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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
二章 魔王編
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神竜

「ふぉっふぉっふぉ……、あの化物小僧の言うように本当に来おったわい」


「………あなたが三代目魔王にして、神竜と呼ばれる者で宜しいか?」


「如何にも。我こそは元三代目魔王ガレオンにして、神竜と呼ばれる者なり。よくぞ参った今代の魔族達よ」


「私は便宜上一族をまとめる役目にあるローガンと申す。あなたの話を拝聴せんとここに参った」


「はっはっは! そんなに畏まらずとも良いわ。我は元魔王とてお主らの魔王でもなければ、お主らに戦いを挑まれれば歯が立たぬ事も解っておる。そんな相手に畏まる必要もあるまい。

 さて何が聞きたい? 今の我は数千年ぶりに腹一杯飯を食わせて貰ったから、とても機嫌が良いのじゃ。我に応える事が出来るなら何でも答えようぞ」


「ではまず―――」


◆◆◆◆


「それでは、あなたはハッキリと魔力循環の仕組みを認識していたわけではないのですね」


「そういう事じゃな。我のは単なる経験談に過ぎぬ。人間を殺せば殺すほど魔物、魔族の不審死が増大した。最初はこの現象を人間側の奸計かと疑い、一層殲滅に拍車が掛かったのだが、最後の魔族が死ぬ段階になって、ようやくおかしい事に気が付いた。なにせその頃残っていた人間には戦う力は殆ど無く、ただ逃げまどうだけのクズしか残っていなかったのだから」


「なるほど、それが切っ掛けとなったわけですか」


「そうじゃ、我の生命を支え、世界に満ちあふれていた魔力は目に見えて減り、枯渇を起こし、我が命を保てなくなるのは時間の問題だった。だから最後の賭として我の身体を魔力依存度の低い物に改変する事を決めたのだ。


 それによって残留していた魔力はほぼ全て消え去り、我はかろうじて生き残ったという訳よ。とはいえ魔力がまるで足らなかったらしくての、やけに燃費の悪い身体になってしまったわけじゃ。この身体になってからは大きな魔法は使えんし、もうどうしようもなくての……」


「それで、このような極寒の地で閉じこもっているというわけですか」


「はっはっは、言ってくれるな。こうまでして代謝を抑えねば腹が減って仕方がないのじゃ。この生活はかなり辛いんじゃぞ? なにせ極力エネルギーを消費しないようにほぼ一年穴に引き籠もり、限界が近づいた時に一度だけ、周囲の山の一つに生息する生き物を全て食らう。それでも腹八分所か腹一分にも満たぬ。しかしそれ以上食っては次の食事の時に食べるものが無くなってしまうでの。結果、我は常に腹を空かしながら生きていたという訳じゃ」


「………そうまでして生き続ける意味を感じないのだが?」


「そうじゃな。我も馬鹿だとは思う。だがこんな愚かな我のために命を張り、我を守ってくれた多くの部下達を死なせた。我はその者達を率いた責任として、生き恥を晒す事に決めたのよ」


「…………そうか」


「しかし、これは凄い資料じゃな。なるほど魔力の循環か。魔族の命の元である魔力の原材料がまさか人間が使う魔法の残滓だったとは。これまでの魔王達の行いは全て自殺行為に等しかったというわけか。なかなかに興味深い。


 それでお主らはこれからどうするのかね? 見たところまだ産まれて間もないように見える。魔王化が始まるのは今の魔力密度を持ってしても数年はかかるじゃろう」


「あなたが化物少年と呼ぶ者の案に乗ってみようと思っている」


「何をするんじゃ?」


「グライト帝国を内側から崩し、魔族が安心して暮らせる国を作る」


「んん? そんな事をして大丈夫なのか? 人間に敵対すれば争いは避けられまい。そうなれば結局自分の首を絞める事になろう?」


「いや、それは大丈夫なのだ。あの国は人間が統治する国の中でもかなり腐っていてな。われら魔族は虐げられた国民を救うヒーローになって欲しいと言われたよ。この事に関しては周辺国も裏では納得済みらしい」


「ほほ、なるほど、そう言うカラクリか。神などと名乗る馬鹿者とは初めて会ったが、力だけでなく知恵も人間とは違うと言う事か」


「それで、あなたはこれからどうするのだ? 今まで通り穴に籠もって過ごすのか?」


「くっくっく…… よくぞ聞いてくれた!

