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守護獣様は苦労性  作者: 丸メガネ
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遅くなってしまいスイマセンでした。

データが吹っ飛んでしまって時間が掛かってしまいました。(言い訳です)


でも前の半分ぐらいの量になったから逆に良かったのかも……?



 唐突だが、過去数百年。長い年月を生きてきた俺には人々の生活に溶け込むため、いくつもの『顔』を持っている。


 国を見守る守護獣コン吉。

 貴族としてのコンラッド・ハイロニア。

 旅人であるコンラリアン。

 野良狐のコン太。

 時折開いている魔法薬を営む美人亭主コンマトリエールなどなど。バラエティー豊かなメンツを揃えている。


 ……ただ、(はなは)だ不本意なのが、守護獣としての俺以外は『コンさん』と呼ばれて統一されてしまっていることだ。

 名前を考えるのに苦労したというのに、愛称が全て同じ『コン』なのであまり意味はなかった。


 何故急にそんなことを言い出したかというと、俺は今、その中の一つである旅人コンラリアンに扮して隠密行動をとっているからだ。物陰に隠れ、不安多き若者を見守っているからなのだ。


「へぇ~~これが《赤の王国》の王都か。城から見るよりも活気があるんだな」


「すごいね亮ちゃん! 見た事もないものがたくさんあるよ!」


 今日は痺れを切らした亮介と美野里が城から出立し、自立した生活を始める記念すべき日。これを放置はできないという事で見守っている最中だ。


 正直な話、亮介は授業をサボってばかりだし美野里は人見知りするわで時期尚早と思わなくもないが、いつまでも城にいられる訳でもないし、本人たちのやる気がある内にという結論に至ったのだ。


 二人がこの世界に来てから一ヶ月が経っている。まだたった一月だが、亮介はこの世界について一向に学ぼうとしないし、城のメイドにセクハラばかりするしで上層部が呆れ、本人も「外に出たい」と強く要望するので仕方なしにといった感じである。

 二人のお目付け役として《赤の王国》王太子アルバートと、リトワール侯爵家の令嬢であるルナフォードも一緒だ。


「ここは王都だからね。王が納め、守護獣様が(おわす)そのお膝元。だから人も品も集まる大市場になっているんだよ」


「魔獣の脅威はあれど、《赤の王国》は他の国に比べても治安が良いですし、他国との関係も親密です。貿易などを商う商人は勿論のこと、吟遊詩人や旅人といった者達でも比較的安全に行き来が可能ですから」


 色々と足りていない亮介と美野里だが、アルとルナがいれば何とかなるかもしれない。


 俺の心配は過保護であり、過干渉が過ぎるのかもしれない。心配していたが今のところ問題は起こしていないようだし、要らぬお節介だったのかもしれない。

 どこか誇らしげに説明する二人を見て、そんな事を思う。


「他にも分からない事があれば気兼ねなく訊いてくれて構わないよ。私もまだまだ未熟な身だけれど、自国の事なら説明もできるからね」

「……イケメンに教えられるのはなんか癪だけど、まあ、助かるよ」


「ミノリさんも。女性にしか訊けないような悩みもあるでしょうから、わたくしで良ければ話してくださいね」

「は、はい! ありがとうございます……」


 ふぅ……どうやら俺の取り越し苦労に終わりそうだ。てっきり右も左もわからず右往左往するかと思ったが、これなら安心して任せられる。これなら俺が隠れて見ていないでも大丈夫そうだ。

 俺もこう見えて忙しい。


 ……忙しいの定義については詳しく話す気はないが、俺にはやることが多々あるのだ。付きっきりで見守るのにも骨が折れる。それを考えると、アルとルナが二人の面倒を見てくれて良かったかもしれない。


「おっ、これって城でもご飯の時に出てたやつだろ? 城に出てくるぐらいだから高級品かと思ってたけど、城下でも普通に売ってるんだな」


「それは……ククルの実だね。硬い殻に覆われていて食べにくいけど、中身は甘い果肉で満たされていて、美容にも良いという事で母上が好んで食べているんだよ」


「へぇ~ちょうど小腹も空いてきたし、おやつ代わりに買ってこうぜ。すいませーん! ククルの実四つください!」


 王太子であるアルバートを財布として扱っていることについても物申したいが、なんだかんだで仲良くやっているようだし、若者のやり取りを盗み見するというのも気分の良いものじゃない。後はアルとルナに任せて俺は去ろう。


 そう、しようとした時、


「へい毎度! ククルの実一つ一万バルス。四つで四万バルスだよ!」


 …………。


 なにぃいいいい!

