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区切りが悪かったので、短いですが頭だけ投稿。
リュートにやって貰うことは簡単だ。
まずリュートが四人の常識知らずどもの前でわざと転び、ルナと美野里がそれを助け起こす。そこに俺が登場して顔合わせ。世間話を体に事情を聞きだし、お礼という名目で知り合いの宿を紹介する――という古典的ながら簡単な作戦。
成功。
……うん、成功しちゃったんだな、これが。
亮介と美野里は平和な日本から来たので成功するだろうなぁ~と思ってはいたが。まさかアルとルナまで素直に信じるとは思っていなかった。
幾つか二人用のやり方も考えていたのだが……すべて無駄になってしまった。
嘘みたいだろ? 王太子と侯爵令嬢なんだぜ、こいつら。
警戒心をどこに置いてきてしまったのか。これなら普通に声を掛けても問題なかったかもしれない。
「なぁー、宿なんてあとでテキトーに決めればいいじゃんか。そんなことより早く冒険者ギルドに行こうぜ! ギルドでガラの悪い冒険者に絡まれてそれを返り討ち。僕の潜在能力の高さに周囲が恐れ戦きギルド長に呼び出され、特例として飛び級ランクからのスタート。美人受付嬢ともお知り合いになって一目置かれる――計画が今か今かと待ちわびてるんだからさー」
「えっ、今の計画名だったのかい? どこからどこまで?」
後ろを付いて来る亮介がアホな事を言いだした。
アルよ、真面目に取合うな。疲れるだけだぞ。亮介は多少ぞんざいに扱っても良いと既に結論が出ている。俺の中で。
「お前らはこれから冒険者としてやってくんだろ? だったらまず拠点となる場所の確保は必須だ。身体は勿論のこと、労働の後は心も疲労するもんだ。人間、生きるためには衣食住を疎かにしちゃいかんよ。はやる気持ちはわかるけど、一日は始まったばかりなんだ。お節介なお兄さんの顔を立てると思って聞いてくれ。年長者の意見ってのはそれなりに為になるもんだぞ?」
まあそんな訳で、世間話をしながら俺たちは『銀毛の止まり木』に向かって歩いている最中だ。あそこは気まぐれに宿屋も兼用しているので、四人の拠点として利用させてもらうつもりなのだ。
本来なら信頼された相手かその紹介がなければいけないが、旅人コンラリアンである俺の紹介なら大丈夫だろう。
『銀毛の止まり木』の親父さんは昔、凄腕の冒険者であったし、怖い顔に反して面倒見も良いので常識のないこいつらに色々と教えてくれるだろう。
まずあり得ないが、暴漢や不埒者がアルやルナを襲われても撃退してくれるだろうしな。
「爺臭いやつ」
背後でボソリと言われた言葉が胸を抉る。亮介からしたら俺は相当のジジイだが、まだまだナウいシティーボーイのつもりなのに。
時たま老人に化ける事もあるが俺自身はフレッシュだよ? ピチピチだよ?
俺は寛大だからわざわざ言い返したりしないけど……後で何か悪戯を仕掛けてやろうか。
「ぐふっッ……!」
「ん?」
どう悪戯しようか思考を巡らせていると、亮介のくぐもった声が聞こえてきた。振り返って見てみると、足と腹を押さえた亮介が蹲っていた。
「何してんだ、お前? 拝礼か何かか?」
敬虔な信者のように頭を垂れる姿が恐ろしく似合わない。
プルプル肩が震えてるし、祈っているというよりも痛がっているようにも見える。
「い、いきなり二人が……」
「何でもございませんわコンラリアン様。どうやら亮介様は運悪く足を小石にぶつけたみたいですね。気を付けあそばせ」
「きっと食べ過ぎてお腹が痛くなったのだろうね。それで注意力が散漫になってしまったのでしょう。大した事はなさそうですし、コンさんは気にしないで大丈夫ですよ」
ルナとアルが胡散臭い笑顔で言ってくる。
「亮ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ……。男の、エルボーは、別として。美少女のヒール踏みは、ある意味ご褒美だ……」
なんとなく、亮介が何かやらかしたのだろうと察しがついた。まったく仕方のないやつだ。
人間に化けている状態での俺は相応の力しか出せないのだ。この状態で問題でも起こされたら対処しきれないかもしれない。頼むから問題だけは起こさないでくれよ。