武器が無いなら角材を持て
それは教授からの言葉だった。
「君が冒険者に喧嘩を売ったから、発掘調査の護衛が見つからないんだよね」
僕の絵は本人に酷似していたため、すぐに冒険者を特定できたようだ。一緒に発掘調査した冒険者たちが、ティナの突然の出現に興味を持って追跡をしていたらしい、手管を尽くして誤魔化したらしい。
教授はちらっちらっとこちらを見てくる。
「誰か、護衛が欲しいなー」
「……分かりました」
放課後、学校の屋上で足を伸ばして座り、絵を描いていると、背中を押された。振り向くと、ハルが後ろ向きに座り、もたれかかってきた。特に何も言わずに、僕の絵が描き終るまで待っていた。
「それは……ティナ? おー、可愛い。やっぱり上手いな」
ティナの姿で、お姫様のようなドレスをした服を着た絵だ。
「変態だと思われていそうだからな。名誉返上、汚名挽回」
「反対だよ」
ハルは感心したように絵を見ていた。
「これでも売れるんじゃないの?」
「色を混ぜているから無理だ」
国家の宗教上の理由で色を混ぜるのは禁止されている。僕としては色の調合が得意なので、教授から依頼されているもの以外は混合させて絵を描いている。
「悪いやつだな」
「画材の節約です」
階段から一人の女の子が出て来て、小走りでハルに近づいてきた。
「うわっ、またか」
「邪魔者は去るかな」
立とうとすると、ハルに服を掴まれた。
「あの……これを読んでください」
と言うと、一目散に去ってしまった。
「ほらね。すぐに終わった」
「嫌味や男だな」
ハルが手紙を読んでいるので、覗こうとすると隠された。
「乙女の純情を汚してはいけません」
「僕は病原菌か」
ハルが全部読んで、溜息を深々とついた。
「面倒……、こちらから用は無いのにむりやり用をつくられる悲しさよ」
ハルが背で覆いかぶさるようにもたれかかってきた。
「律儀だな」
ハルは体勢を崩して、僕の横で空を見上げた。
「ところで、遺跡に行くんだろ? 僕とアランも連れて行ってくれよ」
「えー、護衛はエリンだけで良いと思ったんだけど」
料理が得意で、胸がまな板のエリンは、村一番の魔物狩人だった。僕にとっては愚妹だが神童といわれていて、僕たちが学校に来ることになった遠因をつくった。
「いきたいんだよー」
「あーうるせーな」
ハルが僕の腰に抱きついてきた。
「いいって言うまで、離さないからな」
「分かった。分かったから」
日が暮れそうになったので、家に戻るとティナが一人でいた。エリンは食堂でアルバイトをしているはずだ。ティナが僕の顔見ると、干してあった服で自分の体を隠した。
「これ、あげる」
僕はティナを指差して、丹精込めて作った絵を渡した。ティナはこの前の恐怖に震えていたが、絵をみた途端に笑顔になり喜んでいた。絵は言葉が無くても通じるようだ。
ティナは辞書を持ってきて、僕の前で指差した。
『嬉しい』
と書かれていた。
僕は辞書を持って、ある項目を探して、絵を持ってから指差した。
『綺麗』
僕たちは次々と無言の会話をして、エリンが戻るまで二人で楽しんだ。
次の日の朝、寮の前で僕たちは集合した。
「ハル様。やはり危ないのでは」
「アランはいちいち心配性すぎるよ。エリンもいるから大丈夫だよ」
愚妹は朝一で起きて、鍛冶屋と錬金術師と結託して作った特性の『銃』を点検していた。回転式拳銃と言われるもので、魔道銃と違って火薬を使って弾丸を飛ばす。
幼い頃から不思議系の妹は、「私、前世の記憶を持っているの」と昔から言っていた。
「ほーん」幼い頃の僕。
「本当なんだよ。機械とか大空を飛んで、光がぱっぱってつくのよ!」
僕は適当なことを言っているなと思っていたけど、数年駆けて銃を作り出して、鳥を撃ち落した時は唖然としてしまった。腰の両脇に銃のホルダーをつけて、両手拳銃になるようにしている。
エリンはクルクルと銃を回転させて、手指の感覚を確かめていた。
「ばっちり」
ぐっと、親指を立てた。
「ところで――ティナも連れて行くんですか?」
「ああ、油機に乗っていたなら操縦ができるだろう。出来たら回収してみたい」
教授は宝石があった場所を調査したいのと、油機の回収を目標としていた。ティナが古代人だったとしても、何百年も歳をとらなかったのを知りたいのだろう。
「ハルも操縦できますよ」
「油機の種類が違うかもしれないだろ。発見されているだけで、四種類の動かし方があるんだ」
操縦方法が違うのは作った人が違うのか、会社が違うのか、どちらかだと言われている。
「ですけど、雑魚が教授、僕、ティナ。護衛がエリン、ティナ、アラン。となると護りづらいんじゃ」
「君も戦いなさい」
「は?」
なに言ってんだ、このジジイ。
「村人だったなら、農作業で体の基礎は出来ているはずだ。屯田兵みたいなものだろう」
「僕は筆先で魔物をこちょこちょするぐらいしか出来ません」
「はいはい」
僕は(落ちていた)角材を装備させられた。なんかダンゴ虫とかついていた。