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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第三章 『情報部』の戦闘
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怒りと水飛沫

香藤部長に別の部員から連絡が入ったため、いったん電話を切った。すると、いつの間にか校門付近にいる俺たちの隣に城戸がいることに気付く。


「なんなのよ、あれ!」


驚きながらも怒りを露わにする城戸は、第十高校生の群れを指差しながら叫んでいる。その城戸の声で近くにいた生徒が振り返り、彼らもまた群れを目にした。


「しょうがないか…。手の込んだ戦略は練れないけど、戦闘部召集するかな」


声の大きさはそのままに、城戸はぶつぶつ呟きながら携帯電話を取り出した。十中八九、戦闘部員を呼ぼうとしているのだろう。


しかし、そんな城戸に「待って」と声をかける者がいた。その声はどこかで聞いたことのあるような、男子生徒の声だ。


「戦闘禁止令中なのに、こちらも戦闘していいの?」


この言葉に反応した城戸と希月が、睨むように声の主を見る。続いて俺も、そいつがいる方向に体を向けて、溜め息をついてから話し出した。


「あたりまえだろ。禁止令が出ているからって、やすやすと領土を侵略させるわけにはいかないに決まって─────」


いるだろう。



この五文字を言い終える前に、俺の視線は先程の声の主の顔へと辿り着いた。ようやく声の主の顔を拝んだ俺は、素直な言葉が口から漏れる。


「げっ!瀬村(せむら)!」


風紀委員の瀬村は、嫌そうにしている俺を見て、ムッとしていた。


「なに?その驚きかた」

「別に」


険悪な雰囲気になりそうになると、呆れた城戸が割り込んできた。


「ちょっと!敵を目の前にして喧嘩しないでよ!ほらっ、非戦闘員は避難して」

「…はいはい」


戦闘では風紀委員の役割はない。

そのため、瀬村はこの場から去っていく。


俺は遠くなっていく風紀委員の背中を見て、独り言を呟いた。


「あいつ、何しに来たんだ?……っと」


ここで再び香藤部長から電話がきた。


「どうしました?」

「仕事だ。どうせ今から第十高校の奴らと戦うんだろ?」

「え、でも大丈夫ですか?」


情報部は戦闘中も、自分の正体が誰にもバレないように細心の注意をはらっている。故に戦闘中の情報収集は、始める前に時間をかけて作戦を練る必要があった。

だが今回は緊急事態であるため、なんの準備もしていない。



そんな俺の心配をよそに、香藤部長ははっきりと断言をする。


「問題ない。既に白池と雪平は動いている。第十高校付近にいる春崎も、じきにこちらに合流するだろう」

「…!」


思わず俺は、第十高校の群れをじっと見た。

気付けば、もう第一高校の敷地に一分足らずで着いてしまう距離にいる。



本来の戦闘では、お互いの合意のもと戦闘を開始するが、今回は違う。戦闘のスタートのサインは、敵がこの高校の敷地に足を踏み入れる瞬間になるだろう。



既に第一高校の戦闘部はこの門の近くに集まり始め、守衛部により生徒の避難も進んでいるようだ。



…さて、ここで一つ気になることがあった。

俺は、どうすればいいのだろうか。


前回は戦闘部の指示のもと、守衛部の希月を護衛として連れて、比較的安全な所に居れたのだが。



今、城戸は戦闘部達と話し合いをしている。希月も守衛部たちと携帯電話で連絡を取り合っているため、俺は戦闘部の群の中で、ぽつんと一人で居た。



…とりあえず、戦闘が始まっても邪魔にならないところにいて、情報提供するか。



本当は校舎内に行きたかったが、寮に向かう一般の生徒の波に逆らうことになるので諦める。

仕方がなく、俺は敷地のボーダーラインとなる石の壁に寄りかかった。校門からは離れているし、木とか花壇がたくさんある場所なので、敵も来にくいだろう。


寄りかかった石の壁をもう一度よく見てみると、高さは三メートルは超えていそうだった。そのせいで向こう側の景色は見えないが、普通に考えれば、ここから敵が入ってくることはあるまい。



