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彼が噂の情報部  作者: くるなし頼
第三章 『情報部』の戦闘
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帰り道の途中で

昨日のショックを引きずったまま、俺はいつものごとく、校舎の屋上に来ていた。


いつも大量の書類が入っている鞄を枕代わりにし、寝転がって空を眺めていた。



空を見ていると、本当に地球がまるいってことがわかる気がする。

今、俺はこの土地で動くのが精一杯だが、いつかはこの広い海の向こうの人達も敵になるのか。つまり、味方より敵が多くなるつてことだ。



遠くもない未来のことを考えている時も、雲は穏やかに流れ、移動していく。そんな平和すぎる風景に、少しだけ心が和んだ。



「過ぎたことに対して、ぶつぶつ悩んではいられないか」


誰もいない屋上で、独り言を呟く。俺は体を起こし、鞄から記憶しなくてはならない書類を取り出した。



…そういえば、昨日のこの土地全体の集まりの結果ってどうなったんだ?



ふと、雪平先輩が証人となった集まりのことを思い出す。

こういうのは一度気になりだしたら、止まらなくなるんだよなぁ…。


俺は無意識のうちに携帯電話を手に持っていた。しかし、いざ電話をかけようとしたときに、屋上の扉が開く。



希月か?


反射的にそう言おうとしたが、すぐに止める。

確か今日は、守衛部で大切なイベントがあるとか言っていたような…。



俺は目を扉に向ける。


「あ、奏寺くん」

「城戸か」


戦闘部の戦略策担当の城戸は、バインダーを手に持ち屋上に入ってきた。城戸の整った顔は嬉しそうにこちらに向く。


「よかったー!話し相手がいて。ずっとここからグランドをじっと見てるだけなんて、退屈すぎるもんね」

「…?お前、何しに来たんだ?」


まるで屋上に居座るような事を言い出す城戸に、俺は質問を投げかける。

城戸はきょとんとした後、グランドが見える位置にまで移動し、そのままグランドを指差した。

俺も城戸の横に行き、城戸か示した場所を見る。


「…なるほどな」


思わず、その言葉に笑いが込められた。



確かに希月の言ったとおり、こりゃあ大切なイベントだ。



フェンスに指をかけて、俺は食らいつくようにグランドを見る。その横にいた城戸が、スカートのポケットから双眼鏡を取り出した。


「知らなかったの?この『戦闘部vs守衛部の模擬戦』」


取り出した双眼鏡でグランドを見渡しながら、城戸は俺に話しかけてきた。


「模擬戦が存在するのは知っていたが、今日だとは知らなかった」


最近、頭に入れる重要な情報ばかり目にしてきたため、校内の行事などには疎くなっていたらしい。



さて、気になるグランドの様子だが。


俺の視線の先にあるグランドには、人の群れが二つほど。どちらも第一高校のトレードマークである赤を基調としたTシャツを着ているが、デザインは違う。


俺と城戸がいる屋上から見て左に居る集団は、Tシャツに龍をイメージしたイラストがプリントされている。…こっちが戦闘部か。


「戦闘部のTシャツのデザインは、男女共同で作ったんだって?」


以前聞いたことのある情報を、城戸に確認してみた。


「そうそう!なかなかかっこいいでしょ」


城戸は嬉しそうに、フェンスをバンバン叩く。


実際、戦闘部のあのデザインはかっこよかった。龍はその存在をアピールするだけに留め、その長い体は赤いラインとして活かされている。そして何より、赤い色以外が黒色になっているところが良い。



