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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
一章 マズワ王国編
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辺境伯登場2

「パ、パス2…… ちょっとハートの9止めてるの誰なの! 後2! 1さえ出ればまだ何とかなるのに……

 ロブ! ヨシュア! まさか貴方たちじゃないでしょうね?」


「お嬢様、遊びの席で権力を振り回すのはみっともないですよ」


「そうだぞ、カレン。勝負とは非情なのだ。ロブ、ヨシュア、この場は無礼講だ。本気で勝負する事を許す!」


「「ありがとう御座います!」」


 そして更に一巡後


「パ、パス3……」


 七並べでパス3は負けの宣言だ。お嬢は仕方なく手持ちのカードを並べていく。


「カレン様、お可愛そう……。私もパス1だったので冷や冷やしましたわ。あ、ハートの9出しますね」


「ミリアリア! あんただったの!」


「今まで気付かなかったんですが良く見たら偶然持っていたんです。ほんと不思議な事があるものですね~」


「ぐぬぅ……」


 さて何故こんなに白熱しているのかというと、ただ遊ぶだけでは面白くないので賞品を付けたのだ。賞品はこの場にない美味しい飲食物。この世界は基本戦闘と貧困で生活は豊かとは言えず、その為、食事文化もあまり発達していない。食事文化の発達には余裕のある生活が必須だからだ。即ち、俺の出す飲食物はどれもこれも一級品であり、王族ですら食べられない最高に美味いものとなる。賞品は一位になった者が俺にどんな物が欲しいのか大まかに伝える事で、それに該当する物を俺が出す形になる。


 更にビリには罰ゲームがあり、サイコロを振って出たちょっと恥ずかしい話題に正直に答えねばならない。真偽判定は半数が納得する事。個人の弱みをさらけ合うってのは、親密になる方法としては悪くないしね。まぁ親睦会を兼ねたパーティーゲームの王道だ。


 ちなみに一位を取ると、次のゲームには参加しない。美味しいものを食べながらみんなのゲームの様子を眺めつつヤジだけ飛ばす。こうする事で連続1位を取る事も無いようにした。ちなみにさっきのゲームでは領主が1位だったので、賞品の酒を楽しみつつゲームの様子をげらげらと笑いながら見ている。うん、もう何処から見ても飲んだくれの親父だ。


 ちなみに、お嬢とエルフさんは何か新しい甘味というリクエストが多く、王はもっぱら酒、衛士はまだ一勝もしていなかった。


「馬鹿な…… 私が負けるなんて……」


「ふっふっふ…… ミリアリア様、カレン様を陥れるために使ったパス1がここで響きましたね。 さ、どうぞ負けの宣言を」


「く、パス3……」


「ぃよっっしゃーっ!!」


 と言う訳で、衛士の一人ヨシュアが初勝利を得た。


「おめでとう、賞品はどんなのが良い?」


「な、何かうまい食い物が良いッス! 普段あんまり良い物食ってないんで今日はとことん美味しい物が食いたいッス!」


「ふむ、なるほど…… 良い選択だね。解った最高に美味い物を用意しよう」


 ちなみに俺はルールを教えるために最初の数回は参加していたが、賞品を出す側に回ってからは参加していない。七並べはあんまり人数増えると戦略性が減るので4~5人ぐらいが一番面白いしね。


 ま、それはともかく美味しいものか……高級霜降り牛肉の厚切りステーキセットでも出してやるか。俺はパフォーマンスを兼ねて最高の霜降り肉を手早く調理する。チート解析を使い、常時肉の状態を監視しつつ火加減を調整、最高のミディアムレアに。仕上げにブランデーで軽くフランベし香りを付ける。先に作っておいた付け合わせや、スープとパンを付けてヨシュアの前に並べてやる。飲み物はステーキに合う赤ワインだ。


