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守護獣様は苦労性  作者: 丸メガネ
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9

 王が退出し、取り残された一同困惑組。

 俺は焦げ付いた床に視線を落としながら考えていた。


 王の計略が何なのか、その意図が読めないままに非公式の会談は終わってしまった。これはマズイ。

 あの仕事中毒者は腐っても国王。一国を預かる主なのだ。

 今日の会談だって、時間を押して取り付けたに違いない。そんな貴重な機会を、不意にしてしまった。


 ここで真意を問いただそうとすれば、執務が滞り、そのシワ寄せを受けるのは下の者たちだ。

 それが分かっていて我を通すわけにもいかない。王とて国を乱すような姦計を仕掛けるとは思っていないので、結果的に愚策となってしまう。

 ならばここは追及も言及もせずに、王の手のひらで踊ってやるのもいいかもしれない。



 そもそもの話、俺は奉仕なんて進言していたがそんなのは建前だ。

 具体性の無い体の良い厄介払い。放逐に等しい。


『もう面倒だから勝手に生きてね。国民の役に立ってくれれば嬉しいけど、迷惑かけなければ好きにしていいよ』


 つまりはそういうことだ。


 王ならば俺の浅い思考など読み切っているだろうし、それを踏まえたうえで誘いに乗ったのだろう。ならば当初の計画通り、いつも通り見守る方針でいこうか。

 うん、なんかそれで問題ないような気がしてきた。



「なぁ、結局のところ僕たちはどうなるんだ? 終わったなら早くチートを駆使してハーレムを形成したいんだけど」


「…………」


 俺が今後の方針について頭を捻らせているというのにこの発言。

 ぶっ飛ばすぞこのクソガキ。

 久々に、子供相手だというのに軽い殺意を覚えてしまった。

 空気が読めないのは諦めたから、せめて話の流れぐらいは読めよ。マジで。


「お前達は数日間城に滞在して、状況が整い次第城下で生活してもらうことになる。当面の生活費や必需品はこっちで用意するから、その間にこっちの情勢とか知識を学ぶのもいいだろう。望むなら戦闘術の指南も用意しよう」


「なるほどな。その期間内にここであんたに認められて気に入られるって展開なわけだな」


 違げえよ。なんでそうなんだよ。むしろ好感度はマイナスだよ。

 既に守護獣としての姿を見せてしまっているし、もう素で答えていいような気がしてきた。


「お前さ、シリアスキラーにも程があるだろ。少しは真剣に聞けねえのかよ……。お前らの今後について説明してんだぞ?」

「なっ?! 人を異常殺人鬼みたいに言うなよ!」

「それは異常殺人鬼(シリアルキラー)な。俺が言ってるのは厳粛破壊症候群(シリアスキラー)


 もうやだぁ、コイツ。

 話が合わない、というか話がかみ合わない。むしろ会話が成り立たない。



 よくよく考えてみれば、あのクソ王、わざと事を大事にして面倒を俺に押しつけただけなのではないだろうか?


 思い返してみても、あいつ、途中から俺との掛け合いを楽しみ始めて、肩が小刻みに揺れていた気がするし、笑うのをこらえてたようにも見えた。

 俺が大仰に話すもんだから、それが可笑しかったんだろうと思ってたが……。



 そうだよ。そう考えれば納得がいく。


 そもそも、このバカが何を言おうとも取り立てて騒ぐほどのことではない。もちろん軽視されるのを蔑ろにできないが、いちいちそんな細事にかまけていられるほど統治者は暇ではないのだ。

 それなのに大げさに騒ぎ立てる必要性なんか皆無ではないか。


 どちらにしろ、王にしてやられたのかもしれない。


「まあいいや。とりあえず簡単にこの世界の事を説明するから、真面目に、真剣に、大人しく聞けよ?」


 釘を刺して念を押す。

 こいつの場合、話を歪曲してとんでも方向に吹っ飛んでいきそうだからだ。


「任せろって! これでも学校では『無学な天才』と呼ばれてたぐらいの逸材だぜ、僕は!!」


 …………超不安。










 『自称勇者』改め『無学な天才』に分かりやすいよう、掻い摘んで説明する。

 世界なんて大仰に言われても、実際に理解して頭に入るの人は極一部だろうしな。



 今俺たちがいるのは〈マクシミリアン大陸〉にある《赤の王国》。言わずと知れたこの俺、神獣であるコン吉が守護する王国だ。


 〈マクシミリアン大陸〉には四つの大国と、幾つかの小国が存在している。

 四つの大国というのは《緑の帝国》《黒の連邦》《白の教国》そして《赤の王国》だ。

 

