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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
二章 魔王編
23/25

革命準備と…

「んじゃ狩りに行ってくんね~」


「あ、待ちなさいカズ。ちゃんと四次元袋は持ったの?」


「大丈夫、ミュウのを使うから。ミュウの方が容量大きいし適当に大猪とか魚を取ってくるよ」


「そう、ミュウも行くのね。ちゃんとお兄ちゃんに守って貰うのよ」


「うん」


「それと村の外に出る時はちゃんと『隠蔽』を忘れないでね」


「解ってるって!」


「本当に解ってる? この前もそう言って役人に見つかりかけたでしょ! 近くに他の人が居なかったらバレてたんだからね!」


「ごめーん。でもそんな時は適当に『睡眠』かけておけば解んないさ」


「駄目よ。一応何時寝てもおかしくないように役人には『怠惰』の魔法はかけてるけど、これはあくまで保険なんだからね。過信しちゃ駄目」


「もう~解ったよぉ。ねぇ、行って良いでしょう? 今日はサイと狩り勝負するから早く行きたいんだよぉ」


「はぁ……しょうがない子ね。

 じゃぁ最後に一つだけ。今日は大集会があるから日暮れまでに必ず帰ってくる事。良い?」


「うん。わかった~! んじゃいってくるね~」


 はぁもう……、最近の息子はヤンチャが過ぎる。この前なんて役人に『睡眠』かけて眠っている間に変な格好させて写真取ったり……まぁ私も笑ってしまったから強くは言えないけど、もう少し危機感を持ってないとイザって時に大怪我しそうで心配だ。


 とはいえその息子もレベル100をこの前超えた。娘はまだレベル82だが魔法関係の才能があったらしく、息子に比べて魔法具などの作成が得意だ。私もこの前の誕生日に娘からの四次元収納袋を貰い、嬉しかったものだ。


 彼らが我々に接触をしてから二年の期間が過ぎ去った。村の大人は既に全員レベル100を超えている。夫はかなり頑張って182と言う昔の常識なら考えられない程の強さを手に入れた。しかしそれは私も同様だ。レベル119。私も一昔前ならマスタークラスと呼ばれ尊敬されるレベルになっているのだ。そうこれは魔物であるならエクステンドクラスと呼ばれる強さだ。


 実際、戦闘訓練において、殆どの大人が魔物との戦闘訓練を卒業していた。


 あれから成長し、レベル400となった森のボス、ガルであっても魔力圧縮をかけた一撃をあてると結構な怪我を負わせてしまうからだ。もちろん総合力ではガルを単独で撃破するような真似は出来ない。有効打を与える攻撃をするには、やはり多少の詠唱時間が必要だ。ガルはその僅かな隙を突いて我々をなぎ倒すだけの技量がある。しかしそれでも、そんなガルとそれなりに勝負が出来てしまう程に成長するとは当時の村人は誰も想像していなかっただろう。


 魔物訓練を卒業した大人はマルザさん達に直接訓練を付けて貰っているが、複数人で掛かっているにもかかわらずまるで有効打を与える事が出来ない。治療の時に全員レベル1000を超えているとは聞いていたが、本当に凄まじいばかりだ。しかし高レベル者との戦闘は凄く身になる事が多い。我々は確かにかなり強くなったが、武術という観点からすれば彼らにとってまだまだひよっ子なのだろう。動きにおける穴、戦闘構成における穴、彼らはそれを的確に突き指摘してくれる。そして我々はそれを修正し再び挑むのだ。最初は護身術程度が身につけば幸運だと思っていたのに、ずいぶんとのめり込んでしまったように思える。


 おかげで、偶に役人が暇つぶしに練習用の剣を振ったりするのだが、それを見ると「プッ」と笑ってしまいそうになる程情けない。アレでは村の外の大猪も殺せないだろう。優秀な先生が居るのと居ないのとではずいぶんと違うのだなと実感した。


 しかし、ここ最近彼らの表情が頻繁に暗くなるのが気に掛かる。あの顔には見覚えがある。そう以前私が彼に「何故手間暇をかけて助けてくれるのか?」と聞いた時の事だ。今の彼らの表情はあの時の彼に重なる。あの時『いつか全てを話す』と言っていた。約束の2年はもう過ぎている。戦える大人は全てレベル100を超えている。少なくともこの村においては既に革命の準備は終えている。帝国全土で一斉蜂起を行うので、多少の前後はあるだろうが、そろそろ決行日の知らせが来てもおかしくはない。もしかすると今日の大集会がそれなのかも知れないが、それと同時に彼らは何かを告白するのかも知れない。


