だから、わたしの手をとって6
ミノタウロスは本当に強敵だった
その、膂力もさる事ながら途切れないスタミナに肉体損傷を即時に戻す回復能力だ
都合、4回目の挑戦で打ち倒せたが満身創痍である
倒した後に見つけた宝箱の中身がなければそのまま脱出できずに死んでいた可能性すら多分にあったと思う
もはや2.3.4階のモンスターはモンスターを見ずとも雑談ながらに倒す事が出来るほどに強くなっていた二人でもようやくであった
強さそのものの次元が1つ2つ上がったと言える
だが、ここが最難関だったと気づいたのはミノタウロス食材を食べてからだった
自分たち自身も劇的に強くなっていたのがわかったのだ
リポップしたミノタウロスと戦って直ぐに判明する
アイエテスとゴルドはアレだけ苦戦したミノタウロスを楽に倒してしまったのだ
とは言え、それなりには時間もかかっていた事から雑談ながら倒せるレベルまで強くなってから先に進もうと二人はおよそふた月に及ぶミノタウロス討伐を重ねた
結果であるが、降るのを再開してから僅か1日でそのまま20層に到達する
実際のところ、このやり方は間違えている
ミノタウロスを倒した後のモンスターは複数現れたり、使う魔法がいやらしいものになっていたりなど強さはそう変わらずに戦略を駆使して進むべき階層になっていたのだ
それ故に二人の力は既に過剰な程に強化されていた為に、単純な力押しでクリアしてしまったのである
最後の20層はミノタウロス5体同時に出現、本来であればこのミノタウロスが魔法を使ってくるのだがその魔法を使う前に倒しきってしまった事からも間違えていたのが分かるというものである
ここは、兵士を即席ながら鍛える施設だったのだから。教官の居ない二人が間違えたとしてもそれは仕方のない事だったのである
◇
「終わったようじゃの」
「ああ、帰還用の転送陣だな」
感無量と言ったふたりだがそれはクリアした事が嬉しかったわけでも、強くなれた事が嬉しかった訳でも無い。
そして、そこに隠し部屋があった事が……わかった事が、強くなった結果で見つける事が出来たのが嬉しかったのだ
倒しきったミノタウロスを放置したままに壁に向かい、アイエテスはロングソードを振るう
途中途中、ゴルドが魔法を使い強化したロングソードの切れ味はかなりのレベルになっていたので、本来は壊れないダンジョンの壁を簡単に切り裂けるまでになっていた
むろんアイエテスの力も合わさってだけれども
その壁を切り崩した向こうにあったのは、その20階層よりもまだ広い部屋で壁面いっぱいに魔石が埋め込まれておりそれがキラキラと明滅している
「こいつは、凄まじい魔法陣じゃな……魔石その物で魔法陣を描いて有るのか」
「その様だな……しかもこの広さ…魔石の一つ一つを見て見ろ、魔石の中にも何やら書いてあるのが見えるそ」
「どんな技術力なんじゃ…
「グレンの話では魔法大国時代の遺物を流用したと言っていたが、運用出来る技術者が居たと言う事だからな」
「そんな大昔の……まさか…あの一族か?」
「らしいな、まだ普通に生きていると思うと言っていた」
「はぁ…ハイエルフでしかもエルダーが生き残っとるか」
「ドワーフから見たら目の仇だろうがな」
「ええわ、ワシらにゃ関係ない。言い伝え、しかも伝説みたいな話じゃろ。ドワーフとエルフ、さらには人族も混じえた大戦時の話なんぞドワーフにすらきちんと伝わっとらんわい」
「人族の寿命は短いからなあ…それでも書物で残してあっただけ、俺達の方が詳しいか」
人族の知恵がエルフの使う魔法を元に魔法陣技術を作り上げた
そしてドワーフの技術がソレを形にしたが、進化をする魔法陣技術に恐れを抱いたエルフの一部がそれを無きものとせんと戦争を始めた
だが、数で優る人族、さらには魔法陣技術とドワーフによりエルフは敗走する
その結果、人族はさらなる繁栄と栄華を極めるが魔法大国は滅びた
多くの犠牲、積み上げてきた魔法技術諸共に
だが生き残っていたエルフ、そしてドワーフ達は残された魔法陣技術の一部を継承していた
ドワーフ達は武器や物体にエンチャントを伝えたとされる
エルフはと言うと、元となっていた魔法からそれを魔石に入れて運用する魔法陣技術でルーンと言われる秘術を
どうやってウルグインの、この国の支援をエルダーエルフ達が引き受けたのかはグレンから聞いては居なかった
まあ、共通の敵が居たからではあるが
その結果、このダンジョンが作られた
ウルグインの巨大ダンジョンに使われていた魔法陣技術の粋の魔石を流用する形で
巨大ダンジョンの魔石を流用した事により、本家本元のダンジョンは弱体化する。但し、50層あたりまでではあるが。
それで強化する術を失った冒険者たちは、強くなる事が出来ず停滞していたのである
アイエテスとゴルドは奥へと歩いていく
その先にあったのは
