他者の戦闘
第十高校がいきなり攻めてきてから二日が過ぎた。その日の放課後に、春崎先輩が衝撃的な情報を入手した。
そしてその情報は新聞部を通して、第一高校全員に知らされる。
「第三高校の一部の生徒が、暴走する第十高校に仲間入り?!」
希月が驚いて叫び声を上げる。
ちなみにここは屋上。いつものごとく、希月は見張りをしている。俺も屋上に書物を持ち込み、頭に叩き込んでいた。
「ああ。あの第三高校の生徒会長も、津辻に裏をかかれたらしくてな」
「うわーっ。本当に厳しい状況になってきたね」
さらりと希月が呟く。その口元は少しつり上がっていた。
…なんだか、余裕そうだな。
「おい。なんだか余裕そうだな」
俺が声をかけると、希月は勢いよくこちらに目を向けた。
「ある程度、対策はしたからね。それに…今回、守衛部は初めて戦闘部と一緒に対策をたてたんだ」
「…へえ」
これは驚きだ。
希月は空を眺めながら、穏やかに言葉を続ける。
「戦闘部はあんまり好きじゃなかったけど、なんていうか、頼りにはなるよな。あいつら」
「お前、ほんと戦闘部が絡むとキャラ変わるよな」
呆れながら俺は希月にそう言った。しかし自覚が無いのか、希月はきょとんとしている。
「そうかな?」
「そうだな。…っと、おおっと」
強い風が吹き、本のページが勢いよく戻されていく。慌てて手で止めたが、余り意味がなかった。
まあ、読んでいたページ数も一緒に覚えていたから問題はないんだが。でも、なんか悔しい。
「ふう…」
そういえば今日は、このいつもの風景がとても平和に思える。最近、色々な出来事があったからだろうか?本当に、こんな和やかな日々が続けばいいのに。
俺は心からそう思った。
しかしその思いは、携帯電話の着信音により一気に遮られてしまう。
「はい、奏寺です」
「お疲れ」
俺の耳に、疲れた果てた香藤部長の低い声が届いた。
どうしたのか気になり声をかけようとするが、他でもない香藤部長により阻止された。
「クラッキングに成功した」
「えっ!?」
まさか朗報がくるとは思わなかったので、心底驚いた。
そうか、ついに香藤部長は津辻に勝ったのか!
俺は喜び、お祝いの言葉をかけようとすると、またもや香藤部長により阻止された。
「喜ぶのはまだ早い。大変なことが分かったんだ」
「え?」
「実は、第十高校の生徒会長がネットにこっそりと日記を書いていたんだ。第十高校のサイトに書き込んでいたから、逆に見つからなかったらしい。灯台下暗しってやつだな」
なるほどなるほど。
香藤部長はいったい、第十高校の生徒会長の日記からどんな情報を得たのだろうか?
それを聞こうとしたところ…。
「どうやら青い髪の奴は、合流した第三高校の一部の生徒と共に、今日どこかの高校に攻め込みに出かけたらしい」
「ええっ?!」
「どこの高校かは分からねえが…。
第一、第三、第五、湖上のどこなんだか」
「…香藤部長、そろそろ俺にも喋らせてください」
やっと話す隙を見つけたので、溜め息混じりに言う。その言葉は香藤部長にも届いたようだ。
「ん?ああ、悪かった」
「いいですけど。それで、標的の高校とはいったい…?」
「白池と春崎、雪平を各学校へ向かわせている。わかり次第、一斉にメールが届くはずだ」
「了解です」
俺は電話を切った。すると早速誰かからメールが着ていた。
送信者を確認すると、春崎先輩のようだった。続けてメールの内容を見てみる。
『第五高校へ向かう道で、第十高校の群れを発見。第五高校に一番近いから、目標は第五高校かな?』
…。
少し、安心した。
第五高校の生徒には申し訳ないが、やはり自分の所ではないと思うと、つい。
すると、希月が近づいてきた。
「どうしたの?凄く険しい顔してるけど」
険しい顔か。確かにそんな表情になっていてもおかしくない。
かいつまんで情報を伝えると、希月は驚いていた。
「…え?!」
面白いほど、希月は俺と同じ驚き方をした。
いや、まてよ。こいつは俺と香藤部長の電話のやりとりを見ていたから…わざとか?
