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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
二章 魔王編
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それぞれの作戦

「何なんですかもう! 講義を始めた昨日の今日で何でこんなに話が進んでるんですか! しかも神竜まで味方に付けるとかどうなってるんですか!」


「まぁまぁミソノ様、落ち着いて。ケイジ殿のやる事にイチイチ驚いていてはこの先やっていけません」


「まぁケイジ殿だしな」


「ケイジ殿ですしね」


「ふふん! 私の恋人は凄いんだから!」


「イヤイヤ、恋人とはチョット違うだろう……」


「しかし魔族の強さってのはそれ程の物か。ケイジ殿にこの強さなら神竜にも勝てると言われうかれておったが、上には上が居るものだな」


 魔族の動きに変化在りと言う事でいつものホーム会議をする事になった。ちなみにレイシル信和国在住のサクラについては俺が転移で呼び寄せている。


「彼らの強さの最大の秘密は、意識を集中する事で自ら得た知識の共有、受け渡しが可能なことだな。僅か数ヶ月で人類に溶け込めるのもそれぞれの魔族が得た経験を積み重ねられる事が大きい。100人で一ヶ月行動すれば、100ヶ月分の情報が得られる事になる」


「なるほど…・」


「しかも個々の知能も高いから、人間がまともに戦って勝つには非常に厳しい物がある」


「いや、俺はそれでも奴らに対抗できるだけの強さを目指したい。でなければ対等の付き合いなどできぬだろう」


「まぁ確かに…… 訓練には付き合うよ」


 実際の所、人間が強くなるとその分魔族のエネルギーが増えるからどんなに頑張っても追いつける可能性は低いのだが、コレは言わぬが華だろう。


「しかし魔族による革命ですか…… 上手く行くのでしょうか?」


「明らかに失敗しそうなら手を出すかも知れないけど、まぁ大丈夫でしょう。彼らはやはり賢いよ。革命に何が必要なのか良く解っている」


「はぁ…… そうなんですか」


「君らには革命成功後に、魔族と上手くやれるよう、外交の準備をしておいて欲しいぐらいかな」


「良いでしょう。しかし、魔族に対する忌避感がそんな簡単に払拭できる物なのでしょうか?」


「今のところ触媒によって彼らの直接的な実害は無くなった。となれば後は好感度だけの問題だ。


 悪だと思っていた存在がチョットした善行や優しさを見せると『あれ? もしかして良い人?』なんて事はよくあるだろ?


 憎いと思う気持ちと好きと思う気持ちは本質的には同じだ。チョットした事で容易く反転するものさ。後は、それを積み重ねていけば魔族に対する認識は変わっていくだろう。好感を持つかどうかなんて現象は本能よりも経験や教育の積み重ねの方が大事だからね」


「解りました。今はケイジ殿の話を信じてみましょう。ですが、国内の調整を実際に行うには、ある程度は『魔族が善かもしれない』という認識が産まれてからでないと無理です。何しろ法国だった頃は魔族とは悪の象徴だったのです。それを払拭させるのは並大抵ではありません」


「だろうね……苦労するとは思うけどよろしく頼む。

 まぁ方法論としては、法国ほど忌避感がないグロウ教和国で正式な受け入れをし『魔族は安全でフレンドリーなんだよ~』という実績が出来ると信和国でも受け入れやすいかもな」


