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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
二章 魔王編
18/25

謎の贈り物

前話の最期に一行追加しました。

オペレーションレボリューション開始です。

 家族の中で、一番の早起きは私だ。いつもの習慣通り、日の出前の約一刻前(二時間前)に目が覚める。


 朝は色々と忙しい。日の出と共に起きてくる夫に食事を出さないと行けないし、近場の小川から飲み水となる水を甕一杯に汲んでこなければ行けないし、最近は薪を買えないから近場の森に入って燃料になる枯れ枝や枯れ葉を調達をしつつ、食べられそうな草も採取しなければならない。ウチだけが特別貧乏なわけではない。帝国の平民は皆こんなものだ。


 切っ掛けは神とのお別れの後の大遠征だった。子供は徴兵免除だったため連れて行かれるのを免れたが、夫は片腕に深い傷を負って帰ってきた。遠征は大失敗だったらしい。まず信じられないような大きな落とし穴で前方の部隊が消失した。敵の姿も見えないのにだ。そして大きな穴の前で右往左往しているとバリバリという音と共に、夫の前の多くの兵が黒こげになったらしい。夫は慌てて逃げたが、そのバリバリは何度も帝国軍を焼いた。それでも必死に逃げると何故か帰り道は大きな土の壁で塞がれていたらしい。それでも逃げるために迂回しつつ進んでいくと何故か袋小路に行き当たった。そして次の瞬間大量の矢が飛んできて多くの兵士の命を奪う。夫の右手の傷はこの時に付いた物らしい。


 結局、この戦いで出兵した貴族は全員死亡。徴兵された平民も半数が命を落とした。どうも全ての攻撃は貴族向かって放たれていたらしい。周りの平民兵はとばっちりだったり盾にされて沢山死んだ。夫はそれに気が付いて貴族から距離を取る事で助かったのだという。最後の貴族が討ち取られた時「平民には用はない、とっとと帰れ」と言う怒声と共に、道をふさいでいた土の壁は消え、みんなで逃げ帰ったということだ。夫は運良く、戦いのさなか「貴族以外に用はない平民は命が惜しければ逃げろ!」と言う声がたまたま聞こえたから助かった様だ。しかし、多くの兵は恐怖におののく悲鳴で聞こえなかったらしい。


 結局この遠征で帝国は敵を発見する事も出来ないうちから、一方的に攻撃を受け、逆に帝国は何も攻撃できぬまま壊滅したのだ。


 国内に残っていた貴族はその結果に震え上がり、グロウ教和国がこれを機に攻めてくるのではと戦々恐々とした日々を送る事になるが、グロウ教和国から届いたのは「これ以上此方に干渉しなければ、攻撃はしない」という停戦要求だった。


 滅ぼされる事はないと安心した貴族達だったが、そうと解ると平民の弾圧が始まった。遠征によって貴族である事の全ての優位性を否定された彼らは、平民の反乱を恐れる事になる。国に残っていた貴族は遠征で疲弊している平民の家に押し入り、様々な物を奪っていった。まず武器や防具になりそうな(・・・・・)物を全て取り上げられた。剣やナイフだけでなく、金属製の鍬や鎌等の農機具、そして料理に使う包丁からハサミ、針までも取り上げられた。防具に至っては通常の鎧や盾はもちろん、少し丈夫そうな服まで徴発の対象だった。


 農作業においても全ての農具は役人が管理し、貸し出し制になった。だが渡される農具は金属部分がない木の鍬だったりする。金属製の刃物を持つ事は一切禁じられた為だ。


 当然そんな状態でまともな生産活動など出来るはずがない。あれ以来、服も縫う事も出来ないから、どんなにほつれても繕う事も出来ずそれを着続けている。農作業だって木の鍬では深く耕せない。収穫は目に見えて落ちたが納める作物の量は例年通りとされ、殆ど全ての収穫を取り上げられた。


