死合い
体が寒かった。だから、裸になった。ハルの特性のコルセットを外すと、無理矢理小さくされた胸が現れた。初めて見るのでじっくり見たが、ただの貧乳だった。
「そんなにじっくりみてどうする」
「いや、何か変なことになっているかと思ったが、ただの貧乳なんだな」
「そりゃそうだ」
抱き合ってみたが、面白いことに興奮はしなかった。
「なんというか、本当に男と女か?」
「知るかよ。男か女の前に親友なんだろ」
体を温めて、焚き火で服を乾かした。僕は服を着込んでいると、ハルが顎をなでていた。
「私を描いてくれないか」
「裸婦画ってことか?」
「そうだ。もしかしたら、ガルムに殺されるかも知れない。だから残して欲しいんだ」
「ガルムに殺されることは無い。だがもう覚えた。いつでも僕がハルを現してやる」
お互い服を着て、ガルムを追跡した。ハルが言ったとおり奥さんの元へ向うのはありえることだった。だから、十分に回復してから行動を始めた。ガルムは追っ手がかかっているので困難な道を歩く、僕たちは正規の道を走る。
「いた」
見つけたのは夜更けだった。丁度、ガルムがその奥さんの家を訪問しようとしていた。僕たちが行くか行かないか迷ったが、危険な目が出そうなので様子を伺った。
僕たちが見たのは、悲しみと痛みだった。
ガルムは扉が開いたのを喜び、中から剣で刺された。
剣を持っていたのは男の子だった。
おそらく実子だろう。
ガルムは驚き、脇腹に刺さった剣を抜いた。そして、剣を取って実子を斬ろうとした。ハルは剣を取り、ガルムの背中を斬った。武士道というものがあるなら、それは卑怯だった。だが、斬らずにはいられなかった。
「ガルム……あんたはそこまで堕ちたのか!」
声を出せない男に問うても意味は無かった。
「ハル様!」
僕は驚いた。まさかアランとエリンが来るとは思わなかった。その傍らには白狼がいた。狼に匂いを追跡させてここまで来たのだろう。
「ガルム……ハル様は殺させない」
遺跡の宝石を得て強者となったアランを僕は止めた。
怒気に染まった表情は恐ろしいが、そんなことはどうでもいい。
「どけっ!」
「お前は強くなっただけか? 何も分かっていない」
「なに?」
「お前が手を出して、ハルが救われると思うのか?」
ハルは自責の念で死すら考えた。いま、ガルムが実子を殺そうとしたので、それを阻止するために立ち向かうことが出来た。ここで決着を着けるのは勝敗ではなく、気持ちの落としどころだ。
「ハル様が死んだらどうするんだ?」
「いま、ハルに手を出したら、彼女は一生救われないぞ! お前はあきれるほど強い力を得て、何を学んだ。暴力だけで人を救えると思っているのか? 答えろ、アラン!」
アランは無言になった。論破したと言うより、僕の勢いに負けたのだろう。
ハルの剣が煌き、ガルムの頬を裂いた。
血が飛び散り、大地に吸込んだ。
ガルムの剣技は重く鋭かった。すぐに防戦一方となり、ハルは後退しながら、打ち込まれるたびに、足が大地に沈み込んだ。
あきらかにガルムのほうが上。
だが、ガルムは負傷をしている。
剣の精度が多少だが悪かった。
剣の舞、夜風を切り裂き、空を斬る摩擦が熱狂を呼んだ。
体格の差はあるが、剣を打ち合わせるたびに、ハルの剣技が上回った。
最後はあっけなく訪れた。
腹が斬られ、脇を切り抜き、後ろから心臓を刺した。
「本当に変わってしまったんだな」
ハルが剣を抜くと、ガルムは仰向けに倒れた。
「私はあなたの剣技に魅せられた。あの一瞬だったけど、本当に憧れたんだ」
「勝負がついたな」
僕は書き込んだ絵をもってガルムの元へと行った。
髭と髪が生い茂った男が倒れていた。
「おい、ガルム」僕は絵を見せた。「あんたを描いたぞ。髭なし、髪もボサボサじゃねぇが、あんたにそっくりだろ」
絵はガルムの若き日の顔を想像して描いたものだ。
ガルムは笑い、そのまま声未満の笑い声をたてた。
「遠慮なく死ね。僕がお前を描いてやる。お前を物語の人物にしてやる」