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守護獣様は苦労性  作者: 丸メガネ
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書けたので予定よりも早めに投稿。

 まず前提として、世界は『理』の膜に覆われていると思ってくれ。

 その膜を食い破り、魂に取り込みこの世界に来た二人には『理』が宿っている事になる。

 そして『理』を宿し、自在に操る術を、人は魔法と呼ぶ。



 亮介で言うところの…………【天雷砲撃紫雷超越従雷(ライトニングバーン)】? これは『魔法』である。


 魔力を代償に支払い、事象(・・)を計算式にして発動する魔術とは異なり、魔法とは森羅万象に干渉し、性質も因果も捻じ曲げて、魔力を用いず現象(・・)を引き起こす。


 何かを燃やす魔術なら、燃やす対象と燃えるための燃料。そして燃えるための状況を計算式に編み込んで発動させる必要があるが……魔法は違う。

 魔法は術者の意志によってただ燃やすのだ。過程も理論もすっ飛ばして、燃やすという結果が発現するのだ。


 『有』から引き出される魔術と、『無』から生み出される魔法。

 執行される効果も天と地ほども違う。魔術と魔法では次元そのものが異なるのだから当然だ。


 理に干渉する〝魔法〟は、技術である〝魔術〟と違い一つとして同じモノがない。それは扱う者の〝願い〟や〝想い〟に依存する奇跡だからだ。



「ふ~ん、そうなのか」


 いつの間にか正気に戻っていた亮介は、自分だけの魔法だと聞いて気のない返事をしているが……今さら『そんなの別にいいけど』みたいに振る舞っても手遅れだ。嬉しそうに鼻の穴がプクプクと膨らんでしまっている。


「……まあそういう訳だ。つまらない説明はこれでお終い。後は自分で調べるか、気になったそのつど誰かに聞けばいい」


 無責任だろうか? そうは思わない。

 亮介はそこまで頭が良くなさそうだし、一気に話しても伝わらないだろう。そんな配慮だ。

 今の状態で魔素結合やら魔力回路について語っても理解できないだろうしな。


 これまでの世界とは異なる法則が存在するこの世界。そんな世界を一朝一夕で理解しろという方が無理がある。


 知識を得る為の過程。

 何かを知ろうとする推進力。


 まずはそれを養わなければ話にならない。


 厳しいようだが、召喚されてしまった以上、順応して貰わなければならないのだ。





 …………まあ、ルナとアルバートが着く訳だから、取り返しのつかない事態には陥らないだろう。

 しょうがないから俺も手の空いている時は影ながら見守ってやる。王とてそれぐらいは許してくれるだろう。


「なあなあ、ちょっといいか?」


 そんな一息ついた俺に、亮介が「物は相談なんだけど」と小声で前置きし、気安い感じでフワサラモコモコな俺の首に手を回す。


「召喚の対象って選別できたりするの? だったら俺としては、次に召喚するのは女勇者と聖女を希望したいんだけど。あっ、男はナシね。ライバル的なポジションは求めてないから。そういう熱い展開はノーサンキュウの方向で」


 コソコソと言うから何かと思えば。

 コイツは本当に……今まで何を聞いていたのか。


「選別も何も、召喚事態が天文学的な確率で起こった事だし、そうそう易々と多発してたまるか」


「またまたそんな事言ってぇ~実は秘密裏に研究していたり、国の切り札とかで異世界人の力を借りてるんでしょ? わかってる。わかってるから。ここだけの話。僕にだけ教えてよ」


「本当だっての。昔は近い術式はあったけど、俺が全て抹消したからな。今この瞬間、世界中探しても存在しないと俺が断言してやるよ」


 仮にあったとして、なぜ教えてもらえると思うのか。秘密裏にならば尚更だ。



 王国が建国する前。まだ俺が守護獣だなんだと(まつ)られずに放浪の自由を満喫していた頃に、異世界から〝勇者〟を呼び出して魔王や魔獣の脅威から脱しようとしていた時代は確かにあった。

