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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

美少年は守備範囲外です

作者: 九曜 蓮

 思いつき第二弾。

具体的な描写はありませんが、性行為を示唆する描写があるのでR15にさせていただきます。

 少々読む人を選ぶ内容なので、地雷がある方は避けられた方がいいかもしれません。

嗚呼、なんという事をしてしまったのか。


 何処とも知れない空間で、彼は己のしでかした取り返しのつかない過ちに苦しんでいた。

彼はこの世界で神と呼ばれる者の一人だ。

今まで、永の慰みに人間達の面白可笑しい様を観察し、面白くなければ“ちょっとした手間”を加えて楽しんできた。

 最近、新たに思いついた“ちょっとした手間”は隣接世界からこちらへ人間を移動させる事。

異なる世界の者というのは、そのままでも思わぬ展開をもたらす。

そこへ更に一手間加えれば言わずもがなだろう。

 

 本来、よほどの事情と根回しがなければ、異世界間の人間の移動など認められない。

彼のように、自分の楽しみの為だけに人の人生をめちゃくちゃにするような真似は許されていないのだ。

事が発覚すれば、彼自身割合に力のある神なのでそれほど重いものにはならなくとも、他の神々から罰のひとつくらいは受ける事になるだろう。

だが――――


 いくらでも湧いて出る塵芥で楽しむくらいかまわないだろう。

むしろ僕の玩具になれる事を光栄に思うべきじゃないか。


 そんなふうに考えていた。



 連れてきたのは何処にでも居るような平凡な女だった。

読書が趣味の少しだけ年嵩の女。

といっても読むのは漫画か、装丁だけは美しいが薄っぺらい恋愛物らしい読物ばかり。大して頭を使わなくても良いような代物が好みらしい。


 物語のような恋愛に憧れつつも、それを実現しようと努力するでもなく、夢見るだけで満足している事無かれ主義の女。


 そんなツマラナイ君に、ヤサシイ僕が手を貸してやろうじゃないか?

特別に選ばれたのでも、こちらのミスのお詫びでも、適当な理由をでっち上げて、そちらからすればファンタジーと言うらしい、こちらの世界に来ても“大丈夫だと思ってしまえる”望みのままの能力と、理想のルックスを与えて、大好きな物語の“ヒロインみたい”にしてあげようじゃないか。


 頭の足りない女が不相応なギフトに舞い上がってどんな事をやらかすだろうか。

ちょっとばかり“魅了”でも追加してやれば、例え途中で恐くなって大人しくしていようとしても、騒動の方からやって来るだろう。

 勇者も王子様も貴族の御曹司も、現実では都合の良い事ばかりじゃない。

ライバルキャラ、お助けキャラなんて都合の良いものは居ない。

それを君が思い知るのは、一体何時になるんだろうね?

下等な人間が恋だの愛だのと、実にくだらないものを有り難がり、一喜一憂して時には身の破滅すら招く様は全く面白いったらない。



 本当に――――――そんなふうに嘲笑っていた過去の自分をぶん殴ってやりたい。





 異世界トリップ。

まさか、そんな夢みたいな事が自分におこるなんて。


 淵賀野ふちがの 多緒たおは普通のOLだ。

母子家庭だったが保険外交員として割と優秀だった母のおかげでさして不自由なく育てて貰ったし、就職氷河期でも真面目に働いたバイトのコネで何とか就職出来た。

三年前に母が病で亡くなったが、あまり苦しむような事もなく、ちゃんと治療して見取れたのは良かったと思っている。

 彼氏居ない歴=年齢だが、別に男嫌いというわけでもコミュ症でもない。

合コンにも行くし、男友達もいるのだが、何故か毎回良い友達止まりになるだけで――――あ、何故か涙が…


 あの日はたまたま駅のエスカレーターが点検中で。

普段使わない長い階段を上っている時に、誰もいないのにまるで誰かに足を引っかけられたかのように躓いて、真っ逆さまに落ちてしまった。

多分、それで首の骨を折るか何かして死んだのだと思う。


 気がつくと、何だかふわふわした光が満たされている場所にいた。

目の前には金髪の巻き毛に、サファイアみたいな青い目の、すごく綺麗な天使みたいな男の子。


 天使じゃなくて神様だった。 


 母子家庭で苦労して、その大好きな母親を亡くして、それでも悲しみを乗り越えてずっと誠実に生きてきたのに、こんなに若くして死んじゃうなんて可哀想だと言われた。

 や、お母さんはともかく私は大して苦労した訳じゃないんだけど。

もっと親孝行したかったっていうのはあるけど……いや、誠実って、私の場合単にビビリで大それた事できないだけだから……いやいや、若いって最近めっきり言われなくなったからちょっと嬉しい。あ、でも神様から見たら大概は若いのかな。


 このまま死なせてしまうのはあんまりだから、異世界で第二の人生を?

