ゴミ屋敷
一応着替えてくれたようで家へと招き入れてくれるその時、お袋がまた叫んだ。
「どうぞ、上がって頂戴。」
「ありがとう、姉さん。・・・って何よこれ!!!」
お袋が叫んでいるのを聞いて俺も家へ入ると悲惨な状況だった。
部屋は泥棒が入ったように散らかっていた。
服は着たのか着てないのか分からないがその辺に放り捨ててあり、テーブルには酒の空き瓶だろうと思われる瓶がところ狭しと並んでいる。
「うわぁ・・・」
俺は酷すぎて言葉も出ず、この世界のゴミ屋敷にしか見えなかった。
「姉さん、相変わらず片付けられないのね・・・」
「屋敷の方は綺麗なんだけどねぇ。」
「毎日使用人が綺麗にしてるから当たり前よ!屋敷までこんなに汚なかったら、バレンシア家の品格が疑われてしまうわ!父様が可愛そうでしょうがないわよ!」
「はぁ・・・相変わらずリリスは口うるさいわね。もう少しおしとやかにならないの?」
「誰のせいよ、誰の!」
お袋のこんな姿を見るのは珍しく新鮮だった。
「坊やと会うのは赤子の時で寝ていたから覚えてないと思うけど私はネリベル・バレンシア。坊やのお母さんのおねぇちゃんよ。お茶でもいるかしら?と言ってもお酒しかないけど。」
「何飲ませる気よ。要らないわ。」
「そう。それで、なんの話で来たのかしら?」
「そうね、忘れてたわ。姉さんにお願いがあるのよ。」
「お願い?リリスが私にお願いなんてルドルフの時以来じゃないの。」
「いいのその事は!それよりも、この子を強くしてほしいの!」
「お願いします!ネル叔母様!」
紹介された俺は元気よく言った筈だったが部屋の中の温度が急激に下がった。
それはリリスがキレた時の非では無かった。
「・・・ガキなんて言った?」
危ないと思ったリリスは取り繕うように。
「ク、クラマはお願いします、ネルおねぇさんって言ったのよ!ね、ね、クラマ!?」
俺は首を目一杯首を縦に振るしか出来ない。
「そうよねぇ。まさか、おばさんなんて言うわけ無いもんねぇ。」
(ヤバイ!ヤバイ!この人は絶対に怒らしてはいけない!)
クラマは一瞬の出来事なのに背中に汗が出て服に張り付いていた。
「まぁ、いいわ。でも何で私なのよ。リリスが教えれば良いんじゃないの?私よりも教えるのは上手だと思うけど。」
「私が教えられる事は教えたわ。でももう私が教えられる事は殆んど無いわ。」
「リリスが教えられない程に・・・面白い子ね。」
ネリベルに上から下までまじまじと見られた。
先程の事があるので蛇に睨まれた蛙のように緊張した。
「いいわ!教えてあげる。私の事は師匠かネルおねぇさんって呼びなさい。」
「本当ですか!?」
「えぇ。でも大変よ?それでもいいのね?」
「はい!」
「じゃあ、クラマを頼むわね姉さん。」
「大丈夫よ、任しときなさい。」
リリスはネリベルに耳のそばで
「・・・くれぐれも壊さないでね。」
「フフッ。それは、分からないわ。」
「はぁ・・・心配だわ。」
「大丈夫よ。多分・・・」
「それが心配なのよ!」
「それじゃあクラマ、私は帰りますから頑張りなさい。」
「ありがとうお袋!」
バタンッ
「それじゃあ、修行始めようかしらね。取り合えずこの家を綺麗にしてちょうだい。いい修行は綺麗な家からって言うからね。」
「は、はい。」
(聞いた事ねぇよそんなの!このおばさん何を・・・)
ギロリ
「どうしたの坊や?早く始めなさい?」
「は、はい!」
ゴミの山を眺めながら、おばさん・ダメ・絶対と心に誓うクラマだった。
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