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真なるチートの活用法  作者: ぽむ
一章 マズワ王国編
12/25

新国家

 ――メルーザ法国。


 この国は神に認められた国だ。神に愛され神に認められ、神の加護に守られる国、それがメルーザ法国の筈だった。


 ある日告知広場に悲しいお知らせが張り出された。それは神とのお別れの告知だった。


 噂だけならあった。あらゆる神の加護が消えたと。しかし法王庁はずっとそれを否定していた。しかしいつからか巫女への『照会』の行為は神を疑う無礼な行為として禁忌とされ、巫女もまた人前に出る事もなくなってしまった。


 だから皆表には出さないが、疑っては居たのだ。神は我々を見捨てたのではないかと。事実、隣のマズワ王国では今でも神の加護による結界が国を守っているのに、我が国には何の恩恵もないのだ。法国は神から見放されたのだと思った。法王庁はそれも必死で否定したが、巫女の加護を『照会』する事は相変わらず禁じていたので、法王庁の信用は地に落ちていた。


 だから告知広場にお別れの知らせが張り出された時、私は「ああ、やっぱり……」と納得してしまったのだ。そしてそれは告知を見た多くの人が悲しみながらも受け入れる事になる。


 しかし告知には少しだけ希望の持てる事が書いてあった。10日後、神は最後のお別れをするために現世に顕現し、直接我々にお言葉を下さるというのだ。聞きたい。何故我々を見捨てたのかを、聞きたい何故マズワ王国肩入れするのかを、そして何故お別れしなくてはいけないのかを……。


 そして今日、神は最後のお別れをするために、顕れる。ここだけではない、世界各地へ写し身が顕れるとの事だ。偉大なる神の力はそんな事も可能にする。そう言えば帝国は神の結界に手も足もでなかったという。結界への攻撃は全て跳ね返され、敵意を持つ物は一切王国に足を踏み入れる事が出来なかったという。国を相手にしてもまるで動じない人類ごときが束になっても敵わない、そんな御方を今日直接お目に出来るのだ。


 そしてその時が来た。告知広場の上空が光り輝いたかと思うと、絵物語から飛び出したかのような荘厳かつ絶対の美と、絶対の不可侵を思わせる御姿が現れたのだ。一目で神だと感じた。街に流れる噂では神に対しての『照会』や『鑑識』すらも許されるらしい。私はしなかったが、幾人かは『照会』や『鑑識』を行い、そして涙を浮かべて跪いた。そして神は我々に最後の言葉を授与なされたのだ。


 ―――わが子らよ


 長きにわたり、汝らの声に答えずして済まなかった

 しかし私は知りたかったのだ


 私が愛した子供たちは、ちゃんと成長したのかを

 一人でこの地に立ち、生きていけるのかを


 子はいつか独り立ちをせねばならぬものだ

 そして今こそがその時なのだ


 もう我を頼る必要はない

 人は人のみの力で十分に生きられるのだ

 現に汝らは我の助力を得ずとも立派に生きているではないか


 これからは我の力など必要ない。

 我の認めた称号も必要ない。

 だから我は我に関わる全ての痕跡を消し、ここを去ろう


 これからは汝ら自身の力で生きていくが良い

 そして何時の日か、我が元へたどり着く事を心待ちにしている


「で、では何故マズワ王国に神の加護を与えたのですか! 何故我々には下さらなかったのですか!」


 今、かの国には新しい概念が産まれている

 そして我がこの地を去ろうとした決定的な理由でもある


 力を求める意味、知識を求める意味、それを正しく理解するものが現れた

 我はそれを見て我が子に巣立ちの時が来たのを確信したのだ


 だからこそ、私の最後の教えとして

 それが自分の足で立てるまで保護する事を決めた


 しかし、それももう十分だろう

 我の結界も今日でその役目を終える

 真の巣立ちの時は来たのだ


 しかし汝らが其処から何を学ぶかは自由だ


 我はもう教えを強要する事はない

 汝らはもう一人でこの地に立てる大人なのだ


 人は人の意思によって生きよ


 これからは何を正しいと感じ、どう生きていくかも汝ら自身が判断して決めるのだ

 我はわが子らを信じている


 神はそう言うと、顕れた時と同じように光に包まれ、お隠れになったのだ。


◆◆◆◆


 ――マズワ王国。


「神は言った。人は人の意思によって生きよと、神の加護に甘えず自らの力で立てと。


 だからこそ私は宣言しよう。神より頂いた名前ではなく、人が自らの力で立った証として、ここに新国家を宣言する。


 新国家の名は『グロウ教和国』


 神は新しい概念がこの国に生まれたと言った。私はそれこそがグロウ学園の教育理念であると信じる。


 知識や力は他者から財を奪うものではない。自らに足りぬ物を人を傷つけることなく、産み出す方法を知る為のものだ。


 私はそれを聞いた時、目から鱗が落ちる思いだった。


 我が国における現在の発展は、グロウ学園学園長の深遠なる知識によってもたらされたと言っても過言ではない。


 農業改革、産業改革、それに関わる魔法学や錬金術まで、その全ては学園長の協力無くしては達成できなかったものである。


 教育によって和をもたらす。それこそが我が国の進むべき道であると確信する!」


 ぐふ…… マグナルの奴…… まさか全国民の前で俺のヨイショとか…… しかも国名に学園名入ってるし。


 はぁ、確かに名付けには参加しないとは言ったが、まさかこう来るのは予想してなかった。


 いままさにorzの気分だよ……。まぁでも、学園国家ってのも国家の一形態としてありかもしれないな。


 あれ? でもまてよ? もしかしてこの国で一番偉いのは俺だって暗に宣言してるんじゃないのか? つーか半神が国の表舞台に出ちゃ駄目だろう? まぁ一応俺は人間って事にはなってるけどさ……


