集う証人
「そういえば、今更なんですが」
静まり返った部屋で、俺は香藤部長に質問をした。
「雪平先輩はどうしたんですか?」
盛り上がっていたので気が付かなかったが、確実に部員が足りない。いつもなら、雪平先輩がここらへんでおやつを作ってくれるので、何か物足りなかった。
香藤部長も忘れていたのか、少しだけ冷や汗をかいている。
「あいつは生徒会長と冷川風紀委員長、葉山副会長と共に、この土地の会議に行っている」
「…え?!生徒会じゃない雪平先輩が、なんで一緒に?」
「証人だ」
証人?
この土地で裁判でもやる気なのだろうか?
それに生徒会長こと叔父さんと、冷川風紀委員長に葉山副会長といえば、生徒会でもトップクラスの権力者だ。
そんな人達が一度に会議に赴くなんて、前代未聞だろう。
「証人となる人は他にもいたのに…なんで雪ちゃんが選ばれたの…?」
春崎先輩もこの件に関して既に知っているのか、興味深そうに香藤部長に訊ねていた。
「ああ。冷川風紀委員長たっての希望らしい。一番信頼ができて、人望があるとかで」
香藤部長が真面目に答えたにも関わらず、俺は高ぶる感情を抑えることが出来なかった。
「ふふふ、ふふふ…ふふふふふふ」
先輩方が一斉に、不審な物を見る目で俺の方を見る。
そりゃあ後輩がいきなり奇妙な笑い声を上げたら、そうなるか。
しかし俺の笑いはなかなか収まらない。
「ふふふふふ、ふっふっひっ、ひっひっひっひっひっひっ…」
「奏寺、とても楽しそうだね?」
堅い顔の香藤部長と春崎先輩とは違い、白池先輩は面白そうな物を見る目で俺に声をかけた。
俺はやっとのことで笑いを抑え、笑いすぎで流れた涙を拭う。
「いやぁ…滑稽だ、と思いまして」
「滑稽?」
白池先輩がきょとんとした顔になる。俺はそのまま説明を続けた。
「あれだけ情報部が嫌いな冷川風紀委員長が…情報部の雪平先輩に信頼と人望があるって…くくくくく」
抑えてた笑いが再び一気にこみ上げてきた。俺は机に顔を伏せる。
確かに雪平先輩は人望が高い。表向きはとても良い人であるのは、間違いがない。
そして雪平先輩は自分が情報部であることを隠しているのだから、冷川風紀委員長は知らなくて当然だ。
それでも…これは愉快だ!
そんな俺を冷たい目で見る香藤部長に、困惑した顔をする春崎先輩。
白池先輩はいつもの笑顔になっていた。
「あははっ!奏寺もだんだん悪くなってきたね」
落ち着いてきたところで、俺は未だに証人が何なのか知らないことを思い出した。
まだこちらを冷めた目で見てくる香藤部長に話しかけるのは、勇気がいるがしょうがない。
「その…証人について、もう少し詳しく教えてください」
「……。まあ、お前も知っていた方がいいだろう。『青い髪の青年』の目撃の件だ」
「青い髪の青年?」
俺が聞き返すと、香藤部長は小さく頷いた。
「夏期休暇中に青い髪の青年の目撃情報が、各学校から寄せられたらしい。それの真相を探るべく、その青年を見た者の一部が証人として召集された」
青い髪の青年、か。
正直な感想としては、オレンジの次は青か、ということだ。
湖上高校の元生徒会長の孫の春の件が終わったら、また似たような奴が絡んでくる。
この明らかな面倒ごとに、俺は溜め息の一つや二つ、ついても良いくらいだろう。
しかし俺はこの時、自分の記憶を遡っていた。
「…」
無言で口を手で抑えるようにして、必死に記憶を探る。その探しものはすぐに見つかり、俺は思わず目を見開いた。
「ど、どうした?」
香藤部長が俺の異変に気付き、声をかける。しかしその声は、俺の耳からすぐに消えてしまった。
何で忘れていたのだろうか。
確か夏期休暇明けに広報部と会った際、制服のラインの色を見たときにも、こんな事になったのに。
彼ら広報部のいる第三高校の制服のラインの色は青。その時に、ぱっと思い出しておけば良かった。
「古代宝探しを始めたばかりの時、霧丘と合流するために湖上高校の近くに行ったんです」
そこで、オレンジの髪の不審な女子に会ったと言った俺たちに、霧丘は確かにこう言っていた。
『オレンジは知らないけど…青い髪の人なら、湖上高校の近くで見た人が何人かいる』
正直、思い出したからといって何か意味があるのかといえば、無い。
それにしても、何でここまで忘れていたのか、というくらいすっかり忘れていた。まさかその青い髪の人間がこんなに話題になるなんて。
せめて先輩方に報告しておけば、夏期休暇中に情報部で調査が出来ていたのかもしれないのに…。
「失態です…」
記憶力が自慢である故に、割とショックであった。