 危険も苦難も押し付けて、当人の承諾もなく、この世界の事情に無理やり巻き込む。そんな〝召喚〟がまかり通っていた時代があったのだ。


 そんなのは到底容認できるはずもない。

 あっていいはずがない。

 そんな忌まわしき風習を消し去ったのは、俺が成した功績の中で、誇れる数少ない事柄だ。


 ……実の所、俺はその術式を記憶しているから完全に消し去ったとは言えないが。そこは別に良いだろ。


 誰かが隠れて再現しようとしている可能性は否定できないが、残された文献や記述には俺が手を加えてミスリードするように仕掛けてあるし、同じ物を構築しようとすれば気が遠くなるような長い年月が必要になるだろう。

 この件に関しては他の守護獣の協力も得ているし、誰かが召喚の術式を完成させることは永遠にない。


「え……うそ、だよな? そんな事言って、僕をからかってるんでしょ?」


「お前もしつこいなぁ。無いものは無い。女勇者だか聖女だかは潔く諦めるんだな。術式は俺が完膚なきまでに抹消した。未来永劫再現される事はない。それが事実で真実だ」



 だんだんと辟易してきた。

 男ならそんな肩書じゃなくて、もっと内面に目を向けろよ。



 そう伝えれば、亮介は俺の首から手を離し、俯きながら戦慄(わなな)き始めた。

 そして顔を上げたかと思うと、俺をキッと睨んで声を張り上げた。


「余計なことすんなよっ!」

「は?」


 亮介からしたら、同郷の者を俺が救った形になるこの案件。

 そんな非人道的な行いを阻止したというのに、まさか怒られるとは思ってもいなかった。


「え、なんで怒ってるの? 少なくとも人為的に呼び出されることはなくなったし、向こうの住人の生活が保障された訳なんだぞ?」


「そんなのは詭弁だ!」


「詭弁……?」


 え、なに言っちゃってんのこの子は。


「お前の言ってることは正しいよ。正し過ぎるぐらいに正しい。『善』か『悪』かで言えば、間違いなく『善』であり、百人に聞けば九十九人がお前の意見に肯定を示すだろう――だがしかし! 残りの一人は建前に惑わされることなく、心の(おもむ)くままにそれを否定するだろう! 異世界に行きたい。神様からチートを貰って俺tueeeeしたい。エルフッ()、ケモミミッ()、女勇者と女騎士。聖女に王女様でハーレムパラダイスを築きあげたい。そんな夢の異世界ドリームを夢見ることだろう……俺はその百人の中の最後の一人だ!」


 本当になに言っちゃってんの、この子は。もしかしていっちゃってるの? 頭が。

 てか夢の異世界ドリームを夢見るって何だよ。意味が被ってるんだけど。どんだけ夢を見たいんだよ。


「お前はそんな人々の夢を無慈悲にも奪い去った! 僕は……この世界に来れたかもしれないのに、お前のせいで来れなかった現代社会に生き、志しなかばで散っていった者たちの無念と嘆きと欲望とほんの僅かばかりの感謝をこの拳に乗せる!」


