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古代人の少女

一回消したけどリトライ

 発掘されつくした遺跡は湿っていて息苦しかった。教授に連れられて、冒険者たちを連れて発掘調査を行っていた。調査隊に選ばれたのは、優秀だからでも、天才だからでも無い、絵が上手かったからだ。それに危険は少ないと聞いていた。発掘物も魔物もほとんど無く、冒険者たちも魔物を二度退治しただけで終わった。


「各地の遺跡に彫り物はあるが、ここには他の遺跡とは違う特徴があるんだ」

 先生が何か分かるか? と聞いた。

「紋様だけだ。動物とか、人とかが彫られていない。面白いと思わないか?」

「そういえば、そうですね」

 僕は貴重な紙に鉛筆で紋様を写し取った。遺跡から写真機というものが発掘された時もあるそうだが、基本的に絵描きは重宝されている。それをそのまま描くというのは価値があり、未知の出来事を伝えるのに役に立つ、ただ絵描きになりたいとは思わなかった。


 一日の調査を終えて、遺跡の中を歩いていた時に、風を感じた。

 不審に思い振り向くと、何もない小部屋があった。

 近づいてみると壁に小さな穴が空いていた。指が入るけど、中は暗くて見えなかった。恐る恐る指を差し込むと、空洞だったが太陽に照らされたように熱かった。大きな音がなり、部屋の出入口に、石の扉が落ちてきた。

「これは……」

 気付いた時には、大きな部屋にいた。


「ま、魔法だ」

 移動魔法を体感するのは初めてだった。

 僕の眼に映ったのは、人間を二回りは大きくした油機ゆはたと、漆黒で光を吸収しそうな大きな宝石だった。


 何百年の風化に耐えた油機は傷一つ無く美しかった。


 遺跡の発掘で機械人と新人類が見つかったけど、油機ゆはたは機械に人間が乗れるようにした古代兵器だ。騎士は油機に乗ることが流行して、馬や竜よりも活用されている。

 僕は油機に近づいてみると、背中が光って、縦に割れて両側に開いた。

 背中が見えた。騎士は力なく僕のほうへ倒れてきて、僕は体で騎士を抱きとめなければいけなかった。もしかして古代人だろうか、僕の心は沸き立ち、そして凍りついた。


 美しい少女だった。


 赤く燃えるような髪は触れると火傷しそうで、肌理の細かい肌は手入れしつくされた銀細工のように美しかった。体を包む服は全身を現していて、色彩と衣装が無ければ裸を見ているのと同じだった。

「大丈夫?」

 少女は両目を開いて、僕を見つめて、喋りかけてきた。

 だが、彼女が何を言っているか分からなかった。

 しばらく喋っていたが、相手も通じていないのが分かって眠った。


 僕は部屋の中を調べてみたが出入口らしきものは無かった。調べたくは無かったけど、部屋の真ん中にいる宝石は気になった。宝石の前には油機が前のめりで倒れている。予測でしかないが、油機はあの宝石を壊そうとして力尽きたように見える。

 触れるのは危険のように思えた。

 でも、他に調べることは無さそうだった。


 手に触れると、触った途端に宝石は輝きだして、熱い何かが体の中に流れてきた。

「おまえは……違う」

 離れようとしたが、手をつながれたように動かなくて、熱さで気絶するまでそれが続いた。気付くと、僕は少女と一緒に遺跡の外へ出ていた。

 眠っている少女を抱えて、遺跡の入口まで行くと、教授と冒険者たちがいた。

「どこへ行っていたんだ!」

 教授が怒って、僕の両肩を掴んだ。

 僕は遺跡の中の魔法の罠にかかって迷宮に閉じ込められたと伝えた。教授に嘘をつく必要は無いけど、冒険者たちが周りにいたのでとっさに嘘をついた。あの宝石は暴いてはいけないものに思えたからだ。

「彼女は?」

「僕と一緒で迷宮に迷い込んで倒れていたんだよ」

 これも嘘だ。

「そうか……調査され尽くしたと思ったけど、まだまだ危険なところがあるんだな」


 一緒に街へと戻り、冒険者たちと分かれてから、僕は教授に真実を告げた。

「宝石か……」

 ここは教授の家だ。少女はベッドの上で仮眠していた。

「遺跡の中に古代人の全てを封じたものがあるとは聞いたことがあるけど、まさかこの遺跡にもあるとは思わなかったな。そして彼女は油機ゆはたに乗っていたのか……彼女は古代人かも知れないな」

 あなたー、と教授の奥さんが呼ぶ声がした。

「すまないが、彼女を預かってくれないか? あいにく妻がいるのでね」

「……預かると言っても、僕の家も狭いですけど」

「女の子と一つ屋根の下で暮らすチャンスなんだからおとなしく引き受けろ!」

 キレられた。理不尽だ。

 仕方ないので少女を担いで、自宅へと向った。夕陽は美しく赤い髪が消失してしまいそうだ。やがて闇が落ち、寒気が皮膚に触れてきた。夜になれば治安も悪くなるので、早足になった。体が温まる頃に、自宅へ着いた。

 街の外れにある学園専用の寮だ。入口を通過して、誰もいないのを確認して、最上階の扉をノックすると、中から「はーい」と声がした。一緒に暮らしている妹が笑顔で出てきた。

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