称号問題
そんな訳であれからホントに色々ありました。領主と出会ってから早7年です。13歳だったロリッ娘カレンも今は16歳。ん?計算が合わないって?まぁなんというか、ねぇ……
「できた!」
そう言って満面の笑みで精製したばかりのエリクサーを俺に渡すカレン。
「く……合格だ」
「いやったぁ!! ご褒美は『ケイジの寵愛』でもいいよ!」
「だからそれはダメだって言ってんだろ。今回も一年若返りな」
「むぅ…… 絶対いつか貰ってやる」
「はいはい、自力で若返りに秘法完成させたら考えてやる」
「もう、ほんとにケチなんだから」
「若返らせてやってるだけ、大サービスだっての。他の卒業資格者には称号しか与えてないんだからな」
「は~い。んじゃ『ステータス』」
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名前:カレン・ロッテリアル
年齢:15
性別:女
Lv:97
HP:738/738
MP:1328/1328
筋力:389
耐久:362
魔力:1159
賢さ:986
精神:2368/2368
生命:126
カリスマ:182/182
スキル:
『恋する少女』『探求者』
称号:
『上級薬師』『上級治癒師』『上級魔術師』
『上級錬金術師』『上級工芸師』
『応用教育卒業』『基礎教育卒業』
備考:
限界を超えた頑張りに精神が異常に発達した。
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ちなみにスキル欄に『上級魔法』だとか『なんちゃら剣術』とか『ツバメ返し』とか出る事はない。それらは全て人間が考え、人間の決めた枠内の決め毎でしかないからだ。スキル欄には人間の決める枠を外れ、その人間の性質とも言える物が付与される。神は確かに居なくなり、加護は消えたが、スキルとは世界システムが自動で与える世界からの恩恵と言える。まぁ俺のスキルは上位神から貰ったわけだが。
称号も、付く付かないで能力的には意味はない。称号は単なる証明書だ。『上級魔術師』が付いた途端に魔力とMPが上方修正!使える魔法も追加!なんて、ゲームっぽい事は起きず、ステータスの上昇も、魔法の習熟もそれまでの努力によって為される物だ。
もっと言ってしまえば、称号とは誰もが作り、与える事の出来る物だ。例えばガルフォードが『ガルフォード流剣術』を創設したとして、誰かに『ガルフォード流免許皆伝』を与えればそれで称号が付く。もちろん自分で『ガルフォード流剣術、開祖』を付ける事だって可能だ。その程度のものなので、貰った称号を自分で消すのも自由に出来る。
じゃぁ何のための物かというと、称号は『照会』と言う魔法で相手が許可さえすれば人に見せる事が出来、その称号が何時、誰にって与えられたのか、どんな内容なのか、そしてその履歴をも閲覧する事が出来るのだ。簡単に言えば就職に役に立つ資格の証明書となる。例えばカレンの称号の『誰によって与えられたのか』は『グロウ学園、初代学園長ケイジ・クニミツ』と出るようにしてある。
チートな俺は偽名にする事も可能なのだが、本人の能力証明に偽名はどうかな?と思ったので、ここは世界システムのルールに沿ってと本名で署名しておいた。ちなみに『グロウ学園、初代学園長』と言う称号は自称であるが、マグナルの今現在の称号『マズワ王国国王』は『マズワ王国国王イップク27世』により与えられたと参照でき、そして『イップク27世』は誰によって与えられたのか?とどんどん遡り初代『イップク』までたどり着くと神の名前にまでたどり着く事が出来る。
例えば今後カレンは、誰かに『中級魔術師』の称号を与える事が出来、その能力の保証として『上級魔術師カレン』と署名する事も出来る。その称号を見た人がこの『上級魔術師』は誰によってもたらされたのかと、調べると俺にぶつかる事になる。更に、称号は与えた本人に限り、取り下げる事も出来る。言わば『破門』が可能だ。これにより称号の信頼性を高める事ができるようになっている。
ちなみにもう既に死んでいるが『イップク28世』は最初はイップク27世の署名があったが、俺がミラービリス救出後に取り下げているため、殺される直前の国王の署名はクーデターの首魁であった貴族の名前になっていた。おそらくクーデターがあのまま成功していても王に対しての称号確認の『照会』は「無礼であろう」とか何とか言って許可しないか「称号をお渡しする前に崩御された」と言い訳するつもりだったのかもしれない。