 うん、でもちょっとムカツクから後で呼出してとっちめておこう。


◆◆◆◆


 マズワ王国がグロウ教和国となって一月後、ちょっと予想外な事が起きた。


 グライト帝国は改めてグロウ教和国へ宣戦布告をし、首都ロッテリアルに攻め込んできたのである。


 予想としては攻めるにしても法国あたりではないかと思っていたのだが、どうもグロウ教和国が貴族制を廃止し、平民を尊重する国であり、尚かつ神が最後に認めたと言う実績が帝国の首脳陣にとって最悪に都合が良くない事だったらしい。


 称号の消去により貴族が貴族であるための神の後ろ盾が無くなってしまったため、平民を抑えるのが難しくなってしまったのだ。その為「もし本当に神が認めたのであるなら、どんな戦力で攻めても大丈夫なはずだ。人が人としての考えを認めるなら、人の判断をもって、正当性を確認するため、宣戦を布告する」と言った具合である。うん、回りくどい。


 グライト帝国としてはこの戦でグロウ教和国を滅ぼせなくても、グロウ教和国にダメージさえ与えれば『やはり貴族は必要なのだ』とある程度証明でき、帝国の威信と保つ事が出来るという筋書きだ。帝国にとってこの戦いは、今後の治世を潤滑に行うために必要不可欠だったのである。


 だが、運が悪い事にと言うべきか、グロウ教和国の国軍は俺の教えにより、今までのレベルでは想像持つか無いほどに強力に育っていた。そして更に運の悪い事に俺の結界が長い事国を覆っていたために、スパイが入り込む事が出来ず、その実態が全く伝わっていなかったのである。


 しかも新国家宣言では教育の国を謳っている。他国からすれば学者の国と思われても仕方がない。しかし実態は豊富な食料に支えられ、最先端の訓練方法と魔法学で鍛えられた精鋭軍だったわけである。


 結果、グライト帝国はほぼ持てる限りの兵をロッテリアル領に差し向けたにも関わらず、その四分の一にも満たない寡兵で手も足も出ず壊滅的ダメージを受けて撤退するしかなかったのである。


 これによりグライト帝国の貴族至上主義は更に陰りを見せ、内乱が頻発する事になる。恐らくそう遠くないうちに貴族制は打倒される事になるだろう。


 逆にメルーザ法国は、グロウ教和国に習う形で自国名をレイシル信和国と改名し、グロウ教和国と正式に同盟を結ぶ事になった。レイシルはメルーザ法国の言葉で人類を示し、人類同士が信じる事で平和をもたらす国という意味になる。ちなみにメルーザというのは以前この世界を管理していた下級神の通名だ。


 あまり変化がなかったのは獣人亞人が多く住むカレリナ共和国だ。この国は元々人間から排斥された種が集まって出来た国であり、大統領の称号を遡ってもそもそも神に行き着かないし、神をあまり信じていない。なにせ全く救いを与えていないに等しい仕打ちだったので、加護を受ける物がたまに居ても、あまり有り難られる事もなかったのだ。


 従って、神を出現させても「いまさら何しに来た?」と反感を示すか「へぇ本当に神って居たんだ」と言う程度で、信仰とはほど遠い反応だった。神の演説も「お前たちは十分に強かった為、つい手を抜いてしまい申し訳ない事をした」と謝罪をする事で取り繕うしかなかった。カレリナ共和国だけ神が見捨てた国なんて建前を作ったら人種差別による戦争が起きかねず、ちゃんとお前らも愛するわが子だよと示す必要があったのだ。


 つか、下級神の不始末を何で俺が取らなきゃいけないんだって気もするが、まぁ仕方がない。下級神もまさか自分の捨てた世界を破棄せず再利用されるなんて思ってなかったろうしな。


 ちなみにホンジャ国などがある遠い大陸は最初から加護も神の称号も無かったりする。あそこは完全に神の趣味で出来上がった物を持ってきて改造したらしく、レポート対象外だったようだ。なのでそう言う国に関しては神の出現もしていないので何の変化もない。出て行った所で「貴様何者だ!妖怪変化か!」と言われるに違いないし。


 遠い将来、ホンジャ国のある大陸と頻繁に交易が結ばれるようになった時、神が居なかった国として見下す者が出てくるかも知れないが、その時はその時で対処する事にしよう。

この後は前神の後始末の一つとして魔王編なんかも予定してたんですが、諸事情によりここで一旦終了します。

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