「なるほど…… ある程度魔族が進出した所で、留学生を多数そちらに向かわせると言うのも良いかもしれません」


「だね、認識を変えるには実際にふれあい、腹を割って話し合うのが一番だ。そうして徐々に認識を変えていこう」


「解りました。とにかく魔族が表舞台に登場するまでは実際の国内調整は保留と言う事で進めたいと思います」


「ああ、それでいい。マグナルもその方向で調整を頼む」


「良いだろう。了解した」


 さて、魔族の方も今後に向けての会議を始めたようだし、そちらを覗いてみるとするか。


◆◆◆◆


「知識の共有は済んだな? では本格的に今後の方針について話し合いたいと思う。


 まず我々が認識せねば成らないのは世界に対する役割を全うする事である。


 それは人間を殺す事ではない。魔力循環を正常動作させ、世界の発展を助ける事だ」


 まぁ実のところ、魔族に語ったこのあたりの下りは大嘘だったりする。この世界は練習用箱庭であり、様々な条件下での精神の変容を観察するという目的だったから、人類の滅亡もまた観察対象の一つなのだ。だから前神は意図的に本能レベルで、魔族は人間を嫌い、人間は魔族を嫌うように仕込んだ。もちろん魔力循環も目的の一つだが、それは文明のリセット時に魔力の質を同条件に揃えるための方策でしかない。そして五回も滅亡させたのは単に実験ケースを増やすためでしかなかった。


 だから彼らに語った「最初の魔族は人間に敵対しなかった」とか「本能的に人間を嫌うのは呪いである」なんて言うのは真っ赤な嘘だ。ただこれを正直に話してしまえば、先にあるのは地獄しかない。だがもう滅亡時の観察レポートなどは必要ないのだ。成ればこそ、彼らには嘘を吐いてでも、彼らにとっての新しい存在意義を提示してやらねば成らない。


 ただ、頭の良い彼らの事だ。もしかすると、今後それに気付く個体も現れるかも知れないが、できれば事実に気づく前に新しい存在意義でもって上書きされている事を願おう。


「さて、彼、クニミツ殿からの依頼の件だが、皆と話し合う前に現状の問題点を整理しておこうと思う。


 一つ、我らの力を持ってすれば帝国首脳陣を即日葬り去る事は容易い。だがそれでは国が混乱するだけであるし、我らは国を乱した敵としか認識されないだろう。即ちこれは我々の目的にそぐわないし、そもそもこんな物は革命ではない。


 二つ、革命とは国民の多数の意思を持って一致団結し、現状を打破する事に最大の意味がある。即ち我々がする事とは虐げられている国民に立ち上がる勇気を与え、彼らの幸福への道を整備する事となるだろう。


 三つ、多くの平民は様々な事を禁止されているために、自分が何故この様に虐げられているのかすら理解していない。現状を打破しようにもその方策すら思いつけない状況だ。大半の平民は現状を諦めてしまっている。これもどうにかする必要がある。


 四つ、現在活動中のレジスタンスもまた、あまりにも弱小だ。何故なら平民には武器の所持も認められていないし、魔法を学ぶなどの教育すら認められていない。移住も職業選択の自由もない。これは他の国の基準からすれば首輪のない奴隷と同義だ。レジスタンスである彼らは旅行者などから他国の現状を聞き、それを羨ましく思うも、何も出来ず、子供が癇癪起こしているようなものといえる。レジスタンスと良いながら実情はその鬱憤を盗みと言う形で昇華する『こそ泥』とさして代わりがない。これについても彼らの意識を正す必要があるだろう。


 以上を踏まえて意見を述べて貰いたい」


「一番の問題は、国家体制に不満はアレど、どう逆らったらいいのかさっぱり解らないと言う事かしら。

 逆らうための手段は片っ端から封じられてるわけだし」


「どうも今のような奴隷並に締め付けが強くなったのは例の神降臨以降らしいな。貴族どもは威信を維持するためにグロウ教和国に攻め込むも圧倒的な敗北でもって敗走。国民の反乱を恐れた首脳陣は徹底的に戦う力を取り上げる事に決めたらしい」


「なるほど、現状の帝国は実質的に平民が存在せず、貴族と奴隷しか居ないってわけか」


「そうなるな」


「そんな状態で国力が衰えるのは自明の理だろうに、あの国の貴族は馬鹿しか居ないのか?」


「大半が馬鹿ね。ボンヤリとこのままではまずいと感じている貴族も居るみたいだけど、彼らもまたどうして良いのか解らないと言った現状よ。下手に反体制である事がバレれば貴族の地位は取り上げられ、良くて本当の奴隷、大抵は一族郎党皆殺しね」


