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凶刃

 双眼鏡を片手にガルムと追跡者たちの闘争を見た。ガルムは髪と髭が溢れるようであり、人相を確認するのは難しかったが、なんとか把握することができた。僕は木の洞に隠れて、雨を避けながら下書きを描いた。あとは想像するしかないが、髭をそった姿と髪を切った姿を描いた。すると、一緒に来ていたハルが頷いた。

「間違いない」

 僕がもう一度、双眼鏡で確認すると、ガルムが追跡者たちを全員殺したのを確認した。

 そして、眼があった。

「まずいな。逃げるぞ」

「いや……話がしたい」

「馬鹿か。くそっ、エリンを連れてくれば良かった」

 ガルムは長年牢獄に繋がれていたとは思えないほどに体がキレていた。銃があれば抵抗できるかも知れないが、僕の眼には残影しか映らないほどだ。つまり、僕が遭遇すれば即死だ。

 いやだね。そんなことは。

「僕には姿が見えている。抵抗できるはずだ」

「僕の目的はすんでいる。この絵で指名手配をしてもらう。そうすれば数で殺せる」

「先に帰るなら、帰ればいい」

 ハルは抜き身にして、ガルムのほうへ走っていった。

 僕は溜息をつきたくなった。

 ここでハルを置いていくはずがないだろ。


 ハルはガルムと対面していた。急いで傍らまで行くと、

「僕のことを覚えていますか?」

 話は始まったばかりだった。

「……」

「あなたが最初に投獄されたときに、馬車から守ってもらった……」

 ガルムは声を出さなかったが、気付いたようだった。


 数年前、ハルとアランは伯爵家の屋敷から抜け出して街へ遊びに行ったそうだ。そのときに、街を疾走していた馬車に子どもがひかれた。伯爵家の息子としての矜持で、馬車の主を罵倒しながら走ったら、馬車から剣士が出てきた。

 剣を抜かれた途端に死んだと思った。

 その時、近くにいたガルムが剣士を一息で斬り殺した。


 数々の魔物を打ち倒してきた屈指の剣士だった。


 正義の味方だった。


 だが、彼は投獄された。


 その後は、聞いた話だ。何度も脱獄をしようとして、罪を重ねて、堕ちていった。そして、とうとう脱獄が成功して、犯罪者として殺されようとしている。


「……」

 ガルムは無言を続けていたが、口を大きく開いた。

 舌が無かった。

「僕はあなたを助けたい」


 そうすれば、自分の罪の意識が消えると言いたいのか。

 駄目だよ。

 それだけは駄目だ。

 ハル……君の考えていることはわかる。


「あなたの顔を知っている人間はいません。死体であなたが死んだと偽装をします」

 やはりそうだったか、この追跡劇でガルムを首検分ができる人間は死んだ。だけど、ハルがガルムの顔を知っていたように、意外な人が知っている場合がある。

 僕にガルムの似顔絵を偽装させる気なのだろう。

 だが、そんなことはしない。

 ハル、眼を覚ませ……。

 ガルムは昔は名うての戦士だったかも知れないが、今はただの犯罪者だ。


 ガルムの表情が怒りに歪んだ。

 最初の過ちが目の前にいる。

 殺せば清々とした気分になるだろう。

 ハルは眼をつぶった。

 殺されることで許されようとしているのか。

 それは駄目だ。


 僕はハルに体当たりをして、一緒に崖から落ちた。気付いた時には川に落ちて、流され続けた。

「自分を責めるな! 死ぬところだぞ」

「……ごめん」

「僕は弱いけどな、親友が目の前で殺されそうになって、黙っているほど臆病じゃあない」

「悪かった」

 ハルは全身を濡らしながら、川から上がり、僕の手を掴んで引っ張った。

「全追跡隊全滅か。しかし、脱獄して何処へ逃げようとしているんだ」

「……もしかしたら、奥さんのところかも」

 ハルはうなだれながら言った。

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