 焼いている時からして、美味そうな匂いが漂って居たため、全員が手を止めて料理に注目していた。


「ちょ、ちょっとまて! クニミツ殿それはズルいのではないか?」


 抗議の声を上げたのは領主だ。


「ん、何がです?」


「それは、どう見ても何種類も食べ物があるではないか!」


「いや、自分は別に構いませんよ。領主様は『何かお酒』とリクエストしたからこそ『お酒だけ』を出したまでですし、お嬢様とエルフさんについても同様ですが?」


「な……」


「と言う訳で一位のヨシュアさん、思う存分味わって下さい」


「う、嬉しいッス! 感謝感激ッス!」


 そして霜降り牛を口に運んで……


「うま……」


 信じられない物を見たようなそんな目で霜降り牛を凝視、そして更にもう一口。


「何スかコレ? 何スかコレ? 美味すぎるッス! 幸せすぎッス!」


「ど、ど、どう美味しいのかしら?」


 と、唾の飲み込みつつ聞くのはお嬢様のカレン。


「溶けるッス! 肉なのに口の中に溶けるんす! それでうまい汁が口の中にぶわぁって……」


「パンも食べてみたらどうです? 鉄板の肉汁を付けて食っても美味いですよ」


「パンスか? うわ、やわらか…… それにいい匂いッス…… うま! そのままでもスゲー美味いッス!」


 その後も『美味い』を連呼しまくるヨシュア。スープを飲んでは感涙し、ワインを飲んでは幸せそうに遠い目をする。


 その様子を見て次の勝負が白熱化したのは言うまでもない。


 勝負の途中、周辺探査にセットした状態監視アラートで両ギルド長が目が覚めたのを知る。一応部屋には簡単な経緯を示した置き手紙を置いてある。リビングで盛り上がっている歓声を敢えて魔法で客室まで届くようにしているので、しばらくすればリビングまでやってくるだろう。


 そして数分後、美味い物への執念を実らせたのかカレンお嬢様が勝利した。


「よし!よし!よし!よし! クニミツ様! 私にもとぉっっても美味しい料理をお願いします! ああでもさっきのお肉も食べてみたいし、まずはアレを……いやでも……」


 と、勝者の悩みでブツブツ呟くお嬢の横では


「く、なんで……なんで、順番がカレン様の後だったの…… 順番さえ早ければ私の勝利だったのに!!」


 と、エルフさんが本気で悔しがっていた。


 そんな盛り上がりを見せる中、ギルド長達が扉の前まで来たのを察した俺は彼らがノックをとまどっている間に、こちらから扉を開ける。


「そんな所に立ってないで、どうぞ中に入って下さい。タネンさん、メルゲンさん、それに衛士の方も」


「おお! タネンにメルゲン、入れ入れ! 入ってゲームに参加しろ。カイルお前もだ。

 クニミツ殿! 先程の話の通り、人数が増えたら、二組に分けるという話で良いんじゃな?」


「ええ、構いませんよ。それぞれの組の勝者に賞品を出しましょう」


「よしよし…… 初心者が増えれば勝率が上がると言うものよ!」


「な、何の話ですかな?」


「あーでも2組でトップが抜けると一組3人で流石に人数が少なすぎです。いっそゲームを変えて上位2名が賞品というのはどうでしょう?」


「な、なに……? 折角コツが掴めていたというのに……」


「お父様~、その考えは流石に領主にあるまじき貧乏くささです」


「うるさい、勝負には常に全力なのだ!」


 追加されたメンバーに今の状況を簡単に説明。今度はウノを取り出して手札オープン状態でルールの説明をしていく。ちなみにお嬢の選択は先程の霜降り牛の匂いの誘惑を振り切れなかったのか『やっぱ、さっきとおんなじもの!』と注文。で、それを食べたカレンお嬢様は「うまー!」とか「ちょっと!何なのコレ! ホントに溶ける! ありえない!」と叫び、領主は「あぁ、きっと優しい娘は、一口ぐらい父親に恵んでくれるんだろうなぁ~?」と暗に要求。それに対し「お父様、これが勝負という世界です」とニヤリと笑った。


 その後あまり食べられない人向けに可哀想なので、ひとかけらサイズの『ちょっぴり試食』を提案。でもビリだけは『ちょっぴり試食』もない。おかげで更に競争が高まった。フフフ計算通り!