「聞けば聞くほど酷いな。よくそれで国としての体制を保っていられるものだ」


「ボンヤリと危機感を覚えていても、どうして良いのか解らない時点でやっぱり馬鹿なのよ」


「なるほど『無知は罪なり』と言う言葉が在るが、彼らは国レベルでその状態に陥っているわけか……」


「となると何らかの形で啓蒙を行う必要があるな。平民そして貴族の双方に。その為には最低限何らかの形で接触する必要がある」


「いや、貴族に関しては迂闊に接触するのはまずいだろう。敵味方の判別が非常に難しい、現状を認識し危機感を覚えている貴族であっても下手に接触すれば我らの情報、少なくともこの国に対し快く思っていない集団が居るという情報が一気に貴族全体に広まる可能性がある」


「そうだな。何をして良いのか解らないからこそ自らの身を守るために、皇帝に恩を売って助かろうとする可能性は十分に考えられる」


「するとやはり接触は平民からと言う事か」


「そうなるわね。平民の勢力が今後拡大し、平民が優勢ともなれば尻尾を振ってくる貴族も現れるかも知れないけど、貴族をどうするかは最悪それから考えても遅くはないんじゃないかしら?」


「ふむ、ではどう言う形式で平民と接触する? レジスタンスなどに此方から出向けば体制側のスパイと思われるだけではないのか?」


「そうね、出来れば向こうからこっちに接触してくれるのが一番有り難いわ」


「そうだな………… まずは義賊でもやってみるか」


「義賊ですか」


「まぁやっている事はレジスタンスの『こそ泥』見たいなものだが、盗む対象は特に評判の悪い貴族を中心に行う。そして盗んだ物は基本平民に還元する。ただ、ばらまきに関しては平民に迷惑が掛からないようにコッソリとバレないようにする必要がある」


「となると当面ばらまくのは金銭よりも食料などの方が良さそうね。金銭では物を得るために売買行為が必須だから目に付きやすいわ。それでは貴族の不審感に繋がってしまう」


「そうだな。当面はその線で行こう。


 そしてこの行為の最大の目的は、平民に明確に貴族に逆らう者が居る事を示すことだ。と同時に貴族の力を削ぐ事にある。


 困った事に現時点におけるレジスタンスの盗みの対象は我が身可愛さに少々儲けている様に見える(・・・)平民が対象だ。それだけ儲けているんだから俺にも分け前よこせ的なさもしい動機でしかない。だが、調査が甘く被害によって店が困窮に陥る事も少なくない。


 だからこそ、どうせ盗むなら貴族にしろと示す目的もある。


 で、我らの行為に多少なりとも感銘を受けるものがいれば、我らと接触を図ろうとするだろう。それをもって初めて彼らと接触する。


 義賊活動で得られる食料以外の物、例えば武器防具等は接触した彼らが信用できそうなら受け渡し、教育及び戦闘訓練を施すというので行こうと思う」


「………悪くないかもね。ただ食料に限って配布したとしても、いつかは平民に流れているのがばれると思うわ。だからそれを引き延ばすためにも我々の狩りで得られる獲物なんかも配布対象にしても良いかもね」


「ふむ……義賊の意味は解ったが、あまり与えすぎるのは逆効果ではないのか? 何もしないのに口さえ開けていれば食料が舞い込んでくる状況では堕落しか生まないだろう」


「確かにそれはあるかも知れないな。いっそグロウ教和国の教育システムに習ってみるか」


「どういう事だ?」


「食料の配布と同時に、教育と啓蒙を行う。食料と同時にテスト問題も置き、その成果によって次に貰える食料が増減する」


「あー、考え方は悪くないと思うけど、そもそも彼らの殆どは文字が読めないじゃない。その状態でどう勉強するのよ?」


「その辺は魔導具でなんとかしよう。思念再生石というのがあるだろう? アレを使おう。最低限の文字習得はそれを用いる」


「え? あれってもの凄い高価じゃなかった?」


「まぁ、何も記録してない石であるならな。だが我々は魔族だ。人間にとって入手が困難で高価な素材だろうが自力で取りに行ける」


「まぁ良いけどさ…… でも思念石や教育用セット、テスト問題を売買しようとしたり、役人に渡して貴族に媚びを売ろうとする者も出てくるんじゃない?

