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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第三章 『情報部』の戦闘
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響く音

なりすましの第一高校生を倒していると、いつの間にか戦況は良くなっていた。


相変わらず俺はなりすまし探しと、先輩からの情報を城戸に伝えたりしている。そして希月と広報部はずっと戦い続けていたせいか、疲れ始めていた。


「おい、大丈夫か?」

「う、うん。このくらいなら。それより、このなりすましが第十高校の強さの秘密だったんだね」

「ああ。タネがわかると、ここまでもろいんだな」


とはいえ、まだ第一高校は勝てていない。

俺も気を引き締めなければ。




俺たちは校舎に入り込んだ敵を一掃し終えた。今は靴箱辺りでこれ以上の侵入を防ぐために、戦い続けている。


俺は敵からなるべく遠くに居る必要があるため、少し離れた場所に居た。とは言っても靴箱や篠川たちとの距離は三メートルと少し。油断は出来ない。


俺は壁に寄りかかりながら戦況を見続ける。その時、初めて後ろに開いた窓があったことに気付く。



危ない危ない。



俺は背後から狙われることを恐れ、急いで窓を閉める。窓ガラスであるため、向こう側も見えるから少し注意するか。



その時、再び俺の携帯電話が鳴った。


「はい」

「あ、奏ちゃん…?」


電話をかけてきたのは、春崎先輩だった。


「あのね…。セーラー服の集団が、第一高校に近付いてきてて…」

「セーラー服の集団ですか?…もしかして!」


セーラー服といえば。


思い付いたときには、その集団はもう第一高校の校門に辿り着いていたらしい。校門方面から、聞いたことのある声が聞こえてきた。


「第一高校!湖上高校も微力ながら、力を貸す!」


最近聞いたばかりだから、間違えようがない。


この声は湖上高校の生徒会長だ。



その低い声に続いて、凛とした女性の声もこちらに届いた。


「第三高校も手を貸させてもらう!」

「…あれま」

「…来たか」


篠川と咲宮が、溜め息混じりに呟く。

どうやら声の主を知っているようだが…。


敵が少なくなった合間を狙い、希月が篠川に尋ねる。


「知り合いですか?」

「知り合いどころじゃねーって。あれが第三高校の生徒会長だよ」

「ええっ!?」


驚かせてくれる暇もなく、第三高校と湖上高校などの協力者は次々と敵を倒していく。俺たちの所に来る敵の数も、明らかに減ってきた。


恐らくこれが、この土地を守りたいという思いが招いた結果なのだろう。



俺は思わず、口元が緩んでしまう。


「な、なに奏寺くん。すごい顔してる」


気持ち悪いものを見る目で、篠川がこちらを見てきた。



ほんとに失礼な奴だな。



咲宮と希月がまだ戦い続けているなか、篠川はそのまま戦闘の手を休める。


「だってさ。この土地の人間って少し冷めてる感じがしてるだろ?なのにこの土地の危機となると、なんだかんだ協力するし」

「そうだなぁ。まあ、冷めてるって感じるのは、俺たちが嫌われてるせいじゃね?」

「あのな…」


まあ否定はできないが。


嬉しそうに言う篠川に何か言い返してやりたかったが、先を越される。


「それよりさ。奏寺くんって、本当にどうして情報部の受付なんてやってんの?」

「またそれかよ。…っていうか今は一応味方だろ?惑わせんな!」

「いやいやいや、これ真剣な話」


真剣というわりに、篠川の顔は笑顔だ。


まさか戦闘に飽きて俺で遊ぼうとしてるんじゃ…。


「だって奏寺くんの記憶力なら、それだけを活かせば良いじゃん。受付なんて他の奴に任せればいいし」


先ほどの言葉通り、篠川は興味深そうに聞いてきた。


「それに奏寺くんは社交的だけど、そこまで誉められるレベルじゃないし」

「お前な…」


まあ、言われてみれば確かにとは思うが。


しかし残念ながら、俺はその理由を知らない。たまたま条件に合う奴を見つけられなかったのだろうか?


とりあえず俺は、篠川に適当な返答をしようとした。しかし、篠川は咲宮から背中に蹴りを食らう。


「働け」

「いてっ。だから光時は力加減を考えろって…」


ぐだぐだ言いながらも、咲宮に怒られて篠川は戦闘を再開した。



俺は 溜め息をついた後、辺りを見回す。



どうやら敵の劣勢は、もう覆らないようだ。

やはり三つの高校が手を組んだだけあって、俺たちはかなりの強さを誇っていた。丸腰どころか戦闘能力が皆無な俺が一人で居ても、もう身に危険は及ばないだろう。それほど第十高校たちには余裕がなさそうだった。


優勢を保ったせいか、情報部の先輩達からの電話も急激に減った。もう情報部が出る幕は終わりそうだ。



しかし、これが油断だったのかもしれない。



「段取りが滅茶苦茶だよ、生有くん…」


右の方から聞き慣れた声が聞こえてきたかと思うと、頭に強い衝撃が走った。


俺は頭を押さえながら、恐る恐る後ろを振り返る。まだ痛みの影響で目は開かないが、この特徴的な声には、心当たりがありすぎた。


「津辻か…?」

「さすが生有くん。大正解」

「どうして、俺に近付けた…?」


俺の側には希月がいる。なのに未だに希月は俺の負傷にも気付いていないのか、なにやら離れた所から声が聞こえる。。


そして広報部の声も、また離れた所から聞こえてくる。



誰も津辻に気付いていないのか?