 そんな盛り上がりを見せる中、将軍が起きた事を示すアラートが点滅していた。静かに目覚めた所為で、おおきな錯乱は起きていないようだ。今は恐らく寝たままの姿勢で自分に何が起きたのか噛みしめている所だろう。その間もこの部屋の楽しそうな歓声は敢えて客室に聞こえるようにしてある。落ち込んでいる時は楽しげな声を聴くだけでも心は和らぐものだ。俺に直接敵対し最後まで残った彼は、心に整理を付けるのに少し時間が掛かるだろう。少なくとも俺が出向いたら逆効果だ。なのでエルフさんを呼び、様子を見てきてくれないか?と頼むことにする。エルフさんは俺の望みを直ぐに察し「一つ貸しですよ」といって快く引き受けてくれた。


◆◆◆◆


 俺は見知らぬ部屋で目が覚めた。なぜ俺はこんな所で寝ていたのか?その疑問が心に浮かんだ直後、直前の戦いが強烈に脳内を駆けめぐる。恐い……恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い……。


 思い出した瞬間に俺の心が恐怖で埋め尽くされる。だめだ、殺される。何で俺はあんな物に関わった。何で逃げなかった。アレに敵う物なんて居るはずがない。排除を思う事すらままならない。アレはただ自分に被害が及ばないよう、触らぬよう隠れねばならないものだ。恐い、駄目だ、考えるな、恐い、恐い、恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い……。


 身体の震えが止まらない、身体から恐怖が抜けない。俺は布団を握りしめ必死に縮こまり震えを抑えようとする。だが身体は言う事を聞かない。恐い、何故あんな物に関わった。人間最強?だからなんだ。人間が、いやどんな生物だろうと、全生物が相手であろうとアレは平然と、無傷で全ての敵を葬り去るだろう。アレは人間の形をしているだけで別の何かだ。手を出して良いものではなかった。刃向かって良いものではなかったのだ。


 後悔と恐怖と畏怖が俺の中をぐるぐると回り、震えはまるで止まらない。俺は目を必死で閉じ、布団を握りしめる。


 俺はどうしようもなく、ガタガタと震る。震え続けていた。しかしそんな俺の震えに「うまー!」という歓声が紛れ込む。なんだ? その後も普段のカレン様とは思えないような歓声と、マグナルやミリーの笑い声が響く。笑い声の中には親衛隊の3人もいるようだ。


 そして、気が付くと俺の震えは止まっていた。


 それから俺は何の思考をすることなく、ただ漫然と聞こえてくる歓声に耳を傾ける。そしてふと「俺は生きているんだな……」と自然に呟いていた。


 途端、その言葉は俺にその意味を強く実感させ、全身に歓喜を呼び起こす。気が付けば涙が止まらず、俺はこの年になってみっともなくオイオイと嬉し泣きをした。


 ひとしきり泣き、落ち着きを取り戻すと、ノックと共に声が聞こえる。


「ガル、少しは落ち着いた? 入って良いかな?」


「ミリーか、みっともない所を見せてしまったな…… もう大丈夫だ。入ってくれ」


 ミリーは扉を開けると、ベッドの横の袖机に食べ物を置き、奥から椅子を持ってきて直ぐ横に座る。


「適当に美味しそうなもの持ってきたよ」


「ああ、すまない……」


「それにしても、盛大に負けちゃったねぇ~」


「そうだな……」


「私も流石にあそこまでとは思ってなかったわ」


「ふふふ、俺もだ」


「あの後の事、聞かせて欲しい?」


「ああ、たのむ」


 ミリーの話では彼は神と同等の力を持つ神の使いなのだそうだ。もし何の前知識もなくコレを聞いたならば一笑に伏していただろう。だが今はそれこそが真実だと納得できる。彼の真意も聞いた。ただ皆の笑顔を見たいから協力するのだと。かといって支配し導くつもりはない。ただ手助けするだけだと。彼は戦いの前に「ドラゴンが戯れに知識を与えるのと同じです」と言っていた。彼は最初から何も嘘を言っていなかったのだ。


「それでね、その理由がドロドロの貴族やり取りを間近で見る趣味はない!だってさ。まぁ確かにアレは心からの笑顔とは真逆よね」


「ふふ、そうだな……」


「う~ん、思ったよりもダメージ少ない感じ?」


「いや、そうでもなかったさ。目覚めてからしばらくは恐怖で震えが止まらなかった。でも皆の笑い声が聞こえて……そしたら震えが止まっていた」


「あー、これねぇ…… 多分コレ、魔法でわざと聞かせてるんだと思うよ」


「だろうな、この様な上等の屋敷で音がここまで漏れてくる筈がない。しかしこの笑い声が俺を癒したのは事実だ。なるほど彼が地位や金を求めず、これだけのために助力をするというのも頷ける」


