閑話休題 その2 王と肉
その日は晴れた、とても良い天気の日だった。
王宮にある届け物があった
それは
「肉」
ちょうどその時、王は会議をしていた為にその持ってきた本人とは出会っていない。
だが王は思った
出会わぬ方が良かったと
もし出会ってしまえばきっと王は
泣いてしまうだろうから
なさけない・・とクナトは思うがどうしようもない。
それが親心とわかってはいても、限度というものがあるだろうとも思う
「で、シアが持ってきたのだな?」
王が言った
「はい」
クナトが頷く
「元気そうだったか?」
「はい」
元気そうも何もシア様が出ていってまだ4日程しか経ってないだろうが!
「そうか、してそれは何の肉なのだ?」
王はそのヒゲをいじりながら、にこにこして言った
娘からとはいえ、肉をプレゼントされた事に疑問はないのか!
クナトはそう突っ込みたいのがやまやまなのだが言えるはずなど無い
「何でも牛系モンスターの肉とか」
「ほぉ、何か大物でも狩れたか。よし今すぐに調理してもってくるのだ」
この親バカキングめ!
だがクナトは思っても口には出さないできた執事なのだ
王宮料理人は手渡された肉を最高に美味しい状態に仕上げる
だが、想定外のことがあった。
どんな料理にしてもこの肉はうまいのだ
こんなことは今までにない事件だ調味料の合う合わないもないしそれどころか焼こうが煮ようが一定の、いや素晴らしい美味しさになってしまう
これでは料理人の腕の見せ所がない
まるで神の肉
だが料理人は料理してださねばならない
結果的にステーキとしてただ焼いて出す
これだと焼き加減で腕前がわかるから
そして最高の素材の味を楽しんでいただくために。
焼きあがったときに料理人はクナトに尋ねる
「この肉・・・何の肉でしょうか?今までこのような代物は扱った覚えはありませんし、扱える気がしません」
もう諦めた料理人の一言に
「そうさな嘘か本当かベヒモスの肉だそうだ」
クナトはシアから聞いていたが、その名は伏せていた。とても信じられなかったからだ
だが今の料理人の姿を見るに真実であると予感する
「ほう、コレがシアが持ってきた肉か」
じゅうじゅうと鉄板の上で焼きあがっているステーキ
それは塩コショウと、シンプルな味付けがなされている
だがその焼き加減は王宮料理人が精神をすり減らし、そして焼き上げた一品
芳醇は香りはまるでフルーツを思わせる甘みを感じる
ゴクリ
うまそうだ
肉を切り分け一口食べる
う、うまい
もう一口、もう一口と一気に食べきってしまう
言葉を発する事を忘れ一気に
気がつくと食べ終わってしまっていた。肉汁すらも飲み干したいそれほどの味
食べ終わった王は
「クナトこれは何の肉だったのだ」
すぐさまに聞く王はまだ食べ足りない
ふん、聞いて驚けこのダメ王!
「神獣ベヒモスの肉と聞いております」
ぶほっ!ぶほっ、ぶほっ
飲んでいたワインを吐き出す
「!?」
はっ!なんだその顔は目がウロウロしてんぞ!
「ちなみにもう残っておりません」
俺らで食べちゃったもんね。料理試作段階で
実は料理人一同とクナトでほとんどを食べてしまっていたのだ
「ク、クナトよそれは本当かベヒモスの肉と?で、なんで残ってないのだ?」
「本当かと。そして残ってないのは王が今食べられたからです」
「いやいやいや、ひと皿しか食べておらぬわ!」
「ですが、もうないのです」
しかし、本当に神獣ベヒモスの肉を?