え? 何それどこのネット小説?

私の好きな、ファンタジーみたいな世界で、危険が無い様に能力もくれる? せっかくだから沢山の素敵な男性と恋を楽しむと良い?


 ええぇっ! ウソ、何で私の願望ゆめを知ってるの?!

えっ、神様だから?!

そんな、ヤダ、恥ずかしい!!


 真っ赤になってワタワタする私に、優しく笑って神様は言った。


「何も恥ずかしいことなんてないよ? 可愛い願いじゃないか。そりゃ、君の育った国は一夫一妻だから、真面目な君はそんな事は不道徳だって思ってるんだろうけど、それでも沢山の恋人と人生を楽しんでいる人だっていただろう?」


 でも、そういう人は凄く綺麗だったり、才能があったり、特別な人だったから出来るんであって、私なんかじゃ……


「そんな事ない、君だってとても素敵だよ? 何なら君が望むなら好きな姿にしてあげる。だってそんなの些細な事なんだからね。」


え、私の好きな姿、に? そんな、整形したって絶対無理……


「この鏡の前に立ってごらん。今の君だってとってもチャーミングだけど、ほら頭の先からつま先まで映して、そうそう。さあ、君の望む姿を思い浮かべて、理想の姿だよ? たった今から、それが本当の君の姿になるんだ!」


 ほ、本当に……?


「そうとも! 何も悪い事なんてないさ、君は君の望みのままにして良いんだ!」


 許される、の…?!


 次の瞬間大きな鏡に映っていたのは、見慣れた十人並みの淵賀野わた 多緒し じゃなかった。

心持ち寂しかった胸は理想のラインに、大分たるんできた腰回りは一分の無駄もなく引き締まって、ちょっとコンプレックスだった低い背は見違えるように高い。

微妙にぱさついてたひっつめ髪はさらりと流れる豊かな銀糸に、良く狸に似てると言われた垂れ目の丸顔はアーモンド型の紅い瞳の、あの好きな絵師さんの挿絵そのままに――――


「――――うそ、凄い!」


 ああ、もう声まで違う。

神様もびっくりしてる。

そうよね、本当にあのキャラそっくりの美形だもの!


「…神様、有り難うございます。ここまでしてもらったんだもの…私、頑張って、きっと夢を叶えて見せます!」


「えっ…あ、うん」


「本当に、有り難うございました! 私、行ってきます!」


「あ、いっテラッしゃイ?」


「はい!」


 そうして、私の夢を認め、応援してくれた神様に見送られて、異世界ゆめのせかいへ舞い降りた。





 今、私は本当に幸せだ。

まるで運命のように巡り会った、素敵な恋人達との楽しい毎日。

神様が幸運までプレゼントしてくれたのか、あんまり上手く行き過ぎてちょっと恐いくらい。


 実はあの後、気持ちが落ち着くと、ちょっと不安になった。

だって、私本当にこんな凄いプレゼントが貰えるような事はしていない。

悪い事もしなかったけど、とびきり良い事をした訳でもない普通の人生だった。

美味しい話には裏があるって言葉を思い出して、まさかと思いながら初めて降り立った森を怖々進んでいて、私は最初の恋人ケビンに出会った。


 彼は当時山賊の頭をしていた。勿論、今は足を洗ってくれてるけど。

ギラついた目、ザンバラに切られた黒髪、血糊に曇った山刀と共に向けられた殺気は今思い出してもちょっと恐い。まぁ、彼のワイルドな男の色気の前には些細な事だったけども。

 人間を遙かに凌駕するこの腕力で、彼の手下達にはちょっとばかり大人しくして貰って――――第一村人ならぬ第一恋人、大変美味しゅう頂きました。


 いやあ、まさかイイ歳の山賊の頭が処女だなんて思わなくって。(偏見)