「ん~、そうだね~。彼は本当に恐い存在かも知れないけど、同時に本当にみんなの笑顔を見たいんだなぁって伝わってくる。貴族とかのご機嫌取りとは全然違うんだよね。あいつらのご機嫌取りって結局取引でしかないでしょ? 美味しい目に合わせてやるんだから、俺にも美味しい目を見せろってね」


「くく…… そうだな。あいつらの笑顔は気持ちが悪い。守るならやはり領民の笑顔だな」


「うん、そうだね。

 あと、マグナルがあんたに『ごめん』だってさ」


「マグナルが?」


「うん、あんたを焚きつけて彼に刃向かわせた事を謝ってた。私は普通に『彼の実力が見たいから手合わせが出来るように上手くやってくれ』って言われてたから良いけど、あんたの場合はちょっと怒らせた方が上手く行くと思ったんだろうね」


「なるほどな……、確かにああ言われてなければ敵意を向けていなかったかも知れん」


「そだね、一応あんたは人間最強って自負はあったし、本来だったら気にしてないか、相手を尊重してたと思う」


「むう…… となるとマグナルに上手く踊らされたわけか。やはり俺は裏を読むというのが苦手なようだ。政治は出来そうにないな」


「まぁそれはマグナルの仕事だし。あんたの仕事は負けない事」


「あはは、あっさり負けたけどな」


「いやいや、彼はノーカンでしょう。それって蟻がドラゴンに勝負挑むようなものだから。蟻はその気でもドラゴンは勝負を挑まれたとも思ってないよ」


「そうかもしれん。俺の剣も子供の剣戟ごっこらしいし」


「あは…は… えっと、まぁ気を落とすな! あんたは十分に強い! アレを除けば確実に人間最強だ! 自信持て!」


「大丈夫、あそこまで隔絶していては悔しさなんか湧きようもない」


「そ、そう…? ならいいけど……

 そ、そだ、これ食べてみなよ。これ、すんごい美味しいんだよ!」


 そう言ってミリーは持ってきた料理を俺の前に置く。これは肉か?


 促されるままに口に運ぶと、口の中に一杯に旨味が広がる。既に料理は冷めていたが、それでも十分に美味しい。


「うまいな……」


「でしょ~! カラアゲって言うんだって。

 実は今、みんなでゲームをやってるのよ。それで上位2名に何でも美味しい物を作ってくれるの。

 それがもうとんでもなく美味しすぎるのよ!あんなの食べたら宮廷晩餐会とか豚の餌ね」


「そこまでか!」


「そそ、だからあんたもとっとと戻ってゲームに参加しなさい。絶対後悔しないから!」


「ふふふ、そうだな。よし、俺も参加させて貰うとしよう」


 きっと、何もかもが彼の思惑通りなのだろう。だがそれで良いと納得してしまっている俺が居る。確かに彼は恐ろしい存在だ。だが同時に神のごとき慈悲をも併せ持っている。彼は自分を利用するなと言う。だが、期待するぐらいはきっと許してくれるだろう。


◆◆◆◆


 俺は並列思考を使ってコッソリ客室のやり取りを聞いていた。どうやら将軍がトラウマになるのは回避できたようだ。防衛の要である将軍が戦えなくなったら流石にヤバイからね。ホント、マジで良かったよ。アイコンカラーもなんとか全員青系にする事が出来た。ふう、ほんと権力者ってめんどくさいわ。まぁでも必要な事だというのは理解できるだけに頭ごなしに否定は出来ないんだよね。欲に溺れる貴族も含めてさ。


 欲に溺れる王は流石にまずいが、欲に溺れる貴族ならそれなりに使い方はある。金や地位で動かせるなら予測しやすいし簡単だ。


 まぁでも、今回の件で『最後の手段』を使わずにすんだのは不幸中の幸いだった。将軍が立ち直ってくれたのも有り難い。ある意味必要な事だったとはいえ、将軍にはちょいとやり過ぎたかも知れん。後でお詫びを兼ねてとびきり美味い物を作ってやる事にしよう。


 その後、宴会は彼を交えて更に続いた。みんなのお腹が十分に満足した頃、外はすっかり暗くなっていた。お嬢はまだ帰りたくない風であったが、あげたぬいぐるみを自分の部屋に飾るのも楽しいですよと伝えると妙に乗り気になった。うん、この子は本当に残念なほどにチョロイ。将来悪い男の口車に乗せられないか心配である。


 こうして、激動とも言える一日はようやく終ったのだ。あーつかれた。

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