表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第一章 『情報部』という存在
8/90

行事予定表

その女子生徒の名前は『霧丘光里(きりおかひかり)』と、言うらしい。


俺と霧丘は図書室に来ていた。


予想通り図書室に人は少なく、生徒が2人に先生が1人だけだった。



「俺は奏寺生有。ま、よろしく」


潜入捜査をしている人間が、にこやかに本名を名乗る。


これは、俺が自己主張が激しいため、ではない。


俺は他の情報部員のために、情報部のおとりとなる必要がある。

そのためには、『奏寺』は有名になった方が後々都合が良い。


椅子に座って話しながら、さり気なく俺は霧丘に質問した。


「それで、霧丘は何組なの?」


先に聞かれてしまう前に、これだけは聞きたかった。


もし俺が先にクラスをてきとうに答えて、同じクラスだったらまずい。


「えっ、私?私は1組だけど」


理由はわからないが、少し焦りながら霧丘が話す。



まさか、ね。



俺は霧丘にクラスを聞かれる前に、独り言のように呟く。


「はぁ…それにしてもさ。体育祭っていつやるんだろう?楽しみにしてるのにさ」


それを聞いて、霧丘がくすりと笑った。


この笑いの意味がわからない俺は、少しの恐怖を感じた。



香藤部長が盗んだ行事予定では、体育祭は10月ごろの予定だ。


ただこれが嘘の情報で、今年度は既に体育祭は終わってましたなんて言われたら…俺は、窓から逃げる。


幸いにもここの東の窓の近くには、非常階段が設置されていた。

偶然できた構図だろうが、侵入者にはありがたい。


「ふふっ、奏寺さんは元気なのね。確か行事予定なら、確かあっちに…」


そう言って霧丘は席を立った。

俺もそれに続く。


「あ、これこれ」


図書室の出入り口付近の掲示板に張ってある張り紙を、霧丘が指差した。


「えっと、11月みたいだよ」


11月?やっぱりクラッキングした情報とは違うのか。


霧丘が俺に慣れてきたのか、嬉しそうに教えてくれた。


「うっわー、遠いなー」


残念そうに言ったその時、ふと、何か違和感を感じた。



なんだ?



俺はとっさに張り紙に顔を近づけた。

真面目に紙を見つめる俺に、霧丘は驚いたらしい。


「か、奏寺さん?どうしたの?」

「いや、これさ」


行事予定の紙をめくると、その下にまた行事予定が現れる。


「…」

「…」

「…こ」


霧丘が言葉をつまらせながら言った。


「この下の予定表は、去年の予定表かな?」


さすがの俺も首を傾げる。


「いや…両方とも左上に同じ年度が書いてあるから、同じものを間違えて重ねたのかな?」


しかし下の予定表では、体育祭は10月になっていた。


2人は沈黙し、考え事を始めた。

その時、図書室の先生が後ろを通りかかる。


「あ、森先生!」


俺はその先生を呼び止めた。


なぜ名前を知っているかというと、4月ごろ第二高校に、情報部員のひとり『雪平(ゆきひら)』先輩が忍び込んだことがある。

その時に、教師の名前を一通り入手してきてくれたのだ。


森先生は優しそうな顔で俺をみた。


「どうしたの?」

「すみません。これって、どれが正しいのか忘れちゃって…」

「なるほどね」


名前を呼んだせいか、森先生は俺のことをすっかりここの生徒であると思いこんでいるらしい。

そう言って、森先生が下にある予定表をひっくり返した。


「ここよ、ここ」


下にあった予定表の裏に、さらに予定表がプリントされていた。

霧丘が小声で独り言を言った。


「ああ、そっか」


霧丘に合わせて、作り笑いをした。


「あはは…忘れていたね」


潜入捜査対策はしっかりとされていた、と。


さすがは第二高校。





本当の行事予定により、体育祭は9月30日という情報を得られた。


本来ならここで白池先輩の元にすぐ向かうのだが、1つ心配ごとがある。



そう、霧丘光里だ。



彼女は行事予定の見方を知らなかった。

いや、知らないフリをしていたのか。


その時、急に霧丘が静かに声を掛けてきた。


「ねえ、奏寺さん」

「なっ、なに?」


不意をつかれて話しかけられたので、物凄く驚いてしまった。

これは普通に恥ずかしい。


そんな俺を暖かい目で見ながら、霧丘が口を開く。


「あなたは…なにかの部活に所属しているの?」

「…!」 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