初めてが外だなんて酷いって、未だに文句言われてるわー。


『……あんときゃマジで殺されるかと思った。』


 ホントに最初の時は加減が判らなくて、かなり無茶させた。ゴメン。

気がついたらぐったりして白目剥いてたケビンを抱えて、何処かで休ませないと、手当しないとって焦っちゃったんだよね。

――――冷静になったら治癒魔法使えるの思い出して、結局大事には至らなかったんだけど

でもあの時はパニくったまま、うっかり逆方向の王国軍の砦に行っちゃって大騒ぎになった。


 いくら慌ててたと言ってもあれは無いわ。


 全裸 だったんだ、私。


 今でも思い出すと顔から火が出そう。

砦の兵に囲まれて槍を向けられたんだけど、その時初めて神様がこっそりくれてた能力“魅了”に気づいた。

私の未だ臨戦態勢だったブツを見ただけで、殺気立ってた兵士達が、怯え半分期待半分のメロメロ状態になるなんて。前の世界では男性向けエロ漫画の世界ぐらいにしか存在しない、正にファンタジー。

 ――――神様からファンタジー世界だと聞いてはいたけど、本当に実感したのはあの時かな。


 そうそう、私の種族は闇大牙鬼ダークグレートオーガ

本来この世界には居ない種族なんだけど、災厄級モンスターのグレートオーガの上位亜種じゃないかって事になっている――――って恋人の元S級冒険者で現・冒険者ギルド総長のガーフィールドが言ってた。

 雪のような銀糸の長髪をかき分ける、漆黒の太くねじれた二本の角。

血色の蛇眼を持ち、二メートルを超す強靱な褐色の肉体はドラゴンすら軽く絞め殺し、悪夢のような魔法耐性は上級魔法でさえ無効化する。

 淵賀野わた 多緒し が一番好きだった、18禁BL漫画「光の騎士と闇の魔王~分かたれざる愛憎の果て~」に出てくる闇の魔王シュヴァルロッドヴァルトが今の私。


 流石に名前までそのままというのは畏れ多くて、一部だけ貰ってロッドヴァルドと名乗っている。

だって中の人はご本尊様のようなカリスマや残虐性は無いし。

やろうと思えば人間の軍隊くらい軽く殲滅できる力はあるけど、平和ボケと言われた国で長年に渡って育まれたモラルはそう簡単に無くならない。

 幸い敵対者を無効化出来る“魅了”があるんだし、穏便にすませられるならそれが一番。

戦闘でまだ見ぬ恋人候補が死んじゃったりしたら大変だし。

だって、人外美形イケメンになってナイス野郎ガイを片っ端からコマし倒してウハウハ幸せ性活送るのが――――神様が応援してくれた淵賀野わた 多緒し の夢だから――――!



 好みには大分年齢が足りなかった神様。

ああ、どれ程感謝しても足りません。

感謝の証と言うにはささやかですが、先日勝手ながら神殿を建てさせていただきました。街を見下ろす日当たりの良い丘の上です。

うちの建築ギルドマスターを務めているハイ・ドワーフのガティンが、私の恩神おんじんだと聞いて腕利きの職人を集め、粋を凝らして造ってくれました。あ、勿論恋人です。

 何だかいつの間にか魔王とか呼ばれてるし、オリジナルの闇の魔王には到底及ばない不束者ですが、私なりの魔王ロッドヴァルドとして、貴方に恥じない私の夢の理想郷を恋人達と築いていこうと思います。

どうかショタ神様――――貴方のしもべを見守っていてください。






 ――――魔王ロッドヴァルド――――

 その出現はあまりにも唐突で、まるである日突然この世界に降り立ったかのようだと言われている。


 一番初めにその存在が確認されたのは、魔の森の境に在ったハイランディア王国の砦を一夜にして落とした事件だった。その時、駐在していた侯爵家三男である騎士隊長ディランドを、恐るべき魅了の魔力でもって王国から離反させたという驚愕の事実は未だ記憶に新しい。