クナトはシアに、何層で狩ったのか聞いた
それは理解の範疇を軽く超えた階層
「よし、我らも狩りに行く!」
王は立ちがりその腕を前に出して命令をする
「無理です」
クナトは否定する
「何故だ?例え100層でも行く価値のある味であった!引かぬぞ!」
王の決意は固い。この肉のためであれば、自らの限界を超えるなど造作も無いと本気で思っている
「それが、889層だとしてもですか?」
その階層は限界を超えるどころではない、今の王では手が届くとかそういうレベルにない
「な!なに!?」
驚愕する。それは仕方ないのだ、クナトもそれを聞いたときには驚愕した
だがシア様が冗談をおっしゃられるとは思えない
「889層です、王よ」
「戯言を・・・言うはずがないな・・・お前が」
「はい、正確にはあの焼肉屋のカンザキに連れられて行ったと」
「!?」
「かの者の到達階層はもはや100層どころではありません、今回の889層にしても神獣ベヒモスにしても楽勝だったそうです」
「なぜそんな者が冒険者ではない!名声もないのだ!!いや、シアの見る目が確かだったということか・・・」
王はうなだれて椅子にへたり込むように座る
だが同時に王は言ったように娘の男を見る目が正しかったのだと嬉しくもなった
その男・・・認めるしかないな。そして会ってみたいそう思うようになった
数日後
「王よ、報告が御座います」
クナトは言った
「ど、どうしたクナト!その格好は!」
クナトはボロボロになっている
クナトは今は執事として働いてはいるがその実力は王宮随一である無論、王を除いてのだが
「ルシータ王女を発見いたしました」
王の娘その第一王女だ、長らく行方不明となっていたのだがその王女が見つかった
「なんじゃと!?」
このダメキング、ダメキンは本当に良く驚くな
「はい、かの焼肉ゴッドの隣の店で酒場を営んで居たようです」
かつてルシータはダンジョンの奥へと消えていったのは確認されていた
そして死亡説がでていたのだ
王も諦め、そして忘れようとしていたところにこの吉報である
「そうか無事なのだな!!帰ってくる気はないのか?」
「はいルシータ様は今キャサリンと名乗られており、焼肉屋のカンザキと恋仲であると思われます」
「うん今なんて言ったのクナトくん」
「!?王よ、口調がおかしくな・・・」
クナトは思わず王を見る
「カンザキがなんだって?」
「は、はい、ルシータ様とカンザキが恋仲であると・・・」
「なんか聞いたことあるんだよねーそのカンザキっての。シアちゃんが追いかけていった男じゃなかったー?」
「王よ・・・なぜ武装を始めておられるのでしょうか?」
王は今、至宝とされる王族に伝わる武具などを装備しようとしていた
そして「必殺」と書かれたハチマキを巻く
「ちょっとそのうちの娘二人をたぶらかした「ドクソ」野郎を始末しにな・・・」
目が・・・真っ赤だ・・・血の・・涙だと!?
マズイ!王は本気だ!
クナトは慌てる。クナトの力では王を止める事は出来ないからだ。
どうしようかとその時である
「がはっ」
王の体はくの字型に曲がり沈む
「まったく・・お父様、娘はお姉さまだけではないでしょう。出奔した娘を追いかける暇があれば仕事をしてくださいませ。仕事が溜まっております。それと、隠密部隊を動かすのも止めさせていただきました。」
そこに立つはブロンドの美少女
王の腹部をその拳で殴打した張本人
「レ、レオノール様」
王宮に残った唯一の花、そして飛竜部隊の隊長。ルシータとアレクシアの妹・・・
王の襟首をがしっと掴み執務室へと引きずっていく
「クナトもいい加減になさいね、今後はお父様の命令をきいてはなりません。」
可憐な声、そして凛とした瞳
「は、はい」
「ちょっとレオノールーおねえちゃんが心配じゃないのー?」
引きずられながら王は言う
ドガ!
あ。蹴られた
だが王は諦めない・・・・・
娘二人を誑かしたドクソ野郎「カンザキ」を
絶対に許さない・・絶対にだ・・・・
引きずられながら王はその決意をダイヤモンドより硬くするのだった
難産の割にはそんな面白くない・・・
そんな閑話休題その2
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