 正直に言えば少し恐い。この事を考えると幾つかの疑念が浮かんでしまう。これは恐らく賢さが上がった事による弊害だ。ある疑念に対する状況証拠とも言うべき物が次々に頭に浮かんでしまうのである。しかし、彼らがもしソウだったとしても、少なくとも私は彼らを尊敬している。だが、疑問はある。あれほどまでに人の為に動き、親身になって助け、時には相談にも乗り、時には厳しく叱ってくれる。その様子はあまりにも聞いていた話とは違うからだ。だから出来れば彼らがソウで無い事を願っている私がいる。何故ならその方が安心しやすいからだ。


 でも、彼らがもしソウであるなら、私達はどうすればいいのだろう。これまでの全ての優しさ、信頼は我々を騙す為の方便だったら。そう考えるととても恐い。信頼していたもの、信じていた物を全て失ってしまいそうで恐い。だからもしソウであるならば私達はしっかりと問いたださねばならない。その意味を、経緯を。もう無知によって何かを失うのは沢山だ。私達は手に入れたこの素晴らしい宝物を絶対に失いたくはないのだ! だから、だから――


◆◆◆◆


 世の中って色々難しいな……と悶々と悩んでいると、息子達が帰宅してくる。いつの間に日は暮れようとしていた。


「ただいまー、かーちゃん。大猪10頭に、魚一杯取ってきたよ~!」


「どれ位取ってきたの?」


「ふふん! 俺が238匹にサイが215匹。狩り勝負は俺の勝ちだったんだぜ」


「453匹!? あんたまさか川の魚全部取ったんじゃないでしょうね?」


「そ、そんな事してねぇよ…… ちゃんと海まで行ったんだ!」


「海? 海って馬車を使っても一週間は掛かるわよ? 今の貴方たちが全速で走っても丸一日は掛かるんじゃないの?」


「それはミュウに転移使って貰った」


「ん、頑張った!」


「ミュ、ミュウ……、あんたいつの間にそんな長距離転移まで……」


「ふふん! 実はここ数日、転移を楽にする為のマーキングを地道に付けてたんだ」


「わ~っ! お兄ちゃん言っちゃ駄目!」


「もう、大丈夫よミュウ。マーキング付きでもとても凄いわ。えらいえらい」


 そう言って娘の頭を撫でると娘は「えへへ~」と嬉しそうに笑う。


「俺は俺は~? 俺も沢山取ってきたんだよ」


「そうだね。カズもえらいえらい」


「へへへ」


「それにしても今日はなんでこんなに採ってきたの?」


「今日は大集会でしょ? みんなでお腹いっぱい食べようと思って頑張ったんだ」


「そっか、でも多分その食材を使うのは革命後ね。今日は恐らくそれに関する話になるはずだから」


「あー、そっか。大宴会に突入して酔っぱらってたら戦えないもんね」


「それにしても四次元袋だから良い物の、もし普通に採ってきたら大変な事になってたわね」


「その時は肥料に加工すれば良いんだよ。あ、もし足りてないなら直ぐに作れるよ?」


「ほんとカズも言うように成ったわね。頼もしい息子に育った事で」


「へへへ~」


「さて、そろそろ役人を『誘導』で詰め所に眠らせて私達は広場に向かいましょう」


「あ、役人ならもうドレンのオッチャンが眠らせてた」


「そっか、じゃぁ直接向かっても問題無さそうね。直ぐに行きましょうか」


「おう!」

「は~い」


◆◆◆◆


 広場には既に大勢の村人が集っていた。ミールとケリーは遠隔調査魔法『妖精の囁き』を複数発動し村の周辺に変化がないか監視している。この魔法の優れている点は術者に遠隔地の様子を知らせるだけでなく、『妖精の囁き』の視界を他者にリンクさせ、それを魔法攻撃の的に使用できる点である。


 もちろん使用する魔法の射程を長距離でも可能なように個別に修行が必要だが、いくらかの魔法は既に対処済みだ。


 これにより役人などが万一起きても遠隔地にいながら再び眠らせる事も可能な他、招かれざる客が来た場合に、攻撃も可能となる。そしてこれは遠征時、帝国軍の大敗北を引き起こした原因でもある。即ち遠征軍は敵の姿を発見できずにいて当然だったのだ。なにせ敵は本当に視界外にいて其処から全てを狙い打ちにしていたのだから。