 我の話を聞かせる事でお主らが納得し、小僧の思惑に乗るのであれば、我はこの腹ぺこ地獄から脱する事が決まっておるのよ!」


「な……」


「まぁ小僧からは嘘偽りなく話せば自然とそう言う流れになると言われたのでその様にしただけだがな。断じてお主らを口車に乗せて騙そうとしたわけではない事は元魔王の名に誓って保証しよう」


「……そうか。なれば問題はない」


 パチパチパチパチ……


「拍手?」


「いやいや、素晴らしい。皆さん納得していただけて何よりだ」


「小僧か」


「結論が出たようなのでね。待ちきれなくて来てしまったよ。で、どうするガレオン? さっそく腹ぺこ地獄から解放されるかい?」


「ふむ…… そう言えばどういう手段でそれを叶えるか聞いていなかったな。詳細を教えていただきたい」


「なに、簡単な事だ。君には新たな種『竜人』となって貰いたい。基本的な強さはそのままに、普段は人型に近い姿で燃費を抑える事が出来る。食べる量は一般的な人型が食う程度でお腹いっぱい食えるだろう。しかも竜化を行えば今のような姿になる事も出来る。その際の強さは人型の約三倍。即ち君の全盛期並の力を取り戻す事も可能だ。もちろん人型であるよりも腹が一杯減るので多用は出来ないがね。それでも今のような食っても食っても腹がふくれないと言う状態には成らないはずだ。良い条件だろ?」


「良い条件過ぎて、逆に疑わしいのだが?」


「うん、もちろん多少の縛りはある。端的に言えば魔族と同様、人間や魔族のみんなと仲良くやってくれる事が条件だ。それを破ればお仕置きタイムという奴だな」


「…………解った。その条件を吞もう」


「よし、では早速……『種族創造』」


「ぐ……」


 神竜の身体がみるみる縮まっていき、数秒ほどで人間とさほど変わらない姿になる。服はサービスで付けておこう。


「これ程までに簡単に我の存在を書き換えられるというのか…… しかも魔力の流れを一切感じないとは」


「まぁ俺の使うのは魔法ではなく奇跡だからね。君らの常識の範疇外と言う事だ。ただチョイト問題はある」


「なんだ?」


「竜人という種族は今のところ君だけだ。人間や魔族どちらとも交配可能なようにはしているが、それでは竜人という種族が薄まってしまうだろう」


「………なるほど」


「だから好きな娘が見つかったら一度私の前につれて来たまえ。彼女が納得し、君と共に生きる事を決めるならその彼女も竜人に変更してあげよう」


「なかなかサービスが良いな」


「これでも神様の代わりなのでね。新種族とも成れば独り立ちできる迄は面倒をみるさ。竜人も、君ら魔族も産まれたばかりの赤子のような種だ。親として面倒をみるのは当然だと思わないかい?」


「ふぉっふぉっふぉ! 我が赤子か! 言い得て妙だな。確かに我は生まれたてだ。だが今はその言葉に甘えさせて貰おう」


「魔族のみんなも、革命で手に終えそうに無い事が起きたら遠慮無く頼ってくれ。こっそり手助けする事を誓おう」


「いや、それは遠慮させて貰おう。我々魔族の知略がどの程度まで通用し、また、かの国民の心を捕らえる事が出来るのか試してみたい」


「結構、結構。それでこそ魔族の誇りという奴だね」


「ふむ、しかし革命か…… 面白そうじゃ。我もその企みに参加しても構わぬか?」


「それは俺の判断と言うより魔族次第だな」


「…………問題はないと思うが、少し考えさせてくれ」


「了解した。良い返事を待っておる」


「さて、結構な数の魔族が集まっている事だし、希望者にはここで触媒を配るよ~。

 ただ、一人づつは面倒だから希望者は触媒の形態を頭に思い浮かべてくれ。一辺に作成する」


「………相変わらずおかしなレベルで能力を使えるのだな」


「はは、まぁ神様みたいなもんですから。よし、みんな決ったようだね。では『マテリアライズ』。


 帰還に関しても何処に帰りたいのか想像してくれれば其処に送ろう。希望者は思い浮かべてくれ」


 俺は帰還希望者の心を読み取って次々に転送する。数分後には魔族のリーダーであるローガンと元神竜であるガレオンだけがここに残った。


「お前達はまだ帰りたくないようだが、何か話したい事でもあるのかな?」


「我はローガン殿に付いていこうと思っている。ローガン殿次第だな」


「………正直な所迷っている。理屈ではこれから起こす行動は種族繁栄のために正しい事なのだろうと理解はできる。だが、ならば何故魔族の本能は人間を疎むのだ?