 幸い息子達が石を割って刃物として使えそうな物を作ってくれたので、料理や食べられそうな草の刈り取りはそれで行っているが、そんな刃物で薪を割ったりまでは出来ない。必然的に平民に薪を作る事は出来なくなり、薪は刃物を使える貴族が独占して取り扱うようになった。だが買おうにも、平民は足下を見られ、通常の値段の数倍でしか買えない。まともに食べる物もなく、まともな生活も出来ない。


 今にして思えば、何故あの時停戦要求ではなく、攻め込んでくれなかったのかとグロウ教和国を恨みたくなる。貴族や役人も「恨むならグロウ教和国を恨め! 全てはあいつらが奪っていったのだ!」という。夫は貴族を恨んでいるが、もしかしたら私はだいぶ貴族の妄言に毒されているかも知れない。


 私は目が覚めた後、いつも通り櫛で髪を解く。流石に櫛は取り上げられなかったのでかろうじて女の尊厳を保つ事が出来ていた。


 身だしなみを整えると、娘と息子を起こす。息子は水汲を、娘と私は枯れ枝と枯れ葉、食べられそうな草を探すのが一日の最初の仕事だ。そして娘と息子を起こした後、居間に向かうと驚くべき物があった。


 肉だ。肉である。肉の塊である。


 生活手段と、収穫を全て取り上げられた時、少しでも腹の足しにするために、村のみんなで協力して一生懸命動物を狩った。弓矢も取り上げられていたから棍棒になりそうな木を森で拾って武器にした。狩りを始めた頃は「なんだ、結構取れるじゃないか! これなら何とか食べられるぞ!」と安心したりもしたが、連日村人総出で狩りを続ける事で、取れる獲物は目に見えて減っていったのである。


 もっと奥に進めばもしかしたらまだ狩りは可能かも知れない。しかしそれ以上奥に進めば魔物が出る領域だ。何人かは棍棒もどきを片手に奥に進んでいったが殆どが帰って来れなかった。もう狩りは不可能だった。


 そんな状況でもう2年は肉を食ってない。毎日の食事は草を生で囓るか、お湯を沸かせる時は煮て食う。高価な薪は冬を越すのに絶対必要で、そうでない時には使うわけには行かない。だから草を煮るなんて贅沢は枯れ枝や枯れ葉が多く取れた時だけだ。でも塩も貴重品なので本当にただ煮るだけである。そんな状況で一番のご馳走は偶に森で見つける事が出来る木苺だったりする。


 しかし、しかしだ。今私の目の前には肉がある。一体どういう事?


「ま、まさかあんた達どっかから盗んできたんじゃないでしょうね!」


「そ、そんな事するわけ無いだろ! 第一何処から盗むって言うんだよ!」


「そ、それもそうね……」


 貴族の屋敷になら肉はあるかも知れないが、そんな所に盗みに行けるはずもない。


「ミュウ、お父さん起こしてきて」


「うん」


 娘が夫を起こしに行く。寝室は居間の隣なので娘の「大変なの!直ぐに起きて!」と言う声が聞こえる。夫は夜明け前に起こされると決まって不機嫌なので愛娘に起こさせる。しばらくすると頭をボリボリかきながら不機嫌そうな夫が寝室から出て来た。


「なんだマリー、まったく何でこんな時間におこ……」


 起こすんだ!と言いかけて、夫は目が点になった。


「な、なんだこれ? まさかどっかから盗んできたのか?」


「な訳ないでしょ!」


「そ、それもそうか…… じゃ、じゃぁ何でこんな物が此処にあるんだ?」


「さ、さぁ?」


 久しぶりに見た肉の衝撃に視野が狭くなって居たが、良く見ると肉以外にも色々と置いてある。幾つかの果物と薪、そして何かが入っているらしい袋が幾つか、更には帝国では見た事がないような綺麗な紙束にそれが飛ばないようにするためか上に拳大の石が置いてあった。