だが貴族の爵位もある意味王より与えられた称号に過ぎないので、『イップク28世』だけでなくあの時点で『照会』から確認出来る貴族称号の殆どが取り消されていた。残っていたのは前王「イップク26世」から称号を受けた者のみだったのである。しかし不幸中の幸いというか、首魁の貴族は前王から『宰相』の称号を受けていたため、宰相により爵位を慌ててふり直したと言う顛末がある。
しかしそんな異常性は諜報機関をもって数人を調べれば何が起きたか容易に予測が付くわけで、もしあのまま政権を維持できていたとしても、諸外国から汚い政権と罵られ、下手すれば宣戦布告の建前に利用されていただろう。何せ隣国は基本全てがマズワ王国から認められ独立を果たした国なのだ。称号を遡ればマズワ王国の歴代に王に繋がり、それは最終的に神に繋がるわけで、正統に神に認められた政権ではないと言うだけで十分攻めるに値する事になる。即ちイップク28世の称号を受け取り、27世を速やかに殺し称号を定着出来なかった時点でクーデターはどのみち失敗に終っていたと言える。
王の呪いという茶番で多くの貴族が爵位を捨てる事になったのも、正当性を感じない履歴の爵位ではその価値は自称爵位とさほど変わらず、そんな事なら正統後継者であるマグナルより『役職』の称号を貰った方がマシであるという考えが多くあった。結局あの茶番で死んだのは、首魁である貴族と、武力を持って撤回させようとした貴族、そしてそれらに寄り添って甘い汁をすすっていた一部の者に限られたのだ。
しかしこの称号の履歴を遡る事でいずれ神に繋がる事が正当性を示すと言う考えは血筋を重視する貴族社会と何ら変わらず、何とかする必要がある。まぁこれについてはみんなが来てからだな。
と、随分脱線してしまった。
カレンの強さだが、実はかなりのチートと言える。父親のマグナルもチートだったが、この子は更に比べものにならない程チートに育ってしまった。いや、育ててしまったと言うべきか……
どれ位の強さかというと、レベルこそ当時のガルフォードやミリアリアとあまり変わらないが、恐らく当時の二人と模擬戦をさせれば二人同時に相手にしても勝てる。何せ魔法に対する習熟度がまるで違うのだ。賢さの概念も理解し、鍛えている上にそれ自体も魔法で加速出来る為、呪文展開も移動速度もまるで違う。恐らく今のカレンなら当時ミリアリアが唱えた極大呪文は僅か数秒で展開し、威力も数倍は出せる。ジャイアントトロールごとき一撃である。
ここまでの強さの原因は簡単だ。ただ闇雲に魔物や敵を倒し、殆ど全ての戦闘能力が『なんとなくの自己流』に過ぎない成長と、正しく効率的な戦闘理論、魔術理論、その他全ての理論を知り、更に自身の身体の意味を知った上で、常に最適解を模索しながら戦い、鍛えるのでは例え同じレベルであってもその強さの密度は全く違う。同じ筋肉量でも、武術を学んだものとそうでないもので強さがまるで違うのと同じだ。結果として高度な教育を受け成長した者は野生の同レベル帯に比べ数倍のポテンシャルを持つのである。
では何故カレンがそんな状態になってしまったのか、それは初めて領主たちが俺の家に来た時にまで遡る。
『ゲームで親睦を深めよう!』作戦が功を奏したのか、カレンは妙に俺の事を気に入り、毎日のように俺の家に入り浸る事になったのだ。
恐らく最初の理由は俺の家に来ると美味しいものが食べられるし、色んな珍しい物をくれるからと言う単純な理由だったに違いない。俺自身も怖がらせてしまったお詫びにとばかりに、かなり甘やかしてしまったと言うのもある。
おかげでカレンは仕事の時であっても常に俺の後を付いて来た。俺の硝子&製紙工場の指導の時にも、ベッドを作るための鍛冶や紡績指導の時にも俺が工員に理論や技術を教える時は常にカレンも一緒になって学んでいたのだ。学ぶ事に対する姿勢も熱心であったため、俺もついつい色々教えすぎてしまった。気づけばカレンはどの工員よりも優秀な技術者になっていたのだ。