 異様な早さで砦があった場所を中心に城を築き、街を造り、何とその時すでに配下には魔族だけでなく人族、獣人族等、異なる種族が当たり前のように混在していたという。


 その脅威ただ事ならずと、各国はそれぞれの勇者や精鋭揃いの討伐隊を差し向けたが、悉く敗退。

しかも、勇者や名のある騎士の幾人かは魔王の恐るべき魅了に陥落し、その後宮に納められて遂に帰還する事はなかった。

因みに、このあたりで魔王が筋金入りの男色だと判明し、年頃の娘を持つ親は庶民から王族まで少しだけホッとしたと言う。


 近隣諸国だけでなく、狂信的である事で知られている「死と安息の女神の教団」、通称暗殺教団もまた刺客を差し向けたうちの一つだ。この新たな魔王の力を侮ること無く、教団一の刺客を送った。

次期教主と目されている現教主の娘で、見事魔王の寝所への潜入に成功したものの、そのまま姿を消した。

最後の連絡は


「我、新タナル扉開ケリ。」


 不確かな風の噂だが、次期教主は邪教団を立ち上げ、美しい装丁だが薄い書の制作に血道を上げて居るとか居ないとか……



 三度目の王国連合討伐隊が破れたに至って、漸く各国の王は

「これ魔王の後宮にイイ男貢いでるだけじゃね?」

という事に気がついた。


 ダメ元で生け贄、もとい外交官を交渉に向かわせた所――――


「世界征服? 興味ないな。俺の使命は恋人達と愛し合う事だ。攻めてくるなら守る為に全力で戦うけどな?」


「生け贄? そういうのは趣味じゃないな。その気のない奴や決まった相手のいる奴に無理強いなんて無粋だろ? まぁ、敵対する奴は別だけど。」


――――との回答が得られた。

その言を信じるならば、


『仕掛けられなければ危害を加える気は無い。』


『その恐るべき魅了の力を無差別に振るうつもりは無い。敵対者は別。』


という事だ。



“敵対者は別”


 それが伝わるや否や、各国は凄まじい早さで魔王ロットヴァルドに対して和睦、もしくは不可侵条約を申し込んだ。


 そんな各国の使者が見た魔王国の様子は、意外にも豊かで穏やかなものだった。

清潔な町並みと、それを取り巻く長閑な田園。

多種族が入り交じっている為多少の衝突はあっても、街の至る所に設けられた警邏隊の詰め所から隊員が駆けつけるため大事に至る事はない。

その警邏隊は揃いの装備に身を包み、練度も高く、そのくせ迷子の保護や道案内をするほど民衆に親しむ。その為か、驚くほど治安が良かった。

 魔王自身は筋金入りの男色ではあっても、別段女性に思うところはないらしく、むしろその待遇は他国より良いくらいだった。

就ける仕事の制限もなく、出産・育児には国から補助を出しているとか。

 治癒魔法のみならず医術の進歩にも国を挙げて力を入れている。

難産で危険な状態だった母親に、偶然近くでデートしていた魔王自ら治癒魔法をかけて母子を救い、「救える命が救えないなどあってはならない」と宣言したという。

 更に驚かせられたのは、読み書きや算術を教える学校を全ての身分に隔て無く、格安で開放している事だ。支配者は民衆が下手に知恵を付ける事を厭うものだが、まあ、知恵を付けても魔王に逆らおうという者は居ないだろう。と言うより居ても大した問題ではない。どうせ美味しく頂かれるだけだ。

 身分と言えば、魔王国には奴隷がいない。所持も売買も基本禁止され、余所の奴隷が逃げ込めば、それぞれしかるべき手段で解放される。虐待など見られれば他国の者でも厳罰に処された。

魔王の趣味ではないとのことで、曰く


「俺の国に居るのは“恋の奴隷”だけだぜ☆」


との事だ。

 そんな訳で圧政どころか庶民には大層暮らしやすく、流れ者や食い詰め者以外にも移り住む者が出てきつつある。


 また、宗教に対して驚くほど寛容であるのも特筆すべき所だ。

てっきり邪神か己自身でも祀っているのかと思われたがそのような事はなく、余所を貶めたり、教えを強要したりしなければ信仰の自由は保障され、何と魔王討伐の旗頭となった聖王教会の神殿さえ存在していた。政と信仰を完全に分ける主義らしく、国法に明言されている。