 値段を聞いて思わず足を止めて振り返ってしまった。


 一万バルスとは日本円で大体一万円。

 ククルの実は一つ百バルス程度のはずだ。それが一万バルスだと!?


 果物一つで一万バルス……。

 おっちゃん! 通常価格の100倍はいくらなんでもふっかけ過ぎだろ!



「アルバート、お金お金」


「はいはい、ちょっと待ってね」


 言う方も言う方だが、素直にお金を払おうとするお前らもお前らだ。

 違う、違うんだ。市場の値段は値切る前提で決められていて、言われたままの値段で買うなんて世間知らずを露呈していると同義なんだ。

 王都では裕福な者も多いし、貴族の子弟なんかもお忍びでやって来る。そういった者は値切るなんてマネはしないから、そんなお金持ちからお金を落としてもらうための知恵なのだ。


 それでも元値の百倍はやり過ぎだが……。


 アルもルナも本来の立場からすれば間違ってはいないのだが、今回は社会見学のようなものなので『家』からの援助はないし、個人資産を使うことも控えるように言われているはずだ。


 それは最低限のお金を渡して魔王退治を強要するが如く。

 これからのお金は自分たちで稼がねばならない。


 そんな状況で散財などしてしまえば渡したお金なんてすぐに底を尽き、城や家に泣きつくことになる。

 せっかく王が意気揚々とイメージ回復を狙っているのに、そんなことになってしまえば水泡に帰してしまうではないか。


 因みに、俺の守護獣として月々貰っている小遣いは12万バルス。

 暴値ククルの実を12個買ったら素寒貧(すかんぴん)になってしまう計算だ。


 …………俺の労働が安すぎる件について。



「それにしても、ククルの実とはこんなにも安い物だったんだね」


 安くねーよ。価格破壊だよ。悪い意味で。


 アルは王族だが、文官の仕事を手伝っているから相場ぐらい知っていると思ったが……そうではなかったらしい。もしかしたら違和感ぐらいは感じているかもしれないが、如何せん人が好過ぎる。相手の言葉を疑わない心根の素直さは美徳だが、アルバートの立場からしたら疑うことも覚えなくては。


「わたくしも知りませんでしたわ。最近は料理を覚えようとしていましたが、材料などに関しては使用人に任せておりましたから」


 お前もかルナ……。


 ルナもルナで箱入りが過ぎる。

 侯爵家の令嬢であり、学園を卒業してからは王宮魔導士としての勉強や訓練に勤しんでいたせいか、一般常識というものに疎いようだ。

 貴族の振る舞いやマナーに関しては満点でも、城下での振る舞いは赤点。補講が必要だ。


「やっぱり普段と違う事をするというのは勉強になるね。自分の見識の浅さというものを痛感させられるよ」


「ええ。やはり城や屋敷に籠ってばかりでは見えない物というのがありますね。わたくしもまだまだ精進しなくては」


 言ってることは間違っていないのだが。

 二人がここまで世間知らずだとは思っていなかった。問題を抱えているのは亮介と美野里だけではなかったようだ。

 どうしよう、こいつら。早くどうにかしないと……。



 意気揚々と店を後にする四人を見送りながら考える。

 今の俺は旅人であるコンラリアン。この姿で近づけば気が付かれることはないだろうけど、見知らぬ他人が助言したところで素直に聞き入れてくれるとは思えない。不審者度と思われて衛兵でも呼ばれてしまえば面倒だ。



「ママ~、しゅごじゅうさまがいるよ~。また遊んでもらっていい?」


「シー、邪魔しちゃダメよ。今は忙しそうだからまた今度にしてもらいなさい。それと、狐の姿じゃないときは『コンさん』って呼ばないといけません」



 かといって、このまま城に戻ったのでは不安で惰眠も貪れない。せっかく後宮で、セクハラされまくって激おこぷんぷん丸になっているメイドたちのご機嫌を取りつつ、のんびり毛繕いでもしようと思ってたのに。これではそういう訳にもいかないではないか。



