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守護獣様は苦労性  作者: 丸メガネ
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5



 『儀式の間』に辿り着くと、床に描かれた幾何学模様の魔法陣の上で光の粒子が容を成し顕現するところだった。集約する存在を視認し、やはり召喚の類だったと疑念は確信に変わる。


「来るぞ。気を引き締めろ」

「はい」


 道中で城からの避難勧告は伝えてある。

 騎士は要人たち、近衛騎士は王族の警護。ルナ以外の王宮魔導士は、城下に被害が出ないよう結界張りに奔走していることだろう。


 さて、これで多少暴れてもいい環境はできあがった。いったいどんな悪鬼羅刹、修羅神仏が現れるのか。

 過去にはどれとも違う別世界から適正者を選別、能力を付与して呼び出す『勇者召喚』なんてあったし、他にも確認できていない世界があるのは疑いようもない真実だ。



 そうこうする内に光は質量を持ち、本格的に実態化を完了させた。


「ここは……?」

「はぅ……」


 身構えていた俺とルナだったが、顕現した影は二つ。

 黒髪黒眼の少年少女。身に着けているのは紺色のブレザーで、どこにでもありそうな学生服姿。つぶさに観察すれば、胸に校章と思しき物が描かれているので、まず間違いないだろう。


「……」

「……」


 俺は見覚えのある風体から沈黙し、ルナは自分とさほど変わらない歳の人間が現れたことで沈黙した。


 てっきり異界の怪物でも出てくると思いきや、蓋を開けてみれば現れたのは無害そうな若者。異界には違いないが、この世界よりも平和な異界だった。そんな相手に警戒心を貫くのは難しい。

 なんというか。死線を覚悟していた身としては、場違いな奴が現れたと思わざるおえない。


 これはあれだ。メジャーリーグを見に行ったら草野球が行われていた感覚に近い。幸いにもチケット代などは払っていないが、もしも料金が発生していたら暴動が起こっていたかもしれない。いい意味で。


 しかし似ている感覚だとは思ったが、まさか偶発的に起きた魔法で異世界召喚が成されるとは思っていなかった。しかも相手は懐かしき日本人。相も変わらず平面顔だ。


「トラックに跳ねられと思ったら光に包まれて、気が付けば見慣れない場所にいる。足元には広がる魔法陣」


 辺りを見渡した男の子が確認するように呟き、ルナに視線を向ける。


「そして目の前には美少女。これは――」

「ど、どどどうしよう(りょう)ちゃん! ここってどこ、もしかしないでも私たちって死んじゃったのかな!? それじゃあここは天国!? それとも地獄!?」


 冷静に分析する男の子と、混乱する女の子。


「あ、あの」


 我に返ったルナが戸惑うように話しかけると、


「勇者召喚キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!」

「え、違うから」


 いきなりフルアクセルのテンションになった男の子に、俺は反射的に否定する。――が、男の子には聞こえていないようだ。尚も歓喜の声は止まらない。


「キタコレ僕の時代ッ!! トラックに轢かれそうになって勇者召喚されるなんて、これぞまさにテンプレ! これから僕は魔王討伐の旅に出て、苦難の果てに英雄としての(ロード)を歩むんだ! 勝ち組だ! 僕は勝ち組のレールに乗ったぞジョ○ョォーー!」


 滅多にない壊れかけのシリアスが途端に崩壊する。

 既に半壊していたが、男の子の奇声によって完全崩壊した。


 肩透かしだ。狂喜乱舞する男の子を見て、なんだか気張っていた自分が馬鹿らしく思えてきてしまう。


 異世界より自称勇者現る! そんなテロップが映し出される。主に俺の中だけで。


 止まない暴走をシリ目に、ルナと顔を見合わせた。


(どうしましょうコンラッド様)

(どうしよって……。とりあえず男の子は落ち着くまで放っておくしかないだろ。どう見たって話しかけられる空気じゃねえよ)

(そ、そうですわね)

(それよりも怯えている女の子をなんとかしよう。いつまでも怖がらせたままにしとくのは忍びない)

(それならばわたくしが。殿方であるコンラッド様よりも、ここは同性であるわたくしの方が適任かと)

(そうだな任せた。いきなり知らない場所に放り込まれて不安がってるだろうから、できるだけ丁寧に頼む)

(心得ております)


 小声でのやり取りをして頷き合う。


「コホン……え~始めまして、わたくしは若輩の身ながら王宮魔導士の末席に身を置かせていただいている、ルナフォード・リトワールと申します」

「ひゃっ!」

「どうか怯えないでください。いきなりの状況に戸惑う事もあると思いますが、わたくし達には貴女方お二人に危害を加える意志はございませんわ。ですので、どうかご安心くださいませ」