 魔王自身は己の恩神という神を信仰している。

首都を望む丘の上に建てられた、荘厳な神殿に祀られたているあまり知られてこなかった神だ。神像は慈悲深い笑みを称えた大層美しい少年の姿で、魔王が神託を受けた際に目にしたという姿を伝説級といわれる彫刻師が彫り上げたもので美術的価値も高い。

何でも……今の状況を叶わぬ夢と諦めかけていた魔王の前に現れ、愛しい者を愛でたいと思う事は何も恥じる事はないのだと言って、その想いを後押ししてくれたという……やっぱり邪神かもしれない。

 奥ゆかしく、名乗りさえなさらなかったと言う事で、魔王の故郷で少年神を意味するという「ショタ神様」という名で呼ばれている。

愛と夢を後押しする美しい少年の姿の神という事で、最近では魔王の恋人達や一部の邪教徒だけでなく、一般の民衆にもその信仰が広まりつつあるようだ。






 嗚呼、どうしてこんな事に。一体何が悪かったのか。


 何処とも知れぬ自らの空間に閉じこもって彼は過去を悔いる。

 人知れず人間を弄んできた為に、その名や行いがあまり人間達に知られていなかったのが禍した。

今では他の神々でさえ「よう、ショタ神」と呼びかけてくる。

解って言ってるだろ貴様等!

 人間共の間ではガチホモ魔王国建国の守護神として崇め?られ、ゲイカップルが一度は訪れたい巡礼スポットとして広まり、あのむやみやたらと粋を凝らして作られた神殿に、毎日のように幸せオーラだだ漏れの男共が参拝に来る。

 もうHPはゼロもいいとこだ。

だというのに


「のう、そのように恥ずかしがらなくても良いではないか。以前はか弱い人の子を弄ぶような悪趣味と思うておったが、いや正直そなたを見直したぞ?」


 誰もおいそれとは進入できない空間の、かろうじて扉一枚隔てた所に一人の女神が居る。

神々の中でも古参で最も力あるものの一柱である「死と安息の女神」だ。


「そなたが連れてきたあの御仁、まこと傑物よな。妾の巫女が天啓をうけたと思うのも無理無き事。異世界の庶民であったというが、政といい、度量の深さといい、己の愛人のみならず民草をも慈しみ守る志といい、良い王ではないか。よもやあの魔の森があのように佳き国になるとは想いもよらなんだぞ。更にはそなたへの感謝の祈りも忘れぬとは見上げた者よ。」


 ゲイ天国だけどねー

てかあいつ有能なのを墜としまくってほぼ丸投げしてるだけだけどねー


「それにしても我が巫女が覚醒し、綴るに至ったこの書物まことに興味深い。ひとつの嗜好を執念とさえ言える情熱でもって物語として練り上げ、込められた業のなんという深さか。永く心震わせる事などなかった妾をさえときめかせるとは驚嘆に値する。」


 うん、そういうのいいから。


「……ところでのう、お主“鬼畜受”なるものをどう思うかや?」


 も う 、 か ん べ ん し て



 頭の弱そうな凡人女と侮ったのが悪かったのか。

どうせ薄っぺらい恋愛物だと、彼女の読む物を確かめなかったのが悪かったのか。

こんな女の望む事なんて決まってると、彼女の頭の中を確認しなかったのが全ての過ちだったのか。


 嘆く彼は知らない。


 今は魔王である彼女は、これでも他人ひとに気を遣っているのだと。

かつての愛読書、そして彼女の妄想あたまのなか現実いまよりはるかにエゲツないものだった事を。


 ――――――そんな内容ものを見なかった彼が、少しだけ幸運であった事は、きっと永遠に知るよしもない。





 警告タグでネタ晴らししちゃってる気が…大丈夫でしたでしょうか。

後主人公の名前を逆読みしていただいてもバレます。

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[良い点] タグをろくにチェックせずに読み始めるので、前書きの注意はショタ?ロリ?的な事かな~なんて読み進めたら……衝撃でした! なんでしょう、神様へのこのざまぁ感! スッキリ! ムーンで詳しくや…
[良い点] ブクマリンクを巡って、タイトルにひかれてこちらまで辿り着いたのですが、ボーイズラブタグを見逃して「枯れ専主人公なのかな」と読んでみたら、予想外の展開にときめきました。 とんでもないガチホモ…
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