「ケリー達が監視をしてくれるなら安心ね」


「ミール姉ちゃんとケリー姉ちゃんは相変わらずすげーなぁ。50以上も同時展開って……『同調共鳴』だっけ?」


「そうね実力が近く気のあった者達だけが可能な技ね。力を揃える事で本来の力よりも何倍にも引き上げる。あそこまで見事な『同調共鳴』はあの二人ならではね」


「気があって実力が近いか……俺とサイなら出来るかな?」


「習得レベルは82だから一応取得はしてあるんでしょう? 一度試してみればいいじゃない。

 ただ、あの二人がその事で大喧嘩をする程に、使いこなすのは難しいって話よ。

 それに、ちゃんと同調できないと逆に力が落ちちゃうって話だしね。

 まぁでも機会があったら二人にコツでも聞きに行けば良いんじゃないかしら」


「そっか…… うん、今度聞きに行ってみるよ」


 最後の村人が広場に到着すると、マルザさんがいつになく真剣な面持ちで立ち上がる。それに対し村人達は静寂を持って迎え、彼の発言を待つ。


「皆、急な呼出しに応じて貰い感謝する。最近のあなた方の成長は我々も予想していなかった程の成長を見せ、瞠目に値する程だ。

 そして、昨日、計画が遅れ気味であった地区の調整も済んだと連絡が入った。即ち革命実行の準備は整ったと言う事である。


 決行は明後日の早朝、日の出より開始。我々の基本目標は領主の城、及び領主となる。各領主を落とした後、最後に帝都での仕上げとなる。


 我々は領地の外側から順に行動を起こし、中心に向かって貴族を排除、もしくは無力化しながら、ギリー城へ向かう。


 本来であれば、同士による完全同時決起を行えば、極めて短期間に帝国を落とす事も可能だが、それでは帝国に復讐したい人間にとっては納得がいかないだろうという、帝都や領主の住む街からの提案が多数出た為にこの方式が採られた。


 実際、同時決起を起こせば恐らく我々が討ち取る事の出来る貴族は、今でもマヌケに眠っている不正役人だけだ。それでは物足りないと思っている者達も多いと思う。役人を無力化した後は希望者を我々の転送魔法によって一緒に中心地に向かって順次移動。同士と合流を果たしながら目的を果たす。


 貴族達の生殺与奪に関しては全て君達平民の判断に任されている。生かすも殺すも自由だ。ただし、生かしておく場合は、その後貴族が成長し、復讐行動を起こす危険性がある事を留意されたし。


 この時点で何か質問はあるか?」


 すると夫が手を上げる。


「転移で送ってくれるって言うのはありがたいんだが、もし村の人間全員が行きたいって言ったらどうする? そんなに送れるのか?」


「それは心配しなくても良い。そうなれば私達は最後の戦いにおいて魔力が尽きてしまうだろうが、計算上ギリギリ可能なはずだ。何、魔力が無くとも万が一の時には君達を守る事ぐらいは出来る」


「………そうか、解った」


「他に質問は無いかね?」


「…………」


「無いようだな………」


 そう言うとマルザさんは深刻な表情で目をつぶり、大きく息を吐くとこう続けた。


「ならば、私達はこの作戦を始める前に君達に重大な告白せねばならぬ事がある!」


 そして再び深呼吸をする。


「正直に言えばこれを告白する事はとても怖い。今まで築いた全て、心地の良い世界を失ってしまいそうで恐い……


 しかし、本当の信頼を得るにはこれは避けては通れぬ道である事も良く解っている」


 また深呼吸をする。その様子は怯えた子供のように弱々しく、震えているようにも見える。彼は一旦目を閉じ、何度か深呼吸を繰り返す。彼の緊張、そして畏れが村人に痛い程に伝わってくる。そして彼はゆっくりと目を開けると決意に満ちた目で我々を静かに見つめる。


