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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
二章 魔王編
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対処方針

「えっと済まないのだが、もう一度言ってくれないか?」


「いや、だからそろそろ魔王が発生するからどうする?って話」


「あの……… 魔王は実在していたのですか? 伝説とばかり思っていました」


 そう答えたのはレイシル信和国の議長であるサクラ・ミソノである。今回の集まりにはいつものグロウ教和国国王であるマグナル、宰相ミラービリス、将軍ガルフォード及びミリアリア、そして何時も何故か側にいるカレンである。ちなみにサクラ・ミソノは御年70を超えるお婆ちゃんであり、元メルーザ法国の巫女である。


 解説をしておくとメルーザ法国の巫女の選定基準は神の加護と称号のみで世襲制ではない。だが誰かに加護と称号が与えられるとその存在が誰であろうとほぼ拉致同然で法王庁が確保する。そして教育が施され、象徴として担がれる事になる。幼い時点でそれが発覚すると完全に洗脳である。建国当初は本当に神の言葉を伝える代弁者であったのだが、後半は法王庁が良いように利用するための傀儡であったのは言うまでもない。


 最後に余談になるが、神の加護が消えた後の彼女の扱いは酷いもので、完全に軟禁である。それでも、信和国と名を変えた後でも一般人の支持は高く、現在の政治形態が安定するまでは彼女が最高評議会議長という形で国をまとめる形を取っている。


「ん? 伝説?

 …………ああ、なるほど!」


「な、何がなるほどなのですか?」


「いや、今過去の魔王についての記録を遡ってみたのだが、面白い事が解った」


「面白い事とは?」


「この世界が出来てから5回ほど魔王が発生しているのだが、そのいずれの場合も人類は壊滅的なダメージを受けほぼ滅亡の状態に瀕している」


「な…… そんなの全然面白くないです!!」


「魔王の出現周期はおおよそ1000~2000年。前回の出現時もご多分に漏れず人類はほぼ全滅。僅かに残った集落のボスが初代イップクというわけだ。そして、その戦い自体が魔力の浄化作用だった。

 ただ、魔物も魔族も魔王も全て人間が魔法を使う事で発生する酸化魔力を活力源にしているから、人間を滅ぼす事で結局彼らも後追いのようにほぼ全滅している」


「…………」


「あの…… 魔族や魔王というのはそれ程までに強いと言う事ですか?」


「そうだね。基本的な身体能力でみれば魔物と人間では圧倒的に魔物のほうが優れているのは解っていると思うが、それに対抗できるのは人間に知恵があるからだ。だが、そこに人間以上の知能が加われば負ける要素は皆無と言っていいだろう。


 実際、既に発生した魔族は人間になりすまし各国へ潜入している。各国に潜入する事で人間の技術そして戦い方を学んでいるわけだ。驚く事に応用学校への入学も果たしている」


「なんだとっ! 直ぐにもそいつを捕らえ力を付ける前に殺さないと!」


「うーん、居場所を教えてあげても良いんだけど、殺したからって解決する問題じゃないよ。結局魔力の浄化が行わなければ、近い将来人間の使える魔力は無くなってしまう」


「ち、近い将来というのは、どれ位なのでしょうか?」


「発生した魔族を片っ端から潰したとして、今の産業でそのまま続けて魔力を消費したとすると、50年ほどで影響が出始めるね。具体的にはこれまで使っていたような威力が無くなり、一部の生物が死滅しはじめる。酸化魔力は毒でもあるからね。そして一つの種族が滅びれば連鎖的に他の種族も滅びかねない」


「…………」


「で、では産業廃棄物処理場のように酸化魔力の浄化施設を設置すると言うのはどうでしょうか?」


「まぁ不可能ではないのだが、50年以内に君たち人類の手で実現できるかを考えるとほぼ無理だ…… 恐らく500年はかかるな。それに魔族の方もそんな物を作っていれば当然邪魔しに来るんじゃないかな?

 もちろん俺が手を貸すと言う方法を採れば不可能ではないのだが、既に魔族が産まれてしまっている以上、戦いは避けられないかも知れん。


 それに一番の問題として人間が作成できる工場規模ではとても全ての酸化魔力を浄化できない。もし本当に作るのであれば全大陸の半分以上を浄化施設工場にしなくてはならないだろう。それは大変にコストが掛かるし現実的ではない」