 紙にはなにやら文字と絵がが描かれている。娘はその絵に興味津々のようでフラフラと引き寄せられるようにそれに触ろうとする。


「こら! 勝手にさわんじゃね!」


 と夫が窘めるが一足遅く、紙束を取るために石を持ち上げる。その声に驚いたのか、娘は「きゃ」と驚きの声を上げ尻餅をつく。


「お父さん! あんまり大きな声を上げないで下さい。誰かが来たらどうするんですか!」


「す、すまん……」


「しかし一体、何でこんな物があるんだ? 戸締まりはちゃんとしていたよな?」


「ええ、最近は冬用に取ってある薪を盗んでいく奴が居るって噂だからしっかり確認してるわ」


「ていうかウチの薪は……減ってねぇな」


 夫の言葉につられて居間の片隅に積まれた薪を見る。確かに減ってない。


「一体何だってんだ……」


「お父さん!お父さん! これくれるんだって!」


 いきなり娘が妙な事を言い出す。


「ミュウ、おめぇ何いってんだ?」


「んとね、んとね、石さんが喋ってるの。それでこれはわびだとかなんとか……」


「はぁ? 石が喋るわけねーだろ」


「ミュウ嘘いってないもん! あ、持っている人にしか聞こえないって言ってる。持ってみて!」


「お、おう………」


 娘に言われて夫が石を持つと、夫の目が驚きで丸くなる。


「こ、こりゃぁどういう事だ……本当に聞こえやがる。こりゃ魔法って奴か」


「本当なの? 私にも聞かせて」


「俺も俺も!」


「まてまて、俺が一度最後まで聞いてみる。オメェらはその後だ」


「ヤダヤダ、俺も聞く~!」


 っと息子が夫の石を奪おうとする。


「こら止めろ! オメェは母ちゃんの後だ!」


「うわ! ホントに聞こえる!」


「は? カズ、お前にも聞こえるのか?」


「うん」


「…………

 もしかしたらみんなで触れば一緒に聞けるのかも知れねーな。よし、みんなで石を触るんだ」


 夫は石を机に置き、その机を囲むように座った後、夫、息子、娘の順に触っていく。私もおそるおそる手を伸ばし石に触れた。


 すると頭の中に男性の声が響き渡る。


『いきなりの声に驚かせてしまう事をまず先に謝罪しておく。


 しかしどうしても秘密裏に伝えたい事があり、この様な手段を取らせて貰った。わびの印としていくらかの食料、塩、薪を受け取って欲しい。


 尚、この声は石に触れている者にしか聞こえない。秘密裏に事を運ぶには声を出すわけには行かなかったのだ。


 さて、本題に入ろう。


 我々はあなた方が帝国から不当に虐げられている事を知り、出来る事ならのその苦境から救いたいと願っている者だ。


 しかしあなた方が救われるには我々の力だけでは足りない。あなた方自身にも自らを救い出すための力が必要だ。


 何故なら今我々は表だって動く事は出来ないからだ。しかし有事の際には必ず駆けつけ、力を貸すつもりでいる。


 帝国政府、貴族達を打倒し、あなた方に自由な生活と豊かさを取り戻すには幾つかの段階が必要となる。


 その為に我々は必要な力を貴方たちに渡す用意がある。援助をする力がある。


 単純に彼らを倒すのは簡単な事かも知れぬ。戦を仕掛ければ可能かも知れぬ。


 しかしそれでは、あなた方の多くは貴族の盾とされ多数の無駄死にを強いられるだろう。


 それは我々の本意ではない。


 だからこそ、あなた方には力を付けて貰わねばならない。最低限自らの身を自分の力で守り通すだけの力が必要だ。


 その為には一時的な防御と言うだけでは足りぬ。あなた方自身に貴族の圧政を正面からはじき返す程の力が必要だ。


 だがしかし、事を起こすまではその事を決して貴族達に気付かれてはいけない。


 事を起こすのは一度きり、確実に帝国、及び貴族を、排除できる時でなければならない。


 恐らくその戦いは一日にも満たぬ短い物になるだろう。


 逆に途中で気が付かれたり、戦いに時間が掛かれば、貴族の矛先は直ぐにあなた方に向かうだろう。


 そうなれば待っているのは完全な自滅だけだ。


 貴族とてあなた方の収める税がなければ食べては行けぬ、しかし馬鹿な彼らはそんな事もお構いなしにあなた方を殺すだろう。


