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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第三章 『情報部』の戦闘
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津辻の目的

第十高校との戦闘を終えた次の日、情報部は全員俺の部屋へと集まっていた。


みんな沈んだ顔をしているが、香藤部長だけはキリッとしている。


「それで奏寺、春崎をあの守衛部に預けた後、何が起きた?」


香藤部長は俺に話すよう促してくる。

それに応えるため、俺は津辻と話したときのことを思い出しながら、説明を始めた────。







「簡単に言ってしまうと、『留学』っていうのは『追放』を意味する」

「追放?おい、お前なにか悪いことでもしたのか?」

「ご明察」


にこりと笑う津辻の顔には、悪意は感じられない。それどころか、学校から追放されるようなことなどしない、優しい青年の笑みに見えた。


俺が考えていることを見抜いたのか、笑いながら津辻は手を横に振る。


「僕の顔に騙されないでよ?…僕が何を犯したのかだけど、そうだね…」


津辻は自分の右腕を、地面と平行になるようにまっすぐ伸ばした。その指先は、北東を指している。


「交換留学生って言うくらいだから、この土地で悪いことした人間は、僕の母国の学校に追放されたんだ。

その人は、あっちにあった第二高校の生徒だったらしいよ」


第二高校の校舎はまだ綺麗に形を残している。しかし既に敗退した高校であるため、津辻は「あっちにある」ではなく「あっちにあった」と言ったのだろう。


俺は何も言わず、静かに津辻の話を聞いていた。


「まあ、その生徒は第二高校生なのに、第一高校にずっといたらしいけれど」

「…!おい、まさか!」


津辻の衝撃的な証言に、さすがに俺は冷静さを失っていた。


「まさか、そいつの名前って……!」

「『滝』って名乗っていたよ」


ここであいつの名前を聞くことになるとは。



滝は自分の高校を勝利に導くことを目標に、数々の悪いことをしていた。


第一高校に潜入していたのもそうだ。まあ、それはそこまで問題ではない。というか、問題になったら困る。情報部も潜入はよくしているし。


問題は何人もの生徒に毒を盛ったことだろう。あの事件は主な被害を受けた第三高校生に大きな精神的ダメージを与えた。…そして俺もその被害者だ。


「どうやら、()とは知り合いみたいだね?」

「まあ、色々とな」


つまり、津辻は滝と同じくらいの悪事を働いたことになる。


滝といい、津辻といい、けっこう人って猫をかぶるのがうまいよな…。


とりあえず津辻に滝のことを話しても意味は無いだろうから、話を元に戻すか。


「それで、だ。なんで他校を敗退に追い込みまくれば、母校に帰れると思ってんだ?追放っていうくらいだから、普通は戻れないんだろ?」


もし帰って来ても良いよ、なんていう追放があったら、それは本当の留学だろう。


「転入して間もなくでこの土地を僕が制圧したら…母校もそんな優秀な人材を戻したいと思うかもしれないからね」

「間もなくか。…夏期休暇前後に、この土地で青い髪の青年の目撃情報があったんだが?」


俺が疑いをかける目で見ると、津辻は何かを思い出したかのように何度か頷く。


「うんうん。それも僕だね。ちょっと下見に来ただけなんだけど、いろんな人に姿を見られちゃったらしい」


わざとらしく、津辻はとぼけたような顔をした。



…全く、それについても対策してたくせに。


「お前、その時に自分の印象を薄くするために、この土地に行きそうな女子を目立つ容姿にさせただろ?」


もちろん、この女子とは春のことだ。



俺がそう言うと津辻は驚き、興味深そうに俺の目をじっと見てきた。


「…へえ」


実際、津辻の春を目立たせる作戦は成功と言って良いだろう。俺も春の方に気を取られてしまっていたし。



ちょうどその時、校門の方から今までとは違う大声が聞こえてきた。俺も津辻も、思わずそちらに顔を向ける。


「…あ!」


目に飛び込んできたのは、なんとも言い難い状況だった。


第一高校は優勢になっており、第十高校を撃退するのは、もう時間の問題となっている。


しかし、第一高校の戦闘員の中には、あきらかに戦闘部員ではない顔がちらほらいた。あれは…。



守衛部か。



さすがに希月はいなかったが、戦場には生徒を守る役割を担う守衛部が確かにいる。つまり、戦闘部だけでは厳しかったということだろう。


恐らく、守衛部が戦闘部に手を貸すなんて、今まで無かったことだ。



この衝撃的な状況にすっかり集中していると、津辻が残念そうに溜め息をついていた。


「さすがに、一部の戦闘員だけじゃ第一高校には勝てないか」


ほんの少しの悔しさと、諦めの良さを見せた津辻はもう一度溜め息をつく。


しかし俺は、津辻の聞き捨てならない言葉に反応し、気付いたときには聞き返していた。


「…え?今、なんて?」

「ん?ああ、こっちにも色々あるからさ。戦闘員を全員連れてくることはできなかったんだ」

「…へええ」


俺は引きつった愛想笑いをするしかなかった。



いくら緊急事態とはいえ、こちらはほぼ全員の戦闘部員が揃っている。それでも勝てず、守衛部の手を借りたというのに…。


…これ、やばいだろ。




だが第一高校は、とりあえず本日は第十高校の攻撃を防ぐことに成功したらしい。攻めてきた第十高校生が、第一高校の敷地からどんどん出て行き始めた。


「ふう、しょうがない。じゃあ、僕も帰らないと」


津辻は低い声で呟くと、こちらに背を向けて下り階段のある方へと歩いていく。


「おい、待てよ!」


俺は慌てて津辻を追いかけ、肩を掴む。津辻はこちらを振り返り、何かを言おうとしていた。しかし、俺の方が先に喋り始める。


「お前、俺に聞きたいことがあって来たんだろう!?なのに帰んのか?」

「………………」


津辻は目を上に向かせて、しばらく無言でいた。


「………………あっ!」


そしてようやく思い出したのか、晴れ晴れとした表情を見せる。


「ごめんごめん、いやー忘れてた。生有くん、教えてくれてありがとう」

「あ、ああ…」


俺は、この津辻の心のこもった感謝の言葉の対応に困った。



やっぱりこういうところを見ると、なんか悪いやつには見えないんだよな…。



しかし津辻の頭の切り替えは早く、俺の困惑は無駄となった。


「生有くんってさ──────」







「生有くん、ってさ?」


俺の長い長い回送話も終わりに近付いたところで、白池先輩が興味津々に聞いてくる。


その雰囲気を壊さない程度に、津辻に似た口調で、俺は津辻の問いを先輩たちに教えた。


「『生有くんってさ、情報部だけど友達いるの?』」

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