魔力循環
完結済みを解いてみる……
新国家設立から早四年。危険性の薄い農法や錬金術、産業については国家交流の一環としてそのノウハウの公開もほぼ無料で行っている。帝国政府は未だ貴族主義の知識の独占という意識が抜けきらないために技術の浸透は遅れ気味であるが、レイシル信和国ではグロウ教和国に追いつき追い越せとばかりに産業水準の上昇に伴う生活水準の上昇は目を見張るばかりだ。これで今後余程人口が増えすぎ無い限り、当分の間は平和な世界が続くだろうと思っていたのだが……
うむ、世の中そう簡単にはいかないものである。
現時点において少々困った事が起きてしまったのだ。産業の発展に伴う弊害というと何を思い浮かべるだろうか?日本において小学生卒業レベルの社会を学んでいれば直ぐに予測が付くと思うだろうが『公害』と言う物がある。当然、錬金術と名を変えた化学や、その他科学技術の発展に伴う産業廃棄物の処理に関してはその都度マグナルに法を制定させ規制を厳しく取り締まってきた。
が、全く予想していなかった公害が発生していたのだ。
一言で言えば『魔力公害』である。
正直な話、魔法についてはクリーンなイメージしか持っておらず、幾ら使っても問題ないだろうとタカをくくっていたのだ。だが現実は大間違い。魔力は使った分だけ汚れた魔力が充満するのだ。しかし自然にはこの汚れた魔力を浄化するための循環システムも当然存在する。これについては食物連鎖に例えると解りやすいかも知れない。草食動物が植物や植物の実を食べ、糞を出す。肉食動物は草食動物を食べ糞を出す。その糞は虫やバクテリアが食料として分解し、更に細かくして糞として土に返す。それをまた植物が吸収し、動物が食べられる状態にする。
動物は自分の糞を基本的には食う事はない。それは不要なものを固めたものであり摂取する事は毒を食らうようなものである。しかし、その中間に虫や植物を介す事によって、食えなかった糞が食える植物に変わるのだ。いや、この例えは回りくどいか……酸素と二酸化炭素の関係のほうが解りやすいかも知れない。動物が呼吸をし、二酸化炭素を作成しても、植物が二酸化炭素を光合成によって酸素に再び還元してくれる。そしてこれと同じ事が魔力にも起きるのだ。
では、魔力における植物に相当する物が何なのかという問題である。
ハッキリ言おう。魔物である。
人間が盛大に使った使用済み魔力を酸化魔力とするとそれを活動源として動くのが魔物なのだ。実際にはそんなに単純なものではなく、糞が食べ物に還元されるまでと同等以上のプロセスでもって酸化魔力は人間の使える魔力へと還元される。具体的に言えば魔物間における食物連鎖がそれにあたる。そして最終的な放出口が『魔族』や『魔王』である。まぁ穿った言い方をすれば、魔王という存在は公害で生じる赤潮の様なものだ。
結局、魔族が魔法を使う事こそが人間の使える魔力を増やす方法なのだ。逆に人間が魔力を使えば使う程魔物の活力源は増え、その頂点に立つ魔王の力も飛躍的に上昇する事になる。
正直な話、この世界における魔王というのは下級神が人類に対する嫌がらせ、ストレスケースとして発生させる類だとばかり思っていたが、魔王というのは魔法というシステムを維持するために必要不可欠なパーツだったわけだ。
それを考えてみると、人間と魔物、魔族、魔王は表裏一体であり、魔法を使う世界において共存が不可欠な存在といえる。
しかし、人間が糞にたかるハエを生理的に嫌がるように、本能的に人間が魔物を敵対視してしまう原因ともなっている。逆に魔物の側からすれば、人間こそが魔物の使用済み糞にたかるハエともなるので、こっちらからもやはり本能的に受け付けない存在となるわけだ。
実際の所、チートを使えば発生した魔族や魔王を殺す事も可能だし、酸化した魔力を強制的に人間の使える魔力に戻す事も可能ではある。だが、ぶっちゃけて言えばそれは非常に面倒臭いのだ。魔物や魔王のこの世界に置ける役割は魔力の浄化だけにはとどまらない。完全な魔物でなくとも酸化魔力を使う種族もそれなりに存在するし、一概に酸化魔力を全て通常魔力に精製などしたら、この世界の生き物の半分以上が死に絶える事になる。
魔物や魔族、魔王を完全に排除すると言う事は、世界から植物を完全に排除する行為に等しいのだ。
この世界の生き物はもう既に様々な魔力干渉が前提の生き物として確立されてしまっている。従ってこの循環システムを変更する事は世界を一旦リセットし、0の状態から作り替えるに等しい。世界の過去ログを参照した所、大本のサンプルは地球の生態系などからコピーをして作成はしているが、そこに魔力システムを流し込み、何十万年も熟成進化させ十分に馴染ませた後に、人類などの形成を行っているっぽい。即ちいまさら魔力に関わらない生命など皆無と言う事だ。
さて、この点を踏まえて現状を把握してみる。
俺の行った産業革命は、魔法に関してもガンガン使用している。ちゃんと調べなかった俺が悪いのだが、当時の俺は「クリーンなエネルギーとかサイコー!」とうかれていたので仕方ない。不幸中の幸いは化石燃料のように使いすぎると枯渇し、再度発生するまでに何万年という類でなかった事ぐらいだ。だが、今回の産業革命によって、本来なら200年は先であった魔王復活は数年以内に起りそうである。しかも歴代の魔王を遙かに上回る強さで。
魔王が発生する前触れとしての魔物の魔族化は既に始まっている。魔族化の原因は酸化魔力の濃度が上がりすぎたために、通常の魔物では処理しきれなくなり、効率よく消費するために知能を持つ固体が産まれる現象だ。これが更に進めば魔王の誕生である。
◆◆◆◆
「と、言うわけ何だが、君ら人類代表としてはどうするね?」
「……………」
うん、みんななかなかいい顔で固まってるね。さて、ホントどうっすっかな。