カレンとの関係も随分変わった。はじめは「美味しい、楽しい」だった。次第にそれが「好き」になり、「大好き」になって、いつの間にlikeはloveに変化して「恋人になりたい」になっていた。そしてカレンが俺の永遠の17歳を超え、18歳の誕生日を迎えた時、泣き出したのだ。
「なんで私は歳を取るの? 私一人だけお婆ちゃんになるのなんてヤダ! ケイジとずっと居たいのに!」
『美少女の涙には勝てん』とは良く言ったもので、泣きわめくカレンに俺は専門学校の卒業資格を取る度に一年若返らせてやる事を約束したのだ。
其処からは早かった気がする。普段から熱心に俺の教えを聞いていたカレンだったが、それからは真剣に俺の授業を聞くようになった。その習熟速度は凄まじく、気が付いたらスキル欄に『恋する乙女』と『探求者』が増えていた。
『探求者』は未知への興味と習熟度の上昇で割とありふれているが『恋する乙女』はやっかいなスキルだった。
『恋する乙女』は対象の事が好きであればある程、その人と関わるための行動には何倍もの力を発揮できると言うもので、カレンは寝る間も惜しんで勉強した。通常ならあっという間に精神がすり切れる所だが、それでも無理矢理頑張った。おかげでいつの間に精神の値はとんでもない事になっていたのだ。そして僅か二年で5つの卒業資格を得てしまったわけである。
「えへへ、あと二つ取ったらケイジと出会った時と同じだね」
「そうだな。でも他の卒業資格は直ぐには取れないぞ? 今までのは工員への指導を一緒に受けていたから短期間で済んだだけなんだからな」
「うん、頑張る!」
「…………まぁ、いいか。 でも頑張るのは良いが無理はするなよ」
「うん、頑張る!」
「………」
「ねぇ、私ちゃんとケイジの恋人に近付いてる?」
「ま、まぁ近付いてるかもな」
「このまま勉強続ければ不老不死や若返りにも届くんだよね?」
「ま、まあな」
「そしたらずっとケイジと居られるね!」
「……… そうだな……」
「えへへ」
永遠にこの世界をカレンと共に生きるか……。最近それも悪くないと思ってしまっている俺が居るのだ。
そんな少しだけ甘い時間を過ごしていると、呼び鈴が来客を知らせる。時間ピッタリだな。
「ウィース!」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔するぞ」
「失礼します」
順に、ガルフォード、ミリアリア、マグナル、ミラービリスである。
「む、カレン。また若返ってしまったのか。父親としてはその成長(?)を喜ぶべきなのかそうでないのか……」
「えへへ、喜んで良いんだよ。だってそれだけケイジと一緒にいられるんだから」
「むう……」
「あっはっは! マグナルも大変だな。相手がケイジじゃ怒る事も出来んな」
「うっさい! そんな意見は子供作ってからにしろ。この万年独身男が!」
「あはは、言われてやんの。 ガル、何だったら私と作ってみる?」
「え、いや……その……」
「はいはい、皆さん立ち話は其処までにして席について会議を始めましょう」
うーん、ミラービリスもすっかり宰相っぽくなってしまったな。もと国王とは思えん。
「で、今回の呼び出しは何決めるんだっけ?」
「称号についてだ。もっと言えば神に連なる称号についてだな」
「称号をどうにかしたいってのは聞いた、何かまずい事があるのか?」
「簡単に言えば廃止した貴族と同じ理由だよ。
確かに初代イップクは神によって王の称号を受けてはいるけど、これが不味い」
「何がまずいんだ?」
「最初のイップクは確かに神が認めた人物だったのかも知れん。だが、以降のイップクは神ではなく、神の代行者を自称しているだけの人間だ」
「………」
「まぁ、神が居る間の話なら『神の代行者』を自称していてもある意味問題はなかったかも知れない。神が不適切と判断すればその称号を消す事だって出来たのだし。しかしそう言った経緯で神に連なる称号が消された事はない」
「そう言えば聞いた事無いわね」
「理由は簡単だ。神は正当性を与えるために称号や加護を与えていたわけではないからだ」
「ど、どういう事なの?」