くだらない疑いをかけていると、希月は本当に驚いていたようで、混乱し始める。
「え、ちょっ…。ええ?!」
「落ち着け」
俺は地面に置いてある本を集めながら、希月に声をかけた。
「う、うん。…って奏寺、寮に帰るの?」
「まあ寮には帰るが。すぐに出る」
「出るってまさか…?!」
最後の一冊を拾い上げた後、俺は深く頷いた。
「ああ。第五高校に行く」
「希月、本当にいいのか?」
「もちろんだよ、奏寺。護衛も守衛部の義務だから。戦場に不慣れな人もいるし」
「…誰のことですか、誰の」
第五高校へと向かう道、俺と希月は後ろを振り返る。走って移動しているが、ここで後ろにいる人物の発言を無視するのは良くないだろう。
俺たちより背が低く、白縁の四角い眼鏡をした男子生徒が不満そうな顔でついてきている。
「だいたい本当なんですか?そんな大きな戦闘が起きるなんて!」
愛嬌のあるこいつの顔は、疑いをかける負の感情により歪んで見える。
俺は顔を前へ戻し、低い声を出した。
「それなら帰ってもいいんだぞ?新聞部の宵河」
「む…」
宵河は俺や希月と同じ一年生で、新聞部に属している。俺と希月とはクラスが違うため面識はないが、一年生である宵河は情報部の俺をあまり快く思っていない。
第五高校の結末を実際に新聞部に見せることで、臨場感のある記事を書いてもらおうと俺は考えた。そうすれば第一高校にも緊張感が増し、準備もできるからだ。
ただ、それには一つ誤算があった。
もちろんそれは、この宵河だ。
「全く…先輩はどうして情報部なんて…」
宵河は何かぶつぶつと言っている。
俺は確かに新聞部はお得意様だと思っている。ただ俺を警戒しない新聞部員は二年生と三年生の一部の生徒だけだ。ゆえに、俺がいつも情報を売っているのは、二年生か三年生になる。
今回も第五高校に連れて行くのは、そういう人たちにする予定だった。しかし残念なことに、新聞部は会議中。しょうがなく会議をさぼっていた…いや、本人曰わく「廊下を徘徊していた」宵河を連れてきた。
「見えてきた…!」
この中で一番体力のある希月が、遠くにある第五高校を指差す。まだ戦闘が始まっていないのか、第十高校の生徒たちは敷地の外にいた。
その集団のなかの所々に青いラインの制服をきた生徒が見える。あれが例の、一部の第三高校生なのだろう。
物陰に隠れながらも、宵河はカメラの準備を始めていた。会議にでなかったとはいえ、宵河自身、スクープを取りたいという野望はあるのだろう。
まあ、だから俺についてきたんだろうが。
俺たちは隙を見ては、戦場が見えやすい位置へと移動する。やがてなかなかいい場所を見つけ、そこに座り込んだ。宵河の目にもやる気が見える。
「行くぞ!!!」
「はい!!!」
ついに戦闘開始のかけ声が聞こえていた。こそこそと様子を覗くと、白熱した戦いが幕を開けている。
戦いは数時間に渡り、両者共々戦闘可能者がだんだん減っていく。その戦いは、とても見応えのあり、戦闘員たちの果敢な勢いは忘れられないものとなる
……そんな戦いを、俺たちは予想していた。
「おいおい、嘘だろ?」
俺は携帯電話の時計を思わず見てしまった。
数時間に渡る戦い?
両者共々戦闘可能者が減っていく?
見応えのある戦い?
──────戦闘時間は約二分。第十高校生の負傷者は極わずか。そして、一方的な戦い。
希月も宵河も、あまりの出来事に言葉を失っていた。もちろん、この俺も。
戦闘開始の合図からほんの数分で、第五高校は敗退してしまった。