「この人形は…」
「埋めたやつ、だな」
それがふわりと浮いている
そして、しゃべり始める
「初めまして、あの子の父と呼ばれる人族よ。私はあの子の母」
「さすがにこれは驚くな」
人形が浮かび、しゃべっているのだから
そこから、説明が始まった
あの子はこの「母」が作り上げたホムンクルス
いつの間にかこのダンジョンは封印をされていたという
それはそうだろうとアイエテスとゴルドは思った
こんな危険なダンジョンはアイエテスですら封印するだろう。攻略しようとは夢にも思わない
やり方を知らなければ
そして外に出るため、人形自身を持ち運べるホムンクルスを作り出すが、どうにもうまくいかなかった
だから母と父が居ると教え、自らを母とした
しかし外、ではあの子、エルマには危険だった。攫われかける、ということが続いてあの場所を隔離して人を近づけぬように変えたという
そして最大の誤算。ダンジョン入口のキーとなっていたエルマが「父」を待ち続けて帰らなかった
そのうち、人形の内部魔力は切れ
エルマ自身も死にかかっていたのが真相
ホムンクルスー完全な魔法生物と呼ばれるエルマだけが残されていたのだ
「そうか…それで、エルマはどこにいる」
今ここに、彼女はいない
アイエテスはその説明を聞いてもまだ、エルマを気にしていた
「今ここはエルマの魔力で動いています。それは溶け込んで、血液の様にこの部屋を巡っている。エルマの望むように」
アイエテスとゴルドがダンジョンに行きたい、その願いをかなえるためにエルマは簡単にその身をこのダンジョンの中へと溶け込ませた
「あの時、わしらがあの子に変な疑いを抱いていたのは事実じゃ。それに気づいたのかと思ったのじゃが…違ごうたのか」
「そのようだな…」
二人はうつむき、恥じた
あの子は純粋だったのだ。求めるものは安らぎで、家族だった
「素直でええ子じゃったなぁ。アイエテス、お前にもあれほど懐いていた」
「ああ。ゴルド、お前がおじいちゃんと呼ばれて怒らないのは見ていておかしかったぞ」
「ふん…しかし…そうじゃ、人形、いや、母よ。あの子を再びここに呼び出すことはできんのか?」
そのゴルドの問いかけに沈黙で返答をする人形だったが
「何が必要だ?魔力か?それとも金なのか?」
二人はありとあらゆる可能性を言い始める。あきらめることなどしないと
すると、人形は観念したかのように言った
「われらが創造主である人族の願いだというのならば…」
目の前に、ガラス張りの筒が現れる。その中にはエルマが座り込んでいた
様々な管がその筒からは伸びでおり、エルマから魔力なのか、それを吸い出しているように見えた
「父と呼ばれる人族」
「アイエテスだ」
「ではアイエテス、エルマの母からの…願いです。この子を自由に、手を取って、どうぞ」
それだけ言うと、人形はごとりと落ちた
巡っていた力が、魔石を明滅させていた光がその筒に集まっていく
それがエルマの筒を満たした時だった
「あれ…」
光がエルマにすべて収まったとき、彼女は目覚めた
「おとうさん…もう、いいの?」
それはダンジョンが不要かと問うている
「ああ、十分だ」
アイエテスは頷いて、そして笑う
「そうなの?じゃぁ…またどこかいくの?」
エルマはおびえるような、悲しい目をしてアイエテスから目を逸らす
「そうだな」
びくりと、その言葉にエルマは震える
「そう…次はいつ、会えるの?」
既に泣きそうな声を発した後、エルマは立ち上がると、その体を包んでいた筒が消えた
「いつ?変なことを言うやつだな…」
「どうして?」
アイエテスは手を伸ばす
「エルマも一緒に来ればいい。俺の家は広いぞ?家族も大勢いる。そうだ、変なやつもな」
しかし、エルマはその手を取らない
「いけないの、ここから動いてはいけないって、お母さんが」
目には涙がたまっていた
しかしアイエテスは彼女をあきらめない
「許可はもらった」
アイエテスは落ちて動かなくなった人形を見る
エルマはそれを見て、だがしかし首を振る
「本当だ、だから…さあエルマ。俺の手を取ってくれ…一緒に帰ろう」
必死に懇願するアイエテスの顔にも、涙が見えた
恐る恐る、エルマはアイエテスの手を握った
◇
-ホムンクルス解放クエスト-
「だから、わたしの手をとって」
クエストクリアを確認---
マザーを除く全ルーンを圧縮し、エルマに付与確認
転送陣によるエルマのダンジョン脱出を確認
ダンジョン1層から20層の崩壊を開始…確認
マザールーンは魔力枯渇により…活動を停止します。
-クエストクリア報酬-
「エルマ」
-父に新たなクエストの開始を願います-
-クエスト-
-新たな家族-
「娘よ、どうぞ、幸せに…」
人形の中にあったルーンからゆっくりと光が消えていった
最後書いてて自分で泣いたというオチ…どこに感動要素があったのか自分でもわからない