しかし第一高校になりすましたとして、希月は俺にそんな奴を近寄らせない。恐らく第三高校の奴も、湖上高校の生徒も。



俺がやっとの思いで目を開くことができた。


「…!」


やはり側にいるのは津辻だった。しかし髪は黒になっている。恐らく目立つから染めてしまったのだろう。


それにしても、制服は銀色のラインが入ったものを着ている。つまり第十高校の制服をそのまま着ているのに、なぜ希月や広報部は気付かなかったのか?


不思議に思い、周りを見渡してみる。

すると憤りと迷いの表情を見せる希月と目があった。そのまわりには、倒れ込む第十高校生の姿ばかりだ。唯一立ったまま希月の近くにいる広報部も、なにやら恐い顔をしている。


その時やっと、俺の左手首が津辻に強く握られていることに気付いた。


「全く、どうしてもらおうか?」


低くて暗い津辻の声が辺りに届いていく。その声には、あの優しさはもうなかった。


俺は希月に何が起きたかを聞こうとするため、希月の方を向き、津辻に背を向ける。しかし左手首は掴まれたままだった。


「おい、希月。これはいったい────」


言葉を言い終える前に、俺の背中に何かが突きつけられる感触を味わう。


固い、何かが、背中の左側に…。


「奏寺!下手に動くな!」


いつになく鋭い声を希月が出した。


それにより俺は全てを理解する。


「津辻。それは母国から持ち出したのか?」

「まさか。この学校の特別な部屋を壊して得たものだよ」

「…なるほど。『銃保管室』から盗ってきたのか」


銃保管室といえばまだ希月と仲良くなる前、城戸が練習用の銃を持ち出していたな…。


少し懐かしい出来事を思い出してしまった。



全く、この状況で余裕をもっている暇なんてないのに。


俺ははっきりと得物の姿を見てはいない。しかし希月や篠川、咲宮の反応をみる限り、恐らく…本当に。


「ごめん、奏寺。僕が少し離れたばかりに…!でも、絶対助けるから!」


希月が必死に叫ぶ。その裏で策を考えているのが、こちらにもわかった。



希月が俺から離れたのはほんの一瞬。その隙をついた津辻は、例の得物を俺に向け、近付いてきたのだろう。


それで頭を何かで叩いたのか。幸い痛いだけですんでいるが。



その時、カチッという音が後ろから聞こえた。

この音にいち早く反応した篠川が、津辻をさらににらみ始める。


「ちなみに聞くけどさ。君は何がしたいわけ?」


もちろんこれは、津辻に向けられた質問だ。そして当然のこと、津辻が返事をする。


「本当は生有くんを人質に、第一高校の生徒会長を脅そうとしたけど…。脅しちゃ意味ないんだ」


脅しちゃ意味ない。そりゃそうだ。

こいつの目的は母国に帰ることだ。追放される理由となった脅しをここでしても、何の意味もない。


そうすると、残る選択肢は?


「そこの無表情の人、動くかないで。…そうか。みんな、両手あげててよ?」


咲宮がボールを投げようとしたが、軽々と津辻に止められる。そして俺たちは全員両手を上げた。



そして津辻は先ほどより強く、俺の背中に得物である銃の銃口を押し付けた。


「大丈夫。ちょっとした憂さ晴らしだから。これは練習用の銃だから、死ぬことはないと思うよ」


不適な笑いを交えて、津辻は淡々と述べる。


正直、俺には練習用の銃と言われても、それがどのくらいの性能なのかがわからない。

死ぬことはないとして、武器関連に詳しそうな希月たちの表情をみる限り、そんなに安心できることでもないようだ。


「第十高校生のひと!こんな事していいと思っているんですか?!」

「惨めだねーっ。負けると決まったら、こんな事しか出来ないなんて」

「人間として、恥だな」


希月、篠川、咲宮が津辻に向かって文句を言うが、津辻は全く耳を貸さず無視をした。


「お前、いい加減にしろよ?」



俺は少しだけ津辻の方を見ながら言った。



その時の津辻の表情は、悲しい笑いに満ちているように見えた。



そして津辻は俺の言葉にも、言葉を返さなかった。




…それから辺りに、大きな音が響き渡る。

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