だんだん足音が大きくなってきたので、俺は木の陰に隠れた。ここにある木は細いうえに数が少ない。だが、あるかないとでは安心感が違う。


緊張感が増していくのを、足元にある花壇の花々に癒してもらっていると、ついに掛け声が聞こえ始める。



…とうとう、始まったか。



校門の方を見ると、戦闘部員たちが銀色のラインの制服の集団と戦っていた。ほとんどの者が柔らかそうな棒で相手を叩いては、拘束を繰り返している。


ただ、いつも見ている戦闘とは違って、少し乱暴な気が…。

そんなことを考えた時、白池先輩から連絡がきた。


「もしもし」

「もしもし、奏寺?ごめん、連絡がすごく遅れちゃった」


白池先輩はいつもの優しい口調ではあるものの、落ち着きがなかった。焦りや申し訳なさが、すぐに伝わる。


「ど、どうしました?」

「いや、その、いま敵の集団に潜入してるんだけどね」


いつでもマイペースでいる白池先輩がここまで取り乱すと、俺まで余計に危機感を感じてしまう。


「奏寺、どこにいるかは知らないけど気をつけて。これから第十高校の戦闘員が、壁から乗り込む」

「…え?」


壁?

壁って、もしかすると…。


俺は今まで寄っかかっていたものを改めて見てみる。それは、石造りの壁だった。触ると冷たさが手に伝わり、少しだけ気持ちいい。


「…まさかな。とりあえず城戸に連絡を入れとくか…」


嫌な予感を感じながらも、携帯電話を取り出した。しかしながら、俺の予感は当たってしまったらしい。

携帯電話で電話をかけようとした時、変な音と声が聞こえた。



カッカカッ、ガッ…ザザザーッ、ドンッ。


「いてっ!」



誰かがこの壁を上ろうとして、途中で落ちたらしい。


「…くくっ」


つい笑ってしまった俺は、気を取り直して城戸に電話で用件を伝える。


「了解。とりあえず奏寺くんはそこから急いで逃げて!」


城戸はそう言うと早々と電話を切った。城戸もいきなり始まった戦闘に手を焼いてるのか、かなり忙しそうだった。

俺は城戸の指示に従い、壁から離れようとしたが一歩遅かったらしい。恨めしそうな声が、頭上から聞こえてきた。


「おい…いま笑ったのはお前か?」


俺が上を見上げると、怒りを露わにした顔の男子生徒と目があった。銀色のラインの制服が泥だらけなところからして、こいつが壁を上ろうとして落ちた奴らしい。



やべぇ…。なんか物凄く怒ってやがる…。



壁の上に見えるのはこいつ一人だが、仲間はまだまだいるらしい。壁の向こう側から声が聞こえる。



「すみません。俺、非戦闘員だから…」


だから、暴力は反対だ。


そう言おうとしたが睨まれたため、俺は口を閉ざした。多分、こいつは聞く耳をもっていない。



しかし、相手は第十高校の戦闘員。こいつから攻撃なんて受けたら、俺はひとたまりもない。


逃げるために必死に考えを巡らすが、良い案はなかなか浮かばない。気が付けば、壁の上にいる第十高校生は、こちらに降りる準備を始めていた。



何か、何か使えるものは無いだろうか?


俺は辺りを見回しながら、ふと第一高校の地図を思い出していた。確か地図によると、ここには…。


体勢を低くし、地面に設置されているはずの物を探す。意外にもすぐに目的の物を見つけられた。


「よしっ!」


その物の向きを確認し、スイッチを入れた後、俺は全速力でその場を離れる。


「あ、おい待て!…ん?うわあっ!」


壁の上から聞こえた怒りの声が、瞬時に悲痛な叫びへと変わった。恐らく、これで足止めは出来ただろう。


校舎に向かった俺は、壁の方へと向かう戦闘部員と入れ違うと、足の速度を緩める。

そして、今まで自分がいた場所を振り返って見てみた。



実は、緑がたくさんある花壇と木の間の地面には、スプリンクラーが設置されていた。これは花壇に水をあげるものなのか、消火用なのかは俺には分からないが。

とにかく俺はスプリンクラーを探し、敵に向けて視界を奪い、その隙に逃げるという策を思いついた。



地面から放たれた水飛沫は、見事に壁の上にいた第十高校生に的中している。顔や体にかかる水を防ぎながらも、壁から落ちないのは見事だ。



俺は体の向きを再び校舎に向けて走り出した。



…今のはラッキーだったが、今度敵に会ったらどうなるか分からない。

できるだけ敵と出会わないようにしよう。

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