「……私達は魔族だ。グロウ教和国の人間ではない。人類の天敵、猛毒と怖れられる魔族なのだ。

 今まで長きにわたり騙すような真似をして本当に済まない!」


 そう言うと彼らは全員で頭を下げる。


 彼らは自らを魔族と言った。そうそれは、ここ最近、心の何処かで何時も燻っていた疑念だ。そしてそれは当たってしまった。


「卑下してくれても構わない、罵ってくれても構わない。この村を去れと言うなら大人しく去ろう。

 転送で送る事は出来なくなるが革命は君達だけの力でも十分に可能だ。君達が決めてほしい」


 夫はその様子に大きく息を吐き、彼らの前に出る。


「その前に幾つか質問させてくれ。

 今回の事は上手く近付いて俺達を取って食うって訳じゃないんだな?」


「違う、そんな事は絶対にしない! だが、魔族の言葉など信じては貰えないかも知れないが……」


「マルザさん、あんたらと伝説に聞く魔族じゃあまりに違いすぎる。伝説にある魔族って言うのは嘘なのか?」


「いや、伝説とされている魔族の振る舞いは本当の事だ。

 魔族は過去五回にわたって人類を滅亡の危機に陥れている。伝説は其処から受け継がれているのだろう。

 猛毒というのも本当の事だ。我々は魔法を使うだけで一時的に猛毒を分泌するのだ」


「猛毒? あんたらが魔法を使うのは何度も見たがそんな事は一度もなかったじゃないか」


「それは我々が持っている触媒の効果だ。ある人物から貰い受ける事が出来、我々はあなた方と真にふれあう機会を得た」


「だれだその人物ってのは」


「グロウ教和国、グロウ学園学園長、ケイジ・クニミツ殿だ。我々もまた彼に、この身をこの種族を救って貰った者なのだ」


「なんでそんな人間が魔族を救うんだ?」


「アレはあるか?」

「ええ、きっと聞かれると思ってたから人数分用意してあるわ」


 そう言うと魔族の皆が手分けをして村人全員に書類を渡していく。


「それはグロウ学園の応用学校において、現在取得が必須となっている講義の元となる論文だ。

 本来君達はこれを学んで然るべき教養を身につけている。

 だがそれをする事で我々の正体がばれるのが恐ろしく後回しにしていた」


 論文のタイトルには『魔力循環と魔を冠するもの者達の関係』となっている。

 集中力を上げ論文に一気に目を通していく。


 すごい……

 こ、これはもの凄い論文だわ…… これを書くのが、こんなのを書けるのがグロウ学園学園長……


「こ、こいつはすげぇ…… 何でこんな事が発見できるんだ? ありえねぇ」


「恐らく彼が居なければ、我々魔族と人類は、真実に何も気が付かず、自殺にも似た血みどろの戦いを今回も行っていただろう。

 だが彼はそんな我々を慮り、共存の可能性と手段を示してくれた」


「まさかそれが、今回の本当の計画かい?」


「そうだ。帝国貴族など何時でも殺せる。それは我々魔族でなくとも、グロウ教和国の人間でもレイシル信和国の人間であってもだ。

 しかし、彼はその役割を私達に与えてくれた。共に暮し、笑い、助け合えばきっと共存の道が見つかると。

 だがそれは傲慢な考えだ。君達は救おうと思えばもっと前に救う事も出来たのだ。

 それをせず、私達の我が侭で苦しみを長引かせただけなのだ。本当に、本当にすまない」


「顔を上げてくれ、マルザさん、みんな。傲慢なんて思っちゃいねぇ!

 あんたらが色々教えてくれたからこそ、自分の手で決着が付けられるんだ!

 あんた達はまるで悪くねぇ!」


「すまない、そう言って貰えれば助かる」


「ほんとにまったく…… もう心配させんじゃねぇよ!