 そうなれば得られる税ももちろん減る、しかし自らの力で収穫を得る大切さを知らない貴族は更に君たちに無理を強いる事になる。


 その負の連鎖では確かに最後には貴族も滅ぶだろう。しかしそれに伴い貴方たちもまた、その滅びに付き合わされる事になる。


 彼らにとって税は、勝手に湧いてくる泉程度にしか思っていない。産み出す事の苦労を知らぬからこそあなた方の重要性を軽んじ、虐げる。


 我々はあなた方を軽んじたりはしない。あなた方は我々と共存し、共に助け合う仲間となるべき存在なのだ。


 しかし、もしかしたら一部の者が目先の金ほしさに貴方たちを貴族に売るかもしれない。


 もしそうなっても計画は失敗に終ってしまう。だから最低限の保険はかけさせて貰った。


 それは『忘却』の魔法だ。裏切りを意識した瞬間、配られた食料も物資の支援も消え、今回の出来事は全て忘れてしまうだろう。


 その者はいつも通り、何の力を持つ事も許されず、貴族の圧政に虐げられ、ひもじい日々を過ごす事になるだろう。


 だがもしその様な者が現れても、彼らを疎むことなく接してやって欲しいのだ。迂闊な行動で貴族に感づかれそうになる等、やむにやまれぬ事情があるかも知れない。


 それにこんな事で平民同士が傷つけ合っても、何も得る事は出来ない。むしろそれは貴族の目に止まる機会を増やすだけだろう。


 くれぐれも事を起こすまでは貴族に見つかる事の無いように頼みたい。


 尚、袋の一つには幾つかの石の入った物がある。その中にはこの石と同じように、心の中で声を再生する物がある。


 それは一緒に送られた紙と一緒に使用する事で、文字を学び最低限の知識を得られるようにする物だ。


 そして段階を経て、様々な生きるための知識と身を守るための魔法を習得して貰うつもりで居る。


 我々の食料や物資の援助は君らの頑張り、習熟に応じて頻度や量を増やすつもりだ。是非頑張って力を付けて貰いたい。


 そして声を再生しない石は魔導具になる。魔力を扱えない今はまだ使えないだろうが、物を斬ったり、食べ物を温める事なども出来るようになる。


 金属刃物の多くを取り上げられている状態であったので、金属による魔導具は避けさせて貰った。少々使いづらいかも知れないが、現状よりはかなりマシになると思う。


 最後に……


 幸せとは、待っているだけ、流されるだけでは、けして得られないものだと思ってる。


 我々には神に与えられた考える力がある。学ぶ力がある。そしてその真の力は人から奪う事無く、自信の手によって幸せを産み出せるものだ。


 君たちが近い将来、その幸せを手に入れられる事を切に願う』


「……………」


 なんか凄い事を色々言われた気がする……


 一気に言われた所為で混乱気味だけど、ただ一つハッキリと解ったのは私達は助かるかも知れないと言う事だ。


「最後の下り、聞いた事がある。こりゃグロウ教和国の教義だ。幸せも豊かさも教育によって自ら産み出す事にこそ本当の意味があるって事らしい。

 その力は平民一人一人が貴族を大きく上回る力を持ち、貴族の価値を消し飛ばしたとか……」


「え? じゃぁこれはグロウ教和国からの物だって言うの? グロウ教和国って言うのはこんな事も容易くできるほどの国なの?

 帝国はそんな相手に喧嘩を売ったの? 馬鹿なんじゃないの!」


「確かに、あの戦いは話にならん程の戦力差だった…… こんな事が容易くできるなら負けて当然だ。

 なにせ、これは食料だからいいが、もしこれが全てを焼き尽くすような魔法の道具だったりすれば、それだけで戦は終る」


「いっそ、そうして終らせてくれれば良かったのに……」


「まぁそう言う方法もあるかもしれんがな。

 だが此処はわしらが生まれ育った土地だ。ならばそれを取り戻すのはわしらの手で行うべきと思ったのだろう。


 そして停戦したのも、直ぐに攻めてこないのも、わしらへの被害を抑える為。わしらを慮った故の選択だったのだろう。現に彼らはわしらを一人残さず皆殺しに出来る力が在りながら、彼らは貴族を殺し終ると攻撃を止め、逃げるように言った。


