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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
二章 魔王編
21/25

成長

少し短めですが、キリがいいので投稿

昼にも投稿してますので一日一回しかチェックしない人はご注意下さい。

「こんな感じじゃねーか?」

「イヤイヤ違うって、こうだよ! って、あれ?」

「はっはっは、まだまだだな、良いか、良く見てろよ。 こんな感じで……こうだ!」


 そう言って、夫が木の鍬を振り下ろすと、冬の間にすっかり固くなった畑に木の鍬がざっくりと刺さる。


「おおすげー! なるほど、そんな感じか…… ふむふむ良し、これでどうだ!」


 ザクッ……


「よっしゃ!」

「おお~!」


 一見すれば単に鍬の振り下ろし方を教えているように見えるかも知れない。

 しかし、その内容の意味する所は、魔力の流れを見る『魔力視』を有効にすればまるで違う事が解る。

 彼らのしている事は鍬に対する強化エンチャントだ。さっきまでのやり取りは強化エンチャントのコツをタロウやゴンに教えていたわけである。


 実際の所、木の鍬なんかでまともに田起しが出来るはずがないのだ。通常の鉄の鍬を使ったって厳しい。固くなった畑には、鋭く細く尖ったものでないと奥まで刺さらない。だから鋤鍬がある。だけど、そんな細くて尖った物を木で作り、それを振り下ろしても直ぐに折れてしまうだけだ。


 ここ数年の収穫量減はまともな田起しが出来なかったのが大きいと思っている。木の鍬、木のスコップを使って畑を起こしていくのだが、もの凄く重労働の上に、良く壊れる。そしてこんな壊れやすい農具でも壊れれば役人に散々文句を言われるのだ。まぁ農具は無料貸し出しが決まりなので、弁償しろとまでは言われないのが、文句を言うなら鉄製の農具を返して欲しい。


 って、まぁ今となってはもうどうでも良いんだけど……


 あの後、今後についてかなり詳しい内容が語られた。我々が教育と修行によって強くなると言うのは前提条件ではあるのだが、帝国平民としての振る舞いについてだ。まず、この計画における期間なのだが、以前聞いたとおりの2年。これ以上は恐らくごまかしが出来ないだろうと判断されてるらしい。しかしそれは、革命まではあと1回は収穫期を迎えると言う事だ。


 グロウ教和国において、農業の収穫高は教育が始まる前に比べて約十倍にまで伸びたという。それを多少転用すれば農具の優劣を加味しても数倍は見込めると試算されている。しかし、いきなり数倍にしては怪しまれるだけなので、次回の収穫では農具を取り上げられる前程度に戻す事で徴税後に手元に残る収穫を増やし、見かけ上『遠征以前の生活レベルなら出来る』という状態に持っていくのを目指す。これによって貴族の前でもある程度健康的な暮しをしても怪しまれなくなる。それを目標とする。


 家畜に関しても、役人の居ない間に森や草原から確保したと言う事にして、何頭か貰う事にする。


 そして、その次の収穫では革命は終っているはずなので、その時出来る全力で作物を育て革命後の完全な自立を目指す。同時に、戦闘訓練などもより応用的な物を取り入れて行っていくそうだ。


 となると、今一番困るのは針だ。服は未だに繕えない。糸紡ぎと織機は壊れている訳じゃないから、実際糸を紡いでそれを織り、布にするまでは出来る。しかしそれを縫う事は出来ないから、精々ニカワで貼り付けて使うしかない。当然無駄にごわごわだし、良く剝がれるし着心地だって悪い。彼らに何か良案はないかと聞いてみた所「今は難しい」と言われたが、関連する情報として意外な事を教わった。


 どの領地も条件は同じだと思っていたのだが、どうも針やハサミまでも取り上げられている領地は、かなり少ないらしい。領地によっては包丁や鉈などの所持も許されている所があるとか。また、農村地ではなく商工業を主体とする街では仕事道具を取り上げると全く生産が出来なくなる。それは木で代用できる物じゃないし、貴族が使う刃物を作る鍛冶屋なんかは金槌も金床も必要だ。


 結局の所、貴族の生活や贅沢を支える職種に関しては取り上げに関してかなり免除されていたらしい。じゃあ農村地もちゃんと農具返してよ!って凄く思うのだが、貴族にとって「農業とは種さえ蒔けば勝手に生えて実る」という、職業の中では一番楽な職業に写っているらしい。即ち私達は、種を蒔く時と、収穫をする時、この2回しか働かない怠け者という認識だ。はぁもうなんだかなぁ……


 ただ他の生産職の人間に対し取り上げが緩和されていても、優遇されているわけでもないようである。我々よりも酷い税率で無理矢理な徴税を課せられたかと思うと、それにより莫大な借金と無謀な利子を負わせ、あっという間に彼らを借金地獄に陥らる。その上で「奴隷に身を落としたくなければ少しでも利子を返すんだな」と脅しているようだ。実際にはもう既に奴隷と同様なのだが、これ以上の下の生活にはなりたくないと言う心理を利用して働かせる訳だ。いや、もしかすると我々の様な何もない生活はそんな彼らへの見せしめを兼ねているのかも知れない。奴隷になると、本当に全てを取り上げられ、ああなるぞと示唆するわけだ。なるほど街は街で酷かったようだ。