「専門学校で『生物学』を専攻していれば実感しやすいのだが、特定の生物の生態観察をする場合、身体の一部にタグを付けて監視をする。特定の一匹を追う事でそれに関わる固体との関係を知り、全体を知るという方法がある。神の与えた称号というのは正にそれでしかない。加護も同様だ。群の中で病気が流行ったり、絶滅が危惧される場合、群が全滅すると観察できないために、治療をしたり、それに対処する力を与えたりする。それが加護だ」
『…………』
「だから元々神から与えられた称号や加護に正当性は欠片もない。たまたま目に付いた物に観察用に与えるだけだ。初代イップクについては群のボスザルとして君臨していたので、ボスザル付けたタグに『ボスザル』と書いておくように、初代イップクにも後で見た時の判別用の名称として『王』と付けたに過ぎない」
『…………』
「しかし人間はそうは思わなかった。これこそが神という超越者に認められた証なのだと、正統の証なのだと勘違いした。超越者が印を付けたと言う事以外には何の根拠もないのに。自分たちには解らない計り知れない理由があるのだと考える事もせず盲信した。その方が自分たちにとって色々と都合が良いからだ」
『…………』
「ま、人間って言うのは信じたい物を信じる生き物だから仕方がないんだが……」
「そ、そうなのかも知れませんが、それではあまりにも……あんまりです……」
「で、では加護との違いはどうなんだ? 加護は消えても称号は残ったじゃないか! 其処に意味が、神の意志があるのではないのか?」
「残念ながら無い。称号はあくまで神にとっては観察対象の印でしかない。
加護や寵愛との違いは、そうだな……
今現在もそうだが自分の式神が王国各地で指導してる訳だが、これは自分が並列思考によって多数の人型を『常時監視』して初めて可能となる。
加護とはこれに近い。常時監視をしているからこそ、必要な時に必要なだけ力を貸し与える事が出来る。
カレンは俺の寵愛が欲しいと言ってたが、それは実のところトイレの時もお風呂の時も常に俺が監視しているって事と同じな訳だ」
「……え? そ、そうなの? あ、でもケイジなら良いかも」
「う…… まぁそれは置いて置いて、それに対して称号は単なる印でしかなく、手紙に押された華印と同じようなもので常時監視の必要はない」
『…………』
「まぁハッキリと事実を言ってしまうと、前の神は観察を終えた後、後始末もせずにこの世界を放ったらかしにして去っていったと言う訳だ」
「な……」
「なので、俺の立場からすると後始末としてしっかり掃除をしておきたい」
「具体的にどうするつもりなのだ?」
「履歴を遡ると神にたどり着く称号はこの世界から全て消すつもりだ」
「な……… そんな事をしたら、大混乱になるぞ!」
「なるだろうな。しかし元々神の正当性なんて幻想でしかなく、正常な状態に戻るだけだ。
これからは実績を持った人が自ら称号を設定し、与えていけばいい。
神などという正当性の根拠もまるでない物に頼るのではなく、人が人を認める事でその信頼の証にすれば良い」
「では『マズワ王国国王』という称号も消えると言う事だな?」
「そうなる。周辺国の国王の称号も巫女の称号も全部消える事になる。
ただまぁ今のところ自称『神の結界』も継続中だし、神に近い超越者が居るって事は他国もうすうす感づいてると思うがな」
「そうだな…… メルーザ法国からの問い合わせが絶えない」
「まぁ、あの国は自称『神の声を代弁』する巫女が加護を失ってかなり混乱してるしな。神と再び繋がる方法があるのなら藁にでもすがりたいって所だろう。しかし考えてみれば神の加護なんて無くても30年近くちゃんと国を治めている訳で、元々神の加護なんて飾りでしかないんだよ。そもそもアレの加護って単なる治癒魔法のブーストでしかないので、専門学校で治癒師を専攻しちゃんと学べば誰にでも使える。その程度で『神の代弁者』とか片腹痛い」
『…………』
「だからこそ、僕から与えるのはただの学園長としての卒業証明だけで十分と言う事になる。
その力は神に頼ることなく自らが勝ち取った本当の自身の力を証明する、実績のある証なのだから。
実績の伴わない称号や、なんとなくで選ばれた加護なんて物に意味はない」
「言いたい事は解った。 だが、我々を集めた理由は何だ?」
「まぁいきなり消しても良いんだけど、そのままじゃ確かに混乱するんで事情を説明する者が欲しい。
具体的には、称号を消す理由、今後の称号の扱いについて説明する者が必要だ」