 そもそもこの様な本能がなく、粘液のような人類に対し猛毒の物質を分泌しなければ、これまでのような不毛な争いは起きなかった筈だ。


 何故だ、なぜこの世界を創った創造神はこの様なむごい種族として我々魔族を作ったのだ」


「…………まぁ俺が創ったわけではないし、創造神と直接の面識がある訳じゃないからハッキリした事は言えないんだが、それでも良いか?」


「……聞かせてくれ」


 『ただの練習用箱庭だから』『どうでも良かったし何も考えてなかった』って言うのが真実なのだろうが……

 それじゃ彼は納得しないだろうな。となれば彼がそれなりに納得する理由を提示してやらねばならない訳か。


「まずは人類を疎む本能についてだ。ハッキリ言えばこれは呪いのようなものだ。代々の魔族、魔王が残した呪い。人類との戦いで散っていった魔族の悔恨。それらが積もり積もって代々の魔族に降りかかっている。


 事実、初代魔族には本能的に人間を疎むような種ではなかった。


 彼らはただ魔力循環のシステムの一つとして産み出され、人類と敵対するように創られた種族ではなかったわけだ」


 多少嘘が入っているが、まぁ仕方あるまい。


「………」


「ただ、君らの発生する粘液は人類にとっては猛毒だ。魔族に敵対の意思はなくても、人間からすれば最上級に危険な種としか写らない。


 はじめは小さな迫害だったのだろうな。そして更に悪い事に、魔族は強すぎた。理由は簡単。魔力循環を正常に動作させるには簡単に死ぬような種族では困るからだ。最初は小さな抵抗だったのだろう。だがその小さな抵抗も人類にとっては危険すぎた。ちょっとした争いはあっという間に大きな物へ変化し、血で血を洗うような凄惨な殺し合いに発展する事になったわけだ。


 そして、魔族、人類共に『滅ぼされた』と勘違いした思いが呪いとなり、その後の人類と魔族に本能的な反発を生じさせる結果となったわけだ。真実は『滅ぼされた』ではなく『無知による自殺』だった訳だがな」


「………」


「まぁ創造神の最大の失敗は、君ら魔族が分泌するものを最終段階まで進めずに一歩手前で止めてしまった事だろう。何千年何万年単位でしか世界を見ない神としては、いずれ浄化魔力として変化する粘液は、浄化魔力その物として認識してしまっても仕方がない。創造神がこの問題に気が付いたのは実際に問題が発生してからなのだろうな。


 そして君らの生物的な生態を新しく設計し直す力もかの創造神には無かった。神といってもその能力はピンからキリまであるからね。


 結局どうしようもない事に気が付いた神はこの世界を見捨てて去っていく事を決めたというわけさ。


 俺という存在はその後始末と言った所かな? だから俺のできる範囲で、悲劇を最小限にするためにサポートをすると言う事さ」


「あなたの言い分では、あなた自身、創造神よりも高位の力を持っていると思われる。種族の変更などと言う高度な真似をその場で行ってしまう程だ」


「………ああ、まぁそうなるかな」


「我々魔族のこの世界における役割は良く解った。しかしあなたがその気になれば最初から粘液を出さず、直接浄化魔力を分泌するような種族に変更も可能なのでは?」


「うーん…… 可能か不可能かで言えば。ほぼ不可能と言っておこう。


 魔族や魔王というのは世界システムの根底に近い部分に直接組み込まれた存在なんだ。それを変更すると言う事は世界その物を作り替える、即ち世界を一度消失させる事を意味する。だから現状を維持したままで変更するのはチョット無理がある。


 もちろん種族変更によって、既に産まれた君らを直接浄化魔力を分泌するような種族に変更する事は可能だ。ガレオンをそうしたようにね。だがそうすると別の問題が発生する。世界システムが、世界に充満する酸化魔力濃度に比べ魔族が少ないと判断し、規定値になるまで粘液をだす魔族を産み出し続ける。世界にとって俺が種族変更してしまった種はもう魔族ではないのだから。従ってこの方法は根本的な解決には成らない。


 結局の所、今のような即時に粘液を分解する触媒を渡す事が現状における最善なんだよ」


「…………そうか、我々は結局システムが創った出来損ないの駒だった訳か……」


「いやいや、君ら種族はとても優秀だし! 出来損ないなんてとんでもない!

 確かに安心して暮らすために触媒を常に身につけるという苦労をかけるが、君らは自分たちの存在に自信を持って良い。それは私が保証しよう。君らは世界を多いに助けている」


「………………………………………解った」


「ま、また何か迷ったら何時でも相談してくれ。俺のできる限りの事はするつもりだ。

 俺の希望はこの世界で出来るだけ多くの種が笑って暮らせるようにする事だしな。それに協力してくれると有り難い」


「………ふふふ、ずいぶんとフレンドリーな神な事だ。良いだろう了解した」

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