 過去形なのはもちろんそんな街にも彼らの手が入っているからである。となると街の方の脱落者は借金を理由にする場合が増える様に思える。家族を売ると言われれば不安になっても仕方がない。所が、最初の説得の文言は此処と、街、いや職種や置かれている状況毎に違うようだ。例えば借金と奴隷化をネタに脅されている場合は、その意図と現在、奴隷について売買が成立しづらい状況を説明して納得させたり、既に子供などを領主に取り上げられ人質とされているような場合は、子供は予め救出し彼らの隠れ家で匿っていたりもする。


 ちなみに人質救出の際にはその子の代わりとなる死体もどきをその場に置いていく事で、領主には死んだと見せ掛け、脱走したと疑わせない様にしている様だ。当然その後は面会を希望しても決して会わせてくれなくなるが、怪しまれないように何度か面会に行かせたという。この人達は何をこんなに手間暇かけて私達を救おうとしているのか、なんだか手間のかけ方が間違っているんじゃないのか?と思って聞いてみたのだが、


「色々と理由がある。意地だったり、我々の存在を確認する為だったり、自分たちが何処まで出来るのかを確認する為だったり、本当に色々とあるんだけど……一番の理由は君達のような人に受け入れられ仲良くやっていけるのか?と言う事だ。

 そう言う意味では今の帝国の状況は我々にとって絶好のチャンスでもあったんだ」


 仲良くならもう既にしているじゃないか?と疑問に思ったが、悲しそうな顔をして彼はこういった。


「いつか、全てを話す時が来る。その時出来れば嫌わないで欲しいな」


 と答えた。


 その顔は、あまりにも自信なさげで、捨てられた子供のように怯えていて、そしてその事は私を酷く動揺させた。私は適当な言葉をかけると、その場を逃げるように離れることになったのである。何時も自信満々な彼らが、あれほど深刻に抱える悩みとは何なのだろうか。


 最近は得られる情報も考える事も沢山あって、なかなか考えや思考が纏まらない。賢さを上げる訓練を行ってはいるがまだまだのようだ。


 役人が去ってからと言うもの、彼らは村までやって来て精力的に我々を教え、導き、援助を行ってくれる。


 特に教えについては『賢さ』と言う物が最重要パラメータであると教えられた。それは通常のステータス表示では決して表示されない項目だ。その意味を教えられ意識して初めて自らのステータス表示にも表示されるようになる。


 実はこのパラメータは意識的に訓練する気がないと、幾らレベルを上げても一生変化しないパラメータなのだそうだ。しかしこのパラメーターの威力は絶大で、様々な能力の習得における時間の短縮、行動の最適化、集中力の増大、そして全てのパラメータを完全に使い切る為に必須であり絶対条件なのだそうだ。たった2年でレベル100迄上げる事が出来るのもこの『賢さ』によって効率の最大化を図っているかららしい。実際の所『賢さ』を十全に使い切るには『精神』の量も増やさねばならないのだが、此方に関しては様々な修行や生活でも上がっていくらしいので最初は何よりも『賢さ』を上げる事と指示を受ける。


 この賢さの威力はかなり凄い物らしく、同じレベルであっても賢さを上げる訓練を常にしている者とそうでない者では、まるで勝負に成らないレベルに迄差が付くらしい。呪文の詠唱等も大幅に短縮され、撃ち合いにおいて負ける事はなくなるし、戦闘に置いても常に最適化した動きで敵と対する事が出来る様になる。その結果『賢さ』の高さによってはレベルにおいて、本来ならば明らかに格上の存在であっても勝利の道が見えてくるらしい。


 だから一日一回の訓練は絶対に欠かせない。ただ、そんな良いものなら何度もすればいいと思うかもしれないが、訓練における疲労度が半端ないのだ。だから寝る前に一度だけと決められている。だが、となりのゴンが約束を破って、無理をして数回試みたらしい。結果、翌日に家でぶっ倒れているのが発見された。どうも『知恵熱』と言う奴らしい。キュールさんに治療されてデレッとしていたが、これを治療で治してしまうと訓練の効果は殆ど無くなってしまうらしいのだ。息子達には「ああなっちゃいけませんよ」と諭したら、ゴンは猿の様な顔をして「ムキー!」と怒ったのでみんなで笑った。


 そして田起しが始まる前までには、村人全員が初等魔法を扱えるようになっていた。人によっては幾つかの中級魔法まで習得している。本当に考えられない程の習得速度だ。


 戦闘訓練などにおいては、彼らが直接手ほどきしてくれるほか、なんと魔物も訓練に手伝ってくれる。自分たちが本気で斬りかかったり魔法を使っても絶対に倒せない様な魔物が訓練対象となる。万一大怪我を負わせるような傷を負わてしまても、彼らがちゃんと治療する。此方も傷つけてしまったらちゃんと謝る。すると言葉は解らないが『ガウ』とか尻尾を振って答えてくれるのだ。きっと『きにすんな!』と励ましてくれているのだろう。魔物もなんだか良い奴ばかりだ。彼らが使役しているからなのだろうけど認識が変わってしまいそうになる。さて、訓練で相手を傷つける程になると、訓練相手も変更だ。更にその上のランクの魔物が相手をしてくれるようになる。


 こうして私達は着実に知識と力を身につけていったのだ。

次回は貴族側の視点を予定

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