みんなの視線がマグナルに移る。
「え? え? お、俺か? ちょっと待て! ちょーっと待て! 俺元々単なる辺境伯だよ? そんなのにそんな重大な事させんのか?」
「でも実際に今この国は神の加護を受けてるって事になってるわけだし、その国の国王だし、仕方ないんじゃねーか?」
「いやいや、それは流石に荷が重すぎる!」
「くくく…… ま、マグナルならそう言うと思った。 つか、マグナルに神の代行者を名乗らせたらそれは今までと何も変わらないだろう?」
「あ、そう言えば……」
「んで、こんなの作ってみた」
と言って、この世界の神の姿と目されている者に近い式神を出す。
「な……」
「こいつに、『照会』を使ってみろ」
「………そ、創造神!? でも署名がない!」
「うん、称号には必ず署名が付く事になってる。でも今までも署名が付いてない物は在っただろ?」
「!!! 神か!?」
「そういう事。ついでに看破や鑑識つかってみ?」
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名前:▒▓░▒▓░
Lv:0
HP:999999999999999999999999999999
MP:999999999999999999999999999999
スキル:
『全知全能』『不老不死』
称号:
『創造神の写し身』
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「名前が……読めない。というかLv.0だと? しかも何だこのでたらめな数値は」
「神を名乗るんだからこれくらいハッタリ聞いてた方が良いだろ。威圧感も一般人が気絶しない程度の恐れおののく程度にはなってるしな」
「う、うん……」
「で、これと同じ物を各国に出現させて説明するつもりなのだが、こいつがいきなり出て来てもやっぱり混乱するからな。だから段階を踏みたい。
具体的には手紙とかで各国首脳部に神が訪問する事を伝えて欲しい。ついでに『照会』や『鑑識』に付いても書いておけば一層信じるだろう。
で、各国に訪問し、それなりに準備させた後、一斉に称号を消去する。その上で民衆の前に姿を現し再び説明するわけだ」
「な、なるほど…… しかし何というか……クニミツ殿は神すらも創り出せるのか……」
「まぁ俺に力をくれたのは上級神だから、ここを創った下級神以上の存在を創るのは訳はない」
『……………』
「今さらだけど…… 私、あの時クニミツ殿と戦ったのよね…… ほんとによく生きてるわね」
「そ、そうだな……」
「まぁそれでだ。事が終った後の事も決めておきたい」
「終った後とは?」
「具体的には国名の事だ。マズワ王国って言うのは神が名付けたものだろ?
俺はそれについても否定するつもりなので、今後は人間が人間のために作った国名を名乗って貰いたい」
「!!! そういう事か」
「事実上、法国の存在その物の完全否定になるから少し可愛そうではあるが、困るのはトップでふんぞり返っている一部だけだ」
「下手すると帝国が攻め込む事になるんじゃないかしら?」
「どうだろうな? 帝国だって神の威光を失うのだから混乱は避けられないだろう。
この国で貴族が否定されたように、帝国で貴族否定の動きが出てもおかしくはない。神の正当性なんて言う幻想は消え失せるんだからな」
「あ……そうか……」
「ね、ねぇ……ケイジは他の国は助けてあげないの?」
「あげない。何時も言ってるが俺は神の力を持っているが神じゃない。そもそも君らが信じていた信仰するだけで助けてくれる神など最初から存在していない。実際そんな救いがあったら戦争も貧富の差もそもそも起きているはずがないだろう?」
「そ、そうだけど……」
「この国の発展を羨むのであれば、この国から学べば良いだけだ。手本となる見本は十分に用意したつもりだ」
「………」
「まぁなんだ…… 以前の神は力や知識の使い方をちゃんと教えていないのが一番の問題なんだよな」
「ど、どういう事?」
「多くの者がそうだけど、力や知識という物を他者から奪う事ばかりに使っているだろう? しかしそれに偏るのは間違っている。
力や知識は、守り、増やすために使うべきだ。この国で俺は農民に知識を与える事で、食料を増やし、人間を増やし、幸せを増やしただろ?