「あれコンさん? こんなところでなにやってるの?」


 俺が思い悩んでいると、不意に後ろから声をかけられた。

 つられて振り返ると、そこには先日『銀毛の止まり木』で見習いを卒業したリュートが、怪しい人物でも見るような目でつきで俺に視線を送っていた。


「おお、リュートか。こんな所で会うなんて奇遇だな。今日は休みなのか?」

「そういう訳じゃないけど、昼間ならお父さん一人で回せるから『お前も見習いを卒業したなら、食べ歩きでもして色んな味に触れて来いっ!』て追い出されちゃったんだ。それなら店が休みの日に行くって言ったのに、お父さんったら一度言い出したら聞かないんだもん。やんなっちゃう」


 なるほどな。親父さんなりのご褒美といったところか。

 リュートは俺から見ても頑張り屋だし働き者だ。そうでも言わないと休まないだろうと気を回したのだろう。


「せっかくの機会なんだしもう少し楽しんだらどうだ? いつも店の手伝いで遊ぶ暇なんかないんだろ?」

「遊ぶなら店のお客さんと話してても楽しいもん。あ~あ、食べ歩きをするにしたってすぐお腹いっぱいになっちゃったし、他にやることもないから時間を潰すためにずっと歩きっぱなしだよ」


 それなら友達のところにでも行けばいいのに。そうすれば話もできるし時間も潰せるぞ?

 ……もしかしてリュートも俺と同じで友達がいないのだろうか。


「お前も親父さんに似て難儀な性格………………はッ!」

「ん?」


 その瞬間、俺の灰色の頭脳が天命を受けたかのように点灯する。

 亮介は顔立ちが整っている人間を嫌う傾向にある。ならば相手が子供ならばどうだろうか?

 リュートは将来ハンサムになるだろう可能性が高いが、今はあどけなさが残る子供。さすがの亮介と言えど、無闇につっかかるような事もないだろう。


 城下の住人の助言ならば耳も傾けやすいし、信憑性も高い。その流れで俺を紹介して貰えれば手助けも容易になる。

 リュートがこのタイミングで現れたのは神の導きに違いない。


「どうしたのコンさん。急に黙り込んだりして」

「リュ~トく~ん」

「え、なに、気持ちわるい声なんか出して」

「実は折り入って頼みがあるんだけど~聞いてくれないかなぁ~?」


 猫撫で声で擦り寄れば、リュートは半歩下がる。


「な、なんかやだ。いまのコンさん酔っぱらったお客さんよりめんどくさそうなんだもん」

「そんなこと言わないでさぁ~。ボクとキミの仲じゃないか」

「ご、ごめんコンさん。ぼくこれから家に帰らないといけないんだ。お父さんの肩でも揉んで親孝行しようと思って」

「嘘はいけないなぁ~リュート君。キミはさっき、時間が余り過ぎて暇を持て余していると公言していたじゃないか。そ・れ・に、キミは十分に孝行息子さ。なに心配はいらないよ。これは『銀毛の止まり木』の売り上げにもなる簡単なお話だからね。お兄さんに任せてごらんよ。悪いようにはしないからさ。お互いに利害は一致していると思うんだよね、うん」

「お、お父さんに『美味しい話しには簡単に乗るな』って言い聞かせられているから、だから――ごめんねっ!」


 走って逃げようとするリュートだが、残念ながらすぐさま回り込まれて捕縛されてしまう。俺に。


「知らなかったのかな? コンさんからは逃げられないんだよ」


 諦めてガックリと肩を落とす少年リュート。どうやら快く引き受けてくれるようで安心した。

 困った時には助け合い。その精神が行きわたっているのは守護獣として鼻高々だ。


 店に帰りたいリュートと信頼できる相手に引き合わせたい俺。需要と供給は重なり合っている。


「それじゃまず、あそこの四人組を『銀毛の止まり木』に連れ込もうじゃないか。架け橋は任せたぞリュート君! 子供特有の無邪気さで誑し込んできてくれ!」

「うぅ……、こんなことなら友達の家にでも行って遊んでおけばよかった」


 ……やっぱり友達がいないのは俺だけか。


 わずかな寂しさを感じながら。俺は問題児四人との合流に成功したのだった。





次の更新は一週間以内に出来ると思います。



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