「……は、はい」


 ルナが話しかけると小さな悲鳴を上げた女の子だが、続けて害意が無い事を説明し、柔和な笑みを浮かべると僅かに警戒心が薄らいだ。


「つきましては現状況の整理と説明が必要でしょうし、落ち着いてお話が出来るように別室を設けますのでご足労いただけないでしょうか?」


 そのままの勢いで提案すれば、女の子はおずおずとだが頷いた。理解しているのかは怪しいが、素直に言うことを聞いてくれるのは話を聞きたい身としてはありがたい。


 ルナに任せて正解だったな。やっぱり男の俺が話しかけるよりも、同性であるルナのほうがスムーズに事を運べそうだ。二人が俺のよく知る『ことなかれ大国日本』に住んでいた高校生ならば、大事にもならないだろう。


「ちょっと待ったぁああああ!!」


 と予想に反し、男の子が制止の声を張り上げる。


「どうなさいましたか?」

「気がついたら知らない場所に立たされて、訳も分からないままホイホイと知らない人間について行くほど僕らは危機感に疎くないよ。このまま連れて行かれて、奴隷にでもされたら堪ったもんじゃないからね」

「え!? 私たち奴隷にされちゃうの……?」

美野里(みのり)はバカだなぁ。そうならないように釘を刺しておくんじゃないか」

「そ、そうだよね。……よかったぁ」


 奴隷って……。

 まぁ確かにこの世界には国にもよるが奴隷制度があるにはある。でもそれは『犯罪奴隷』だけだ。それ以外の奴隷は各国共通で固く禁じられている。


 罪を犯した犯罪者を、その罪の重さに応じた期間の労働で償わせる奴隷制度。まあ前世でいうところの懲役と同じだな。


 奴隷商人も国お抱えの者たちだけで、抜き打ちも含めて年に数回は国からの監査官が視察をしている。

 そりゃそうだ。だって相手は犯罪者だし。


 国の威信もかかっていて、厳格な管理下に置かれている奴隷制度だ。万が一にでも犯罪者以外の人間を奴隷として扱った場合は極刑もあり得る。国の顔に泥を塗るようなモノなのだから当然だ。


 厳しい網を掻い潜り、尚且つ奴隷という監査も厳しい存在を扱っても利益は少ないどころかマイナス。そんなリスキーな真似までして不利益を稼ごうだなんて殊勝な商人はいないのだ。


「ご心配なさらずとも、罪無き人間を奴隷に落とすような非人道的な行いは、王宮魔導士ルナフォード・リトワールの名に名に懸けて起こり得ないとお約束いたします」

「ふ~ん……。まあ今は信用しといてあげるかな。言っておくけど、僕らの力が必要なら下手な事はしないほうがいいよ? 僕らは利用されるような人間じゃないからな」


 子供ながらに警戒心が強いのは良い事だが……それを警戒する相手に伝えて何の意味があるのだろうか?

 相手によっては牽制の意味合いを込めるのも有効だが、彼らからすればここは常識も異なる異世界だ。何の力も後ろ盾も無く、迷い込んで来ただけの異世界人が言っても効力は無いように思える。


「肝に銘じましょう」


 幸い、今のルナはそれくらいで怒るような狭量な人間ではないが、選民意識や特権階級主義者が相手だったら無礼な態度として反感を買ってしまっていただろう。場合によっては不敬罪として即刻打ち首なんてこともあり得る。


 現れた時の発言からしてここが別の世界だとは理解できているようだし、彼らの力が必要という真意も分からない。

 偶発的な災害だと思っていたが、彼らは何かしらの意図があってこの世界に来たと言う事だろうか?

 んなバカな。


「それではご案内するのでこちらへどうぞ」

「あ、俺はちょっと残るから先に行っててくれ」


 ルナが扉に手をかけたのを見て俺は声をかけた。

 振り向いたルナはおおよその理由を察してくれたようで、恭しく頭を下げてそのまま『儀式の間』から出ていく。亮ちゃんと呼ばれていた少年は胡乱げな視線を俺に送るが、特に何も言うことなく美野里という少女とともにルナの後を追う。


「さて、それじゃまぁ調べるとしますか」


 三人が退出したのを確認し、俺は霊格を一部開放して獣人の姿になる。

 〝魔力暴走(マジック・スタンピード)〟が起こったこの場をそのまま放置という訳にもいかない。放っておけば大気中の〝魔素〟が淀んで二次災害が発生する要因になってしまう。

 ないとは思うが、俺にも感知できないような第三者――高位の者に介入された可能性も念頭に置く必要もある。ないとは思うが調査をしなければならないだろう。ないだろうけどね。






 …………ぶっちゃけ、俺が残ったのは状況確認と事情説明なんかの手間がダルイからだ。

 避難誘導とかさせちゃったし、『ごめん勘違いだった☆ テヘペロ』なんて言えねぇ……。


 いや、自己弁護するわけじゃないが、危険である可能性があった以上は正しい判断だったと思う。同じ事が起これば、俺は間違いなく同じ行動を起こすだろう。


 ……でも如何せん、一人盛り上がっていただけに収まりが悪い。


 あの二人から特に脅威は感じなかったし。

 ルナなら上手くやってくれるだろう確信もある。


「まったく……なんだか最近面倒事が増えてきた気がするなぁ」


 それでも、テキトーな名目とは言え調査もしておく。

 人の介在出来ない事象に対しては、守護獣として対応しなければならないからだ。


 渋々と、俺は俺の役目に取り掛かるのだった。



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