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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第三章 『情報部』の戦闘
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戦いの終わり

痛い。


それが大きな音がしてからの、第一の感想だった。


反射的に瞑った目を開いてみると、両手には細々と切り傷がついており、痛みも走る。


その傷からは、ところどころ少量の血も流れているようだ。


だが幸い、背中には一切の痛みはない。



……。


……ん?


ちょっと待て。



「…え?」


津辻が戸惑いの声を上げた。

俺も同じく状況が理解できていないが。


さらによく分からないことに、俺の目の前には、何かきらきらと光るものが散っているんだが…。



混乱していると、風を感じた。

それは自然の風ではなく、ものが移動した時の空気の流れのようだった。


「あ…!」


津辻の小さく驚いた声が、後ろから聞こえた。

気が付けば左手首も離されていたので、俺は津辻から離れつつ、津辻の方を見る。



俺が見た光景は、こうだ。


まず咲宮が津辻に向かってボールを投げる。それは見事に津辻の手に当たり、油断していた津辻から銃を落とさせた。


次に希月と篠川が津辻に向かい走り込み、見事に拘束する。


「お、おおお…!」


なんだかわけが分からないが、津辻を捕らえたようだ。とりあえず俺は、三人に拍手を送ってみる。

しかし手に付いた無数の切り傷が痛んだため、すぐにやめた。


「いてて…」


「奏寺、大丈夫?」

「うーん、奏寺くんも悪運強いねぇ」

「不幸中の幸だな、情報部」

「ごめんなさい!奏寺さん!」


希月、篠川、咲宮が津辻を拘束した後にこちらを見て、各々らしい感想を述べてきた。しかし、はて。最後の声は、もしや…。


ふと窓の外に目をやると、今にも泣きそうな湖上高校の霧丘(きりおか)の顔があった。


「き、霧丘?!どうした?」

「ご、ごめんなさい…。けが、させちゃった」

「…けが?」


俺が戸惑うと、霧丘は小さく頷いた。


よく見ると、霧丘と俺の間にある窓は閉まっている。しかし、その間にガラスはほぼない。

…というか、明らかに窓ガラスが割られた形跡があるんだが。



俺はちらりと下を見た。


この床に散らばるきらきらと光るものは、恐らく窓ガラスの破片。


俺の手にある傷は、この破片が原因なのだろう。


するとだ。誰がどうして窓を割ったんだという話だが。



空気を読んだのかどうかは分からないが、霧丘は申し訳無さそうに話し始める。


「その、奏寺さんたちが見えたから、窓ガラスを叩いて呼ぼうとしたの。そしたらちょっと力が強すぎたみたいで…」


そこで俺はやっと理解した。



霧丘は彼女なりの弱い力で窓を叩き、俺達を呼ぼうとした。

しかし彼女は成人男子より遥かに強い力を、無自覚に持ってしまっている。


それが、この結果だ。



銃で撃たれなかったのは本当に良かったんだが。

しかしガラスの破片が手とかではなく、頭とか顔とかにきたらやばかったのでは?


改めて俺は、度重なる幸運に感謝をした。


「何はともあれ、ナイスタイミングだ。ありがとう」

「え、ええ……?」


俺の礼に、やや疑問系で霧丘は答えた。



やがて俺達の視線は、無力化された津辻に集まる。

守衛部特製の紐で捕らえられた津辻は、自嘲するような笑顔を見せた。


「また失敗か。うーん、参ったなぁ」


津辻はぼうっと、俺を見つめる。


「同じ情報部なのに…。なんで君と僕はこんなに違うんだろう?どうして情報部と明かしているのに、人と信頼関係が結べるんだろう」


津辻は俺に質問しているように見えた。しかし残念ながら俺はその答えが分からない。


「…ですよ」


俺が黙り込んでいると、希月が言葉を発していた。


「あなたと奏寺の共通点が、情報部だけだからですよ」

「…希月?」

「あなたは利用するために信頼関係を築いていた。全ては、自分の欲望ために」


遠くで戦闘の音が聞こえるのに、辺りは静かな気がした。この静寂を切り裂いているのは、希月の声だ。


「けど奏寺は違います。僕と友達になったのだって自分の欲望のためじゃない。

 この広報部たちとだってそうです。本来なれ合うことは良くないことですよね?でも自然と信頼関係を結べています。あなたにそれができますか?」

「…無理かもね」


すると何か諦めた表情のまま、津辻は黙り込んでしまった。


希月がほっと溜め息をつき、先ほどまでの緊張感を和らげる。すると隣に来た篠川が何やら拍手をしていた。


「いやー。木刀くんもなかなか結構言うよね!名前何だっけ?(ひつぎ)くんだっけ?」

「希月です!っていうか名前覚えてなかったんですか?!」

「はははっ」


いきなりなくなった緊張感に、俺も思わず顔を緩めていた。咲宮は相変わらずの無表情だが、心の中では笑ったりしているのだろう。


気付けば戦闘にも終わりがきていた。多くの歓声が聞こえる。どうやら第一高校は勝利を収めたようだ。


「…いや、この土地の勝利か」


俺のこの小さな声は、皆の歓声にかき消されてしまった。だが、その方が有り難い。






戦闘が終わって数分したところで第三高校と湖上高校は引き上げていった。恐らく本日のことは改めて話すことにして、今日のところはそれぞれの後始末をするということなのだろう。


そういうことで広報部の二人も、さっさと帰ってしまった。霧丘は何だか名残惜しそうだったが、生徒会長と共に引き上げていった。


希月も守衛部に呼ばれて行ってしまったため、俺はひとり寮へと向かう。


「ふう…」


…ちなみに第十高校は俺達に負けたものの、あくまで攻め込みに失敗しただけである。そのためどんなに気まずくても、まだこの土地には存在している。


しかしこの土地のいくつかのルールを破った津辻だけは、役所に送られてしまった。

一部の第十高校の生徒から反対の声もあったらしいが「少し、頭を整理したい」という津辻の希望もあったらしく、おとなしく役所に向かったらしい。


津辻にもなにか、思うところがあったのだろうか?



まあ津辻がどうなるかはこの土地が、いやこの国が決めること。俺はせいぜい情報が入ってくるのを待つとしよう。



俺は早く、情報部の先輩たちに会いたいな…。


ふとそう思った時に、後ろから俺を呼ぶ声がした。


「おーい、奏寺くん!」


思わず後ろを振り返ると少し遠くに、こちらに向かって走ってくる生徒の姿が見える。


あれは…暮谷か?


「暮谷、戦闘お疲れ」

「そ、そちらこそ」


先程まで戦闘に参加していただろう暮谷は、すでに疲れ果てているようだ。顔色もあまり優れない。


そんな状況で、俺に何の用があるというのだろう。


「奏寺くんにまだ言えていないことがあって。…今まで何度か言おうとしたんだけど」

「あ、そういえば…」


予算会議の時とかにそんなことがあったような。すっかり忘れていた。


さて、ここまでして暮谷が伝えたいことって何なのだろうか?



全く予想が出来なかったので、暮谷が言い出すのを静かに待った。

しばらく暮谷は躊躇っていたが、ついに覚悟を決めたようだ。


暮谷は『第一高校のとある生徒の名前』を述べた後に、思いも寄らないことを言い出した。


「あいつ…本当に第一高校の生徒?」

「…え?」


思わず俺は聞き返してしまった。しかし、暮谷は動じることはない。


「前々から、怪しいと思っていたんだけどさ─────」

次回、最終回の予定です。

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