今までは、食料が無くなれば他者から奪った。自分が持っていない物は他者から奪えば良かった。その為の力であり知識だと勘違いされていた。
だが、それは違う。自分が持っていないなら作ればいいのだ。知識や力はその為の方法知る為の物なのだ。
教育とはそれを知るために必要な物だ。だからこそ全ての民が学ぶ必要がある。無知は争いを産んでしまうからな」
「…………教育にその様な意味があるとは思いもしなかった」
「一応、グロウ学園の入学式では学園長の答辞として言ってるんだけどな。今度パンフレットでも作って載せておくか」
「あはは、そう言えばここにいるメンバーは入学式も関係なく教えられてるもんね」
「そういやそうだったな。まぁ何にせよだ。この国に関しては勢いで色々手を出してしまったが、これ以上手を出すのは良くないんじゃないかと思ってる」
「どうして?」
「確かにちゃんとした教育は大きな力を育てる。今のカレンのようにな。
だけど、自分で失敗しながら正解を探しつつ学ぶのも間違っているわけではない。
悪い言い方をすれば、今のカレンは俺の都合の良いように育ててしまったとも言える。
そしてそれは本当のカレン自身がなりたかったカレンでないかも知れない」
「そ、そんな事無い! 私は私の意思で勉強をしたもん!」
「しかし、それは自身では自覚できない物なんだ」
「う~……」
「この国が良い例だろう。俺が手を出した事でこの国は本来有り得ない形に成長してしまったと言える」
「し、しかし、あなたのおかげで国民は幸せに過ごしている」
「それは結果論でしかないし、犠牲になった貴族だっている。本来こうした発展は失敗しながら少しずつ間違いに気が付き発展していく物だ」
「しかし、正解を見つけられず、滅びを迎える事もあるはず。実際この国はそうなりかけた。それをあなたは救ったではないですか?」
「まぁ、滅びの切っ掛けも俺が作ったわけで、そう言われると微妙なのだが……
それに滅びだって悪い事とは言えない。失敗から学べる事は沢山ある。
例えば今回の称号問題のようにね」
『………』
「このまま放って置くとこの国が滅びそうだって気付いた時、力業で対処をしてしまったが、後になって考えたら根本的な原因はココにあると気付いた。
だから今後同じ事が起きないように対処する。しかしこれはあくまで俺のエゴでしかない。
本来は神の与えた称号などに意味はないと君ら自身が自ら気付いてこそ価値があった」
「…………それは難しいと思う」
「まぁだろうね。人間は何時でも特別でいたい生き物だから。でも、それでも、本来ならその間違った認識に振り回されながら、何度も失敗をし、何度も痛い目を見て自ら気付く筈のものなんだよ。ぶっちゃけ俺の知っている国では神なんて本気で信じて居る奴居なかったし」
「そ、そんな国があるのですか?」
「うん。俺ですらもう行く事の出来ない、とおいとおい国だけど、神を信じない国だけど、隣人は信じているんだ。だから楽しくやれて居る」
「そんな国があるのですか……」
「ああ、良い国だ」
「ク、クニミツ殿、もしやその国というのは、以前聞いた神が残すべきと決めた国の事ですか?」
「ん、あぁ、そう言えばそうだね。うんその国の事だ」
「そっか……隣人を何時も信用できる国か。この国もそうなると良いね」
「そうだな。
まぁ話が大分脱線してしまったような気がするが、そう言うわけで色々頼む」
「解った。まずは各国へ書簡をしたためれば良いんだな?」
「ああ、一応各国向けの下書きは作成しておいた。持っていってくれ。特に法国はデリケートだからな」
「む、有り難い。使わせていただく」
「んじゃ、国名についてはお前らで相談してくれ」
「クニミツ殿は参加しないので?」
「半分神のような奴が人間のための名前決めに参加するのは本末転倒だろ?」
「そう言えばそうでしたな。では残りの会議は城で行うとしましょう」
「解った」
「そうね」
「そうだな」
「わ、私は……」
「カレンも今日は帰ってマグナルに、お父さんに協力してあげなさい」
「う~、解った」
んじゃ俺も各国に合わせた神の演説の原稿でもねりますかね。