 ほんと調子くるうよなぁ…… 人類の恐怖の対象って奴が……本当はこんなお人好し連中ばっかで……

 くそ、あんまり嬉しくて、泣けて来るじゃねぇか…… ほんとによう……」


 真実を聞けて夫は泣いていた。わだかまりとなっていた疑念はいつの間に消えていた。

 ずっと心の何処かで怖れていた恐怖、失う事の恐怖。それが今、起きないと確信できたからだ。

 そして私もいつのまに泣いていた。村人の多くも嬉しくて泣いた。そしてひとしきり泣いた後夫は涙をぬぐってこう答えたのだ。


「俺達はよ、本当はなんとなくマルザさん達の正体に気が付いてたんだ。

 もしかしたら騙されているかも知れねえとも疑った。

 だって幾ら高位レベルだからって全ての魔物の群れを操れるなんてありえねぇ。アレは魔族特有の力なんだろ?」


「そうだ」


「それにあんた達は一度だってグロウ教和国の人間とは名言しなかった。なる程、どおりであの遠征にも参加していないわけだ。


 正直言うとな、もう俺達はあんた達に心底惚れちまってるんだ。

 もしあんたらがこの国を乗っ取り、他国へ侵略をすると言い出しても、受け入れるつもりだった。

 先兵になれと言われれば喜んでなるつもりだった。


 あんたらは俺達に生きる意味を、希望を、幸せを、そして信頼をくれた。

 他にも本当に言葉に出来ない程に、あらゆる物を俺達に分け与えてくれたんだ。

 こんな大きな恩を貰っちまったら、俺達はどう返せばいいってんだよ? 命を幾ら払っても足りねぇぐらいだ。


 だから……だから、あんたらが俺らの仲間になりたいって喜んで歓迎する。いや、あんたらが断っても絶対について行く!。

 顔を上げてくれ! あんた達はこれからもずっと、未来永劫俺達の仲間だ!」


「ボーグ…… みんな…… ありがとう、ありがとう……」


 いつの間にさっきぬぐった涙はまた溢れていた。魔族のみんなも目を赤く腫らし、鼻水を垂らして泣いた。


 彼らはなんて純粋な生き物なのだろうか、こんな事の為に、皆必死で全力で我々に尽くしてきたのだ。彼らの純粋さに比べれば人間はなんと愚かな生き物なのだろうか。恐らく彼らが滅ぼすと決めるなら、それはきっと滅ぼされる対象なのだ。私達は決して彼らを裏切らない。彼らの仲間として相応しい存在になる事をここに誓おう!


◆◆◆◆


 あの後、決行日が明後日だと言う事もあり、宴会を開く事になった。奇しくも息子達が採ってきた食材は役目を果たす機会を得たのである。


「へぇ…… じゃぁ定期的に様子を見に来ていたローガンさんが魔王ってわけか。あの人も気さくで良い人だったな」


「そう言って貰えると嬉しいよ。あいつにも伝えておく」


「んで、レベルの事とか聞くといつもはぐらかしてたけど、本当のところどれ位あるんだ?」


「う…… あー、まぁ…… その怖がらないでくれよ?」


「はっ! いまさら怖がるもんかい! どんと来い!」


「俺はレベル3121だ。他のみんなも同じようなものだな」


「さ、さんぜん!? じゃぁ魔王ってのはもっと強いのか?」


「一万を超えたとは聞いたが、詳しい数値は聞いてないな」


「すげー、完全に天上世界の話だよ。どれ位強いのかサッパリ想像が付かん……」


「あー、そうだな…… 神竜ってわかるか?」


「ああ、世界の果てに住むという、伝説の最強生物だろ?」


「まぁ彼は今、別の種族に転生を果たしているが、転生前の強さがレベル1000相当だ」


「………… スゲェ世界だな。て事は今の最強生物は魔王であるローガンさんって事かい?」


「あー、いや、彼でも手も足もでない人が……」

「マルザ! それは言っちゃ駄目でしょ! 一応普通って事になってるんだから!」


「……………

 いや、もう解った。無駄に賢さ上げるもんじゃねぇな。なんとなく誰の事か想像付いたよ。

 グロウ教和国は神が最後に見守った国、神はあの日別れを告げたが……」


「い、いや! それ以上はまずい! 言っちゃ駄目だ! ていうか絶対に怒られる!」


「あははは! わーってるよ! でもそうか…… なる程そういう事かい。本当になかなか粋な事をしてくれるじゃないか。

 この世の中も捨てたもんじゃねぇな。生きてて良かったって思わせてくれやがる。良し、こうなったらもう一度乾杯だ!」


「お、おう!」


「『神の祝福に満ちたこの世界に乾杯!』」


「え? あはは…… 乾杯!」

「かんぱーい!」

「カンパーイ!」


 この後、皆調子に乗って朝まで飲み続け、翌日になってキュールさん二日酔い治療して貰うはめになるのだ。

羊達の大好きな狼はこうしてようやく、羊達の仲間として迎え入れられたのでした。


某童話ではどんなに努力をしても結局迎え入れられず、悲しく群れを去る終り方なのですがそんなのはやっぱり悲しいです。

なら少なくとも僕の物語だけでも狼を救ってあげてもいいですよね?


―――――――――――


なんとなく魔法解説。


『怠惰』:「なんもやる気おきネー、うだぁ……」って感じになります。副次効果として各種暗示や『睡眠』等が掛かりやすくなります。


『誘導』:相手をなんとなくその気にさせる暗示魔法。「今日はもう詰め所帰って寝よ」って思わせたりする


『妖精の囁き』:以前後書きに書いた、『観測手』が効率よく出来る魔法。


『同調共鳴』:ラジオのチューニングのごとくピッタリ合わせると凄い事になるが、ピントが大きく外れると効果がほぼ0になってしまう。

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