そして俺は、視線をグランドの左から右に移す。城戸も俺につられて右を見た。そこにはもちろん、戦闘部と戦う相手である守衛部がいる。


「………」

「………」


守衛部は戦闘部に負けないよう、気合いを十分にいれるためか、円陣を組んでいた。やる気はここにまでしっかりと伝わってくる、が。


「………」

「………」


俺も城戸も、無言になる。


その原因は先程までの俺たちの話題のアレだ。


「誰が考えたのかな、あのTシャツ…」


ぼそりと城戸が呟く。


守衛部の白地のTシャツは、前後両方に大きな赤い字で『守衛部』と書かれているものだ。ちなみに『守衛部』という文字は縦書きで、字体は明朝体。



「まあ、好きな人には好きなデザインなんだろうな…」


ちなみに俺は、戦闘部のTシャツの方が好きだが。



守衛部のTシャツに気を取られていると、ついに模擬戦が始まった。戦闘部も守衛部も、まずは一列に並んで礼をする。


「試合前に礼なんて、スポーツみたいだな?」


俺は視線はグランドのままに、城戸に聞いた。城戸もこちらを見ていないらしく、声はこちらには向いていない。


「そう。わざとそうしてるの。

ほら、一部の戦闘部と守衛部ってお互い仲悪いでしょ?ケンカにならないように、そうしてるの。まあ、それでも毎回負傷者がでるみたいだけど」



危ないことをするなぁ…。



その時、俺の脳裏に希月の顔が浮かぶ。


希月は戦闘部にライバル意識はもっているが、さすがに怪我させたりはしないだろう。


敵である広報部でさえ、あんなに元気な状態で戦闘終えてたし。


「それにしても、鈍いなぁ」


城戸が独り言を呟き、手に持っていたバインダーを開く。その中にある数枚の紙に、ポケットから出したペンで何かを書き込んでいた。


俺は城戸の言葉の意味を理解し、城戸と同じように呟く。


「動きが、か?」

「そう!さすがに第五高校と戦った後だし、疲れが残ってるのもわかるんだけどさー」


そう言いながらも、城戸は不満げにペンを動かしていた。



俺にはさっぱり分からないんだが…。



戦闘部も守衛部も動きは素早く、力強い攻撃を繰り出しているように見える。



そこで初めて、俺は木刀を使う守衛部を発見した。


「木刀ってことは、希月か…」

「へえ。あの子も参戦してたんだ?」


興味なさそうに、城戸が俺の独り言に言葉を返した。



希月はいつも通り、真剣に木刀を振るっている。相手はひとりで、いわゆる一対一の戦いをしていた。


その対戦相手は、やはりというべきなのだろうか…。



希月は暮谷と戦っていた。



俺は暮谷が取り上げられた新聞を読んだときの、希月の発言を思い出す。


『今回は心から暮谷くんが凄いって思っているよ?なんたって『第一高校最強』なんて書かれちゃっ て………。何を根拠に最強って書いたんだか』


おいおい…。



希月と暮谷の勝負は、どちらが優勢かは俺にはわからない。そのため、城戸に聞こうとした。



だが、俺の視線は別の人物に向く。


「あ、やべっ」


グランドの端にいる人物、それを見てあることを思い出す。城戸が心配そうな目つきで、こちらを見た。


「どうしたの?まさか、風紀委員関係?」

「いや、今回は違う。…あれだ」


俺は例の人物を指差す。その人物とは、新聞部員だ。


「新聞部に情報提供を頼まれてて。それをまだ全然まとめられてないんだよ」


いつも情報提供の時は、パソコンで文字を打ち込み、文書を印刷して渡す。しかしパソコンに情報を入れるのを制限している今の情報部では、それが不可能だ。それゆえに、最近俺は手書きで書類を作っている。


仕事を思い出した俺は、先程まで枕代わりにしていた鞄を拾い上げた。


「じゃあな、城戸。頑張れよ」

「奏寺くんのほうが頑張ってね?」


城戸はこちらに手を振ると、再びグランドに集中しなおしていた。俺はそのまま寮に向かう。



幸いにも、今日は風紀委員に会うことなく靴箱まで到着できた。喜ぶ暇もなく、俺は焦って靴を履きかえる。

そのままダッシュで校門を出て、寮まで全速力で行こうとした。しかし、その足は校門を出てすぐに止まる。


「……あ」


ああああっ!と叫び声を上げそうな自分を、必死で抑えた。



第一高校の高校の目の前、それは俺が見ている風景の一部。


そこに、今話題となっている青い髪の男子生徒がひとりで立っていた。

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