 それ以外にも≪青の共和国≫があるんだが……。

 これは別大陸なので割合していいだろう。


 『五大国』と呼ばれているこれらの国にはそれぞれ神獣が『守護獣』として国を守っている。

 侵略されぬように。

 国が荒れぬように。

 志や信念、動機はは違えどその地に留まり人類を守護しているのだ。


 ……一部、自国を滅ぼそうとする問題児もいるが、概ね守っている。うん。


 《赤の王国》には人間。《緑の帝国》はエルフとドワーフと、国の種族人口にも違いがあるが、ここ数百年は大きな戦争もなく平和な情勢が続いている。


 まあ、侵略しようものなら俺ら守護獣が黙っていないのだからそれも当然か。

 人類同士の争いには不干渉だと主張する俺ですら、戦争となれば黙っていないのだ。血気盛んな他の守護獣が指を咥えて見ている訳がない。


「そんな……! そ、それじゃ〝魔王〟は!? 平和なら、世界を混沌の渦に叩き込もうと画策している悪の化身はどこにいるんだよ!?」


 黙って聞いていたかと思えばこれだ。



 〝魔王〟なんてここ百年ほど現れてねえよ!



 〝魔王〟とは〝魔物〟の知性を持った特殊個体の名称だ。

 もし仮に現れたとしても、〝魔王〟とは血肉を求める魔物が進化しただけあって、非常に好戦的だ。

 放っておけば身内同士で争って、勝手に自滅していくから勢力拡大なんて滅多に起こらない。


 そうでなくとも〝魔王〟なんて存在が産まれたならば、戦い大好き《黒の連邦》が我先にと突貫していく事だろう。《黒の連邦》は獣人で構成されているだけあって、基本脳筋だし。


 むしろ先に討伐しようものなら、楽しみを奪ったとか訳の分からない理由で責められ、下手をすれば攻め込まれるかもしれない。

 守護獣であるブタ丸からして戦闘が大好物。あいつは戦いの気配を決して見逃さない。

 マジ怖ぇ。


「そんな訳で〝魔王〟は今現在確認されていない」


「そんな――ロリBBA(ババア)魔王がいないなんて……」


 この世に救いはないのか……。そう言って崩れ落ちる亮介。

 あまりの落ち込みように、非のないはずの俺の良心が痛む。くだらない内容なはずなのに、無性に罪悪感を刺激する奴である。




「――――まいっか!」


 無駄に立ち直りも早い。


「幼女魔王をハーレムに加えられないのは残念だけど、ケモミミっ()がいると分かっただけで妥協しよう! 美野里、行き先が決まったぞ! 最初に向かうはケモミミパラダイス《黒の連邦》だっ!!」


「ちょっと待って! お前本当に俺の話聞いてた? お前は最初、当分の間は城下で生活するの。常識を身に着けるの。自立して自活できるようになるのが目的なの。《黒の連邦》になんか行かせられねえよ!」


 なんでこの世界の人間ともコミュニケーションが取れないのに、他国になんか行こうとしてんだよ!

 何? 何なの? どこまで欲望に忠実なの? 馬鹿なの?