 しかし予想外だったのは、帝国のわしらへの仕打ちだったのだろうな」


「………」


 正直に言えば少し複雑な気分だ。こんな現状に陥ったのは教和国の所為で今さらって思いがある。いや、本当は馬鹿な戦を仕掛けた帝国が全面的に悪いんだろう。でも、でもその戦の時に、彼らの力ならこの国がこんな風にならないような取り決めも出来たのではないだろうかと思ってしまう。


 これも、夫の言う貴族達の妄言に踊らされた結果なのだろうか。


「俺はこの石の指示に従って、本当の力って奴を身につけてみようと思う。お前達はどうだ?」


「…………解ったわ、私もやる。魔法とやらは力が無くても扱えるんでしょ?」


「そうだとは聞いている」


「じゃぁ私もやる~!」


「俺も!俺もやる! 一杯出来るようになれば一杯食べ物貰えるようになるんだろ?」


「む……そう言えばそんな事も言っておったな。じゃぁ家族みんなでがんばらねばな」


「うん」「おう!」


「でもひとまずは、貴方たちは今日の分の水を汲みに行きなさい。

 私は料理を作り始めるわ。久々に美味しい物が食べられそうね」


「「わーい! いってきまーす!」」


「じゃぁ俺はその間、他の物を確認してみるか」


「そうね、お願いします。

 話の中じゃ塩もあるって話だし、久しぶりに腕が鳴るわ!」


「そう言えば、そんな物さえも久しぶりなんだな…… 今日はお祝いも兼ねて腹一杯飯を食おう!」


 その日、村の多くの家から美味しそうな匂いが立ち上り、家から出て来た村人が妙に健康的で満足げな顔をしていた。だがそのために、農具を貸し出す役人の前でいつも通りの不健康を演じるのに苦労をしたらしい。


 そしてそんな村人同士の会話と言えば「昨日、良い刃物になりそうな石の塊を手に入れてな、機嫌が良いんだ」「はっはっは! おめえもか!」と互いに笑い合った。だけど何故かそんな話が通じない村人も数人いて、みんなから可哀想な者を見る目で見られたという。


◆◆◆◆


「ふう……やっと始める事が出来るな」


「ああ、ケイジ殿の要求がこれ程厳しいものだとは……」


 当初、最初の会議から三ヶ月後に始めるはずの計画は修正に修正を重ね、結局始める事が出来るまでに6ヶ月の期間を要した。


 今でもケイジ殿のお叱りの声は耳に残っている。


『現状認識が甘い。お前達が認識している帝国平民像は外向けに取り繕った物だ。旅行者はその街以外に行く事を許されていない。お前達の認識もその程度だ。ちゃんと調べろ』

『義賊? 止めておけ、そんな事をすれば確実に平民へ被害が及ぶ。差し入れは自力で稼げ』

『これが起きたらどうするつもりだ? こんな事は絶対に起きるぞ? その対処は?』

『没、無闇に敵対心を煽ってどうする。やり直し』

『魔法陣の詰めが甘い、やり直し』

『この魔法は魔族用の物だろう、人間には使えないぞ。やり直し』

『素材が全然足りないじゃないか、これは暗に俺に出して欲しいという要求か?ん?』

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 ブルブル…… ケイジ殿のツッコミは本当に容赦がなかった。しかも自分たちの手でやるといった手前、ミスの指摘はしてくれるが解答は絶対に教えてくれない。だけど俺達は頑張った!頑張ったよ!ついにケイジ殿に、