「いやちょっと待てよ、言ってることが滅茶苦茶だ……」


「問答無用! くらえっ! 【天雷砲撃紫雷超越従雷(ライトニングバーン)】!!」


 向けられた手の平から発せられた紫電が俺に襲い掛かる。……拳じゃないじゃん。


 俺は知っている。こういうのを茶番、もしくは三文芝居と呼ぶことを。


 ぷんぷん! いくら温厚なコン吉さんといえども怒っちゃうぞ。


「神獣舐めんな。こんな攻撃が効くかっての」


 王を護った時と同じように尾で弾き、方向転換した雷が床を焦がす。

 俺も伊達や酔狂で守護獣だなんて大仰な名を背負ってる訳ではない。使いこなせもしない、ただ宿っただけの魔法でどうにかなると思われるのは心外だ。



 本来の狐の姿だとやり過ぎてしまうため、力加減を誤らないように姿を人型に戻し、拳を握る。

 また【左近】で魔法を切り裂いても良いが、亮介には痛みの(ともな)わない教訓では身につかないだろう。

 子供を叱りつけるには古今東西、ゲンコツだと相場は決まっている。


「いっでぇ~~~ッ!!」


「いい加減ちょっとは反省しろ」



 化けるのも結構疲れるのだ。そうそう何度も手間をかけさせないでほしい。


「クッ……! 今日はまだチートを使いこなせていない僕の負けだ。……しかしっ! 僕は必ず帰って来る!!」


 なんか少年誌みたいなことを言いだした。


 長いこと生きてきたが、ここまで暴走する子も初めてだ。魔法なんて人外の力を持っているだけに対処に困る。


「人の話聞けよ……。相手が年長者なら、そう無下にするもんじゃないぞ」


「イケメンの言うことなんて聞くもんかッ!」


 こいつ……!


 いっそのこと女に化けて篭絡してやろうか。

 そんな提案が浮かぶも、冷静に考えて現実的ではないだろう。

 亮介はかなりの女好きのようだし、面倒になるのは目に見えている。



 はぁ~~、もうどうしたら……。



「コン吉様、後の事はわたくしが」


 俺が天を仰いで途方に暮れていると、背後から守護獣としての名を呼ばれる。


「ルナ……」


「尊い身でありながら、ここまで親身にご助力いただき感謝の言葉もございません。ですが、これ以上このような事でコン吉様の御手を煩わせる訳には参りません。どうか後の事はわたくしにお任せくださいませ。国王より拝命した任、必ずや完遂してご覧にいただけましょう」


 誰だこの子。天使か?

 違う、ルナだ。人間だ。


 (うやうや)しく頭を下げる後ろに、後光が差しているように見えるのは錯覚だ。


「……本当にいいのか?」


「お任せください。矮小な人の身ながら微力をもって尽力させていただきます。偉大なる守護獣様に信頼を寄せていただけるのであれば、これ以上の多幸はございません」


 手を胸に当て、最上級の礼を取りながら告げられた。


 なんだか面倒を押し付けるようで気が引けたが、王に命じられたのも事実。

 今やルナも一端の王宮魔導士だ。どちらにせよ結果は変わらない。


「わかった。ルナフォード・リトワールよ、我からも改めて頼もう。海藤亮介、石島美野里、この両名の事をよろしく頼む。何か問題が起こった時、例えそれが些細な事柄であったとしても、我を頼ることを許す。……無理だけはするんじゃないぞ」


「はっ! 寛大なるお心遣いに感謝の言葉もございません。必ずや守護獣様の期待にお応えいたします」



 こんなに立派になって……。

 この前まで感情に振り回されていた女の子が……本当に成長したんだなぁ。


 人というのは良い意味でも悪い意味でも如何ともし難い。

 崇められるだけで大した事もできない俺なんかより、様々な経験をし、一回りも二回りも大きく成長する人類。そのなんと眩いモノか。

 この込み上げてくる感情の高鳴りを。

 熱く誇らしい激情を、俺は世界中に伝えたい。


 まったく、本当にまったく。

 無力な俺が、この場に立ち会えた事が無性に誇らしい。

 もし神様がいるのなら、こんなにも素晴らしい瞬間を間近で感じさせてもらえる事に、深く感謝したいものだ。


「胸が――! 胸が寄ってスゴイことに……!」


「ダメだよ亮ちゃん、邪魔しちゃ」


「だって美野里見てみろよっ! ルナフォードさんのおっぱいが腕で寄せられて大変なことになってんだぞ! ローブを着ていたからわからなかったけど、ルナフォードさんて着痩せするんだな……」


「うぅ……私だって寄せて上げればそこそこあるのに……」



 …………。



 お前らちょっと黙ってろよ。台無しだ。



 次の更新は10/31になります。

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