「人間の内臓機能を工場に換算すると街一個分の広さでは足りないと教えられましたが、そう言うレベルの事と言う事でしょうか?」


「そうそう、そういう事」


「そ、それもケイジ殿に対処していただくというのは?」


「ある意味俺が産業を加速させたのが原因だから、俺自身が後始末するのも一つの手ではあるのだけど、俺にとって一番簡単な方法は今の文明を破壊する事なんだよね……」


「な……」


「他の方法というと、それこそ俺が四六時中酸化魔力から魔力を精製する工場となって、バランス調整をしながらまるで機械のように世界を監視する、といった奴隷のような生活を送れというなら不可能ではないけど、それは流石に勘弁して貰いたい。


 だから俺から勧めたい方策としては出来れば魔族と共存して欲しい」


「魔族と共存……」


「君ら人間からすれば『ゴキブリの様な害虫と一緒に手を取り合って暮らしましょう』って言ってるのに近いものだから受け入れがたいのは解る。だけど、半神の立場からすれば同じ知能ある生き物の片方だけに肩入れというのも微妙なんだよ。というか毎回人類と魔族が全滅するような世界だったからこそ廃棄処分が決っていたのかも知れないし……」


「…………」


「ただね、良い事もあるんだよ。人間社会に潜伏できるほどの知能を持っていると言う事は話し合う余地、知能があると言う事でもある。だからちゃんと互いを理解して話し合う方向で進めて欲しいんだ。


 魔族と共存をすれば魔法はこれまで以上に使い勝手が良くなるし、産業も更に発展する。魔族の方にも人間を攻撃するための魔法ではなく魔族発展のための魔法を使うように仕向けていければ双方が切磋琢磨してより良い結果が産まれると思う」


「先程、既に人間界に潜入しているとの事でしたが、見分けは付くのですか?」


「俺は見ただけで見分けが付くよ。ただ君らの場合はチョットした手順が必要かな?」


「手順とは?」


「簡単な方法は魔法を使わせれば良い。人間が運動をすると汗を掻くように魔族は魔法を使うと体表から粘液がしみ出てくる。これは人間にとって非常に臭い。というか完全に毒だ」


「毒……」


「まぁ化学的な見方をすると、オゾンに近い物質かな。人間が使える魔力の一歩手前の状態と言える。この魔力は気化して時間が立てば人間の使えるクリーンな魔力に変化するんだが、オゾン状態に近いこの物質は人間にとって非常に危険だ。


 直接触ったり吸ったりしても量によっては簡単に昏倒、もしくは死亡してしまう。しかも性質がオゾンに似ているために人間の使う魔法に対して強力な反魔法作用を引き起こす。


 人間の使う魔法は基本的に魔力を酸化させる形式を取るのだが、このオゾン魔力が近くにある場合、そのオゾン魔力と人間の使う魔力で魔力反応が優先され、正常な反応が行われない。即ち、人間の魔法を粘液噴出中の魔族にあてても、魔力反応は著しく阻害されて威力は大幅に下がるわけだ。


 一部の魔物でやけに魔法防御の高いものはこの性質に近い物を身体から分泌しているからと言うわけだ。まぁ個体数は無視できるほど少ないがね」


「………ケイジ、もしかして人間の使用する魔力量が少ない時はそう言う固体の浄化作用で間に合ってたって事?」


「そうそう、そういう事。流石カレンは飲み込みが良いな」


「で、では魔族共を捕らえて、森に植林するかのごとく、家畜として繁殖すればいいのではないか?」


「いやぁ、無理でしょ。人間よりも身体能力が高く、知能も一般的な人間よりも高いんだよ? この数年で応用学校にとけ込める程にね。そんなのが家畜同然の扱いで黙っていると思う? むしろ家畜化されるのは人間の方だと思うよ」


「う……」


「まぁでも正直ここまで知能が高いとも思っていなかったから、応用学校で世界の魔力循環に付いて必須教養課程として教えるようにすれば魔族も迂闊に人間を殺そうとしないかもね」


「そ、それは是非に実行して貰いたい。話し合うにしても正しい現状を双方が把握してなければ先に進めない」


「そだね。これまではそう言う魔力循環の事とか何も知らないうちに戦いが始まって、相手を殺す事は自分を殺す事に繋がると知らずに、泥沼の殺し合いをしていた訳だし。


 となると魔力の違いや変化を正しく観測できる機器の人類への提供は最低限必要だな。人類が自作しようとするとかなり高度な魔力文明が必要だから当分無理だし。こればかりは俺が用意しよう」


「…………高度な魔力文明が必要なのですか? もしかして毎回双方共が全滅していたのはその所為なのでは?」


「良く解ったね。そんな精密な違いを認識できるほどの観測機器を作れるというのは、それ相応に魔力文明も発達している。だが、当然その前に魔王が出現する。結果として魔力の本質を知らぬまま、本能的な嫌悪感だけで戦争が勃発し、共倒れになる」