 一度それが横行すれば密告制度が始まるかも知れない」


「…………確かにそれはまずいな。何か良い方法はないか?」


「そうね…… 貴族御用達の高級店でよく使われる結界を併用した盗難トラップが応用できるかも知れない」


「具体的には?」


「通常の盗難トラップは店主に断り無く、店舗外に持ち出そうとすると大きな音や、微弱な雷を発して相手を痺れさせたりと言った物なのだけど、破壊対象を該当アイテムにし、起動フラグは貴族や役人の屋内侵入、もしくは害意を持つものってのはどうかな?」


「悪くない。いっそのこと破壊ではなく転送に出来ないか? その方が再利用できるし、完全に証拠が無くなれば役人を呼んだとて妄言を吐く人騒がせな奴としか思われないだろう」


「あ~転送ね…… 人間の魔力じゃ無理だけど我々なら不可能でもないか…… 解ったその方向で作成するわ」


「となると、最初の思念再生石にはその事についても触れておく必要がありそうだな」


「まぁその辺の文言はローガンに任せるわ」


「では俺は基礎教育方法について案を練ろう」


「なら自分は応用教育と啓蒙について作成しよう」


「ふむ、言い出しっぺの私としては結界陣の設計かな。素材が集まったら魔導具の関連付けに入るわ」


「よし、ならば他のみんなは素材の収集をお願いしたい。一定数が揃い次第実行に移る」


「「承知!」」


「成るほど成るほど、これは思っていたよりも面白い事になりそうじゃ。貴族が気づかぬ間に平民はどんどん力を付けていくわけだな。

 となれば我も素材集めとやらに参加させて貰おうかの」


「ご協力感謝します。ガレオン殿」


「なんの、我が好きでやるだけじゃ。そうそう思念再生石じゃが、我が引き籠もっていた周囲の山の一つにゴロゴロしておったぞ」


「なるほど、世界の果てですか……」


「此処からではちと遠いが、その辺は小僧に頼んでみてはどうじゃ?」


「……………いえ、確かに遠いですが、我々とて転移が出来ぬ訳ではありません。回復しつつ転移を繰り返せば一月ほどでたどり着けるでしょう」


「往復二ヶ月か」


「そもそも帝国中の平民の家屋に、気づかれぬよう結界陣を敷かねば成りません。手分けをして行ったとしても、恐らくそれだけで三ヶ月以上はかかると思います」


「なるほどの、了解した。では素材に関しては思念再生石を収集するグループとその他に別れた方がいいじゃろうな。我は案内も兼ねて里帰りするつもりじゃが、他のメンバーは素材収集後は結界陣の設置に回るという形になるのかの?」


「そうですね、恐らくそう言う形になるかと思います」


「石の必要量は?」


「帝国における平民の家屋の4~5倍は欲しいですね。現在の帝国における平民人口は約20万。一家屋あたり4~5人ですから石も20万と言った所でしょうか?」


「………に、20万か…… 其処までじゃとあの山だけで賄えるか厳しいかも知れん。 重さも相当じゃ全部を一気に運ぼうと思えば100トンには成るぞ?」


「………確かにそうですね。では初回は6万。必要に応じて継続して採取に向かいましょう。幾つかの家は教育の機会を逃すでしょうし、想定よりも少なくなるでしょう」


「ふむ、それであるなら何とかなりそうじゃな。

 しかしまぁずいぶんと大規模な作戦になったもんじゃ」


「我々の同胞も日々増え続けていますし、まぁ何とかなるでしょう」


 そんな彼らのやり取りを覗いていて俺が思った事。『獅子は兎を狩るにも全力を尽くす』とはいうが、全力を尽くしすぎだろう!

 だが、なかなか良いじゃないか。こうでなくてはな。

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