ミナリ見参2
吹き抜ける風にドレスをはためかせながら
彼女はこう言った
「お主に教える事はもうない」
エリザはそう言って1本のナイフを手渡す
「ありがとうございました師匠」
ミナリは感謝の気持ちを込めて頭を下げる
いつの間にか、エリザを師匠と呼んでいる自分がいた
「なに、かしこまらないでくれ。私が勝手にした事だよ」
エリザはたまたま見つけた異世界人が珍しく、気まぐれで指導しただけなのだ
この世界を生きるために必要なことー
それは剣や魔法が使えること
あとはモンスターの知識、道具の使い方など
わずか10日足らずでエリザの持てる全てをミナリは吸収したーいや、
吸収してしまった。
それに現代人らしく魔法などは応用をきかせてしまっている。
基本となる魔法だけでなく召喚魔法までミナリは手に入れていた
「ミナリ、お主は既に世界最強と言っても差し支えあるまい。だが上には上がいる事を忘れるな」
事実、エリザはもうミナリに勝てる気はしない。
だがそれで良かった
「はい。気を付けます。ーそれでは行きます」
ミナリは今日、旅立つ
エリザはミナリを見送る
数十年ぶりの来訪者はまさかの異世界人だった
グレン以外の人間と言葉を交わしたのはいつぶりだろう?そんな考えがふと浮かぶ
「なあ、エリザ。あの化物を人里に放って大丈夫かよ?」
唐突に後ろから声がして
くるりと振り向くとそこには1人の男が立っていた
「なんだグレン、起きていたのか。そして見ていたのか?」
グレンと呼ばれた男はにこりと笑いエリザのそばに近づく
「ああ、昨日からな」
エリザはーまったくグレンも起きたら声くらいかけてくれたら良いのにと思ってしまう
「かなり真剣に教えていたみたいだったからな、ちょっと遠慮させてもらった」
なるほど、確かに昨日などは私も完全に本気でミナリの相手をしていたな
手を抜けばヘタをすれば死ぬ恐れがあった
だがミナリもそれを感じ取り、ギリギリの戦いになっていたからだ
「素晴らしい逸材だ。彼女は、ミナリは天才どころでは済まないよ。」
目をキラキラとさせてエリザは言った
今は師匠と呼ばれ弟子を送り出した充実感に溢れている
はぁ、と深くため息をついたグレンは
「確かにな。天才なんて枠組みにもはいらんだろアレは。それこそ神とか悪魔とかそういった類の生き物だ」
褒めている筈なのにミナリに対する評価をグレンが口にするとまるで逆に聞こえてしまう
「彼女は紛れもなく人間だよ。まあ、悪ではなかったし。それに彼女の心はそう、とても澄んでいたし綺麗な恋心も心地よかった」
「まぁた覗いてたのか。やめとけよ?本人には言ってないだろうな」
「大丈夫だよ。そのあたりのことは話題にすらしていない」
そう言って思い出すミナリの心
まるで透き通った水ー、いや、宝石の様な空気感
ミナリはきっと幸せになるだろうとー
エリザは思うのだった
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軽くぴょんぴょんと岩から岩へ飛び移り高速で山を下って行くミナリ
「ああ、楽しかったなぁ」
ミナリはこの数日のことを思い出しながら、名残惜しそうに呟いた
エリザとの数日間は久々に充実したものになった
元々体育教師になるくらいには運動が得意で、
格闘技なども好きだった
何故かー思い描いた様に体が動いてくれた。
月に行けば重力が軽いせいでジャンプも高く飛べるらしい。そんな効果が異世界にくるとあるのかも知れないと、ミナリは思って納得した
それに、こちらに来てからは覚える事がたくさんありすっかり失念していたのだがふと思い出す
「仕事!あれ?今日何曜日だっけ?!うわぁ、向こうで大騒ぎになってないかなこれ!?あとカグラザカさんも!」
ミナリはようやく落ち着いたのか一気に思い出して慌てるのだが
「あー。でもま、慌てても意味無いか。」
熱が冷めるのも早かった
「とりあえずまぁ、当面の目標はカグラザカさんの搜索かなぁ」
探すための力は手に入れたしね
ひとまずは近くの街に行ってみますか
ミナリは覚えたフライの魔法で一気に山を降りる
途中見たこともないような巨大な鳥やトカゲ、さらには猛獣とおぼしき生物を見かけては物珍しげに見て行く
「はー、本ッとに異世界だね。見たことある生き物がまったくいない!生態系どーなってんの」
実際、「似た」生き物は見かけることがあるが細部がかなり違う。
エリザの所では「ダンジョン」なる場所にてモンスターと戦い修行したから、一定の「化物」には慣れた
それにしてもこの世界はきっとまだまだ知らない事がたくさんある
ちょっとだけ、楽しみながらこの世界を満喫しようとそんな事を考えているミナリだった
街について、まず最初にしたのは寝床の確保である。
拠点となる場所を手に入れなければと思ったのだ
エリザから渡されたこの国のお金ー
当面の生活費にと渡されたそれはこの街で軽く一軒家が買える程のお金だった
「師匠の金銭感覚っておかしいわ・・・」
まあそのお金で小さな一軒家を買う
3LDK程の平屋で、庭まで付いていた
「やっぱり日本と違うわよね簡単に買えちゃうなんて」
権利書を持ちながらミナリは言った
近場には食料品や衣類を扱う市場もある
当面暮らすには問題は無かった
あとは仕事かぁ
収入を得ることが無ければいずれ行きず待ってしまう
街に出て周りの人に話を聞くと、冒険者と言うのが実入りが良いらしい
力を持った自分にはちょうど良い
早速ダンジョンに行ってみる
巨大都市ウルグイン
その都市の中心部にあるダンジョンへ