 しかも行き先が《黒の連邦》だ。あそこはマズイ。あそこだけはマズ過ぎるのだ。

 全員が全員とは言わないが、先にも言ったように、獣人は脳筋が多い。


 『よお、ちょっと()らないか?』


 そんな軽い挨拶みたいに戦おうとする奴らが少なからず存在している。

 獣人は野生が多く残っているだけに、闘争本能が苛烈なのだ。

 定期的に祭りや闘技大会で発散させなければいけない程度には過激なのだ。


 そんな場所にこんなお馬鹿を送り込んだら…………水爆もびっくりの大爆発が起きそうだ。


「いいか? 一生行くなとは言わない。だけど、せめてこの世界に慣れるまでは他国になんて行くな。行かないでください。マジお願いします」


 獣人達の集落が寄り集まった《黒の連邦》。


 あそこは香辛料が豊富で、《赤の王国》伝統至高料理であるキツネうどんの薬味なんかでもお世話になってる。

 友好関係は確かで、なくてはならない親密な絆を育んでいる。



 だが、何度も言うが、あそこの連中は基本脳筋なのだ。脳筋なのだよ。


 獣としての本能と、人としての理性。それらが残念な方向に混ざり合ったハイブリット人類(モンスター)。それが獣人だ。

 昔、奴らと大規模な争いがあったが……思い出しただけで怖気が走る。あいつ等とだけは二度と事を起こしたくない。

 特に連邦の守護獣であるブタ丸。アイツはヤバい。冗談抜きで怖いのだ。

 単純な戦闘力なら俺に比肩するかもしれない触れてはならない存在(アンタッチャブル)

 普段は寡黙なくせに、一度スイッチが入ると手が付けられなくなる戦闘狂。


 何度も何度もしつこいぐらい繰り返し同じことを言うが、今のこいつを送り込む訳にはいかない。


「ははぁん……わかったぞ」


「……何が?」


 俺が頼み込んでいると、亮介は訳知り顔で頷いた。

 疑いようもなく残念な予感しかしない。


「そう言って僕のチート能力を独占したいわけだ。雷を操る僕の【天雷砲撃紫雷超越従雷(ライトニングバーン)】。敵を薙ぎ倒す速さは電光石火。その破竹の勢いは疾風怒濤。電光雷轟にして迅雷風列っ! ……強すぎるってのは、孤独なもんだぜ」


 やっぱり斜め下にズレていた。いつの間にか名付けまで済ませて。

 フっ、なんて髪をかき上げるが……お前って短髪だから質の低いモノマネにしか見えないぞ。


「だけど僕は屈したりしない。僕は自由に生きるんだっ! 例え神獣であろうと思惑通りに動いてやるつもりはない! 人同士の繋がりを邪魔はさせない。僕の生き方に口出しはできないぜっ!」


「そういえば、《緑の帝国》に一人称が妾の奴がいるぞ。見た目も俺たちと変わらないし、(性格を除けば)丸顔で可愛らしい容姿をしていたぞ。どちらかと言えば可愛い系の童顔少女だし、そこそこの年月を生きているから、ロリババアに当てはまらなくもないんじゃないかな、たぶん」


「マジでぇッ!? それってどこ、どこにあんの? 行こう。すぐ行こう! いますぐ行こう!」


 食いついてきたぁーっ!


「う~ん、だけど《緑の帝国》はエルフとドワーフの国。最高品質の武具や装飾品類を扱っているから、入国制限をかけているんだよなぁ~。信頼されている人間しか行けないんだよなぁ~」


「守護獣様。僕はこの国で人々の生活を学び、少しでも皆さんのお役に立てるよう尽力していきたいと思っています。つきましては未熟な僕に、なにとぞご指導ご鞭撻のほどをよろしくお願いします」


 チョロイ。チョロ過ぎるぞ亮介。

 使い慣れていないのか言葉遣いは滅茶苦茶だが、いきなり従順な姿勢にシフトしてきやがった。


 「うへへ……エルフ美女。合法ロリ…………ぐへへへ……」


 トリップした顔は見れたものじゃないが……まあ、思惑通りなので別にいいだろう。


 連邦に行かれるのはどう考えても不味い。

 それならばまだ帝国の方がマシだ。


 これで一息つける。


「あとは魔法についてだな。これは美野里もしっかりと聞いておいてね? 君にも何かしらの力が宿ってると思うし」


「はっ、はい! は……拝聴させていただきます!」


 こっちはこっちでやりづらい……。

 硬くなるなとは言わないが、もう少し気楽にしてほしいものだ。


 ……いや、これが本来の姿なのか。慣れてしまっているが、強大な力を持つ者を前にして、怯えるなと言う方が無理があるのかもしれない。


 ……深く考えるのはよそう。狐のメンタルは飴細工よりも繊細なのだ。



「んじゃ説明するぞ」


次の更新も四日後ぐらいになると思います

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