没落貴族のお嬢様と冒険者になろう
「私、冒険者になるわ!」
金髪碧眼の15歳の少女ローズ・エリクシルは宿屋の自室にて冒険者になる決意をした。
ローズは貴族の家に生まれたお嬢様で、優しい両親に甘やかされながら幸せに暮らしていた。
しかし、ローズが12歳になった時にその両親が事故で亡くなってしまった。
悲しみに暮れるローズであったが両親が残してくれた遺産のおかげで何不自由なく暮らすことが出来た。
ところがローズが14歳になった時に雲行きが怪しくなってきた。
遺産を管理していたのは父の弟という人物だったのだが事業に失敗し、出来た借金の返済のために遺産に手をつけていたのだ。
ローズがそのことに気づいた時にはもう遅かった。
父の弟という人物は残った遺産を全て持ったまま消えた。
残ったのはあちこちに作った借金のみ。
家の名義で金を借りていたらしく、ローズがこの借金を返済しなければならなかった。
ローズは領地を切り崩し、使用人の数を減らしながら借金の返済にあたった。
そして、屋敷までも売り払うことでなんとか借金を完済し終わったのだが……
その時には爵位は取り上げられ、最後まで残ってくれた使用人も解雇してローズは一人だけとなっていた。
平民となり宿屋で暮らすローズであったが、残り財産はあとわずかだ。
身の振り方を考えなければならない。
そこで必死になって考えたのが冒険者になるということだった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「しかし、お嬢様はモンスターと戦ったことはおろか刃物さえ持ったことがないでしょう」
そう言ったのは元使用人の同い年の少年アッシュだ。
「あなたはもう私の使用人じゃないんだからほっといてよ! 魔法なら使えるから大丈夫よ! 私は冒険者として名をあげていつかエリクシル家を再興するのよ!」
そう言って顔を真っ赤にして怒るローズだったが、アッシュはこのわがままなお嬢様のことが好きで放っておけない。
「お嬢様、モンスターはとても強くて危険なんですよ。冒険者になってもすぐに殺されるのがオチです」
アッシュはローズを諭した。
今まで貴族のお嬢様として暮らしてきたのに冒険者なんて危険な仕事を出来る訳がない。
「じゃあ、家の再興を諦めて娼婦でもやるしかないわね。家を再興出来ないなら生きてても意味がないし」
「しょ、娼婦!? だ、駄目です! お嬢様!」
アッシュはとんでもないことを言い始めたローズを必死に止めた。
「駄目、駄目ってなんなのよ。娼婦くらいやれるわ」
「お、お嬢様は、その……経験がないでしょう。無理ですってば!」
「やってみないとわからないでしょう。でも、確かに私は経験がないし……そうだ! あなた、私の練習相手になりなさい。私の初めてをあげるんだから光栄に思いなさいよね!」
ローズは自暴自棄になっている。
たしかに、ローズのことが好きなアッシュにとっては願っても無い話であったが、アッシュはそれ以上にこのお嬢様が幸せになることを願っていた。
そういうことは本当に好きな人として欲しい。
「お、お嬢様、いい加減にしてください。怒りますよ」
「何よ、私の身体に魅力がないって言うの?」
「そんなことはありません……」
お嬢様が娼婦に身を落とすなんて耐えられない。
それならばいっそ、お嬢様を自分のものにしたい。
アッシュは真剣な表情でローズの肩をがっしりと掴み、ベッドに押し倒した。
「や、やる気になったの? やるなら早くしてよ」
ローズの身体は震え、目には涙が浮かんでいる。
気丈に振る舞っているが、本当は怖いのに強がっているだけなのが分かった。
アッシュはローズのこういうところが可愛いなと思い、つい守ってやりたくなる。
やれやれ……アッシュはベッドに押し倒すまでして手を出せない自分にため息をついた。
「お嬢様、震えてるじゃないですか。こんなことでは娼婦は無理ですね。これなら冒険者のほうがまだマシです」
「わ、私も娼婦はやっぱり向いてないなって思ってたところよ。いつまで押し倒してるのよ! どきなさい」
「はいはい」
アッシュは恥ずかしさから顔を真っ赤にしているローズを起こしてベッドに座らせた。
「冒険者のことなんだけど、アッシュもその……」
ローズはアッシュについて来て欲しいようなのだが口に出せないでいる。
全く、このお嬢様は素直にお願いが出来ないんだから。
「俺の家は代々エリクシル家に仕える一族。俺も冒険者になります。一緒にエリクシル家再興に向けて頑張りましょう」
「アッシュ……ありがとう……」
こうして二人は手を取り合って冒険者ギルドに向かった。