『ん、まぁいいだろ……』


 と、言わせたのだ!その時のみんなの安堵した表情は人間が思う『恐怖の象徴』とはかけ離れたものだろう。

 きっとこれが思い出になる時、笑いぐさと成るに違いない。


「準備するだけで、もの凄く手間が掛かったけど、上手く行くと良いわね」


「はは、いって貰わねば困るさ。

 しかし教育という物は面白いな。学習とはまた違った楽しみがある。

 人に教えると言う事は自分の得た物を改めて分解整理し、理解し直す必要がある。すると更に新しい発見があったりする。

 知識、知恵とは奥が深い」


「さて、この後も忙しいわよ! 次の配布はたった一週間後しかないのよ。


 調達班は直ぐに移動。

 テスト問題作成班は最終チェック終了後、配布の下準備をお願い。

 調査班は今回の配布の影響と脱落者の詳細を一軒漏らさず調査し、まとめて頂戴。


 では仕事開始!」


 副長のローレライが檄を飛ばすと皆がちりぢりに仕事に向かっていく。恐らく働く魔族なんてのは今代が初めてなんだろうなとふと思う。


「ローガン、あんたにも仕事残ってるわよ、今回の配布時に幾つか例外現象が起きたの。問題になるほどではなかったのだけど、チョット気になるのよね。

 資料はある程度は私がまとめたけど最終判断としてあなたの意見が欲しいわ」


「ふむ、見せてくれ」


 仕事というのはなかなかに忙しい。だがこれは一歩一歩確実に前に進んでいるという実感がある。これはこれで楽しいと思う俺が居るのだ。 

 簡単な戦力差解説。


 話の中で、実際の戦いの話が出たので少し解説。


 まず魔法についてですが、帝国の兵は貴族の一部が魔法を使えるだけですが、グロウ教和国の兵は全員が中級以上の魔法を使えますw

 なにせ一般人レベルで初級魔法が使えて当たり前なのですから。部隊長、将軍クラスになれば対軍魔法なども普通に使えます。

 もちろん魔法使い専門だからというわけではなく、中級レベルは騎士志望で会っても必須です。逆に魔法志望であってもそれなりの武術指導は行われます。危機に面した時、偏りすぎた技能は危険ですしね。


 おかげで、どちらも双方の苦労をよく知っているので、魔法使い派とか騎士派に別れていがみ合うなんて事もないです。


 それに対し、帝国ですが、遠征を起こすまではケイジが現れるまでのマズワ王国の強さしか知りません。目的も多少のダメージを与えればそれで帰って来て良し!だったこともあり、超なめた編成をしていました。具体的には、若手に手柄を取らせてやるつもりで、それなりの実力者は遠征軍総大将しか居なかった訳です。


 まぁ帝国の実力者が全員出て来ていても結果は実はまるで変わらないのですが、対軍魔法を唱えようとする事ぐらいは出来たかも知れません。しかし賢さの概念を知らない大規模魔術では確実に発動前に息の根を止められますが………


 大きな穴は土魔法です。戦術というより戦略級かもしれませんが、大きな穴を作ると同時に、その土を利用して敵を囲い込みます。弓兵は囲みの外から階段使って壁を登り、穴から弓を射る簡単で安全なお仕事ですw


 バリバリに関してはミリアリアさんの例のアレ、圧縮対軍魔法『殲滅する天界の雷』を使っているのですが、この時点では当然10分とかそんな時間は掛からず、一秒ほどのインターバルで出せるようになっています。他の上級な魔法の使い手も同じように最初は攻撃していたのですが、圧縮率が悪く貴族以外の被害が無駄に多すぎるため後半は弓兵に任せるようになりました。


 ちなみに何故軍の姿が見えなかったかですが、現代で言う狙撃手の相棒『スポッター(観測手)』の魔法版が居ます。遠隔地を写し出し、遠距離魔法手の手助け及び標的の検索を行います。最初の落とし穴の土魔法も同様に超遠距離から発動しています。


 解りやすい戦力差で例えるなら、帝国戦力を弓の射程と威力とすると、教和国はいつの間にか大陸間弾道ミサイルの射程と威力を持っていたわけです。


 教和国側も、新しい理念及び成長後の初戦闘であったために、調整がきかず、オーバーキル過ぎてビビって停戦要求した部分がありますw


 ていうか、革命準備が進むと、帝国一般平民はみんな最低で初級以上が使えるわけでですね。楽しい革命戦になりそうですw

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