「なにそれ! この世界、全然駄目じゃないですか!」


「だねぇ、だからこの世界は廃棄処分待ちだったんだろうね。どんなに丁寧に育てても一定以上文明が発達すると壊れる事が確定していたのだから」


「神の創った世界だと言うに何故こんなに不完全な……」


「あはは…… まぁ神様もピンからキリまであるわけでそればかりは諦めて貰うしか……」


「とにかく、人類が生き残るには魔族側との対話が必要不可欠と言う事か……」


「うん、取りあえず魔王誕生まで恐らく3年程と予測している。その前に学園に入り込んでいる魔族に現状を認識させるのが第一条件となるだろう」


「…………あの、我々はそれで良いと思うのですが、グライト帝国が納得してくれるでしょうか?」


「人間側の一番の問題は其処かな? 教育に否定的だから知識レベルも判断力も低い。気に入らない事があれば殺せばいい、欲しい物が在れば奪えばいいと未だに思ってる。だから、魔王が産まれれば喜々として戦争を仕掛ける可能性がある。


 そして攻撃を仕掛けられたら魔族側も止まらないだろう。魔族がグライト帝国とそうでない国とで区別をしてくれれば有り難いが、人間は皆同じと判断するとまずい事になる。


 というか戦争を仕掛けられたら確実に人間を家畜奴隷化しようとするだろう。総合力から判断して魔族にはそれが出来るだけの力がある。


 いや、戦略的にはグライト帝国の中枢に入り込んで、自作自演で戦争の起こすように仕向ける可能性もあるかな?」


「なんとしてもグライト帝国を説得せねばならないと言う事か……」


「ただ、グライト帝国にとってウチは『教育という訳の解らんまやかしで自国の国力を低下させた憎き敵』なわけだしね~。攻め込んでも敵わないと解っているから現状では戦争を仕掛けてこないだけで、本当は殺したいほどに憎んでるだろう。そんな国の使者が説得に言った所でまともな相手をしてくれるとは思えないな。最悪のケースで『魔族を攻撃して欲しくなかったら国を渡せ』とか自殺まがいの要求も考えられる」


「…………あああああ、あの皇帝ならもの凄くありそうだ……」


「国民を守るよりも、自分の命よりも糞なプライドの方を優先しそうだしね。被害を最小限に抑えるには、魔王が復活するまでにグライト政権打倒も視野に入れておいた方が良いだろう」


「此方から戦争を仕掛けると言う事ですか……」


「いや、戦争を仕掛けないまでもあの国にはレジスタンスが沢山いるから、それとなく協力をして革命を起こして貰うというのもありだ。もちろん革命軍のリーダーは話のわかる指導者でないと困るけどね」


「話のわかる指導者ですか……」


「グライト帝国の平民が学園に留学でもしていれば、見込みのある人間を焚きつけても良いんだけど、いかんせんあの国で留学を行っているのは貴族だけだし。あの国において平民は貴族に逆らう事の許されない半奴隷に近い。そんな状態では此方に呼んで教育などは夢また夢だろう。


 現状、留学中の貴族が平民主導の博愛精神に目覚めてくれるという奇跡にすがるしかないな。もしくは、グライト帝国が事を起こす前に魔王と接触して、協力を取り付け、グライト帝国を滅ぼすかだ。その後はもとグライト帝国跡地は魔族の国として繁栄させればいい。この方法ならグロウ教和国とレイシル信和国は救われる可能性はぐっと上がる。


 ただし、グライト帝国の平民は大量に犠牲が出るがね」


「…………国家元首としては自国民の安全を第一にと考えるとその選択も間違っていないのかもしれんが……」


「非常に後味が悪いですね」


「取りあえずは、グライト帝国にも現状の魔物の活性化と、魔力循環に関しては親書と言う形で警告を送って置いた方が良いだろう。あほな判断をしない事を祈る」


「その場合、潜入した魔族を見分ける方法は教えない方が良いんじゃないか? あの国の事だから捕らえて拷問とかやりかねない」


「そうだね、しばらくは教えない方向で進めよう。学園に潜入している者に関しては話が通じそうなら俺からコンタクトを取ってみよう」


「助かる。じゃぁ学園の方はケイジに任せる。俺達は親書の作成と事実が発覚した時に国民が混乱しないように少しづつ噂を流して置くぐらいか」


「そうだな、適当に噂が広まった所で真実として研究発表を行おう。ただ噂に関して、魔族は人間よりも生物として優れている云々は流さない方向で頼む。それを知った魔族に強気に出られても困るしね」


「解った。その方向で行く」


「んじゃよろしく~」

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