは俺よりフレデリカに離れた場所にいたはずなのに。
立っていた場所には思いきり足跡がつけられ、一瞬で駆けつけたんだろうと判断できた。
(こいつはこいつで親バカだ・・・)
「フレデリカどうしてここに来たんだ?ここは危ないから来てはダメだって言っただろう。」
「だって、クーくんとお父さんにお弁当持っていってあげなさいってお母さんが言ったんだもん!」
「そうか!そうか!お父さんは嬉しいぞ~!」
ガイルは先程までかっこよかったのにデレデレしたオッサンになっている。
「親バカうるさい!ちょっと黙ってて!」
「い、いえ!親バカなんてそんな!」
もう誰から見ても今のガイルに面目などない。
「フレデリカ?ここは修練場だ。危ない時もあるかも知れないんだから来てはダメだって言ったんだ。もしまたここへ来たいのなら誰か大人と一緒に来るんだよ?」
「うん、わかった!」
フレデリカは母親のマリアに似た笑みで微笑んだ。
「ガイル!続きをやろうよ!」
「親バカでは・・・」
「娘に嫌われるぞ・・・」
「さぁ、若様やりますぞ!」
そして俺は小さな観客がいるなか修練の続きをやりはじめた。
急にやる気を出したガイルは先程よりも厳しかったが。
「クーくんをいじめるお父さん大嫌い!」
と言われガイルは落ち込んで修練が数日休みになったことは俺とガイルの秘密だ。
「それで、フレデリカ持ってきたお弁当は何処にあるんだ?」
「あー!忘れちゃった!」
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次の更新は日曜日あたりにしたいかなと仕事が繁忙期に入りつつあって時間がとれないかも・・・